第3話解決編
「どういうことなんだ」
パソコン室を出た後、僕は美晴に言った。「例の生徒は渡り廊下を通って実習棟までやってきた。階段を下りている体育の先生はその生徒を見ていないから、二階には逃げていない。だけど、一階にいた二人はアリバイも成立しているし、誰も逃げてこなかったと言っている。何か見落としているのかな」
「見落としているものなんてないわ」
美晴は自信たっぷりに答えた。「ウソをついているに決まっているじゃない」
「ウソ? どんなウソをついたっていうんだ」
「それはまだ言えないわ」
「なんでだよ」
「あくまで推定にしか過ぎないのよ。真相を推理するにはまだパズルのピースが足りない」
「推定でもいいから言ってくれよ。その推定を補強するアイディアが浮かぶかもしれないだろ」
「それはあり得ないわね」
押し問答を繰り広げていると「あのお」と声がかかった。声の方を見ると、鶴居姉妹が立っていた。
「落ち着いたから、帰ろうと思って。いろいろありがとうね」
姉、奈緒さんが美晴に言った。
「いえ、大したことはしていないので」
美晴が謙遜してみせる。「犯人のことで思い出したことはありますか」
「ごめんね、さっき話したことしか」
奈緒さんは首を横に振った。
「無理して犯人を探す必要はないよ」
妹の由紀が言った。「生徒会の人にも仕事があるだろうし」
「できるだけのことはやるつもりよ。おぼろげだけど、気づいたこともあるし」
「おまえら、まだこんなとこにいたのか」
鶴居姉妹に続いて、こんどは赤いジャージの体育教員が現れた。
「先生こそ何をしているんですか」
スカートめくりに話がいかないよう、鶴居姉妹と体育教員の間に割って入った。
「部員を探してるんだよ」
「部員ってサッカーのですか?」
たしか大門先生はサッカー部の顧問だったはずだ。白いユニフォームのサッカー部員に混じって、ホイッスルを吹いている赤いジャージ姿を見たことがある。
「そうだ」
大門先生は頷いた。「髪が長めの男子生徒を見なかったか。名前は保坂和人っていうんだが。最近基礎練習をサボってどこかで油を売ってるみたいなんだよ。ボールを使った練習の段になるとひょっこり現れるから、校内のどこかにいるのは間違いない」
「長い髪」
頭の中で引っかかるものがあった。どこかで最近聞いたことがある。そうだ、鶴居姉が言っていた犯人の特徴だ。
「心当たりがあるのか」
大門先生の顔が明るくなった。
「いや、そういうわけじゃないんです」
「私にはあるわよ」
突然後ろから美晴の声がした。
僕は驚いて振り返った。
「今なんて言った」
「保坂和人の居場所に心当たりがあるって言ったのよ」
「保坂はどこにいるんだ」
大門先生が鼻息荒く迫る。
「音楽室にいますよ」
美晴の言葉は、まるでチリ紙をごみ箱に投げるかのように素っ気なかった。
「音楽室だな」
大門先生は物凄い勢いで廊下を走って行った。
「どうして音楽室にいるなんて分かるんだ」
後姿を見送り、美晴に尋ねた。
「そうね、邪魔者もいなくなったことだし、結論に至るまでの過程を説明してあげてもいいかもね」
美晴は音楽室に突っ込む大門先生を見つめていた。
○
「保坂和人が音楽室にいるということは、白鷹先輩と檜山さん、二人の証言から十分導き出すことが可能よ」
「ちょっと待ってくれ。あの二人には名前とアリバイに関することぐらいしか聞いていないじゃないか」
僕の異議は、黙っていなさい、という美晴の一言で粉々に砕け散った。もともとガラス並みの強度しかないので仕方がない。
「白鷹先輩は『ずっとピアノを弾いていた』と言っていたわね。当初は裏付けのなかったこのアリバイも、檜山さんの証言によって嘘ではないことが確認された。でも、この証言にはおかしなところがあるのよ」
「おかしなところ?」
「檜山さんの証言をよく思い出してちょうだい」
「たしか、『五分ぐらい前までは、延々と繰り返されてた。ここ最近はずっと同じ曲。気がおかしくなりそう』だったかな」
「なにか気づかない」
「えっと」
言い淀む僕に美晴は舌打ちをした。
「檜山さんは、私たちがパソコン室に来るまでは、ずっとヘッドフォンをしていたでしょうが」
「あっ、ああ、そういえば」
僕は懸命に頭を動かした。「ヘッドフォンをしていれば、ピアノの音なんて聞こえるはずがない」
「そう、その通りよ」
「檜山さんがウソをついた」
「違うわ。気がおかしくなりそうって言ってたでしょ。耳を澄ませなきゃいけないほどピアノの音は小さかった。ヘッドフォンをしていた檜山さんには、気がおかしくなるどころか、聞こえていなくてもおかしくないほど小さな音だった。エーデルワイスを毎日聞いていて、それをもとに証言を偽装したのなら、気が狂いそうなんて言わないと思わない?」
「そりゃそうだけど」
ピアノの音が聞こえなかったと考えても、檜山の証言と微妙に食い違ってしまう。かといって彼女はヘッドフォンをしていたのだから、ピアノの音が聞こえるはずがない。
困り果てた僕の顔を見て、美晴は嬉しそうに笑った。
「分からない?」
「ああ、分かんないよ」
悔しかったが、推理では、美晴の方が秀でていることを認めざるをえなかった。「正解を教えてくれ」
「ヘッドフォンからピアノの音が流れていたのよ」
「檜山がやっていたゲームはファンタジー系のものだったぞ。『エーデルワイス』がビージーエムで流れるとは思えないけど」
「ビージーエムじゃないわ。ボイスチャットよ。ゲーム仲間の声といっしょに、その人の周囲の音までマイクが拾ってしまったの。そのゲーム仲間こそ保坂和人よ。今日は職員会議があって、試合を間近に控えた部活以外は活動していないわ。音楽室の隣の家庭科室や美術室は施錠されていた。つまり、彼は音楽室に隠れてゲームをやっていたのよ」
って、ちょっと待て。
これで事件は解決か。
白鷹先輩と檜山のアリバイは成立している。実習棟一階には他に人がいない。つまり、残りの保坂にしか犯行はできなかった。
容疑者二人にはスカートめくりができなかったと判明したときには、世界が崩れるような感覚がしたものだが、なんのことはない、実習棟にはもう一人の生徒、保坂和人が隠れていたのだ。
そんな甘いことを考えている僕に、美晴が冷や水を浴びせた。
「まだ、保坂和人が犯人だとは限らないわよ」
「実習棟にいた三人のうち、アリバイがないのは保坂だけじゃないか」
「保坂が音楽室にいるということしか、まだ断言できないわ。手元にある情報ではそれ以上のことは分からない」
何とか反論しようと目をつぶったとき、男子生徒の情けない声が聞こえた。
「放してくださいよお」
音楽室の扉にその男子生徒はへばりついていた。大門先生に腕を引っ張られるが、必死にしがみついて扉から離れようとしない。傍らには困った顔をした白鷹先輩が立っていた。
あの男子生徒が保坂和人だろう。
肩先まで伸びた髪には寝癖がついていて、骨格がしっかりとした顔は小麦色に焼けていた。白いサッカーユニフォームのポケットから灰色の手袋が飛び出している。
どうやらサッカー部での保坂のポジションはゴールキーパーであるらしかった。
美晴は保坂のもとへ歩いていく。僕と鶴居姉妹もその背中を追った。
僕ら四人が近づいてきたのに気づいた大門先生は、保坂を引っ張る手を放すと、美晴に笑いかけた。
「本当に音楽室にいたぞ。すごいな、どうしてわかったんだ?」
「檜山さんに教えてもらったんです」
「檜山?」
「パソコン部の檜山です」
大門先生は不思議そうな顔をした。保坂の友人やクラスメイトに居場所を尋ねまわったのにも関わらず、何も分からなかったのだ。奇妙に思うのも当然だった。
音楽室を覗く。奥の方にある準備室の扉が開いていて、そこにパソコンとヘッドホンが落ちていた。美晴の推理はあたっていたのだ。
「檜山は俺のことを知ってたのか」
檜山と聞いて保坂が鋭く反応した。彼女と知り合いじゃなかったのか。不思議に思った僕が尋ねると、なぜか保坂はうろたえた。
「檜山はあんまり喋らないから」
「ゲームを一緒にやってただろ」
パソコンをプラットフォームとするオンラインのゲームは、アマチュアのものや古いものを含まなくても百はあるはずだ。加えて一つ一つのゲームにアクティブユーザーが何万人といる。
同じ学校の生徒が偶然同じゲームをプレイして、偶然ゲーム内で出会う。そんなことがあり得るだろうか。
「檜山のゲーム上のユーザー名はパソコンの履歴で確認したんだ。そしてゲーム内で名前を隠して接触した」
「なんでそんなに檜山とゲームをしたかったんだ」
「面と向かってじゃ、話してくれないから」
保坂は額に不自然な量の汗を光らせていた。
「そこまでして話したいことって何だ」
何かをまだ隠している。数回の質問とそれへの答え、保坂の様子から、僕は確信した。美晴にそのことを伝えようとすると、いきなり小突かれた。
「鈍感にも程があるわよ」
美晴は呆れた目をしていた。「保坂はね、檜山さんのことが好きなの」
驚いた僕は保坂に確かめようと振り返った。そこには真っ赤に染まった顔を手で必死に隠そうとしている、男子生徒がいた。
「このことは誰にも言わないでくれ」
「もう遅いわよ」
美晴の声は冷たかった。「あそこのパソコン、マイクがオンになってるでしょ」
美晴が指したのは準備室の扉の下に落ちている、ゲーム中のまま放られたパソコンだった。
あっ。
間の抜けた声が美晴を除く五人から漏れた。音楽室のあらゆる音はパソコン室にいる檜山へ筒抜けだったことを思い出したのだ。大門先生だけは美晴の推理を聞いていないけれど、マイクという単語からすべてを察したのだろう。
「どうしてくれんだよ」
保坂が僕を睨みつける。
「僕のせいかな?」
「当たり前だろう」
保坂が叫んだ。
保坂が檜山のことを好いていると宣言したのは、僕の言葉が呼び水になったとはいえ、最終的には美晴だったじゃないか。僕としては、そういう趣旨のことを訴えたかった。
でも、想いは言葉にできなかった。うっかり口にしようものなら、殴られるのは分かりきっていた。
「僕が悪かったよ」
一語一語ゆっくりと言った。
「こう考えてみないか。今回の事故は逆にチャンスだと」
殴打に備えて手を前に出しながら、続ける。
「いつかは彼女に想いを伝えるときが来るんだ。それにはとてつもない勇気がいる。誰にでもできることじゃない。一人で想いを抱えたままその勇気がでない人もいる。でも、彼女はすでに保坂の気持ちを知っている。告白のハードルが下がった、そうは考えられないだろうか」
保坂の表情がいくらか和らいだ。
「ここにいる全員が保坂のことを応援しているよ。みんなで上手くいく方法を考えようじゃないか」
「分かった」
保坂はうめくように言った。「お前を許す。そのかわり、ちゃんと上手くいく方法を一緒に考えてくれよ」
「あの、ちょっといいかな」
鶴居姉妹の姉の方が挙手していた。
「はいどうぞ、奈緒さん」
「結局、私のスカートをめくったのは保坂くんなんだよね」
○
「えっと……」
「やっと私の出番がきたようね」
言葉に詰まった僕に替わって美晴が前に出た。
「スカートめくり?」
惚けた表情を浮かべる保坂。
「いろいろ話したいことはあるんだけど、そのまえにコーヒーを飲んでみない」
美晴は例の空のカップセットを保坂に手渡した。
「これ、何も入ってないけど」
流されるままに、保坂はカップセットを受けとった。そして他の容疑者と同じように困惑した。
「うん、それでいいのよ」
美晴は意味ありげな微笑を浮かべた。自信に満ちた口調で言った。「スカートをめくったのは保坂じゃないわ」
「うしろ姿からして、多分この人だったと思うんだけど」
被害者の鶴居奈緒さんの声は、遠慮しているのか、小さな声だった。保坂の髪の長さはちょうどうなじが隠れるぐらいで、確かに奈緒さんの証言と一致している。包帯をしていないのが気にはなるが。
「悲鳴を聞いて私たちが駆けつけたとき、廊下の右側に姉の奈緒さんが、左側に妹の由紀さんがいたことを覚えてる? 最初に見たとき私はこのことに違和感を覚えたの。スカートがただめくられただけじゃなく、裾をウエストに差し込まれたと奈緒さんから聞いて、その違和感はますます大きくなったわ」
美晴は僕の右側に立つと左手で僕の尻を撫で上げた。
「犯人はなぜ右手ではなく、左手でそんな込み入ったことをしたのかしら」
「鶴居姉妹の立っていた場所が中本の言った通りの位置でも、犯人が左手を使ったとは限らないんじゃないか」
すっかり美晴のペースに乗せられて、大門先生はボソボソとそんなことを言った。そして僕と左隣の鶴居由紀との間に後ろから割り込むと、右手で僕の尻を撫で上げた。
「こんな風に真ん中を通ったとは考えらないのか」
「確かに今の私の言葉だけでは、そういう可能性も残されていましたね。ですが、鶴居姉妹の証言では、犯人は『顔を隠すように窓側を向きながら走っていた』そうです」
美晴は奈緒さんの方を向いて、
「実際に右側を通ったんですよね」
と確認する。奈緒さんは張りつめた顔で頷いた。
「なるほどな。横槍を入れてすまなかった」
大門先生はそう言って、元の場所に戻った。
気を取り直して、僕は問いかけに答えた。
「犯人は左利きだったっていうのはどう」
「普通に考えればそうなるわね。私もそう考えて、あった人全員の利き手を確認したわ」
「利き手なんて質問してたか」
「質問せずとも利き手ぐらい分かるわ」
美晴は空のカップと受け皿を手渡してきた。「これを使ったの。受け皿とカップを手渡されたら、右利きの人の場合、左手で受け皿を持って右手でカップの取っ手を掴むでしょ。逆に、右手で受け皿を持って左手でカップの取っ手を掴んだとしたら、その人は左利きだということが分かるのよ」
僕は自分の手元に視線を落とす。左手で受け皿を持ち、右手でカップの取っ手を掴んでいる。僕は右利きだったから、美晴の考えはどうやら当たっていると考えていい。
「それで、左利きの人はいたのか」
その場にいた全員の顔に緊張が走った。唯一の例外はすでに答えを知っている美晴だけだ。美晴が口を開くまでの時間が長く感じられた。
「いなかったわ。全員右利きだった」
美晴は淡々と言った。「仮にカップの持ち方から左利きだと疑われる人がいたのなら、念のために左利きがどうか聞いているわよ。そんな質問を誰にもしていない時点で、察してほしいわね」
真犯人の名前が明かされると身構えていただけに、この答えはなんとも肩透かしだった。
「本当に全員の利き手を確認したのか。誰か漏れてる人はいないのか」
「白鷹先輩に檜山さん、鶴居姉妹、それと保坂の利き手は確認したわ」
――白鷹先輩と檜山にカップを持たせたが、左利きかどうかは聞いていなかった。鶴居姉妹と会長の三人の中で、会長だけに左利きであるか聞いていた。
白鷹先輩と檜山は仕方がないとして、被害者までも疑っていたのか。そんな複雑な心境もすぐ大きな疑念にかき消えた。
美晴が言うには左利きの人間がもっとも疑わしいらしい。けれど、同じく美晴の口から左利きの人間がいなかったとも知らされたのだ。彼女の意図が分からない。
いや、実習棟にはもう一人いたはずだ。その人物の名前は美晴の言葉には出てこなかった‥‥。
無意識にその人物、大門先生を見つめていた。
「違うわ。大門先生は犯人ではないの」
僕の視線に気づいた美晴が言った。「大門先生の利き手を調べなかったのは、別の理由で犯人ではありえないことが分かっていたから」
「なぜ」
「見れば分かるでしょ。二メートルを優に超える身長なのよ。目立ってしょうがないじゃない」
そっ、そうか。
「ひょっとして、吹上会長を疑っているの」
鶴居姉が恐る恐るといった感じで言った。「左利きだって言ってたよね」
「確かに会長は左利きですが、彼女は足首を捻挫していますから、走ることができません」
美晴は平然と嘘をついた。
僕は思わず美晴を見たが、何も言えなかった。吹上会長がスカートめくりなんかするはずがない。美晴の嘘には理由があるはずだとムリヤリ自分を納得させる。
「だとすると、容疑者が誰もいなくなっちゃうじゃないか」
「いえ、まだ一人だけ残っているわ。その人に関しては、むしろ右利きであることが犯人としての条件になる」
美晴はその生徒を人さし指で示した。
「鶴居奈緒さんのスカートをめくったのは、妹の鶴居由紀よ」
僕は驚愕した。
「そんなわけないじゃないか。だって犯人が渡り廊下を走っているとき、妹は姉の隣に居たんだぞ」
「実習棟へ走っていった生徒は犯人じゃなかったのよ」
納得できず、左隣の鶴居由紀を振り返った。彼女が身の潔白を主張していたなら、それを信じただろう。それほど、うずくまる奈緒さんの頭越しに見た、走り去る生徒のうしろ姿は鮮烈だった。
だが、鶴居由紀は俯いたまま口を一直線に結んでいる。
「保坂、あなた、三十分前くらいに廊下を走っていなかった?」
「トイレには行ったよ。大門に見つからないように小走りで」
戸惑った口調で保坂が答える。
「本館から音楽室へ戻るとき、廊下で女子生徒の悲鳴を聞いたんじゃない?」
「悲鳴というか大きな声はあったかもしれない。急いでいたから立ち止まらなかったけど」
「白鷹先輩にも尋ねたいことがあります」
「なに」
この二人はそりが合わないのだろう、お互いの口調に尖ったものが感じられる。
「エーデルワイスのような、片手で弾けるほど簡単な曲を弾いていたのはどうしてですか。カップセットを持った様子だと、片手が使えないわけではなさそうですが」
「保坂くんの妹に教えるために練習してたの。先生が間違えることなんて万が一にもありえないから」
「これで疑問が解けました。学年も部活も違うのに、どこで知り合ったんだろうと思っていたので」
「うちの母がやってるピアノ教室に保坂くんの妹が通ってるの。その送り迎えを保坂くんがやってる」
「ジャージを持っていることを隠そうとしたのは、トイレに行く保坂にそれを貸したからじゃないですか」
「なんか気持ち悪いんだけど」
「サッカーユニフォームは真っ白で目立ちますから、保坂は隠したがるだろうと想像しただけです。『手に包帯のようなものが巻かれてい』たと奈緒さんが勘違いしたのは、サイズの合わないジャージの裾からはみ出た白いユニフォームだったんだと思います」
「言われてみれば、そうかもしれない」
奈緒さんがコクコクと頷いた。
顔色は良くなっていた。どこの誰ともわからない男子生徒に下着を覗かれるよりは、妹にイタズラされていたという方がはるかにマシなのだろう。
「走り去った男子生徒を後から特定することは不可能に近いから、普通だったらすべてが丸く収まるはずだったんです。ちょっとした悪戯心で、スカートをめくった由紀さんは、傷ついた奈緒さんにあせり、何も知らないフリをした。しかし、私たちがありがた迷惑なことに犯人の捜索に乗りでてしまいました。告白する時機を逸してしまった由紀さんは、申し訳なく思いながらも、事態の推移を見守るしかなく今に至ります。これが真相でしょう」
美晴の総括はどこにも文句のつけようがなかった。その場の全員の視線が自然と鶴居由紀に集まる。
「お騒がせしました」
鶴居由紀が深々と頭を下げた。
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