第7話 異端児
「いつまで入っているんだい! まったく、待っているこっちは寒いったらありゃしない」
「……別に先に帰ったって、良かったんだが」
俺にそう言われて、ウッと息を飲んでいる。一昔前のフォークソングじゃあるまいし、恋人を待つわけでもねえから、さっさと一人で宿に戻ればよかったろうに。宿までの道筋は迷うほど、複雑ではなかったはずだ。
「あ、アンタ達の方が先に出てくると思ったんだよ! そしたら、あたしが真っ先に出てきているから、それ程待たずに出てくると思ったんだよ! まったく、風呂場じゃドワーフに怒鳴られて、あっちこち洗われるし……」
宿に戻る道すがら、ガリーザはブツブツと文句を言っている。こいつもどうやら、身体を洗わずに湯船に浸かろうとして、案の定ドワーフの女衆に怒鳴られたようだ。洗い方も適当だったようで、見かねた女衆が隅々まで洗ってくれたみたいだ。
「良かったじゃあねえか。致せりつくせりで」
「よかあないよ! まったく、風呂なんて、ザブーンと入って、ザバーって頭から水被れば済むことじゃないか」
ガリーザは、やけくそ気味に喚いている。やっぱりこの女はガサツだと思う。
「随分とサッパリしたようだよ」
「ああ、おかげさんでな。命の洗濯をした」
宿に戻ると女将に声を掛けられる。俺が答えた後、命の洗濯とは上手いことを言うと笑いながら食堂の方へと戻っていく。これから、夕飯の支度にでも入るのであろう。俺も、少し休んだら肉を仕込んでおこう。オークの肉と知らない女将に仕込みをやらせるわけにはいくまい。
部屋に戻り、一休みと思ったがつい寝てしまった。目が覚めると、すっかり陽が落ちて暗くなり始めている。周りを見ると他の連中も、寝入ってしまっている。温泉に浸かり、旅の疲れが噴き出たのであろう。
ゴンの荷物から、調味料や香辛料を取りだす。俺の荷物からは酒瓶を一本取りだしておく。ジョージから貰ったバーボン。このような時にこそ飲むべき酒だ。氷はないだろうからロックはできない。ストレートでいくしかない。小さめの杯を用意して貰おう。
ついでだ、カメラも持っていこう。護衛の途中に撮るのをすっかり忘れていた。みんなで記念撮影としゃれ込もう。何かと聞かれたら、一瞬で絵を描く魔法の道具とでも答えとけばいいか。
「兄弟、呼ばれてきたが、裏庭で食うのかい」
「ああ、ここでしか焼く場所が無かったんでな。勘弁してくれ」
宿の厨房の一角を借りて、肉をさばいている最中にゴンが起きて手伝いを始めてくれた。料理の腕はゴンの方が上だ。さばいた肉に胡椒を塗し、貰った木の串に打っていく。肉と肉の間には、女将に頼んで売って貰ったジャガイモと玉ねぎのような野菜も打っておく
味付けは、シンプルに塩と、日本から持って来た黄金のタレ。タレの味が口に合わなくても、塩味なら食えるはずだ。
女将に珍しい肉だと言われ、正直にオークの肉だと答えた。黙っていてもそのうちにばれるし、嫌がられたら直ぐに厨房から出なけりゃならない。
案の定、ヒエーと驚かれたものの、凄い物を食うんだねと気味悪がられはしたが、厨房から出て行けとまでは言われなかった。
「その肉、見たところ赤い肉の部分と、白い脂肪の部分があるね。どうやって食べる気だい」
「ああ、準備はこのままにして、各自が焼いて食うようにしてえ。焼く場所はあるかい」
「う~ん、残念だけど食堂じゃあ無理だね。暖炉の火で焼けるかも知れないけど、それだけ脂が乗った肉だと煙も出るだろう。他の客もいるから、やめて貰いたいね。裏庭に余った煉瓦があるからそれを使って、即席のかまどでも作ってくれないかい」
「わかった。それだけあれば十分だ。ありがとさん。ゴン、ここは任せた。俺はかまどを作る」
肉の準備を任して、俺はかまどの準備をした。煉瓦を適当に摘み中で火を熾しただけだ。煉瓦の端に串を打った肉を乗せ焼き上げている。女将に断って、机を二つと、人数分の椅子も持ちだしている。ワインとエールを一つずつ樽で買い取り、バーボン用に小さめの杯も用意して貰った。バーボンはまだ、隠してある。
「これが、オークの肉の味か。脂が乗っていて美味いな。臭みも少ねえ」
「鍋モイイガ、焼クノモイイ。ヤハリ、ゲンノ用意シタ肉ハウマイ」
「この甘辛い味はいいね。アタシ、これが気に入ったよ」
「私としては、シンプルな塩味の方がいいですね」
「どっちも、美味いに!」
「そうだよう!」
各々、焼けた先から肉串をつまんで食べていく。ゴンが用意した串を、空いた場所に置いていく。酒は、手酌で勝手にやっていく。途中で女将が、平たく円形をした焼きたての薄焼きパンを差し入れてくれた。これに、焼いた肉と野菜を挟んで食べても美味い。物珍しそうに見る女将にも勧めたが、仕事中だからまだいいと断られた。
ひとしきり、肉を食い腹も落ち着いた頃、ほろ酔いながらも神妙な顔をしたワリスが声を掛けてくる。
「兄弟、俺は今回こいつを交易都市で買った。なんだかわかるかい」
ワリスは、布に包れた物を取り出し、包みを解いて中身を見せる。くすんだ琥珀の様な色をした、四角い蝋燭のような物。
「香油で作った石鹸か。ソフィアの奴、もう売り出したのか」
「なんだ、知っているのか。油が良く落ちるとか、手を洗うのに使うとか言われた。見た事も聞いたこともねえから、つい樽一つ分買ってみたんだ。実際、どう使えばいいんだ」
「あー、実際やってみた方が早えな。木の桶に水を張って来るから、少し待っていてくれ。それと、脂が付いたその皿、そのままにしておいてくれ」
食堂を使う客も引けて、皿洗いをしている女将から木桶を一つ借り受ける。便所の脇から出ている手洗い用の水を汲み、ワリスの所に戻る。実際に皿を洗う前に、ワリスから幾つか聞いておくことがある。
「なあ、この石鹸高かったのかい。それと、皿や服を洗うときは洗浄の術を使うんじゃないのかい」
「まあ、高いっちゃあ、高いが目が飛び出るほどでもねえよ。それ一個で、銅貨二枚程度だ。時間が無い時なんかは術を使うが、流しの術士に頼めば金もかかるし、自前でやるにも疲れるから普段は水洗いをしている。皿洗いも同じようなもんだろう」
「なら、場合によっちゃあ価値が上がるかな。厨房で皿洗いをしている女将にも見てもらうか。あと、皿洗い用の道具、できれば海綿みたいなものがあれば持って来てくれ」
ワリスは食堂に向かい、女将を呼んでくる。首からかけたエプロンで手を拭く女将を連れて戻って来る。
「なんか、面白いものでも見せてくれるのかい。皿を洗うのに道具なんて使わないけど、治療用の海綿で良ければ使っておくれ」
「ああ、ワリスが王国で買い付けた物がな、今後売れるかどうかの判断をして貰いてえ」
「アタシはしがない宿屋の女将だから、売れるかどうかなんてわからないよ」
「いや、商人が売れると思ったものと、客が買いてえと思ったものが違うってことはよくある。実際に使うであろう、アンタから見て価値があるかどうか判断をした方が良い」
俺はそう言い、女将から手のひらサイズの海綿を受け取る。治療用に使うと言っていたが、何に使うのだろう。まあいいと思い、水で濡らした海綿で石鹸を擦り取って木の皿を洗う。石鹸を洗い落とすために、水に付けて取り出し触ると上手いこと肉の脂は落ちている。洗い終わった皿を女将に渡す。
「まあ、脂汚れが落ちやすいんで俺の国では専ら洗い物に使う。服、食器、厨房、風呂で身体、手や髪を洗うのにも使うな。ただ、洗いすぎると場合によっては手肌が荒れるから注意をしてくれ。皿や服なんかは、石鹸を少しとかした湯に漬け置きした方が汚れも落ちやすい」
「へえ、短時間でよく落ちているよ。いいね、これ。灰でこすり洗うより楽そうだよ」
皿を手に取り、脂汚れの落ち具合を確かめている女将が感嘆の声を上げる。いつもは、灰で洗っているのか。確かに、それじゃあ不便だ。女将は俺が使った石鹸を取りあげる。
「ワリス、これ使わせてもらうよ。丁度、洗いものに手こずってたところでね。どうせ、ここで使って売り物にならないだろうから構わないだろう」
「分かった、分かった。持っていってくれ。アンタの反応を見られた。それだけで十分価値が分かった」
カラカラと笑いながら、食堂の方へと戻っていく。どうやら、売れる可能性が出てきたようだ。髭をしごきながら、ワリスは俺に語って来る。
「実はな、親父から『売れるかどうかも判らねえもん買って来るな!』って、また、どやされちまってな。どうしようか、考えていたんだ。だが、これで売れる筋が見えてきた。明日から、色々な所で見せてみる」
「女将のように、持っていかれねえように注意してくれ」
お互いに顔を合わせて、ガハハと笑う。食うもんも少なくなったし、簡易かまどの火も弱くなった。いい加減寒いから、食堂に戻ろうとガリーザが騒いでいる。アエラキ達も腹いっぱい食って満足そうだ。風邪でも引かれると厄介だから、言う通りにして食堂で、飲むとしよう。
食堂には、まだ幾人かのドワーフ達が飲んだくれている。外に出した机と椅子を戻し、アエラキ達を部屋に戻す。この二人に酒はまだ早い。鉱山街の出来事は不幸な事故だった。飲みたい奴だけが残る。酒にあまり興味のねえゴンとハダスはアエラキ達と一緒に部屋へ戻った。
俺は、隠しておいたバーボンを取りだし皆の杯に酒を注いでいく。アルコール度数五十度の八年物。一瓶しかないが、ストレートで飲むから、そんなにガバガバと飲むものではない。
「ワリス、飲んでくれ。これも、俺の国にある酒だ。酒精は、前に飲んだ薬酒よりも強い。ゆっくりと飲んでくれ」
「へえ、綺麗な琥珀色だ。エルフの連中が自慢して売る琥珀のようだ。奴らは嫌いだが、琥珀に罪はねえからな。じゃあ、頂くぜ」
ワリスは杯を掲げて、ゆっくりと口を付ける。話をまともに聞かないガリーザは、一気に飲んで咽ている。
「ちょ、なんだいこの酒、酒精が強すぎないかい」
「だから、ゆっくり飲めっていっただろう。お前はもう止せ、目回すぞ」
「おい、兄弟、こいつは美味い! 最高だ!」
ワリスは気にいってくれたようだ。喜んでもらえると俺もうれしい。皿洗いを終えて、酒のつまみにチーズを持って来てくれた女将がガリーザの杯を取り上げ俺に向けてくる。酒を注ぐと、女将もクイッと飲んでしまう。しかし、ガリーザのように咽ることはない。
「――ん、ワリスの言う通り、飲んだことのない良い酒だよ。この酒精、たまらないねえ。もう一杯おくれ」
この女将も遠慮と言うものが余りない。それに、酒も相当強そうだ。苦笑しながらも、もう一杯酒を注いでやる。ラティオはちびりちびりとやりながらチーズを摘まんでいる。一気に飲んで、酔いが来たのかガリーザは机に肘を付き、首を垂れて動かないでいる。こっちの二人は、余り酒に強くないようだ。
「それにしても、兄弟は一体どこの国から来たんだ? 色々なことを知っているし、それに妙な物も持っている。この酒が入った壺もそうだ。この透明で固い壺は一体どこで仕入れられる。酒と一緒に兄弟の国で買えるなら、是非とも場所を教えてくれ」
持って来たバーボンも残り僅かになった頃、少し酒がまわったワリスが、それでもよく回る口で俺に質問をぶつけてくる。酒と酒瓶にえらく興味を持ったようだ。
「悪いな、ワリス。俺の生まれた国は遠いところだ。簡単には行けねえんだ。機会があれば、知り合いから仕入れられるかもしれねえが、運次第になっちまう」
適当なことを言って誤魔化す。仕入れられると分かれば、否が応でも食いついてくるだろう。俺も酔いが回ってきている。ワリスの反応が面白くてたまらねえ。もう一つ、からかってやろう。
「それになあ、ワリス、酒瓶くらいで驚いてたらいけねえよ。これもな、俺の国で作られた、魔法の道具でな、瞬時に絵を描く道具だ。見ていてくれ」
酒を隠し入れておいた袋から、インスタントカメラを取り出し、ファインダーを覗き込み、酔いで覚束ない指先で酒を飲むワリスや女将にカメラを向けてシャッターを押す。カメラから、ジジジと印画紙が飛び出してくる。
「魔法ってなんだい、なんにも描かれていないじゃないか。失敗したね」
出てきた写真を見た女将が呆れた顔で言う。以前にも聞いたようなセリフだ。
「まあ、少し待て。効果はじきに現れる」
女将は期待をしないような顔で印画紙を眺めている。ワリスは酔った目付きで、ジッと何も写っていない印画紙を見ている。ガリーザは適当な所で部屋に戻た。ラティオは、いつの間にか机の上で突っ伏している。奥の席では残ったドワーフ達がまだ酒を飲んでいる。写真を撮ったこちらには気付いていねえようだ。
徐々に画が鮮明になって来ると見ていた二人は、目を見開いて驚いている。
「な、なんだいこれ! まるで生き写しみたいな画だよ!」
「お、おい、兄弟、一体これはなんなんだ」
酔いがさめたように二人が騒ぎ始めた瞬間、奥の席のドワーフ達が、でかい声を出して掴み合いを始めた。俺達の目線は一気にそっちに向いてしまう。女将は瞬時に喧嘩を始めたドワーフ達に怒鳴る。
「アンタ達、喧嘩するなら外でやりな!」
しかし、酒がまわり頭に血が上ったドワーフ達は聞く耳を持たない。掴みあったまま、机を倒し、椅子を蹴り、お互いに罵声を掛け合い怒鳴り散らしている。女将は裏庭に向かう。多分水か何かを汲んで来てぶっ掛けるつもりだろう。見かねた俺とワリスが仲介に入り諍いを止める。
「まあ、落ち着け。何があったか知らねえが、酒の席で暴れるのはみっともねえよ」
「う、う、うるさい! 邪魔をするな! こ、こいつは私の研究を馬鹿にした!」
「ハッ! 研究なんて大層なことを言うなぁ、貴様のやっている、ことは無駄なことだぁ!
霊力を使わない、道具を作ってどうするぅ! 何の役に立つ!」
「じゅ、じゅ、術に頼るだけでは、いずれ、げげげ、限界が来る!」
「術で出来ることは、術でやるぅ。術で出来ないことは、出来なぁい。この世の摂理だぁ! 現に、術を使わない技術で作る物等、たかが知れている、物しかないぞぉ!」
無駄な研究と揶揄されていた髪も髭も伸び放題のドワーフはかなり酒が回っている
ようだ。髪も髭も短く切りそろえられた、ドワーフは、呂律が回っていないものの、相手のドワーフを見下している感じがする。なんで、こんな二人が酒を一緒に飲んでいたんだ。
たどたどしくも続けられる酔っぱらい同士の話をよく聞くと、どうやら、酒を飲んでいるうちに議論が口論になってしまったようだ。しまいには、取っ組み合いの喧嘩。これは、かなりみっともない。だが、ドワーフ帝国でも「術で出来ないことは出来ない」と言う考えが主流になっているのか。その割には、鍛冶技術が進んでいるように王国では聞こえたのだが。
二人はまだ、ギャーギャーと喚き散らしている。水を汲んだ女将が目を吊り上げて、いよいよこちらに向かってくるも、突如に目を丸くして手前で止まった。
俺達の後ろを見上げている。俺とワリスも目線を同じ方に向ける。
――目線の先には、いつの間に降りてきたのか、目が座ったゴンが立っていた。
「うるさい! 皆が起きます! 眠れないじゃあないですか!」
そう言う前に、ゴンは大声で喚いていたドワーフの頭に拳骨を入れている。かなりの勢いだ。殴られたドワーフの首がめり込んだようにも思えた。死んでねえかと様子を見るが、息はしているものの完全に意識は飛んでいる。
ゴンはギロリと、もう一方のドワーフを睨みつける。目を見開き、顔を蒼くして黙っている。ワリスと女将の顔も蒼い。ゴンがおっかねえのだろう。実際、俺もおっかねえ。
「もう、夜も遅いのです。静かにして下さい。ゲンさんもお酒はほどほどに」
それだけ言うと、階段を昇り部屋に戻っていく。ゴンの姿が見えなくなると、残った俺達は一斉にブハと息を吐き出す。
「おい、兄弟、驚いたぞ。ゴンはまともに喋れるんじゃねえか」
「ありゃあ、怒りと寝ぼけで正常じゃあねえよ。でも、一番おっかねえ状態に近いな。ああなったゴンは相手にしちゃあいけねえ。命が幾つあっても足りねえ」
全くだと言うように、ワリスも女将も頷いている。もう一人の、残ったドワーフは顔を蒼くしたまま、女将に勘定を申し出ている。
「済まない女将、酒が入っていたとは言え、こいつの馬鹿さ加減に、ついカッとなってしまった。お代は、これで足りますか」
ゴンの怒りに当てられて酔いがさめたのか、丁寧な口調で女将に銀貨二枚を渡している。女将は、十分だと言う。二人で飲み食いして、銀貨二枚は多い気もするが迷惑料も入っているのだろう。
「よく見れば、のされた奴はクラテルの奴かい。技術者組合から、お小言でも貰っていたのかい。来た時はアンタしかいなかったから気付かなかったよ」
「夕食を奢る約束をしていましたが、こいつが少し遅れてきました。金がないので集ってきたのですよ。もう二度と、こいつと食事はしません。私は、帰ります。あとはよろしく」
勘定を終えて、用が済んだとばかりに帰ろうとするドワーフを俺は呼び止める。
「おい、アンタ、これ連れて帰らねえのかい」
「ええ、一緒に帰るのは御免です。申し訳ないですが、後はそちらで始末をして下さい。その為に、銀貨二枚の勘定をしています」
勘定を多めに渡した理由をはっきりと言い、冷めた目でのされたドワーフを一瞥してから、そのまま場を去っていく。しょうがねえから、俺達の部屋にある空いたベッドに寝かせるか。
「女将、こいつは俺達の部屋に連れて行くよ。明日の朝、目が覚めた時にでも追い出してくれ」
「済まないねえ。そうしてくれると助かるよ。迷惑をかけちまったねえ」
のされたドワーフを持ち上げて肩に担ぐ。ワリスに終いの挨拶をする。
「最後で、いまいちな締めになっちまった。今日はお終いにしよう」
「ああ、分かったよ兄弟。今晩は良い知識、美味い酒、面白い経験をさせて貰った。この画、記念に俺が貰っても良いか」
「持っていってくれ。まあ、ここに居る間は、暇なら店に顔を出す。じゃあな」
手を振りながら階段を昇って部屋に向かう。ワリスも食堂を後にして帰っていく。女将は最後の片付けに向かった。部屋を開けて、のされたドワーフ『クラテル』を空いたベッドに放り込む。酒が回っているせいで、起きる様子はない。朝まで目が覚めることはないだろう。
どたどたと階段を昇って来る音がする。部屋の扉の前に女将がいる。どうしたのかと思ったが、俺の荷物袋と背中に担がれた男を見て、あっと思う。
「これ、忘れものだよ。大事な物だろ。こっちはちゃんとベッドで寝かせてやりなよ」
荷物袋を手渡され、ラティオを降ろした女将はまた、食堂の方へと戻っていく。ラティオは気持ちよさそうに寝ている。こいつも、あれだけの騒ぎで起きもしないこいつも、顔に似合わず肝が太い。それとも、酒が効きすぎているのか。むんずと掴んで、こちらもベッドに放り込み布団代わりの皮の敷物を掛けておく。全員の様子を見て問題がないことを確認してから、俺もベッドに潜りこんだ。
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