第3話 旅の支度

「お久しぶりです。それにしても、また、急にいなくなりましたが、お元気でしたか」


「ああ、悪いな。旅の虫が疼くと、どうにも止まらねえ」


「どうしようもない、虫だね。治しようがないだろうさ」


 ガリーザの言い様に、ハダスがワフワフと後ろで笑う。どいつもこいつも、会うと同じ事をほざきやがる。まあ、悪いのはこっちだからどうしようもない。

 リカー嬢さんに、言伝を頼んだ際に「星の瞬き」は討伐に出ているから、戻るとしても夕方以降だと教えられた。ここに、討伐証明を届けに来るから夕刻に来ればいいと言われたので、今迄ゴンと露店や市場を適当に冷かしていた。冒険者組合に戻ると、丁度、ラティオ達が受付で届出を済ましているところだった。


「実は、頼みがあってな」


「なんでしょうか。内容によっては聞けないこともありますので」


「その辺りは承知している。今度な、護衛依頼を頼まれちまってな。俺とゴン以外に、あと三人程の人手がいる。日当は、一日一人銀貨一枚。ドワーフ帝国までの護衛だ。依頼者はドワーフの商人隊の長。あー、そう言えば、相手の名前も、出立が何時かも聞いていねえな。リカー嬢さん知っているかい?」


「なんだい!? 今頃それを聞くのかい!」


 ガリーザは呆れたと言った顔を、こちらに向ける。リカー嬢さんも呆れ顔だが、承知していたのか直ぐに教えてくれた。


「ハァ、貴方達が暇をつぶしている間に、もう一度、あの依頼者が来ました。名前は、ワリス。こちらの準備が整い次第、直ぐにでも帰路に発ちたいそうです。ここで、決まれば今日にでも連絡をしに行きます」


 先方も似たようなものだ。しかし、随分とあわただしい。まあ、あの調子じゃあ毎度の事なのかも知れねえ。しかし、準備が整い次第と言っても、ラティオ達にはたった今、話したばかりだ。そう簡単には決められねえだろう。


「まあ、私達は構いません。護衛依頼も何回か受けています。ドワーフの商隊からの依頼で、ドワーフ帝国に行くのは初めてですが。それよりも、お二人の装備を整えた方が良い」


「ん? 俺達は別に、これ以上荷物を増やす気はねえよ」


「そうではありません。武具や防具と言った装備をもう少し整える必要があるということです。今回は護衛依頼。ドワーフ帝国まで商隊と行くのですから馬車に乗るのでしょう。旅程は十日程。亜人や害獣との遭遇は確実にあるでしょう。万が一を考えれば、その衣服だけでは問題があると言うことです」


 考えてみれば、ラティオの言う通りだ。今迄は、偶々、相手の攻撃がまともに当りはしなかったがこれからもそうとは限らねえ。もう少し、厚手の装備を買っておいた方が良いだろう。


「私達の準備は、私とガリーザさんで行っておきます。ハダス、お二人に付き合って、適当な装備を見繕って下さい。ゴンさんは身体が大きいので、ハダスが行きつけの店で装備を整えた方が良いでしょう」


「ワカッタ。店ハ、モウ、閉マッテイル。明日ニナル」


「リカー嬢さん。出立は、明後日の朝と先方に伝えてくれ。それまでに準備を整える。待ち合わせ場所の確認を頼む。明日の夕方、又、ここに寄る」


 伝えておきますと、承諾の返事を得る。これで、護衛の人数は整った。次は、荷物持ちだ。余り、リカー嬢さんには聞きたくなかったのだが、時間が急に差し迫ったのでそうも言ってはいられねえ。


「ところで、アエラキとオルデンは、最近は何の仕事をしているんだい」


「二人は、ここ最近、薬草採取をメインに活動しています。ウム婆さんの所で、引き取って貰っています。順調なようですよ。ウム婆さんも関心をしています。先日、図鑑を借りていたので、今日にでも返しに来ると思います……まさか!」


 リカー嬢さんは、焦った顔をして立ち上りこちらをきつく睨む。そう、そのまさかだ。ここは、一つ年長者として説得をしてやろう。


「なあ、二人はまだ若いから、余り危険な依頼に付けたくはない気持ちは分かる。だが、二人共、将来、狩人になりたいと言う目標を持っている。なら、色々と経験を積ませてやる必要があるだろう。旅はいい経験になる。俺達の国には『可愛い子には旅をさせよ』って言葉があるくらいだ」


「し、しかし、もし、二人が大きなケガや、万が一死んでもしてしまったら、その夢も潰えてしまうのです! まだ、時期尚早と考えられます」


「いや、光陰矢の如し、少年老い易く学成り難しだ。月日はあっという間に過ぎる。若いからまだ、時間があると思えば、何も学べねえ。これも国の言葉だ。なあ、ノモス組合長」


 いつの間にか、リカー嬢さんの後ろで話を聞いていた、組合長のノモスに話を振る。身体がでかい割に、音も静かに気配を感じさせず近寄りやがる。油断も隙もねえ。


「……お前達の言い分にも一理ある。そうだな、経験は必要だ。二人を今回の護衛の荷物持ちとして採用することを認めよう」


「しかし、組合長!」


「リカー、心配なのは判るが過保護すぎては育つ者も育たん。実際、ゲン達と共に行動してから二人の薬草採取の腕は明らかに良くなった。但し、もし危険が差し迫った際は、お前が身を挺してでも守れ。荷物持ちだからと言って、見捨てることは認めん」


「承知の上だ。俺からの依頼書、ここに預ける。必ず二人に渡してくれ。明日の夕方、ここに寄った時に落ち合える様に手筈をしておいてくれ」


「……分かりました。二人に伝えます。でも断られたら、必ず諦めて下さい。それと、組合長の言葉を、絶対に忘れないで下さい」


 承知している。何が、何でも守ってやる。それが、年長者としての役目って言うもんだ。ガリーザに、ハダス、ゴン迄もが口をでっかく、ポカーン開けて、アホ面をこちらに向けている。その様子を見てラティオが、一歩下がったところで笑いをこらえている。何かあったか?


「三人とも、貴方が、まともで難しい言葉を、よどみなく言ってのけたので吃驚しているのです」


「アンタ、顔に似合わないような、難しい言葉を知っているんだね」


「意味ハ、判ラナカッタガ、驚イタ」


「ゲゲ、ゲンさん、なな、何か変な物、くく、食ったけ?」


 ガリーザとハダスはともかく、ゴンよ、お前もか。


 ――毎度のことながら、顔は関係ねえだろう。



 ハダスとリカー嬢さんから明日の約束を取り付けた後、冒険者組合を後にした。アエラキ達の戻りはもう少し後になるであろうと言う。再会は、明日のお楽しみだ。今日の宿はどこにするのか、ノモスに問われたので「野宿」と答えたが、渋い顔で止しておけと言われた。

 この時期の交易都市の夜はすこぶる寒いらしい。下手に野宿なんてすれば凍死をすると脅かされた。寝袋もテントもあるから、大丈夫だとも思うが、わざわざ、宿の案内状まで書いて寄越したので今日と明日は、その宿に泊まろう。

 護衛の最中に、嫌でも野宿はできるだろう。一泊一人、銅貨三枚と多少高いが、前回の報酬もまだ残っている。いきなり、金貨を使う必要もないだろう。

 

 ノモスの言う通り、日中も寒かったが、陽が暮れはじめるとさらに寒くなる。防寒着を着込んでいるから、まだ、大丈夫だが、顔が冷たくて、痛くなるようだ。吐く息が白い。こんな日の夜は、酒精の効いた酒を一杯やりたくなる。


「ゴン、悪いが宿に寄る前にもう一回、ウム婆さんの所による。忘れものだ」


「ここ、こっちも渡したい、もも、物があった。わわ、忘れていた」


 ゴンもこちらの意向に賛同してくれるが、渡し損ねた忘れ物? ポケット百科以外に何か渡す物があっただろうか。


 店の扉を開けると、机の上に素焼きの、蓋の外れた壺が置いてあるのがまず見えた。次に、頭の小さい柄杓を持って、木のコップを持ち固まったまま動かないウム婆さんが見える。


「婆さん、何を飲むんだい。随分と美味そうだな」


「あ、あ、あ、味見をね。しておいてやろうと思ってね。薬酒っていうんだろ。薬草の専門家が味をみてやれば完璧だろう」


 なにが、完璧だ。近寄って壺の中をのぞき込む。減り方が、始めて飲んだ量じゃねえ。何回か少しずつだろうが、飲んでいたのだろう。


「全く、油断も隙もねえなあ、婆さん。こいつの保管料は払わねえ」


「分かったよ。だけど、この一杯だけ貰うよ。ハァ、上手く忘れていたと思ったんだけどねえ。甘かったよ」


 大甘だ。俺が、酒の事忘れるか。しかし、味の方はどうだったのか。漬けた焼酎は安物だ。しかも、氷砂糖の加糖はしていないから、かなり苦いはずだ。


「婆さん、どうやって飲んでいたんだ。かなり苦いし、酒精が強かったろう」


「初めて飲んだ時は、口から吹き出しそうになったよ。勿体ないから我慢して飲んだけどね。次からは、少し甘めのワインで割って飲んだよ。これ、結構効くよ。翌日は身体が軽く感じるからね」


 まだ、多少若いと思うが薬効はあったようだ。先ほど注いだ、杯の中に、言った通りワインを注いで、少し飲み始めている。羨ましい限りだ。


「できれば、少し分けておくれ。物々交換で良いかい? 治療薬一本渡すよ」


「ついでだから、他の薬もあったらくれ。明後日から、ドワーフの商隊の護衛で、ドワーフ帝国まで行くことになった」


「ヒヒヒ、本当に病気だね。旅好きの病気。じゃあ、治療薬の他に、解毒薬や麻痺毒回復薬なんかを売ってやるから。金貨一枚、よこしな」


 随分と法外な値段だと思ったのに感づいた婆さんは、又、笑いながら、強気に語る。


「アタシのとこの薬は効きが違うよ。まあ、貧乏人向けに安いのも作っているけどね。まあ、知っている連中は、高くても文句を言わずに買って行くよ。アンタ達も良く知る「星の瞬き」の連中だって常連だよ」


 なるほどね。知っている奴は、買うが、知らない奴は高くて買わない。常連が多いから、困りはしていないのだろう。金を持っているわけだ。ウム婆さんに金貨一枚を渡そうとしたが、ゴンが前に出て待ったをかけた。


「どうしたんだい、ゴン。アンタ、値段に不服があるのかい」


「いい、いや違う。ここ、これと交換で」


 ゴンは、手にした二冊の本を渡す。一冊は文字の無い絵本。ゴンの奴、アンの事、忘れていなかったのか。古本屋で熱心に何かを探していると思ったが、アンに渡す絵本を探していたのか。


「ここ、これをアンに、わわ、渡してあげて。ええ、絵本」


「ああ、ありがとう。ソフィアの所にいたと思っていたんだろう。急に出会って渡し損ねたんだね。あんたは、顔に似合わず本当に優しくて、良い子だ。後ろの薄情者とは違うよ」


 ニヤリとした笑みをこちらに向ける。目が合わせられねえ。それにしても、もう一冊は、俺から見るに、ちと問題がある。果たして、渡してもいいものか。


「もう一冊は何だい。気持ちの悪い人の絵が描いてあるね」


「わわ、私達の国の、いい、医学の本。かか、簡単だけど。うう、ウムお婆さんに」


 ゴンが渡したのは、本屋でも売っている一般人でも分かるように描かれた「人体解剖図」。ウム婆さんが薬草を作っているから、この手の本に興味があると思って買っておいたのだろう。

 しかし、これはもしかしたら早すぎる本かも知れねえ。現に、つい先程まで嬉しそうにページを捲っていたウム婆さんの顔つきが変わっている。


「ゲンよ、これ、本当にアンタ達の国の本なのかい。医学っていうのは何なんだい。これが、簡単な本? ゴンの言うことは本当かい」


「まあ、一般人向けの本ではある。ただ、医学は専門分野だ。俺には、手が出せねえ。いや、大抵の人間は手を出せねえよ」


「……できれば一度、アンタ達の国にお邪魔をしたいもんだよ。これで、ますます王都に向かう理由が出来たよ。

 ――アンも一緒に連れていくのだけどね。明日から、乗合い馬車で王都に向かう予定なのさ。アンタ達に貰った本の文字、どうしても読みたいから、王都の知り合いの術士に『言語読解』の術掛けてもらうのさ」


 ウム婆さんは、少々値が張るけどねと笑いながら語る。しかし、それだけの価値があると考えたのだろう。大した婆さんだ。物事の価値が良く分かっている。


「さて、ゴンの言う通り、お代は要らないよ。始めの絵本だけでも、十分な価値があるけど、後から出た本の支払いをすると、王都に行けなくなっちまうよ。護衛の人数を教えな。人数分の薬、あるだけ用意しておくよ。飲み薬の容器もそのまま、持っていきな」


 一緒に護衛をする連中が、ラティオ達だと伝えると、なんだい、そうなのかいと、又、笑いだす。なら問題ないとばかりに、持ち運びやすい大きさの薬壺や、袋に入った丸薬といった様々な薬を渡してくれた。壺にはご丁寧に、割れねえよう術まで掛けてくれた。荷物の中から、布袋を取りだして中に入れて手で持てるようにする。

 最後に忘れずに酒を回収して(ウム婆さん用に分けてやるのも忘れずに)貰うものを、貰い受けるてから、店を出ようとしたときに、奥からアンが出てきた。こちらをじっと見つめている。しゃがんで、子供の目線に合わせて、怖がらないように、優しく語り掛ける。


「どうした、アン。なにかようかい」


「……」


 アンは、見つめたまま、両手で服の裾を掴んだまま喋らない。それでも、なお、目線を逸らさずに、顔をじっと見つめてやる。ゴンも、目線を合わせるために、しゃがみ込む。しばらくそのまま待ってから、ウム婆さんが何か語り掛けようとしたとき、アンの口が開く。


「助けてくれて、ありがとう」


「ああ、気にしねえでくれ。当たり前の事をしたまでだ」


 アンのお礼を、ニカリと笑って返す。ゴンも微笑んでいる。嬉しそうだ。アンは、ウム婆さんから絵本を渡され「ゴンからだよ」と言われると、再び、ぺこりと小さい頭を下げてお礼をしてから、奥に戻った。


「なかなか喋らない子でね。母親の死がショックだったんだろうね」


「いい母親だったのかい」


 俺の言葉を聞いたウム婆さんは、苦笑しながら首を横に振る。


「貧民街に住む連中から聞いた話だと、殴る蹴るは当たり前だったそうだよ。だけどね、あの子の母親は、家の前で骨になっていた。多分、アンを逃がすために囮になったんだよ。最後の最後で、親になったのかも知れないよ」


 悲しい話だ。聞いているだけで、悲しくなる。立派な親だが、死ねば終わりだ。残されたアンがどうなるかまで考えていたのか。だが、文句は言えねえ。身を張ってアンの命を守った。それは、立派なことだ。


「じゃあ、これで行くぜ、お互い、ケガをしねえで帰ってこよう。じゃあな」


「言われないでも、分かっているよ。ああ、それとアンタ達、あんまり変な笑いをするもんじゃあないよ。アンは泣かなかったけど、普通の子は泣くよ。それこそ気を付けなよ」


 最後の最後で締まらねえことを言われちまった。


 そんなに、俺達の笑顔は怖いのか? これには、流石のゴンも渋い顔をしている。納得がいっていない様子だ。

 

 

 

 朝、待ち合わせの場所に向かうとハダスが先に待っていた。ハダスは、周りの連中より頭一つは背が高いから見つけやすい。ゴンも変わらないがな。さて、行きつけの店に案内をして貰うとしよう。


 ゴンは、向こうで身体の採寸をしている。流石に時間がねえので、あるもので間に合わせてくれと頼んだが、いずれにしても多少の調整は必要だ。二人共、厚手の布製防具を購入した。

 その他に、俺は虫甲製の腕甲、脛当て、胸当て、前回なめしを依頼して出来上がっていた革を簡単に加工して貰い、前掛けにして貰ったもの。

 ゴンは、サイズが合う物が少なく虫甲製の胸当て、革の腕甲、脛当てを購入している。ハダスと同じ様な装備になっている。

 

 虫甲製の防具を選んだのは、単に金属製防具に比べれば、安いからだ。その割には結構丈夫だし、なにしろ軽い。日本で言う強化プラスチック製の感じがする。

 最近、人気だと言うドワーフ達が作った鋼製の物は頑丈だと思うが、やや重くて取り扱いが大変だ。


「ハダスよ、虫甲の防具はどの程度のものなんだい」


「鋼製ヨリハ、モロイ。気ニスル程デハナイト思ウ。俺ノ胸当テモ、虫甲製ダ。軽イ方ガ好キダ。動キヤスイ」


 ハダスの場合は、機動力も戦いの重要な要素なんだろう。こいつは、元々丈夫そうだから多少の脆さは気にならないのかもしれない。


 店主にも聞いておいたが、結局、ここ最近、ドワーフ帝国から仕入れる鋼製の防具が手頃な値段で手に入る状態になったため、今迄買えなかった連中が買い換えているらしい。

 店主の予想だと、手入れのできる武具はともかく、傷みやすい防具は、いずれまた、金属製より安価な虫甲製の物が売れる様になるんじゃあねえかと話していた。

 ただ、それまでに、職人のほうが持つかどうかが問題になるらしい。現在、ぼつぼつとだが、引退を始めた虫甲加工職人も出始めているらしい。技術職っていうのは、減らすのは簡単だが、育てるのは時間が掛かる。間違えて、廃れなきゃいいなと思う。

 

 武具店では、戦槌を買った。杖程度の長さの木の柄、先端に対して直角に鳥のくちばしの様に加工された鉄製のピックと石工が使うような槌が取り付けられている。話によると、ドワーフ帝国は、山岳部にあるらしいのでピッケル代わりにも使えればいいかなと思っている。

 武器はこちらに来るときに、持ってきてしまった剣スコと角スコがあればいいかなとも思っていた。昨日、門をくぐる際に守衛から、「武器を持ったまま中に入るな」と注意を受けちまった。鉄製の剣スコを武器と間違えられたようだ。だが、万が一を考え、きちんとした武具も購入しておくことに決めた。

 

 なんだかんだで、金貨二枚分の出費になった。手入れを良くして、消耗品にならないように心掛けていこう。

 

 ハダスには、付き合って貰った礼に、露店で少し遅めの昼飯を奢ってやる。こいつも大食いなので、結構な出費だった。

 露店ではまだ、オーク肉を売り出している店はない。今はまだ、一部の狩人や冒険者が狩った獲物を自分達で食べるに留まっていると、ハダスは教えてくれた。

 ただ、俺達が食わせたほどの美味い肉にはありつけないと零している。血抜きが悪いか、熟成期間が短すぎるかどっちかだな。

 

 少し早いが、待てばいいやと考え冒険者組合に向う。しかし、早めに仕事を切り上げていたのかアエラキとオルデンの二人組は、先に冒険者組合で待っていた。俺達の顔を見て、尻尾を左右に振りつつ、荷物持ちの依頼についての返答をくれる。


「話は聞いたよう。父と母には話を付けたから、一緒に行くよう」


「こっちも大丈夫に。丁度良かったに。ウム婆さんもアンと一緒に、今日から王国に向かっていなくなるから。今日は、準備するのに仕事は休みにしたに」


 二人共、少し顔つきが逞しくなった。男の子は三日も会わないでいると驚くほど成長をしているとは聞くが、言葉に間違いはないようだ。依頼書にサインをもらい、依頼は成立した。


「明日の朝出発することは、先方のワリスさんも了承しました。仕事が、早くて助かると言っていました。集合場所は、西門の橋のたもとになります。遅れずに、集合をして下さい」


 リカー嬢さんは淡々とこちらに、ワリスからの言伝を伝える。それでもやっぱり、明日からの準備をするからと、飛び出していったアエラキ達の背中を心配そうに見送る。こちらに戻って来た二人が、さらに成長した姿を見せられるように頑張らなきゃあならねえな。

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