第8話 狩りと買い物

 陽が昇り始める頃、橋のたもとでアエラキさん達を待ちます。ほどなくして、門から出てきた二人がこちらに駆け寄って来ます。採取した物を要れる大きめの革袋を背負い、革製の手袋と履物を身に着けているほかは、普段の格好とあまり相違はありません。そういう私達も負担着と大差はありませんが。


「さて、狩り場については二人に見当があれば教えてもらいてえ。俺達は、まだ、この辺りには不慣れだからな。できれば水場の近くが良い」

「なら、日向の森の少し手前にある池の周りが良いに。鹿なんかがたまに水を飲みに来るはずに」

「専門狩人の人達は水を汲む程度にしか使わないよう。日向の森の手前で、獲物も少ないからあまり人もいないと思うよう」

「うん、そこは良さそうだ。しかし、そんな場所で二人は良いのかい? 狩りの獲物も少なくなるだろう」


 答えとしては、日向の森に入るのはまだ怖いと言うのが本音でした。冒険者組合でも、年齢の低い二人はまだ狩人の荷物持ちの依頼は受けさせて貰えないと言うことです。今回が、初めての狩りの同行になるそうです。少し、早まったことをしたかも知れません。てっきり、狩りの同行もしたことがあると思っていたゲンさんが苦い顔をします。


「薬草の採取なんかはしたことがあるんだろう? そうゆう場合はどうしていたんだい」

「野原や森の縁か浅いところに生える、薬草を採取していたに」

「日向の森の奥は、僕達二人じゃ流石に怖くていけないよう」


 ともかく、ここまで来たら約束を違えることは出来ないので、二人を狩りの手伝いとして同行させ、東の池まで向かうことにします。昨晩、ゲンさんと話し合い今回二人に教えることとして「野草の採取の仕方と見分け方」「簡単な道具や罠を使った狩りの仕方」を教えることにしています。




「アエラキ、野草は毟り取らねえで、茎を二本の指で下から上にしごくように摘むんだ。自然と取れた部分が、良い場所になる。食べても美味い場所だ。それと、無暗に刃物を使わねえこと。種類によっちゃあ、一帯の同種が枯れちまうこともある」


 池に群生していた、クレソンことカワウズメと、近くに生えている三つ葉をアエラキさんと共に摘むゲンさんが教えます。私は、オルデンさんと近くに生えていたスダジイを集めています。二人共、食べられる野草や木の実を取るのは始めてで半信半疑な感じで採取を行っています。


「ゴンさん、こんなの本当に食えるのかよう」

「くく、食える。まま、間違いない」


 私達は簡単に野草の採取を済ませると、朝食の支度を始めます。今回は、アエラキさん達と共に朝食を取る手はずになっていました。三時間も歩けばお腹が減ります。

 石で簡単なかまどを作り、火の支度を始めます。ゲンさんが、二人に摘み取った後の野草の仕分け方や洗い方、持ち帰る際の保管方法を水辺で教えています。門で預けずに、持ってきた荷物から食器類を取り出し、鍋とフライパンを用意し、取れたスダジイいわゆる団栗を乾煎りします。皮が割れたら出来上がりです。昔の人はクッキーのようにして食べていました。

 ゴミや汚れを水洗いしたクレソンと三つ葉を貰い受けます。鍋には昨晩絞めたガケガラスのガラで取れたスープを温め、残った鳥肉に卵、固いパン、クレソンと三つ葉を入れたスープを作ります。クレソンはスープに全部を入れずに、油と塩に絡めてサラダにもします。


「ほれ、こっちの団栗はもう食える。皮をむいて食え。虫食いなんて気にするな」

「トンガリの実が食えるのかよう」

「でも、結構良い匂いがするに」


 皮をせっせとむき、白い実をさらに移し替えながらゲンさんは二人に団栗の実を勧めます。アエラキさんが恐る恐る手を出し、一つつまんで口に入れます。


「……結構、甘くて美味しいに」

「本当かよう」


 アエラキさんが二つ目、三つ目と口にしていくのを横目にオルデンさんも、遂に口にします。こちらも、反応を見ると大丈夫なようです。ゲンさんは、残りの団栗の実も皮をむいていきます。


「クレソン――カワウズメは洗えば生でも食える。塩と食用油で絡めてある。少し、ピリッとするぞ。スープは卵と鳥肉も入っている。カワウズメと、こっちの三つ葉はなんていうんだ」

「それは知らないに、タダの雑草に」


 聞いたゲンさんは、がっかりしています。三つ葉が雑草扱いでした。自然の物は、店売りの物よりも香りが高いので勿体ないです。獣人種である二人には、野草よりも鳥肉と卵の入ったスープの方が好評でした。


 朝食後の食休みの後は、再度、野草についての講習です。狩りについてはその後になります。


「こいつは、ウム婆さんの図鑑にも出ている『キゾク草』だ。根が太く短い、緑色で節があり中は空洞になっている。この草は、全部猛毒だ。口にすると確実に死ぬ。ウム婆さんのところには根を小袋一つ分持っていけば銅貨二枚で引き取ってくれる。ちなみに、根がこうなっていない似た草があるが、そちらは食える。近くに生えていることがあるから注意が必要だ」


 そうして、根を集め小袋に入れていきます。池から少し離れた場所で、トリカブトも見つけたので教えておきます。狩りではありませんが二人共真剣に聞いてくれます。


「二人共、術は使えるのかい。俺達二人はからっきしだ」

「まだ使えないよう。親に、生活用の理術を教わっているところだよう」

「まあ、使えてもそのへんがせいぜいに。術士にはなれないに」


 二人の話によると、獣人種は全般として、霊力値が低く術士には向いていない人種だということです。その分、身体能力が他の人種より、生まれながらにして高めの存在でもあるということです。

 毒草を取り終えた時、二人の耳がピクリと動きます。小声でこちらに話しかけてきます。


「……水場の方で音がしたに、人じゃあないに」

「匂いからして、鹿だと思うよう」

「風下に回ろう。ゴン、スリングと棍棒を用意しておけ。俺は、ゴムバンドで即席のボーラを作る」


 風下に移動し、少し離れた茂みから池の様子を伺うと確かに鹿が一匹水を飲んでいます。

角の生えていない、少し大きめの雌鹿です。ゲンさんは、ゴムバンドの両端に石を括り付けた即席のボーラと棍棒を片手に私達の傍から離れます。私は、スリングにコブシ大の石をセットして待機します。

 近付くゲンさんの気配を鹿が察知する前に、静かに立上りスリングを頭上で強く振り回して、遠心力の力を付けてから頭部を目掛けて石を放ちます。小さい目標ですが、上手い事当たりました。日本でもゲンさんに散々練習をさせられたかいがあるものです。

 鹿が、たじろいだ隙に茂みからゲンさんがでて、下手投げ気味に即席ボーラを足に目掛けて投げつけます。回転しながら、ボーラは鹿の脚に絡みつき移動を妨げます。鹿めがけて一気に距離を詰めたゲンさんの持つ棍棒が頭部に打ち下ろされ狩りは終了しました。傍らで、アエラキさんとオルデンさんは呆けた顔をしています。


「こんな道具で狩りをするとは思わなかったよう」

「てっきり、弓矢か術を使うと思っていたに」


 私達の行った原始的な狩りにびっくりしていたようです。まあ、現代日本でもこんな猟をする人はいないでしょう。しかし、ホームレスの私達が銃や罠猟の資格を取ることは出来ませんので仕方がありません。弓矢も使うとまずいと教わっていますが、多分、ゲンさんは使えるはずです。


 捕えた鹿は血抜きをした後に、内臓を取り出し脚にロープを付けて池に沈めて冷やしておきます。ゲンさんは、血抜きの方法から内臓の取りだし方まで丁寧に説明をします。


「何でこんなことをやるに」

「肉が、美味くなるからだ。やるとやらないとじゃ臭みが違う」


 内臓は必要な部位を切り分けて、昼食分を残しビニル袋に入れて同じように池の水で冷やしておきます。残った内臓は離れた場所に穴を掘って埋めておきます。


 内臓の始末を終えて戻ると、なぜかゲンさんが臨戦態勢になっています。アエラキさん達が震えています。


「ゴンよ、初回と同じで続けざまに獲物が来た。オルデンの話じゃ、オークの匂いだとよ。参ったぜ、今日は大猟だ。持ちきれなくなりそうだ」


 なぜか嬉しそうなゲンさんの話を聞き、私は荷物の中からあの錆びた短剣を取りだします。表面上は錆びていて切れ味はありませんが、鈍器としては十分に役に立ちます。これのおかげで、命拾いもしていますので結構大事な武器になっています。


 茂みの奥から現れた一体のオークは、前回の狩った者より一回りは小さい体格をしています。ゲンさんと同じ程度の背丈です。乳房が大きく感じるので雌なのかもしれません。


「どうみても雌だな。体格が少し小せえが子供か?」

「な、何を言っているかよう。普通のオークだよう」

「そ、そうに! あれ以上大きいのは珍しいに!」


 どうやら、私達が初めてであったオークは結構な大物だったようです。水を飲もうと池に来て私達と出くわしたオークは、やや興奮気味に鼻息荒くこちらを睨んでいます。片手には、少し太めの棒切れを持っています。


「じゃあ、とっとと殺るか」


 棍棒を片手に持ったゲンさんがズンズンとオークに一直線に向かって行きます。相手もこちらに向かってきますが、やはり短い脚を動かすために動作はノロマです。逃げる気はないようです。私も、後を追います。

 オークは「ブギィィィ」と威嚇しながら、手にした棒切れを頭上に振りかざしゲンさんに襲い掛かります。オークが棍棒を振り下ろす前に、斜に構えたゲンさんは手にした棍棒を突っ込み気味の顔に向けて突き出します。意表を突かれたオークは、空いていた手で目を覆いたたらを踏んで後退します。その隙に、両手に持ち替えた棍棒を膝に目掛けて叩きつけます。『バキャン』と言う音がします。今回は棍棒が折れずに、相手の膝を砕いたようです。

 オークは打たれた片足から崩れ落ちます。私は、崩れ落ちたオークの頭めがけて短剣を振り下ろします。短剣は頭の骨を割り、脳の中に食い込みオークを絶命させました。


「前回と違って、相手がノロイのが分かっていたから楽に対処できたな。こいつは良い獲物だ。日本の猪の方がよっぽど怖え」


 ゲンさんは、手にしたナイフを仕留めたオークの首元に当て、早速血抜きの準備を始めています。アエラキさん達がホッとした顔をして座り込んでいます。


「この辺りでもオークは出てくるんだな。まあ、畑を荒らすなんて言っていたから当たり前か。二人は出くわしたときはどうするんだい」

「逃げるに! 必死で逃げれば足の遅いオークに追い付かれることはないに!」

「そうだよう。ゲンさん達は無茶しすぎだよう。逃げた方が良いよう」

「おうおう、それで当りだ。無理して、相手するより逃げるが勝ちだ」

「いい、言っていることと、やや、やっていることが違う」


 私がそう言うと「違えねえや」と笑いながらゲンさんが言い、アエラキさんとオルデンさんも釣られて笑いだします。私も一緒に笑います。

 オークの内臓を取りだす準備を始めた所で、不審げにアエラキさんが話しかけてきます。


「……ところで、二人共さっきから何をしているに」

「ん、見ての通りオークの解体前の処理だ。おお、これもよく見ておけ。役に立つ」

「も、もしかして、く、食うのかよう、オークを! 気持ち悪いよう!」

「禁忌じゃあねえんだろ。食うのが気持ち悪いなんて言っていたら、万が一の時は生きていけねえよ。それに、俺達の国じゃあ露店の幼虫シチューを見たら大抵気持ち悪いと言うぞ」


 筋をなぞるように、ナイフで何回か切り込みを入れて慎重に内臓を取りだします。食べるのに必要な分だけ取り出し、後は捨てることにします。討伐証明である牙を取り外したオークは、内臓をさばいた際に敷いておいたシートでグルグル巻きにしてから脚をロープで結わいて、池に沈め流されないように近場の木の根元に括り付けます。なんだか、不審な物体に見えます。日本で見つかればひと騒ぎ起こりそうな感じです。

 昼は、モツとクレソンの炒め物の予定です。当分はモツを食べて過ごしていくことになります。食べない分は、袋に入れて池の水で冷やしておきます。この辺りも寒い時期になりつつあるのか、池の水は結構冷えているので貯蔵には便利です。

 

 「オークは明日、引き上げよう」とゲンさんが言うので、鹿を担いで持っていきます。昼食は都市の近くまで移動してから取ることにします。




「いいから食ってみろ。死ぬわけじゃあねえ」


 ゲンさんは、モツ炒めを盛った器を差し出しています。モツは鹿とオークのレバーを、塩胡椒で味付けをして炒めたものです。眉間をしかめて、困った顔をしたアエラキさんは、オルデンさんに同意を求めようと声を掛けますが、


「やっぱり、ダメに。食えないに。ねえ、オルデン……って、エェ!」


 オルデンさんは私が差し出しだモツ炒めをせっせと食べています。声を掛けられ、ん、とした顔をアエラキさんに向けています。


「ゴンさんが炒め時の匂いを嗅いでから、我慢できなかったよう。食うと美味しいよう。もったいないから、アエラキも食べるよう」


 裏切られたような顔をアエラキさんはして、再度、渡されたモツ炒めの皿を見つめます。私が、炒めていた時から分かっていました。終始、変な物を見つめるようなアエラキさんと、炒めた香りに鼻を引くつかせ次第に尾の揺れ方が変わってくるオルデンさん。両者の反応の違いが手に取るように分かったからです。

 唯一の理解者があっさりと裏切っていたため、逃げ場がなくなったアエラキさんは意を決してモツ炒めを口に少しいれます。咀嚼して、飲みこむとしばし固まります。


「……美味いに。信じられないに、あんなのがこんなに美味しいなんてに」


 皿からかきこむようにモツ炒めを食べ始めます。オルデンさんも同じような勢いに変わります。よく噛まないと喉に詰まるので、慌てて食べないようにして欲しいです。


「そうだろう、そうだろう。美味いよなあ、新鮮なモツは美味い。肉は脂がのってもっと美味い。だが、食うのに加工するにしろ、熟成させるにしろ、ちと時間が掛かるがな」

「ほほ、保管も問題。ああ、朝晩は涼しいけど、ひひ、昼間は暖かい。にに、肉が腐る」


 日本にいる時は、狩猟時期には山村に住む、ゲンさんの知り合いの方の庭に転がり込み狩猟の手伝いをして過ごします。戻れば、そろそろ移動の時期です。先方も独身の男の方なので変な心配は無用ですが、毎年迷惑を掛けています。そこでなら、狩った肉も冷凍庫で保管できますが、こちらでは無理な話です。


「とりあえず、この後は取った薬草をウム婆の所で換金して、鹿を狩人組合に持ちこんで、オークの牙を冒険者組合に届ける。……なんだか、仕事の後みてえだな」

「げげ、ゲンさん、しし、塩買わないと」


 今回も手持ちの塩はあります。ただ、量に限りがあります。前回は、売っている店が分からなかったので知っておく必要はあります。他にも、見ておきたい物は色々とあります。


「塩なら、露店で売っているところがあるに。そこで買えばいいに」

「二人はいつも屋台のあるところにしか、寄ってないから分からなかったかよう」

 

 市内には食事を提供する屋台の他にも、様々な物を提供する露店市もあるそうです。宿に止まることなく、城壁の外で過ごしていた私達は気付かなかったようです。

 昼食後、交易都市に戻り、南門から市内に入ります。途中で、顔見知りの守衛さんから入場札の期限が迫っていると言われ、延長をするか問われました。無論、延長をするとゲンさんが答えます。延長税は銅貨二枚でした。始めは、木札の料金も含まれると言うことです。ただ、期限が切れた後に入る場合は、再度木札を購入する必要があるとのことでした。


「冒険者ランクがD以上になれば、入場税が免除されるに」

「かわりに、討伐をいっぱいして貢献度を沢山あげないといけないよう」

 

 ラティオさん達はDランクと言っていたので、入場税は免除されているのでしょう。そういば、あれ以来会えません。どうしているのでしょうか。

 まずは、狩人組合に向かいます。鹿を処分して身軽にしたいからです。

 皆で狩人組合の中へと進みます。受付の回りには人はいません。この時間帯は空いているようです。前回、アシオーさんから頂いた、狩人の証明書と若い男性の受付の人の前に鹿を置きます。担当者は、証明書を一瞥して鹿に目を向けます。


「随分と傷だらけです。内臓も抜いてしまっているようですから、買取りは安くなります。銅貨一枚ですね」

「なんだい、内臓も抜いちゃあいけねえのか。それじゃあ、駄目だ。よし、いいや持ち帰る。じゃあな」


 ゲンさんは言うが早いか、鹿をカウンターから持ち上げ私に渡して来ます。そのまま、足早に組合を後にします。受付の担当者は、少し呆けた顔をしていました。あまりにも、あっさり引き下がったからでしょう。


「すまねえな、二人共。こっちじゃあ、鹿の血抜きや処理を勝手にしちゃあいけねえみたいだ。今日、教えたことは忘れてくれ」

「別にいいよう。勉強になったよう」

「それにしても、鹿どうするに? 捨てるのかに」

「捨てやしねえ。どこかで吊るして、皮を剥いだら皆で分けよう」

「ほ、本当かよう! 狩り肉が食えるなんて初めてだよう」

「みんな喜ぶに! すっごい贅沢に」


 二人は鹿肉を貰えることにすごくはしゃいでいます。口ぶりから伺うと、虫肉は食べられても、狩り肉は滅多に食べられない物みたいです。あの森だけでも、亜人以外の野生の動物もいると思います。鹿以外の獣もいると思うのです。どうして、狩り肉が食べられないのでしょう。不思議です。


 狩人組合を後にし、ウム婆さんの薬草店へと向かいます。細い路地を潜り、陽が差さないような場所にある、葉っぱの看板が目印の店の中へと入ります。皆で入ると少し手狭です。


「誰だいって、アンタ達か。どうしたい、あの本売る気になったのかい」

「違うよ。おっと、忘れる前に、こいつを返しておく。また、薬草採取したから買い取ってくれや。別に依頼書なくてもいいんだろう」

「まあね。あれは、図鑑を貸し出すための書類みたいなもんだからね。覚えた薬草持ってくればいつでも引き取るよ。ちゃんとした物ならね」


 ゲンさんは、荷物から取りだしておいた傷の治療薬が入っていた壺を返します。中身は栄養ドリンクの空きビンに入れ直しておきました。

 アエラキさん達がおずおずと手持ちの薬草をウム婆さんの前に差し出します。ウム婆さんは、中身をとりだし一つ一つを丁寧に確認しています。二人が心配そうに、ウム婆さんを見つめています。鑑定が終わると、二人に向け珍しくニッコリと微笑みかけ、


「うん。問題ないよ。上出来さ。お前さん達が集めたのかい。この前は、ダメだったけど今回はまともだ。後ろの不細工なデコボココンビに教えてもらったのかい」

「そうに! ……あ、いけないに」

「ぶ、不細工は余計だよう、ウム婆さん」


 アエラキさんは私達にぺこぺこと頭を下げています。「不細工」に同調してしまったと思っているのでしょう。オルデンさんは、ウム婆さんに笑いをこらえながら指摘を出しています。

 二人は、銅貨四枚を受け取り私達に差し出して来ます。ゲンさんは、銅貨三枚を受け取り一枚を二人に与えます。


「採取の手伝い料金だ。今回の報酬料金は別に払うから安心して貰ってくれ」

「こ、困るよう。色々貰い過ぎだよう。朝と昼も食べさせてもらって、採取料金も貰うなんて聞いたことがないよう」

「そうに、それに鹿の狩り肉も貰えるに」

「おや、その鹿、狩人組合に出すんじゃあないのかい?」

 

 先ほどの経緯をウム婆さんに説明します。ふーんと言ってウム婆さんは鹿を見つめます。


「本当は、冷えた所で保管をしてえんだが、流石にそんな場所はないだろう」

「あるよ。うちの倉庫は、薬草保管するのに、知り合いの錬金術士に作らせた、地下の冷暗室があるから保管が出来るよ。どうだい、手数料で銅貨二枚払うんなら預かるよ」

「本当か! あとで、別の肉も持ってくるからそいつも頼めねえか」

「まあ、部屋に限りがあるから沢山は無理さね。後から持ってくるのは別料金になるよ。期間はまあ、六日間位かね。過ぎたら、追加料金を貰うよ」

「ああ、十分だ。わるいが、鹿の皮を剥ぎてえ、いい場所ねえかい」

 そう言うと、建物の裏口から日当たりの悪い裏庭に案内をされました。薬草を乾燥させるための棚と、一本の樹木が生えています。

 ゲンさんは許可を得て、鹿を吊るし、皮を剥ぎ始めます。無駄になるかもしれませんが、皮の剥ぎ方も、一応二人に教えておきます。


「狩り肉は滅多に口に入らないような口ぶりだが、狩人になれば食えるんじゃねえのかい」

「分からないに。狩り肉は、貴族様がみんな買い取るから食べられないに」

「狩人達は、狩り肉は組合に引き取ってもらうのが普通だよ。保管が面倒だからさ。肉なら、虫肉か、魚肉なんかを食えばいいからね」

「お、魚はあるのか。そういや、烏賊焼きがあったもんな。当たり前か」


 皮を剥ぎ終わり、背割りを行いウム婆さんに案内されて、狭い入口と階段を降りた先が薬草の保管個となる冷暗室になっていました。壁際には棚が置かれ、棚には壺が置かれています。中央に架けられた木の梁に鹿肉を吊るします。


「残りの肉は明日には持ってくる」

「ああ、待っているよ。ついでに何か採ってきておくれ」

 

 剥いだ皮は、職人街の皮なめしの職人に直に渡せば、小銅貨で二枚位の値は付くだろうと言われました。どうするかは、保留にするようです。

 店を出て、次に二人に連れられて、塩を売る露店へと向かいます。屋台広場を抜けて、西に暫く向かうと露店が立ち並ぶ場所にでました。露店では、野菜や、衣服、雑貨を売る店が立ち並んでいます。薬売りの店の前では、何かの生き物を丸呑みにしてから、薬を飲んで吐き出すパフォーマンスをしている人もいます。

 サプルさんも言っていた通り、壺一つで銀貨一枚(銅貨十枚分)で塩は売られていました。岩塩は、その三倍はします。ドワーフ帝国の輸入品で、味が良く入手量が少ないため高価になるということです。店主は「ドワーフ」と言った時に、ちらりとゲンさんの顔を見ていました。また、勘違いされているようです。

 量り売りもしていると言うことなので、銅貨五枚分の塩を買い求めます。空いていた一リットルのペットボトルに入れて貰いました。口が狭く入れずらいと思い、漏斗を指しておきました。ほぼ、一杯まで塩で満たされます。約一キログラム程度の量を購入したことになります。


「まあ、高いとは思うが、だれもが塩漬けできねえ程じゃあねえな。」

 

 狩り肉の塩漬けについては、ウム婆さんも聞いたことがないと言っていました。大体、獲れてから数日後に食べきってしまうのが普通だということです。ウム婆さんは若い時に何度か、鹿の狩り肉を食べたことがあるそうですが、臭みが強くて余り好きになれなかったと言っていました。虫肉の方が、よっぽど美味いと感じたそうです。ちなみに、干し肉とは私も食べた、烏賊の干物や燻製の事を言うそうです。冒険者組合でも売っているとのことでした。


 最後に冒険者組合へと立ち寄ります。受付のリカーさんの所により、オークの牙を渡します。後ろに控えるアエラキさん達を見て、眉間にしわを寄せ、ため息を一つ付いてから手招きでゲンさんを呼び寄せます。


「……二人はまだ子供です。組合としても、狩りや討伐の同行はさせていないんです。意味わかります」

「う、うむ。後から、聞いたが約束した手前断るわけにもいかねえんでな。次からは気を付ける。それに、始めっから討伐をする気で出かけた訳じゃあねえんだ。偶然だ。狩りのつもりだったからな」

「先ほども言ったように、狩りの同行もダメなんです。薬草採取を一緒にする位なら構いませんが、次は無いようにして下さい」


 後ろの二人には気付かれないように小声でしたが、リカーさんからしっかりと注意を受けてしまいました。オークの討伐報酬として銅貨二枚を貰います。


「しかし、ランクが低いと討伐系の依頼は受けられねえだろう。同行は出来るが、それだけじゃあランクが上がらねえそうじゃねえか。一体どうすりゃあ、いいんだい」

「貴方達のように、依頼を受けずに討伐をしていくしかありません。Dランクに上がるのも、そこそこの実力がないと上がれないのですよ」


 Dランクに昇格するには、オークなら年間で十体以上、ゴブリンやコボルトなら五十体以上は討伐をする必要があるそうです。ゴブリンなら、ラティオさん達とそれ位狩りましたがまあ、一緒に報告していないので知らされていないのでしょう。


「ところで、今後とも四人で活動を続けるのなら、班登録をすることをお勧めします。登録料に銅貨二枚を必要としますが、今回のような討伐に対する貢献度は班の貢献となり全員がランク昇格の恩恵を得ることができます。どうしますか?」


 リカーさんに問われたゲンさんは少し悩みますが、断りました。


「俺達二人は放浪の旅人だからな。いつ、消えるかわからねえ。そうなった時に、残された二人が困るだろう」


 期待をしていたアエラキさんが残念そうな顔をしてゲンさんの答えを聞いています。しかし、ゲンさんの言う通りに、いつ、日本に戻されるか分からないので仕方がありません。

 

 すべての要件が終わったので、今回の報酬料金を二人に支払います。この辺のやり取りは、話し合いが付いていれば無理に組合を通す必要はないとリカーさんに教えられました。なるべく、先に相談をするようにと小言も一つ言われます。


 二人と共に、依頼掲示板の方に行くと、先日まで張られていなかった大きめの用紙が柱に付けられています。重要な依頼でしょうか? その割には、Eランクでも出来る仕事です。


「ああ、あれは、なな、なんて依頼だい?」

「あれは、炊き出しの手伝いの依頼に。毎月二回、冒険者組合で貧民街の炊き出しを行っているに」

「やるのは、五日後だよう。早めに要請しておかないと人が集まらないからよう」

 

 オルデンさんの説明では、朝昼の食事つきで銅貨二枚。食事が付く分、水汲み人夫よりかはましですがそれでも安い報酬です。多分、余り人が集まらないのでしょう。いつの間にか近寄ったリカーさんから声が掛かります。


「今回の件の罰として、お二人はこちらに参加して下さい」

「随分厳しいこった。まあ、いいさ。何か持っていく物はあるのかい」

「特にはありません。聞いた通り食事も着きます。炊き出しの素材は狩人組合から提供されますから、その辺りも心配はありません」

「そうかい。……二人も手伝わねえかい」

「「えー」」


 珍しく二人の気は進まないようです。揃って、嫌そうな声を上げます。


「その後に、狩り肉を分けようじゃねえか」

「「あい」」


 肉の話を聞き、綺麗な返事を同時にあげます。よほど、肉が欲しいようです。明日からの仕事はどうするかと思いましたが、ゲンさんが炊き出しまでは薬草採取をしようと提案をしました。ついでに、狩りでもしたいのでしょう。


「一緒に薬草採取をする分には構わねえんだよな」

「……まあ、仕方がありません。何もさせないわけにはいきませんから。危ない目には合せないようにして下さい。貴方達二人が付いている分、いつもより安全かもしれませんが」


 リカーさんに確認を取って、一緒に薬草採取をしようと二人にゲンさんが提案しています。二人共喜んで引き受けてくれました。今回と違い、報酬を出すわけではありませんが、なるべく多くの薬草を集めていつもより多めに稼がせてあげたいものです。

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