第7話 水揚げ人夫とタマゴ取り

 ゲンさんの朗々とした声が響き渡ります。私も後に続いて歌い始めます。単調な作業が続くため、飽きが来ないようについつい歌い始めてしまいました。朝からずっと、断崖絶壁の上で、水を汲む車を踏み続けています。水は都市の北東側の水路に流れ、堀の排水に使われているそうです。




 ノモスさんとのやり取りを終えた後、依頼掲示板に向かいました。アエラキさんとオルデンさんは先に掲示板いましたが、ゲンさんとノモスさんのやり取りを見ていたようです。


「やっぱり、嫌な目にあったのかに。もう少し、詳しく教えておけばよかったに。ごめんに」

「僕達も、お金を貰えなかったよう。時間が掛かりすぎだって言われたよう。仕方ないよう、僕達二人だけじゃ、洞穴から壺を運び出せないよう。だから、壺を外に置いて、木桶を運びながら油を満たしたよう。本当に朝まで掛かったよう」

「お前達がどうやって壺運んだのか不思議だったが、結局、外に置いた壺に汲み入れていたのか。それじゃあ、時間が掛かったろうよ。ゴキを抑えるのはしんどかっただろう」

「ゴキ? ヒマの事かに。ゲンさん、あの管理人の言うこと聞いたのかに? そんなことしないで、戸を開けて染み出てくる床に溜まった油を汲んだ方が楽に。あ、それも言ってなかったに」


 アエラキさんもオルデンさんもぺこぺこと頭を下げています。二人とも悪気はないのです。謝る必要もありません。どちらかと言うと、あの「マタタビ」がなければ言い忘れることはなかったのでしょうから。たまりかねたゲンさんが、アエラキさん達に問いかけます。


「もう良いって。気にするこたあねえよ。それよりも、二人がおすすめの依頼はねえのか。あったら教えてくれ」

「ないに。どれもキツイ仕事ばかりに」

「ないよう。どれも危険が必ず伴うよう」


 先ほどの、言い合いを聞いていたのか二人はきっぱりと言い切ります。ゲンさんも私も固まってしまいます。いつの間にか、後ろに近寄っていたリカーさんが一枚の依頼書を取り私達に渡して来ました。


「組合長が仰られたとおり、冒険者組合に舞い込む仕事はきつく、危険な物ばかりです。採取作業ひとつとっても、森の中で亜人や獣に襲われる危険性が付きまといます。これは、頭を使わずに出来る作業です。単純な作業なので、受け取れる報酬は安いですが」


【依頼書】水汲み作業人夫

 湖からの水を汲みだす作業。水は堀の排水などに用いられるため、昼夜を問わず作業人を募集する。従事したいものは、サイン入りの依頼書をもち、都市北東部の湖へ来ること。

報酬は定刻まで作業を行い、一人につき銅貨二枚。食事は各自で持参する。

依頼者 :領主館

ランク :E


「水運びか、確かに単純作業だが銅貨二枚は安すぎねえか。」

「誰でも簡単に出来る作業ですから、報酬は本当の最低ランクになります」

「あー、水汲み人夫に、たまにはやるに。ぼんやりしたい時は丁度いいに」

「そうするかよう、アエラキ。たまには、良いかもしれないよう」


 アエラキさん達は水汲み作業人夫を受けるようです。ゲンさんは悩んでいます。


「げげ、ゲンさん。なな、悩むくらいなら、よよ、止すか」

「いや、二人の言う通り、ちたあ頭を使わねえ作業もたまには良いだろう。まあ、最近だって肉体労働ばっかしだがな」


 ガハハ、と笑いリカーさんに依頼を受ける旨を伝えています。「食事は持参とありますが、傍に露店が出ていますのでわざわざ買っておく必要はありません」と、リカーさんが教えてくれました。オルデンさんが一緒に行こうと提案してくれましたので、乗ることにします。

 明日の朝、南門の橋のたもとでオルデンさん達と待ち合わせの約束し、冒険者組合を後にしました。




 二人に連れられて、城壁外の北東部に向かいます。職人街を抜け、バラックの集まるスラム街のようなところをさらに抜けていきます。住居はなくなり、秋めいた草原を抜ける道だけが続きます。


「なるほどな、こうゆう仕組みになっていたのか」


 目の前に現れた光景を見て、ゲンさんが呟きます。

 都市の東側には湖がありました。ただ、周囲の地面より三メートル程下がっています。縁には、見たことがない木製のキャタピラみたいなものが並んでいます。キャタピラの頂部に人が並び、足踏みをしています。キャタピラからは水が汲み上げられ、溜池に注がれています。下にある水場から汲み上げられているのでしょう。

 近付いて下を覗きます。湖の水は濁っていてあまり透明度はないようです。湖岸には、あちらこちらに真っ白い塊が付着しています。少し、奇妙な感じがする不思議な光景です。湖の水は北から南に向けて流れていき、遠目で見る限り下流の方は渓谷のようになっているようです。

 アエラキさんが手を招いて、自分達が居る方に呼び寄せます。招き猫みたいです。どうやら、キャタピラに乗る順番を待つようです。順番待ちを管理する人に依頼書を見せ、一枚の木札をもらいます。


「木札二枚で、報酬と交換になる。無くさないように。竜骨車の傍にある、大きな砂時計の砂が二回反転するまでが一回の作業となる。二回反転時に金を鳴らす、作業終了の合図になり、木札を受け取ること。途中で作業を放棄した場合は、木札は受け取れない。作業終了後は、こちらで再度順番を待つこと。割り込みは禁止。以上だ」


 管理人さんは事務的な口調で説明をしました。何回も同じことを言っているので、滞りなくスラスラと喋っていました。キャタピラの名称は竜骨車と言うようです。竜骨車は、崖の下の湖へと伸びています。竜骨車の上端に並ぶ車輪の上に、人が乗り延々と足踏みをしています。足踏みをするごとに吐水口から水が流れ出てきています。

 少しの間眺めていると、竜骨車の傍にあった砂時計が反転し鐘が均されます。上に載っていた人達が一斉に降りていきます。管理人に誘導され、順番を待っていた私達は竜骨車の上に乗りました。いよいよ、作業の開始です。しかし、あの巨大な砂時計、一回でどのくらいの時間を測れるのでしょうか。


 周囲の人と歩調を合せて歯車を踏み、回転させます。細かく刻むようなリズムで延々と繰り返します。吐水口から出た水は、樋を通じて、溜池へと注がれて行きます。溜池に溜まった水は、都市へ向かう堀へと流れていくようです。


「なあ、ゴン。あの砂時計、目詰まりしてねえか? ちいとも、減ってる様子がねえよ」


 もう飽きてきたのか、ゲンさんがぼやきます。確かに、単純作業で頭を使いませんが、あまりにも単調な動きの繰り返しなので面白味がありません。


「オルデン、この湖の水は飲めねえのか?」

「飲めないことはないよう。だけど、そのまま飲むと変な味がするよう。あそこにいるのが『水屋』樽で汲み置きして売るんだよう。売る前には、浄化の術を掛けているよう」


 オルデンさんが指を指した方向にいる「水屋」と呼ばれる人達は、専用の竜骨車を持っているのか私達と同じように水をくみ上げ樽に注いでいます。満たされた樽はどかされて、空の樽が置かれて行きます。樽は荷車に積まれ、馬二頭で牽かれて行きます。竜骨車は、三人の人夫が手際よく肩に担いで持って帰りました。


「ここ、この湖に、いい、生き物はいないのかい?」


 暇を紛らわすために、おしゃべりを続けます。周囲も似たような物です。体力がある時はそんなものでしょう。


「いるよう。乞食ザリガニが南の浅瀬で取れるよう。若い狩人さんが、狩りに来ているよう」

「アエラキもオルデンも狩人になるに! 狩人になる資金を集めるためにも頑張って働くに」

「……二人共まだ子供だよなあ。親はどうした」

「ん? 普通に働いているに。だけど、貧しいからアエラキも働かないとダメに」

「みんな冒険者稼業だよう。小柄な、猫人族や犬人族は、力作業には向かないけど、嗅覚を頼りにされたり、穴に潜ったりする狩りの手伝いをするよう。だけど、それだと貢献度が溜まらないからランクが上がっていかないよう」


 親御さんがいると聞き少し安心しました。二人は狩人の手伝いをするなら、狩人で生計を立てたいと考えているようです。その為にも、家計の手伝いをしつつ将来の資金作りをしているそうです。とても、頑張り屋さんです。黙って聞いていたゲンさんが「よし」と言うと、


「頑張っている二人に俺が歌を歌ってやろう。と言っても、気を紛らわすための作業歌だがな。俺達の国の歌だ」



 声が大きいゲンさんの朗々とした声が響きます。この人は顔に似合わない良い声で歌います。わたしも、後に続いて歌い始めます。周囲には、私達の声が大きく響き渡ります。歌を聞きながらも、皆足踏みは止めません。しかし、黙って聞いています。

 歌い終わると、順番待ちをしていた人達からささやかな拍手が沸きました。少し恥ずかしいです。アエラキさんが、少し呆けた顔で私達に向けて声を掛けます。


「ふ、二人共、顔に似合わない良い声に。吟遊詩人になれそうに」

「上手かったよう! 後で教えてほしいよう!」

「アエラキ、顔は関係ねえよ」


 いつでも、どこでも、誰にでも同じことを言われてしまいます。ちょっと残念です。




 昼にはまだ早い頃、ようやく一回目の作業が終了となります。鐘の音と共に、下へと降りて順番待ちをしていた人達と交代をします。予定通り、アエラキさん達と、少し早い昼食をとることにします。降りた際に管理人の方からも声を掛けられました。


「良い歌だった。普段なら注意をするところだが、作業が滞る感じはしなかったから止めなかった。意味はよくわからないが、お前達の国の歌か? 聞きなれない歌だ」

「ああ、俺達の国では良く知られる作業歌だ。単調な作業の気を紛らわせたり、全体の調子を整える時に歌ったりする。ここらでは、しないのかい」

「しないな。歌は吟遊詩人が歌えばいいと考えるからな」


 あの後、順番に各自が歌を歌いました。しかし、足が止まることはありませんでした。単調な作業もああすれば、時間が経つのも早く感じます。今までは、ただ黙々と足踏み作業をしていただけなのでしょうか。誰も、「歌う」と言うことを思いつかなかったのでしょうか。


 湖から少し離れた場所にある露店の前で、アエラキさんが手を招いています。やっぱり、招き猫のようです。列に並んだ、ゲンさんがアエラキさんに尋ねます。


「なにが、売っているんだい」

「ここでは、ザリガニの串焼きとタマゴのスープが売っているに。美味しいに」

「たた、タマゴ? なな、何のタマゴ」

「湖の渓谷に巣を作る、ガケカラスの卵だよう。取れれば、この露店で買い取ってくれるよう。乞食ザリガニの肉も買い取ってくれるよう」

「アエラキ達も、この後取りに行くに。一緒に行くかに」


 アエラキさん達の話によると、わざわざ並ばなくとも時間になれば大抵作業にあぶれることはないそうです。その時間を使って、南の渓谷に行きタマゴ取りを行い、資金稼ぎにするそうです。大体、早朝からこの作業に従事する人達は同じようなことをするようです。


「タマゴは三個で小銅貨1枚に。数が取れれば馬鹿には出来ないに」


 話をしているうちに、買う順番が回ってきました。串焼きとスープを購入します。合わせて小銅貨三枚です。


「結構、タマゴの味が濃いな。良い味だ。精が付きそうだ」


 ゲンさんは卵の味が気に入ったようです。この後、取りに行くことは確実になりました。

 昼食後、皆で南の渓谷に向かいます。私は、たどり着いた渓谷の崖を見て絶句してしまいます。


「おい、この崖の中腹に巣があるのかい? 命懸けじゃあねえか」


 岩がむき出しになった崖は切り立っており、崖底までの距離はかなりあります。底は湖から流れ出す水が流れています。流れの速さはかなり急に見えます。アエラキさん達が言うように、崖の中腹辺りで黒い色の大型の鳥が飛び交っています。

 アエラキさんが腰に股から通した命綱代わりの縄を巻きつけています。オルデンさんは縄の端を手近な木に括り付けています。それだけの準備が整うと、アエラキさんが崖を器用に降りていきます。

 周囲を見ると、ちらほらと人影が見えますが皆、同じような方法で崖を降りていきます。しかし、タマゴ取りをしているのは獣人種の人達ばかりです。猫、犬、鼠人族の人達が多いようです。アエラキさん達よりかは、大人なのか、鼠以外の人達は二人より少し背の高い人達が多いです。

 皆、器用にするすると降りていきタマゴがある場所に着くと、手を振り上の人に合図をしています。待機していた上の人は、縄をつけた革袋を降ろして下の人が見つけた卵を入れていきます。時に、親鳥から頭を突かれて卵を取ることを断念する人も見かけます。


「あー、ゴンお前じゃあ無理だから、俺が行ってみよう。スリングを二本の木に固定してくれ」


 今日は、荷物を預ける必要はないと朝、オルデンさんから言われており全てを背負ったまま作業場まで来ました。足踏み中は、待機場の目の届く場所に荷物を置けるから問題はありませんでした。

 ゲンさんは、荷物から登山用のロープと複数個のカラビナ、ハーネスを荷物から取りだします。ほとんどの物は、日本の登山用品店で購入した物です。スリングは日雇いの工事現場で懇意にしてもらった親方から頂いた物です。多少古いですが、まだまだ使えます。

 近場の二本の樹の根元にスリングを固定し、両端の輪にカラビナを設置します。ハーネスを装備し、靴を足袋にはき替え、ゴム手を付け、長さを調整したロープをカラビナと共に括り付けていきます。ゲンさんがどこでこのような技術を会得しているのかは、よく知りません。


「随分と大げさなだよう」

「命が惜しいからな。準備はきちんとしておいた方が良い」


 オルデンさんの言葉に、ゲンさんはそう返してゆっくりと崖を降りていきます。慎重に歩を進めて行きます。下を見るとアエラキさんが手を振っています。気づいたオルデンさんが革袋を下に降ろしています。しかし、途中で親鳥に気付かれアエラキさんの頭の回りには、何羽かのガケガラスが飛び回っています。


「おお、オーイ、ゲ、ゲンさん、アア、アエラキさんが、ああ、危ない!」


 私がゲンさんに向けて叫ぶと、崖を踏み込んで身体を放し、アエラキさんの傍まで一気に降下していきました。オルデンさんが一瞬、ギョッとした顔をしましたが無事を確認してホッとしています。頭にたかろうとしている鳥を声で威嚇して、追い払おうとしたゲンさんの頭に別の親鳥が集り始めました。どうやら、タマゴが近くにあるようです。


「痛! オーイ、ゴン! こっちも袋を降ろしてくれ」


 私は用意をしておいた布袋を下げていきます。ゲンさんは、どさくさに紛れて集ってきた親鳥を掴んで岩場に叩きつけていました。驚いた残りの鳥は、逃げてしまいました。降ろした布袋のなかに、ガケガラスを入れ、岩棚に産み付けられた卵を取り、そっと布袋の中にいれていきます。六個ほどあったようです。

 横に手を振って、採取が終わったと合図をするので布袋を引き上げます。隣では、同じように採取が終わったアエラキさんを、オルデンさんがロープを手繰って引き上げようとしています。私は、そちらを手伝ってあげます。


「ゴンさん、ゲンさんを引き上げなくっていいのかよう」

「ああ、あの人は勝手に登る」


 アエラキさんを無事に引き上げて、間もなくゲンさんがロープを手繰って上まで登ってきました。


「ゴン、最後までちゃんと手伝え」

「ここ、こっちの方が、たた、大変そうだった」


 服についた埃を払いながら、苦笑いをこちらに向けてゲンさんが言います。多分、分かって言っているのでしょう。


「ちょっと、失敗したに。もう一回行くに。ゲンさんはどうするに?」

「俺はもういいや。とりあえず、今晩の飯分は取れたからな」


 オルデンさんが言うには、アエラキさんのいう失敗とは、親鳥に気付かれたことを指しているとのことです。そっと静かに動けば、そばにいてもガケガラスは飛び立ったり気付いたりしないそうです。そんな状態でも普通、親鳥やひなは取ったりはしないそうです。


「取っちゃあ、まずかったかい」

「別に、大丈夫だと思うよう。ガケガラスは、数が多いよう。でも、売れないよう」


 鳥肉は量が少ないので、店でも買取はしてくれないそうです。他の人にすると、売れる価値のあるタマゴに比べれば、無理して獲る必要が無いということでしょう。食べられない訳ではないということです。今晩は、オムレツと焼き鳥でも作りましょう。

 都合、三回アエラキさんは降りていき二十個の卵を手に入れました。二人共、ホクホク顔です。引き上げるのに時間が掛かるため、いつもなら二回が限度だと言います。


「余った卵を分けるよう」

「イヤ、気にするこたあねえ。色々と教えてもらっているから、お互い様だ」


 残った卵は、家でスープの具材にすると言っています。二人共、精を付けて下さいと心の中で応援をします。口にするのは少し、気恥ずかしいのです。


 脚踏み場の順番待ちの場所に戻ると、驚いたことに私達の次の組も適当な歌を皆で歌いながら作業を進めています。

 上手い時は拍手が起こり、下手なときや調子はずれの際は笑い声が上がります。始めて見た時は、皆、ただ黙々と作業を続けているだけでしたが、今は少しだけ顔に明るさがあります。

 私達の顔を見つけた管理人が声を掛けてきました。


「単純なことだが作業の能率が上がった気がする。今までは後半になると、多少能率が悪くなったものだ」

「そうかい、それは良かった。多少は、気分にゆとりがあった方が作業の能率が上がるって俺達の国では言うからな。そのせいかも知れねえよ。あとは、無駄に止めなかったアンタのおかげもあるしな」

「お前達の国は、変わった考えを持っているようだ。色々と教わりたいが、直に交代の時間になるから無理なようだ。この辺りでは『術でできることは術士がやればいい、術でできないことはできない』という考え方が普通だ。今回の件で、少し考え方を改めた方が良いと思ったよ」


 今まではきっと歌は吟遊詩人が歌うからとか、能率が上がらないのは疲れるから仕方がないと考えていたのでしょう。しかし、『術でできないことはできない』というのは、あまり良い思考ではないと思います。ここに、この世界の発展が遅れていることの要因を見たような気がしました。


 陽が暮れる頃、二回目の足踏み作業が終わり、二枚目の木札を無事に貰い受けます。報酬の引換は冒険者組合で行うとのことです。組合まで、オルデンさん達と共に向かいます。

 冒険者組合に向かいがてら、何かを考えていたゲンさんが、立ち止まり、後ろを歩いていた、私に話しかけます。


「ゴン、食い物がもうなかったよな? 明日は仕事を休んで森に狩りに出かけよう。昼に上がって、後は市内で買い物をしよう」


 私にそういうと、次に並んで歩いていたオルデンさんとアエラキさんに顔を向けて


「ものは相談だが、明日、俺達に付き合ってくれねえか? 狩りの手伝いをして貰いてえ。後は、市内の店を案内して貰いてえんだ。一人、報酬で銅貨三枚払う。どうだい?」

「いいに! 二人と一緒なら問題ないに」

「僕も良いよう。報酬も問題ないよう。多すぎるくらいだよう」


 二人は、嬉しそうに返事をします。市内を案内して貰えると助かります。何が購入できるのか知っておきたいですからね。

 明日は、日の出の頃に南門の橋のたもとに集合し、日向の森の沢の付近で狩りをすることにしました。

 冒険者組合で報酬を受け取り、二人と別れます。とはいっても、明日もまた一緒に行動を共にするのですが。組合を後にして、露店に飲み物とパンを買いに行く途中のゲンさんに、私は事の真意を問いただします。


「ゲゲ、ゲンさん、きき、気晴らしの狩りは分かるが、ふふ、二人をどうして誘う」

「うむ。狩りの仕方を教えようかと思ってな。まあ、俺の知る向こうのやり方になっちまうがな。はっきり言って二人はひ弱だ。今のままじゃあ、狩人にはなれねえ。きっと、猫人や、オルデンのようなタイプの犬人族は力が弱いんだろうよ。でなけりゃあ、親だって狩人をしている。蜂狩りのリーダー役のサプルや、ハダスはどうみても力が強そうだ。獣人種は人族によって、特性が色々と違うんだろうよ。だが、やり方、考え方によっちゃあ二人はきちんとものになる。それを、教えてやりてえ」


 なるほどと思います。水汲み作業場の管理人が言っていた言葉通りなら、『力の弱い者は狩人には向かない』と言う考え方もあるのかもしれません。きっと、その言葉で立ち止まり工夫も改善もされていないのでしょう。

 これは、きっとゲンさんなりの親心みたいなものなのでしょう。顔に似合わず、優しく、面倒見が良い人なのです。お世話になっている、私が良く知っています。

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