第3話

異世界二日目


 朝の五時。交代で五時間ずつの睡眠がとれた。ゴンが寝ている間に俺は、各自の所持品の整理をしていた。俺達二人の場合、お互いが毎日記載している日記と貴重品以外の所持品はお互いの共有物としている。


「おお、おはよう。げげ、ゲンさん。ここ、これは」


 広告の裏紙にマジックで記載した所持品リストをゴンに渡す。


「現在の俺達の所持品をまとめたリストだ。まあ、見とけや」


 リストには多種多様な品々の名前が書いてある。我乍ら、物持ちの多さに呆れる。

他の民族では考えられねえ多さだろう。とてもホームレスとは思えねえ。


 容器代わりの大小様々なペットボトル、空き缶、空き瓶、中には調味料や食用油

を仕込んでいる奴も含まれている。摘み取った野草を保管するためのビニル袋もあ

る。ゴンの奴が、定期的に調べているから穴あきの奴は持ってはいねえ。

 工事現場の廃材から漁ったロップに番線、バインド線、ブルーシート等を畳んで

まとめた物なんかも複数ある。野営をするのに役に立つ品々だ。

 ホームレス始める前に家から持ちだした持参のサバイバル用グッズの数々は自然

の中で生きていくには便利すぎる道具だ。

 それらを収納するプラスチックの箱に、持ち運ぶための二輪のキャリーカート、

痛み止め、下痢止めの薬類が少量ずつだが適当に持ち歩いている。


 上等である。十分に生きていける。各所にある隠れ家に行けば、まだ色々とあるのだが、無いものはないから諦める。紙幣や小銭も幾らかの持ち合わせはあるが、今現在の状況ではクソの役にも立たないから持ち物としてカウントする必要はない。

 そして、今抱えるリスクを評価すると、やはり「水」だ。太陽蒸留器は気休めだ。生きていくには忍びない。

雨が降るのを待つのも一つの手だが、元気なうちに出来ることはしておくべきだと判断する。飲み水が少なくなれば、飯を食うのも我慢しなければならなくなる。やる気が下がるからできれば、そのような事態は避けたい。

 水場を見つけ、拠点を確保することが、今現在の達成すべき課題だ。水が確実に確保できるようであれば、身体も洗いたい。

 俺としては、ある程度不潔な状態も許容できるが、あまり臭いすぎると色々と問題がある。焚火の始末をし、昨夜作り上げた棍棒を手に立ち上がる。

 

「ゴン、とにかく水場の確保が優先だ。食い物は、昨日集めた山菜を見かけたら適当に集めるぞ。今日、この状態なら問題はねえ。できれば、草食動物を見つけてえな」


 縦にも横にもでかい図体を縮ませるゴンと、もともと小太りチビな俺が森の中を慎重に進む。足跡の痕跡や糞も見落とさないようにだ。不意に、ゴンが立ち止まり、そっと指をさす。


「むむ、向こうに、しし、鹿みたいな、いい、生物発見」


 ゴンが指をさした方向を見ると確かに鹿と思われる生き物がいる。角がある雄鹿だろう。体格も角も普通よりやや大きめだ。ゴンの襟首を掴み屈ませる。


「……後を追うぞ、ゴン。上手くすれば水場に案内してくれる」


 距離を取りつつ、見逃さないように鹿の後を追う。今は捕まえるのが目的ではない。できれば、最終的には食料として捕獲したい。木々の間を縫うように鹿は進み続ける。こちらの二人は、不利な体格だが慣れもある、追うのに支障はない。

 しばらくすると、鹿は目的の水場へとたどり着いた。細い沢だが、遠目から見ても澄んで見える。目的は無事達成した。

 こうなれば、鹿は用済みだ。上手く獲れれば最高だ、向こうの法則に従うのならば、歩く動物である鹿ならば毒性のない肉が食える。皮、骨、角、色々と使える。

 隠れた茂みの中、ゴンに指示を出そうとした直後、俺達がいる反対側から変な鳴き声が聞こえてきた。鹿も気付いている。ヤバイ、確実に逃げる

 ――と思った直後に対岸の茂みから、緑色の肌をした猿のような生き物が、奇声を上げつつ飛び出し鹿に襲い掛かっていた。

 緑の猿は一匹ではなく、五匹はいる。体長は目測で八十センチ~九十センチ位で、各々棒切れを持っている。動きは素早いため、鹿の周りを飛び跳ねて牽制しながら襲い掛かろうとしている。しかし、非力なのか鹿の角で好いようにあしらわれている。

 

「どど、どうする、げげ、ゲンさん」

「どうするも、こうするもねえ。横取りだ。邪魔な猿共々、殺るぞゴン。俺が向こう側に回りこんで、お前の方に向かわせる、それまで身を潜めろ。近付いたら、姿をだして大声で吠えて、ビビらせろ。いいな、しくじるな」


 荷物の詰まったキャリーカートを背中から降ろし、小声でまくしたてる様に指示を出してから、風下に回り込む。ちょうどいい具合に、猿共が鹿に襲い掛かり、あしらわれたタイミングを見計らい棍棒を振りかざしながら、大声を出して襲い掛かる。


「アァァァァァ!!」


 鹿は良い方向に逃げだす。猿共は不意を突かれ身をすくませた

 ――邪魔だ。駆け出し、一番手前に居る猿の肩に向けて構えた棍棒を振り下ろす。いい手応えが感じられる。確実に骨がいった感触だ。残りの猿が奇声を上げて威嚇し始めた時、鹿が逃げた方向から棍棒を両手で振り上げたゴンが姿を現す。


「バァァァァァ!!」


 突然現れた2m近い巨体を見て立ち止まった鹿の頭上に、振り下ろされた棍棒が直撃する。鹿が、ドサっと倒れる。頭を潰す勢いだったが、潰れてはいない。血抜きをしないと不味くなるからな。ゴンもいい加減その辺は心得ているようだ。

 残った緑猿共の一匹が、奇声を上げながら棒切れを振りあげてこちらに襲い掛かってきた。棍棒の両端を持ち、突き出すようにして緑猿の攻撃を防ぐ。打ち出した攻撃が弾かれた反動で、姿勢を崩した猿の頭に振り下ろす。もろに打撃を喰らった猿は、首が変な方向に曲がり崩れ落ちる。


「遠慮するな!!ゴン!」


 こちらの攻防に気を向けていた他の猿に近づいていたゴンが片手で振り上げた棍棒

を水平に振り回し、当たった緑猿が吹っ飛ぶ。


「もっと先端で攻撃しろ! 手首を使え! 力だけに頼るな! 殺らなきゃ、殺られるぞ!」


 もともと性格が柔なゴンは、喧嘩になっても実力を発揮しきれない。しかし、馬鹿力だから手を抜いた攻撃でも当たればでかい。

 だが、こうゆう場合は危険も伴う。残り2匹の猿が、ギャアギャアいいながら逃げ出した。こちらも、威嚇ついでに棍棒を地面に叩きつけながら、適当にあしらってやる。

 ゴンが吹っ飛ばした緑猿に近付く。派手に飛んだが、案の定息の根は止まっていない。立ち上がろうとモゾモゾとする緑猿の頭めがけて棍棒を振り下ろし、止めを刺す。


「ゴン、やるときはきちんとやれ。いいな。」

「……あ、ああ。わわ、悪かった、げげ、ゲンさん」

「謝ってもしょうがねえ。次からはと言いてえが、こんな状況じゃあ、次はどうなるか分からねえ。まあ、ごたごたと説教していてもしょうがねえ。鹿持ってこい。血抜きだ」


 ゴンは頷き、仕留めた鹿の方に駆け出す。

 俺は、緑色の肌をした猿に目を向ける。

 この猿は何だ。屈みこんでよく見ると、頭部に角が生えている。こんな生物は、日本や地球には少なくともいないはずだ。

 しかも、棒切れ――武器を持っていた。だとすると、多少なりとも知能があるってことか。死んだ緑猿を眺め考えている間に、ゴンが鹿を担いでくる。水場のそばで鹿を降ろすゴンに向けて俺は再び指示を出す。


「ゴン、猿もこっちに集めとけや」


 鹿を降ろしたゴンは、こちらにギョとした顔を向ける。


「え、あ、まま、まさか、ちち、血抜き、すす、するのかい」


 俺はビビるゴンに向けてニヤっと笑い「その、まさかよ。物は試しだ」と、俺は言い放った。


「うぐ、こいつは臭えな。ひでえ、臭いだ」


 鹿の解体はゴンに任せ、猿の解体は俺がする。小さく軽いので、脚を持ちぶら下げた状態で、猿の死体の喉元に短刀を入れると血がドクドクと出てくる。

 その血が臭い。元居た場所でも、色々な動物を獲って解体をしたがここまで臭い血を出した奴はいない。


(こ、これはさすがに無理かもしれん)


 そうは思うも、火を通せばもしかするといけるかも知れない。


「げげ、ゲンさん。いい、幾らなんでも、そそ、そいつは無理だ。よよ、よそう」


 同じように血抜きをする為に、喉元を切り頭部を低くして、沢の方に血を流すように動かしているゴンが、しかめた顔をこちらに向ける。


「うるせえ、試しは試しだ。それよりも、血抜きが終わったら内臓を出せよ。膀胱、胆嚢を傷つけるなよ、肉が台無しになる。モツは心臓と肝以外は森に返すぞ。法律とか気にするな。どうせ、日本じゃねえし。いつも気にしてねえがな」


 日本じゃないという言葉に、ゴンが反応を示す。


「やや、やっぱり、にに、日本じゃ、なな、ないか。げげ、ゲンさん」

「ああ、間違いねえ。この猿が証拠だ。もしかしたら、俺達が知らないだけで生息していたのかも知れねえが、そんなこたあ、ねえと思う。多分、地球でもねえどこかだろうよ。まあ、生きていくには関係があるめえよ」

「かか、帰れるかな」

「さあな。それこそ、わからねえ。ただ、今は生き延びることを考えるだけだ。さあ、グズグズしねえで、作業を続けるぞ」


 鹿は内臓を抜き、沢の水で冷やしておく。後で、頭部を切断し(角は取り外す)、皮をはぎ、半身にしてから袋に取り分ける。

 獣肉でもなんでも、直ぐに食わず寝かせた方が旨くなる。傷みやすい心臓と肝は、この場で炒めて昼飯に使う。肉が食えるのは嬉しい。鹿を見つける前に摘んでおいた、フキの葉はおひたしだ。

 さて、問題は緑猿だ。3体とも血抜きをし、内臓を取り出し、ほとんど毛のない皮を剥ぎ、頭部を首から切断して、骨つきのまま脚、腕、胴体に分ける。内臓は穴を掘って全部埋めた。

 しかし、臭い。肉自体もかなり臭い。鹿モツとフキの調理はゴンに任せ、脚を一本直火で炙る。脂が少ないのか煙がほとんどない。だが、焼く匂いがひどく臭い。

 ゴンが調理するナイフに、この臭いが移るのが嫌で調理を別にしたが正解だったようだ。焼きあがた部分を短刀で少し切り取り口に含んでみる。

 痺れや、痛みは感じられないが、――くそ不味い。食えたものではない。思わず吐き出す。毒を含んではいないと思うが、まさか、不味さが毒並とは思わなかった。


「だだ、大丈夫か、げげ、ゲンさん。どど、毒性か」

「いや、違う。不味いだけだ。とても食えねえ。こいつは捨てる」


 ゴンがきょとんとした顔をした。


「げげ、ゲンさんが、くく、食えないって、かか、かなりの不味さだ。はは、初めてじゃないか」


 俺は極端な腐敗物や毒でも無い限りは、生きるためなら何でも食う自信があった。しかし、こいつは無理だ。まさか、地球外で食えない肉を見つけられるとは思わなかった。

 猿は素早いがかなり非力に思えた。棒切れを使う程度の知能はあるみたいだが、自然の中で生き抜くには難しいように思う。この不味さは、他の生物から食われないために進化したのではないかと思われるぐらいに不味い。

 緑猿の角と牙は使い道があるかもしれないので取り外しておく。それ以外は全部、鹿の頭部や内臓と共に離れた場所に捨てた。

 匂いが他の生物を呼び寄せる可能性もあるが、あの臭さのなかで飯を食うと思うと、飯の楽しみが半減しそうだからだ。

 緑猿の残骸を、穴に埋めて戻って来る頃には昼飯が完成していた。鹿モツの炒め物とフキの葉のおひたしだ。パンか白い飯が欲しくなるが贅沢は言えない。


「しょしょ、醤油も、しし、塩も、かか、限りがあるから、うう、薄めだよ」

「分かっている。贅沢は言わねえよ。そんなことよりも、食おうや」


 いただきます。まさに、鹿の命を頂く。緑猿の命は頂けなかったが仕方あるまい。獲りたて新鮮なモツ炒めは良い味がした。付け合わせのフキの葉のお浸しもいい感じだ。飯を食いながら、この後のことについてゴンに伝える。


「ゴンよ、逃げた緑猿の方向は憶えているな。逃げた跡探して追うぞ」

「くく、食えないよ。げげ、ゲンさん」

「バカ、食うためじゃあねえよ。上手くいけば奴ら、良い拠点を持ってるかもしれん。多少なりとも知能がありそうだからな」


 緑猿は全員雄だった。汚く貧相なブツをぶら下げていたから直ぐに分かる。しかし、俺達と同じに毛が少ない陸上生物だ。

 普通の猿なら森の中で生息しているだけだが、もしかすると、雨露しのぐ場所で群れを形成しているかもしれない。群れの規模次第では、無理もできないが、あの非力さなら何とかなるであろうと思う。


「緑猿には悪いが、盗るならとことんだ。住処も頂こうじゃねえか。弱肉強食。肉にはならねえんだ。他の事で役に立ってもらおうや」


 次の行動目標は、「拠点の設営」又は「奪取」だ。


 昼飯を取り、沢の水で頭や顔を洗い、手持ちのタオルを濡らして体を拭く。沢の水は冷たいが心地よい。腹休めをした後に、空いたペットボトルに水を汲み、身支度を整え、緑猿の追跡を始めるため出発する。

 一度で食い切れなかった心臓や肝はタッパにいれた。冷やした肉は袋詰めして、二人で分けて持つ。それでもかなりの重量だ。

 曇天の森の中は日中でも薄暗い。真夜中ほど目が効かない訳ではないが、それでもやはり茂みや樹の陰は見えづらい。そんな中、緑猿が逃げた方向に歩く。時に這いつくばり逃げた痕跡を見つけながら。緑猿は猿らしく、体型に見比べると長めの手足をしていた。

 又、指も長い。非力な分だけ、肉付は貧相だったが。角や牙が生えているほかに、

爪も長かった(但し、小さいので使い物にはなりそうもないので捨てた)奴ら、かな

り慌てて逃げていたから、爪の痕がしっかりわかる。

 探し始めてから、2時間程経過した頃遠くであの奇妙な鳴き声が聞こえた。「ギャ」とか「グギャ」とか叫んでいる。俺達二人は、慎重に声が聞こえる方向に向かう。ほどなくして、今朝遭遇し、ぶちのめした緑猿共と同じ連中を見つけた。

 数にして十二匹。開けた場所に集まっている。食事中のようだ。小動物の死骸や草に皆で噛り付いている。

 一匹他の奴より少しガタイがいいのがいる。ウサギと思われる肉を独り占めしている。群れのボスだろう。乳がたれたメスらしき緑猿3匹がボスの周りに集まっている。小さいのはガキだろうな。

 二匹ほど飯にありついていない。多分、俺達に遭遇して狩りに失敗した奴らだ。もしかすると三つ位の家族が集まった群れなのかもしれない。

 ボス猿の後ろには、いい感じの洞穴がある。もしかすと、まだ穴の中に何匹か潜んでいるかもしれないが、ここから見た洞穴の感じからするとたかが知れているだろう。


「どど、どうするんだい。げげ、ゲンさん」

「こいつら、火を使った形跡がねえ。そこまで知能がねえ証拠だ。数はいるが、非力だ。さっきやった感じでそいつは判っている。……適当に石ぶつけて数減らしたら、突っ込むぞ。ボスみたいにでかい奴だけ注意しろ。さっきみたいな、やり方すんなよ」

「ああ、ああ、しし、しない。やる」


 ゴンが、真剣な顔をこちらに向ける。でも、こいつは実力が出しきれないだろう。幾分しょうがないとも思う。そこが、こいつの良さでもある。

 まあ、俺はこいつが半分の力でこられても、勝てる気がしない。その位にゴンは強い。緑猿共に気づかれないようにゲンコツサイズの大きさの石を集める。

 鹿肉で重くなったキャリーを降ろし、お互いの息を合わせ、石を投げ込む。狙いは緑猿が固まっているところ。投げれば当たる。投げた石は、ガキ猿とメス猿にあたる。ゴンの投げた石はガキの頭に当たった。多分死んだ。

 異変に気づいた緑猿が威嚇を始めるが、こちらは構わずに二投目の石を放つ。騒いでいた緑猿にぶつかる。ゴンは外した。

 三投目を放り込むと、ボス緑猿と他の雄猿四匹、飯にありつけなかった奴らも含めて、こちらに向かってくる。

 手元においておいた棍棒を手に取りこちらも迎撃態勢を整える。投石で七匹まで動ける奴を減らした。雌一匹がガキ一匹を守っている。勢いよく向かってくるボス猿の左肩に向かって、棍棒を突き出す。打ち下ろされると思っていた棍棒が突き出されたので、意表をつかれたのか態勢を崩しながらも、右に飛び跳ね躱される

 ――想定の内だ。躱した方向から、ゴンが勢いよく、棍棒を振りぬく。姿勢を崩したボス猿は、ゴンの棍棒を交わすことが出来ず、頭に直撃を喰らう。首が胴に沈んだ。死んだな。残りの緑猿が怖気づく。


「バアアアァ!!」


 俺は威嚇の大声を放ちながら駆け出し、残った緑猿に向けて再度棍棒を突き出す。後ろに飛ぶも、躱しきれずに胸に棍棒の先端が当り、猿がよろめく。

 突いた棍棒を肘と腰を回して水平に振り、手首を使って先端が頭にくい込むように殴打する。猿共は俺より背が低い。普通なら胴体やろっ骨を狙うが、頭の方が狙いやすい。いい具合に頭が跳ね上がり、緑猿はそのまま崩れ落ちる。

 残った内の二匹がこちらに飛びかかろうとする。いい跳躍だ。俺の頭を狙ってやがる。だが、俺の頭上から水平に振り回したゴンの棍棒が猿二匹にまとめて直撃する。ピンポン玉みたいに、跳ねながら二匹とも吹き飛び、ぴくりとも動かない。

 残った雄、雌、ガキの一匹は戦意をなくし逃げていく。洞穴から残りが出てくる気配はない。ゴンが吹き飛ばした二匹には念のため頭を潰しておく。もし後で、起きたら面倒だからな。

 洞穴は適度な広さだ。俺達二人でも、縮こまれば入りこめそうだ。時間を作って、外側に柱を立てて、手持ちのシートを使って屋根でも掛けよう。そうすれば、立派なシェルターになる。


「げげ、ゲンさん。しし、死んだ緑猿は、どど、どうする」

「食えねえから、角と牙だけ頂戴して離れた場所に捨てちまおう。そうしたら、火と夕飯の準備を始めようや。今日は、色々と収穫がでかいし、疲れた。早めに休もう」


 ゴンにそう声をかけ指示をだす。水場と拠点の確保、肉の確保ができた。ひとまず、落ち着くことが出来るが、油断はできない。明日からも生きるために必要なことを、考えていかなければならない。助けは来ない。ここは、地球ではない。帰れない可能性は高い。ここで、生きていくことを念頭に置く必要がある。

 

 ――もう少し、ましな情報が欲しい。そうでなけりゃあ、まともな判断ができん。ここを拠点にして明日からも探索だな。

 

 心の中で方針を決め、ゴンと共に、剥ぎ取りの済んだ緑猿の遺骸を埋めに行く。やはり、自然の中でのサバイバルはハードだ。

 だけども、面白い。生きている感じがする。「帰れるか」ゴンはそう言ったが、俺はどっちでもいいとも思っている。多少の心残りはあるが、まあ、どうとでもいいような感じもする。


「いい、いこう。げげ、ゲンさん。ひひ、日が暮れる前に」

「ああ」


 立ち止まって考えていた俺にゴンが声をかけてくる。今日は曇りで暗くなるのも自然と早くなる。そうなれば、危険な森がより一層危険になる。ゴンの言うとおりだ。面倒なことは早く済ませて、美味い飯にありつこう。

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