第10話 ホラー小説『仄暗い水の底から』(鈴木光司氏著、角川ホラー文庫)レビュー

 東京湾と水をテーマとしたホラー短編集。



 前回紹介した『アイズ』と同じ著者の本ですが、そのあとがきを読んで衝動買いしました。


 読んでみると、『アイズ』よりも怖いこと怖いこと。

 全体的にじっとりとした不気味さがあり、ホラー短編集としてはまずますの出来です。

 しかし、ホラーと言っても主人公が幽霊を見たりする描写はありません。直接的な恐怖心をあおる描写というよりも、じわじわとどこからとなく浸食してくるというか。

 この辺りが「秘すれば花」と言った感じで、表現が上手だと思いました。


 もっとも、ホラーでない短編もあります。けれども、それが悪い訳ではなく、むしろ表現の幅を広げているように感じられます。

 インターネット上のレビューでも、ひと塊の「ホラー小説」として評価されているようです。


 面白かったのは「漂流船」。無人の船を海上で見つけた主人公がその船に乗り込み不思議な体験をするお話です。

  航海日誌に書かれた明るい文章が逆に薄気味悪さを表現しています。あたかもゆっくりと水が染み込んで来るが如く、読者の心を蝕んでくる恐怖描写が見事です。

 そして、最後は――少し後味の悪い結末ですが、ネタバレになるので伏せておきます。


 ところで、この作品は映画化もされているようです。

 とはいえ、映画化しているのは短編の中で「浮遊する水」のみ。他の短編は映像化されていないようです。

 短編では長さ的に足りないでしょうし、かなりの部分が後付けされていると思いますが。


 余談ですが、題名でインターネット検索すると映画の方が上に表示されます。

 やはり映像は文章よりも強いようです。「百聞は一見に如かず」とはよく言ったものです。

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