第4話 短編小説『創作者の夢』1

 以前書いた作品がPCに残っていたので公開します。

 誤字・脱字等あるかもしれませんが、練習用に書いた作品なのでご了承ください。


1


 最初に感じたのは、背中の痛みとコンクリートのひんやりとした感触だった。

「おい! 誰だよ、お前!?」

 次には、親に甘えて育ったといわんばかりの礼儀知らずのガキ。

 埃っぽい空気が肺の中に流れ込んでくる。

「ここは……どこだ?」

 私は問いを無視して、そう呟いた。

 周囲を観察するに、どこかの倉庫の中らしい。高く積まれたダンボール箱。その更に上方にある窓。そこから差し込む日の光はまだ高い位置にある。手首の時計によると十三時十分。夜になったら冷えそうだ。

 どうやら、意識を失っている間に、何者かにこの倉庫に連れ込まれたようだ。

「オイィ! 何だよ! 知ってること全部吐けよォオオ!」

 もっとも、それはこの頭の悪そうなガキの仕業ではなさそうだ。

 奥には、もう二人。冷めた顔でスマホをいじっている女子高生風。背中を丸めて座り込んでいる小太りの男。

「黙れよ。少し落ち着け」

 私が呆れた様子でそう言い放つと、罵声少年は狼狽したように後ずさりする。

「何だとォ! コラァ!」

 「罵声」は、自分が気圧されたことが余程気に食わないらしく、胸倉をつかんで揺さぶろうとする。

 幼稚な仕草だ。気に入らないことがあると玩具に当たり散らす子どものようだ。

「あ~あ、やっぱり繋がんない……」

 それは、「女子高生」の間の抜けた声で中断される。

「やめときなよ。ど~せ、ソイツもアタシらと一緒で拉致られてきただけでしょ?」

 話している時も一切こちらを向かず、スマホに目を向けている。電波の届かない状況で閉じ込められているというのなら、スマホをいじることにどれだけの意味があるのか?

「良ければ、説明しようか?」

 立ち上がったところに、背後から声が掛かる。積み上げられたダンボールの陰から眼鏡の男が一人。

「理由は分からないけど、倉庫に拉致されている、で良いのかな?」

「概ね正解だ。扉は開かない。はめ殺しの窓を割ろうにも高すぎて上れそうに無い。外部との連絡もできない状況だ」

 眼鏡の男は慣れた口調で説明する。既に何度か説明しているのだろう。ご苦労なことだ。

「おっさん! 何か見つけてきたか?」

 罵声が見下すような口調で言う。何も見つけてきていないならば、邪魔だから消えろと言わんばかりだ。

「ボ……ボクは悪くない。悪くないんだ」

 「小太り」の独り言が割ってはいる。うつむいているので表情は分からないが、顔色は悪そうだ。

「アァ! ウルセエ! お前は黙ってろ!」

 罵声が声を張りあげる。

「あるにはあったが……良い物じゃないな」

 「眼鏡」は苦々しげに顔を歪めた。

「具体的には?」

 私は続けるよう促す。

「メッセージ……と、言えば良いかな? とにかく、こっちに来てくれ」

 その言葉に皆、簡単に従った。

 威張り散らしていようが怯えていようがスマホに依存していようが、方向性が何も定まっていないのは同じのようだ。


十五時にお前たちは死ぬ

それまで懺悔の時を過ごせ


 コンクリートの床には、血を思わせる紅色で文字が書かれていた。一文字が縦横四十センチ前後。点描のような細かな点。ペンキスプレーか何かだろうか。触ってみても手につかない。完全に乾いている。

 私は腕時計に目をやった。十三時三十二分。

「あと一時間半ってトコ?」

 女子高生が間延びした口調で言う。

「そんな……ボ、ボク死ぬの!?」

「ハアァ? こんなの、デタラメに決まってんだろ? 馬鹿かテメーは!?」

 デタラメなのはお前の脳みそだ。

 否定するにしても肯定するにしても、現状では根拠が何もない。

「君は、どう思う?」

 眼鏡が私に訊いた。賢明な判断だ。

「さあ……情報が少なすぎる。今何を言っても推論にしかならない」

「テメーらも馬鹿か!?」

 罵声がまだ何か言っている。馬鹿馬鹿と連呼しながらも、自分がそうだという考えには至らないらしい。

「――そんなもん、嘘に決まってんだろ? いい歳でビビッちまって、情けねえな!」

「言えてる言えてる~!」

 女子高生が同調する。

 私はそれを無視して文字を見つめた。

 「懺悔の時」……つまり、動機は怨恨。だが、何に対して? ……殺される程の心当たりがまったくないが。

 考えられる可能性は……


①忘れている

②逆恨み

③間接的な理由で知りようがない

④手違いで巻き込まれた


 ①や②ならばまだ考え方次第でたどれる可能性もあるが、③や④なら私がどれだけ考えても分からないかもしれない。

 何より、情報が足りない。推論より、自分の目で可能な限りの情報を集めることが先だ。

 私は残りの人間に背を向けて歩き出した。

「ど……どこへ? 一人だけ、逃げるの?」

 小太りが神経質な声を上げた。

「ちょっと調べに。扉が開かないか確かめてみる」

「オイィ! 何勝手なことを――」

 それ以降は聞いていなかった。


 ……ふう。

 幸い、追いかけてくる気は無いようだ。

 彼らの姿がダンボールの陰に消えて、私は一息ついた。こうして離れたのには、一人でゆっくり考えたかったのもある。ここで妙な親切心を出して一緒に行こうという者がいなくて良かった。

 踏み出した足が硬い音を立て、埃が舞う。

 さて、どうかな?

 目の前に現れた金属製の扉を、値踏みするように見る。

 左右に開こうとするが開かない。かすかに動く手ごたえもない。きっちりと固定されているのは確かなようだ。

 長い間放置されているのか、赤茶色のペンキがはげて所々に錆が浮き出ている。拳で軽く叩いてみたが、それなりの厚さがあり、脆くなっていることもなさそうだった。工具でもない限り、破壊は難しいだろう。

 周囲のダンボール箱をいくつか開いてみたが、使えそうな物は無かった。プラスチック製の細かい部品のようなものが詰め込まれているだけだ。

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