第5話 7月18日。ああ、よかった。
金曜日から海の日を足して三連休だったが、有意義な時間……とは言い難い過ごし方だった。
金曜日に書いた通り疲労感やイライラがあったのだが、予想以上に辛く、この三連休はほとんど寝て過ごしたからだ。
精神的なものも大きいだろうが、気圧の変化も影響があるかも知れない。自律神経が弱い人は大抵悩まされる、気象病というやつだ。
この三連休がそうだったのだが、本当に酷い時はまず眠気が激しい。とても朝起きていられないし、昼間も食事だけ済ませたら寝ていないともたない。
加えて鬱思考の悪循環。
横になって気持ちが楽になる程度ならいいが、ずっと横になっていると却って苦しいものだ。思考も負のスパイラルに囚われる。なのに、一度こうなると何か行動しようという意欲すら根刮ぎ無くした感覚に陥る。
身体にも良くないし、何より自分が惨めに思えてくる。
――だが、目的意識と習慣がしっかりあれば案外動ける時は動けるものだと思った。休みが明けてすぐに事業所へ出席出来た。
(事業所が具体的にどういうところか、説明が必要だろうが、それも日常生活の中で追々書ければ良いかな……)
寝込んだのは怠惰だけではなかった。有意義な過ごし方ではない、と書いたが……それでも心身の休息、回復行為でもあった。
絵描き講座のサイトも、金曜日の時点……不調やストレスで頭が沸騰していたような状態で覗き込んでいた限りでは、思わず距離を置きたいとすら思ってしまった。が、それでも恐れずサイトのページを開き……別の記事が目に留まった。
『心理学的にお薦めする、勉強の習慣化』とかそういう記事だったのだが、これが初めてそのサイトの絵描き講座の記事を読んだ以上に納得し、胸にストンと落ちた。
何かを習慣づけるというのは、ひとつの『能力』なのだ。
決して魔法や特効薬のように即効の力があるわけでもなく、また万人共通の最適解があるわけでもない。
だが、それでも習慣化するというのは学問を始め、僕たちの人生に於いて重要なことなのだと思った。
勉強だけでなく、それこそ絵を上手く描けるようになりたいとか、コンスタントに身体を鍛えたいとか……もっと言えば、アルコールやギャンブルへの依存という『習慣』を『改める習慣』へも応用が利く。習慣とは自分の心と身体、そして人生をコントロールする一端を担う。
そして前書きほか、記事中に何度も記述してあった。
『どんなことでも、身に付けようとすれば時間がかかる』。
『記事の内容を丸々暗記して一から十まで必ずしも実行しなくともよい』。
『初めは上手くいかない』。
『記事の内容に愚直に従うのではなく、自分なりに改良を施してもよい。むしろ無理に従おうとすると逆効果の場合もある』。
ああ、良かった。ありがたや。
要するに、僕は気負いすぎていたのだ。
「すぐに身に付けて成果に繋げなければ」とか「これを覚えなければ大損する」とか、大上段に構え過ぎていた。
何かにつけて大上段に、大仰に構えて勝手に消耗するのは僕の悪い癖だ。
何か目新しいものに臨む時こそ、僕には肩の力を抜く余裕が必要だ。
一気に絵描きでも何でも受験の一夜漬けのように詰め込むのではなく、取り掛かり易いところからスモールステップだ。
何より、創作活動を楽しむ為に絵描きを学ぼうとしているのに、ウンウン唸りながら、眉間に皺を寄せて汗をかきながら無理や痩せ我慢を自分に強いてどうする?
何かを習慣づけるのも、『能力』を身に付けるのも、その過程に少しずつ休憩や気分転換を挟んでもよい。いや、根を詰める人ほどそうするべきではなかろうか。
というわけで、今日は事業所で三時間の自主活動時間があったが、一時間半は『習慣化』の記事を読んで勉強し、頭が煮詰まった所で残り一時間半は自分の描きたい絵を描いた。
描きかけの絵は沢山あるのだが、僕の中で気掛かりだったのは自作ゲームに使用したい登場キャラクターのデザイン、及び素材イラストだったので一心に作業した。
まだまだ完成まで時間が掛かりそうだが、ベーシックな着色と衣装デザインに着手出来た。
自宅へ帰る刻限の頃には僕の沸騰しかかった頭は冷え、頭に重くもたげていた鉛のような感覚も落ちた。
下手をすれば自分に絶望するほどの落ち込みから、欲求が充たされスカッとした心持ちになれた。
ああ、本当にありがたい。
これはひとつの幸福だ。
絶望から希望へと心の色彩、グラデーションが変化する瞬間だ。
明日も頑張ろう。帰宅して夕食を摂ったらサボりかけた筋トレとストレッチもやろう。
ただ……願わくば、すぐに希望だの絶望だの上がったり下がったりするのではなく、己の理性でニュートラルな精神を維持できるようにしたいものだ。己の意志でね。
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