あたらしい『生』
人間と牛との会話は、お互いの脳へ直接届く映像と文字と音の情報の塊を感じる事によって成立する。
規格統一された「家畜個体識別意識」システムは端末からいつでも何処からでも人間と牛の間で会話ができる。
生年月日、性別、転出履歴、転入履歴、畜年月日。転生前の全情報もすべて計画的に管理されている。
今の世代の肉体の健康状態から、牧場内施設の飼育環境の不満、今日の天気の話題から他の牛との、なんてことのないちょっとした関係の話まですべて保存され分析されている…
このシステムは、何かしらの問題が発生した時に直接、牛に聞くことができる為、牧場側では原因究明と改善措置が迅速に出来る。
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時が経ち、牧場には今日も元気いっぱい走りまわる立派に成長した《桃桜》の姿があった。
共に育った兄弟牛たちと牧場で今の肉体での最後の一日を過ごしていた。
《桃桜》は、爽やかな風が吹くお気に入りの丘に立ち、座る。
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私は歌い始めた。
大自然から与えられた草を食べながら今回も健康に育った今の私の肉体の事を、この世のすべての世界に向けて感謝の想いを詞(うた)にして。
そして牧場の
同じ遺伝子の兄弟で特に仲の良い《紅草》と《楽樹》の事を伝えた。
『楽しく遊んだよ…匂い草探し競争をしたよ…青い空の事、陽が沈む時の赤い赤い空の不思議、風の匂いの事、すぐに形を変えてしまう真っ白な雲の事、冷たい雨、暖かい雨の事、たくさんたくさん話したよ』
今、ココでの私達牛の、いちばん心配な事も話した。
『となり街で、流行ってる…皮膚の色が変わっちゃう病の事…教えてよ…せっかく大きくなった今の体は、ちゃんと良い肉になれるの?…人間のためになるおいしい良い肉になれる??!』
ねえ教えてよ《所》。
そしてまた…今期の最後のときが来た。
完全自動化された屠殺場で200体の列の一体になり、処置の時を待つ。
私は、洗浄水を浴びながらぼんやりと《所》の事を考えて歩いていた。仲の良い
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