輪廻転生

その昔、私たち牛には、とっても怖い病(牛海綿状脳症BSE問題、その後も発生し続ける、数々の家畜の病が発生し、食の安全をめぐって多くの混乱がおきた)が、いくつもおきて、たくさんの兄弟たちが命を落とした。


そして少し前、私たちを守ってくれる法律(7年前に『食用家畜の安全供給と個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法』が成立)ができた。


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



この(俗称 輪廻転生)法とは国内の食肉目的でクローン飼養されているすべての牛、豚、鶏に個体識別用の人工意識をとりこませる事に有る。

代理腹母牛から産まれた直後に各個頭部に意識チップが埋め込まれる。


チップ内に発生した意識は個体独自に思考し、他体と同じ心は発生しない。


鈴木牧場では数パターンの優良遺伝子クローン牛が200体単位で育てられている。


首を落とす工程の前、心が居る意識チップが頭部から摘出される。

すぐさま、転生を行う為、誕生ブロックへと移動。


肉体は死を迎え、肉という製品へと変わった後も、チップの中の心は次の産まれたての子牛に寄生し、肉体すべてに同化し新たな体を支配し意識は引き継がれるのだ。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


私は、最近、この生まれ変わりの時、同じ夢を見る。


生まれ変わりを何度も繰り返すうちに見るようになった夢だ。



とても、とてもふしぎな夢だ。


肉体が死に次の体へと生まれ変わり、目覚めた時、なんと、私は牛では、なく人間になっているという夢だ。


二本足で立ち、色とりどりの布(服)を着て、と う き ょ う という名の石の街(都市)を歩いている私がいる。


いろんな奇妙な味のする食べ物を食したり、毛のない皮だけの体で、想像も出来ない格好で同じ二本足の異性と生殖行為をする夢…


だが、目覚めたとき、私は見なれた4本の足と蹄、そして耳、しっぽを持った食肉牛のまま…

そして、いつものように、この刻(20ヶ月)を優秀なおいしい肉となるため、また生き始める。


産まれたばかりの幼い私の体が特別おいしい(高栄養乳)を飲んでいた時、私の心に直接、牧場の管理COM端末経由で発せられたであろうメッセージが届いた。


それは人間からの声。


『誕生おめでとう…《桃桜》…君は最高の遺伝子の体を持つ美しい生き物…君は私の自慢の牛…』

牧場の主任検査官所 正彰だった。


私はこの人間を気に入っていた。


私は、いつものように心をすべて解放し自由におしゃべりを楽しむ。


『また逢えて…うれしい…大好きな…《所》…』と返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る