第4話 ティルア
少女はは俺の方へ歩み寄り、
「メルケルツ王国に魔族が侵攻するって…本当?」
スカートの裾をにぎりしめながらもう一度、恐々と聞いてきた。俺は短く答える。
「あぁ、本当だ。」
少女は一瞬涙をこらえるような顔をし、それから、
「そう…。」
と呟いた。それから、そっと俺に手を差し出す。恐る恐るその手を掴むと引っ張りあげてくれた。少女は武器をとりおとした村人を指差して、
「この人たち、あなたのこと怖がってる。」
と言った。
「この国の言葉がわかるのか?」
俺が聞くと、こくりと頷く。それから、俺のわからない言葉でいまだに立ち上がれないでいる一番最初に俺の胸ぐらを掴んだ村人に手をさしのべながら何か話しかけた。いくつかの問答の後、少女の手を借りて立ち上がったその村人がずいっと俺の前に立った。とっさに身構えると、
「この人、この村の村長さん。大丈夫、あなたが村を襲いに来たんじゃないってことは納得してもらえた。」
なるほど、俺の話を通訳してくれたらしい。と、おっさんが何か言う。
「悪かったって。後、急ぎの用があるなら早く行けって。」
少女が通訳する。
「怒ってないってことと、ありがとうって伝えてくれるか。」
こくりと少女は頷き村長に通訳する。村長はそれをきき軽く笑うと俺の肩を2、3回バシバシ叩いて村人に何かいいそのまま歩き去っていった。遠巻きに眺めていた村人も、それを見て村長に続いてぞろぞろ出ていく。しばらくすると、その場には俺と少女しかいなくなった。
「それで、ここはどこだ。」
村長に叩かれた肩をさすりながら、ふり返り少女に聞く。
「アロース村…エルバリスの。」
「エルバリスか…。ちなみに今日は何日だ?」
「6月の10日。」
魔王のもとを飛び出してから1日が過ぎていた。しかもよりによって流れ着いた場所は目指すメルケルツ王国とは逆方向の辺境の地。ここからだと例え魔法が使えても10日はかかる。どうやっても間に合わない。だが、ほっておくわけにもいかない。
「間に合わなくても、行くしかないか…」
まだ和解できる段階で止めにはいれば最悪な事態は回避できるだろう。俺は一歩踏み出す、と、その時少女が俺服の裾を掴んだ。
「あの…」
「ん?」
少女は俺の正面に回り込み、じっとこちらを見上げ何か決意したように、
「私、ティルアと言います。あの…もしこれからメルケルツへ向かうのなら、私も一緒に行ってもいいですか?」
と言ってきた。
「わ、私メルケルツの出身で…」
なるほど、故郷が心配だったから俺から話を聞くために割って入ったのか。そして、ついでに着いてこようと。
「ふむ、他に連れは。」
このご時世、女性の1人旅は珍しいものではなくなっては来ているが、さすがに見たところ12、3才の少女が1人というのはないだろう。そう思い聞いたのだが、
「いえ、私だけです。」
きっぱりとティルアと名乗った少女は言いきった。少し考える。見たところ、何かたくらんでいる気配はない。魔王の妨害工作の線はなさそうだ。となると、ついてきてもらった方がこちらとしても通訳してもらえるし助かるか。だが。
「俺は構わんが…お前はそれでいいのか?」
そう俺が問いかけるとキョトンとした顔で見返された。
「いや、いちよ俺魔族だからトラブルに巻き込まれかねないぞ。」
ティルアと名乗った少女はそれでもこちらを目をぱちぱちしながら見る。俺は少しうつむきながら、
「魔族を宗教的に認めないところもあるから一緒にいたらどういう扱いを受けるかわからんし…そもそもお前は俺のこと怖くないのか?」
と言葉を続けた。
「大丈夫です。」
全く怖がっていないその声に俺は思わず少女の方を見やる。少女はふわりと笑い、
「だってあなた全然怖そうに見えないから。」
俺は軽くため息をついた。それから、
「アルヴィス…俺の名前はアルヴィスだ、よろしくな、ティルア。」
そういい俺はそっと手を差し出した。それを見、ほっとしたように笑みを浮かべたティルアはその手を取り
「こちらこそよろしくお願いします。」
と言った。
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