第27話 全てを護る者

目を覚ますと鬼...

いや、ヒジリの膝の上に居た。


「ハツキ...」

目にはたくさんの涙を溜めてボクの顔を見ている。

あぁ、リーネの回復魔法のお陰で助かったんだ。

ちゃんと理解していてくれたんだ。



と安心したのも束の間。

ヒジリは目を覚ましたのを確認すると胸元を持ち上げ、


「ハツキ!!!

また胸の事、言ったわね。

一昨日もお風呂場であたし言ったわよね。

気にしてるんだけど!!!

あ~!そうだよね!ハツキくらいの年齢の男の子は、

キューブくらいじゃないとイヤなんだよね。

だったらキューブと一緒にいればいいじゃない。

キューブの胸を好きなだけ見てたらいいじゃない」


襟元を掴みながら体をグワングワンと揺らす。

あぁ、助かったけどダメみたいです。

脳が揺れてボク死んじゃいます。

それを見ていたリーネが助け舟を出す。


「そろそろ止めないと、せっかく私が回復してやったのに、

死んでしまうぞ」


お腹を抱えて笑っていなければもっと感謝出来たのに。

ヒジリはボクの顔を見て、さっきより顔色が悪くなっているのに気付くと、

ハッとした顔で手を離した。


「あわわ。

ご、ゴメン。

わ、わざとじゃないのよ。

ここまでやるつもりじゃなかったのよ。

でもハツキが悪いと思うの。

だから謝らない!!!」


プイっと顔を横に向け、口を尖らせ言い訳をしている。

とりあえず、命の危機は回避出来たみたいだ。

それよりも大事な事が気になる。

試練はどうなったのだろう?

やり方が汚いとかで失敗なんてなったら目も当てられない。


全てを護る者トゥー・シェリールはどこだ?


動きの悪くなった、体を無理矢理動かし探す。


「おお!起きたか。

サンブライトの子孫よ」


フロアの奥にある玉座から声が聞こえた。

ボクは手を上げ、答える。


「すみません。生きてま~す!

2回ほど死に掛けましたけどまだ生きてま~す。

こんな格好で申し訳ないんですけど、

結果はどうなんでしょうか?

卑怯すぎてダメとか...?」


素直に聞いてみる。

実際、作戦でも何でも無い。

ヒジリを怒らせ、蹴り飛ばされて壁まで追いやっただけだった。

護るわけでも無く、本当に何もしていなかったから。


わはは!と全てを護る者トゥー・シェリールは大声で笑った。

フロア全体が揺れるくらいの大声で。


「いやいや。

我輩のルールはしっかりと護られておったし、

女子オナゴ2人も我輩の攻撃では傷付いておらん。

そして我輩を壁まで追い返した。

なので我輩は認めよう。

オヌシが新たな継承者だと」


小さな声で

「銀髪の女子オナゴは精神面でしっかり傷が付いたようだがの」

と付け加えて、立ち上がりヒジリの膝の上でまだ動けないボクの側まで歩いてくる。


「動けるか?

サンブライトの子孫よ」


表情はわかりにくいが、きっと笑っているのだろう。

ボクは頷き、立ち上がり全てを護る者トゥー・シェリールの前に立つ。


見上げるくらいの大きな体。

そこから伸びる大きな手。

その大きな手をボクの頭の上に乗せる。

感覚の無いボクでもなぜか暖かみを感じる手だった。


全てを護る者トゥー・シェリールが淡い金色の光に包まれ、

小さな金色の光がフロア中に広がった。


幻想的な世界。


ヒジリが良く追いかける妖精とはまた違った光。

魔法で造られたモノとはまた違った光。

水に反射してキラキラとする光ともまた違う。


とてもとても綺麗な光だった。

ヒジリもリーネも同じ気持ちで見ているのだろう。

わぁ~綺麗♪と言いながら周りを見渡している。


静寂の中、全てを護る者トゥー・シェリールが語り掛ける。


「サンブライトの子孫よ。

我輩から最後の質問だ。

良く考え、応えよ」


わずかに静寂が戻る。


そしてまた語り掛けてくる。




「汝、自分の命を犠牲にしたとしても護りたい者はいるか?」


質問は単純だった。


自分に護りたい人はいるのか?

自分の命を捨ててでも護りたい人はいるのか?


そんなのわかりきってるじゃないか?

答えなんて考える必要なんて無い。


ボクは自信を持って、

最高の笑顔と最高のポーズでハッキリと答える!


「もちろん!


護りたい人は居る。


ただ命は犠牲にしない。


犠牲にしても良いけどその後どうする?


ただその人にまた命を犠牲にしても護ってくれる人が居るなら、


ボクの命なんていくらでもその人に差し出す。


それがボクの答えだ!!!」


静寂がまた訪れた。

あれ???

またやっちゃいました?

ダメな答えだったんですかね?


フフフとヒジリの笑い声が聞こえた。


「だからその格好は気持ち悪いって言ったじゃない。

でもその答えハツキらしくてあたしは大好きよ」


リーネも頷きながらこちらを見ている。


ふむ。なるほどなと言葉と共に全てを護る者トゥー・シェリールが話始める。


「オヌシの答えはそれで良いのだな?」


コクリと頷く。

だってそれが正直な答えだ。

嘘を言ったところでしょうがないのだから。


少し間を置いてまた再び語り掛ける。


「しばらくオヌシの覚悟を見させてもらおう。


オヌシを全てを護る者トゥー・シェリールの正統継承者と認めよう。


全てを護ってみせよ!ハツキ!!!」


そう言うと全てを護る者トゥー・シェリールは姿を消し、

フロア中に広がる小さな光が、

ボクの体に全てが集まってきた。

正式に言うと右腕にだけど。


フロア中が光に包まれ、視界が白くなった。


白い世界。


ヒジリもリーネの姿も見えない。


どこに行った???


少し目が慣れると目の前に人影が見える。


「よお!俺の子孫!!!」


子孫?もしかしてご先祖様?

サンブライト???


「なんか俺達のせいで、めんどくせえ事になっちまったな。

押し付けちまってわりい。

まあ、全てを護る者トゥー・シェリールは使えるヤツだから、

頑張ってヤツを使いこなせ!


リーネを、お前の大事な人を、世界を護ってやってくれ」


そう言うと景色がフロアに戻る。

夢???幻???

全てを護れ...か...


「やれるだけの事はやるさ」

拳を作り、グッと握る。

その上から手が重なっていく。


「うん。ガンバろう!」

ヒジリがニコりと笑う。


「私もやるさ。頑張ろうな!」

リーネが楽しそうに笑う。


右腕の紋章を見やると...

何も変わっていない。


「コレ何も変わらないの?」


リーネがうん!と笑いながら頷く。

もう少し、こう少しくらい変化があってもいいのに。


「さて、一旦帰ろうか!」

全員が頷き、ほぼ我が家になった「お菓子な宿屋」に向かう。


世界のある場所が無くなったのも気付かずに。

小さな場所が消滅した日、


新たな全てを護る者トゥー・シェリールが誕生した。

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