第28話 代償

頭が痛い。左側だけ。


顔が痛い。左側だけ。


首が痛い。左側だけ。


肩も腕も胸も腰も足も痛い。全部左側。


ヒダリガワダケイタイ...


骨が軋む。


筋肉の繊維が壊れていく。


あれ?指が4本しか無い。


ハツキに貰った指輪をしていた薬指が無い...


あれ?あたしの体ってこんなに白かった?

大きかった?太かった???





暗闇と静寂の中、ベッドから飛び跳ねるようにヒジリは起きた。


「はぁはぁ...

何?今の??夢???」


自分の左手を見る。

薬指にはハツキから貰った指輪が光っていた。


フト気付くと、気持ちの悪い汗でビッショリだった。


「サイアク...

気持ち悪い。お風呂入って来ないと寝れないな」


外はまだ真っ暗で草木も眠っているようだった。

隣のベッドではハツキが気持ち良さそうに寝ていた。


「ふふ、かわいい♪ダイスキだよ。ハツ...」

「むにゃ...ヒジリのお胸は...」


ゴスっ!!!

前言撤回!と呟き軽く右足で蹴っておく。


ヒジリはバスルームへ行き、服を脱ぎ浴槽に向かう。

浸かりたい温度を口にすればすぐに湯船は溜まる。


「42度」


見た夢を忘れたい。

こんな時は熱いお風呂に限る。そんな気持ちで高めの温度で入る。


「ホント、ヤな夢...

覚悟はしてるけど...

でも実際、そうなるかもなんだよね。

代償か...」


ゴボゴボっと泡を立てながら湯船に顔を沈める。


風呂に入り気持ちも少し楽になり、再びベッドに入る。

「ずっと一緒にいたいな...」

そう言いながら目を瞑り、眠りについた。



「またヒジリはボクのベッドに潜り込んで!

自分のベッドあるじゃん。

ボクだって男なんだよ!!!」


いつの間にかヒジリがボクのベッドに潜り込んでいた。

どうやら熟睡しているようだ。

まぁ疲れも溜まっているのだろう。


「寝てるときもカワイイなぁ。ダイスキだよヒジ...」


「むにゃ...ハツキのバ~カ♪」


イラっ!夢の中でもバカにされているぞ!

デコピンでもしてやろうかと思い、ヒジリの額に狙いを定め、

人差し指に力を込める。


ピキっ~~~!!!!


首の後ろに違和感を感じた。

痛みは感じないがおかしい。


ヒジリの蹴りを食らった後遺症だ。

遠慮の無い、全力の蹴りをもらった。

リーネの回復魔法があったとしてもすぐに完治するわけではないのだ。


「まぁ死ななかっただけ儲けもんだな」


そう独り言を呟きながらきっと誰も作らないであろう朝食作りに取り掛かった。

この部屋の台所は食べたい料理名を言えば出てくる魔法陣が敷かれている。

しかしボクもヒジリもそれを敢えて使わず、料理している。

料理を作っていないと腕が落ちてしまいそうで怖いから。


ベーコンをこんがりと焼き、フライパンに卵を落とした所で、

リーネが部屋から出てきた。


「良い匂いがするな♪

お腹が空いたぞ~!!!」


背伸びをしながらクンクンと鼻を鳴らす。

人型になっているキューブもリーネの後に続いて部屋から出てきて、

「おはようございます」と頭をペコリと下げる。


「リーネ!そろそろご飯出来るからヒジリ起こして~」

卵が半熟状態で目玉焼きになるよう、フライパンから目を離さずリーネに頼む。

リーネはわかった!と元気な返事をした。


満足のいく朝食も出来上がりテーブルに並べる。

並べてる間にヒジリも起きていた。

眠たそうな目を擦り、欠伸を何回も繰り返している。

どうやら昨日はあまり眠れなかったらしい。

何かあったのかと聞いてみても苦笑いをして話をはぐらかす。

リーネはリーネで作った分の料理をペロリと食べ、

魔法陣で出来上がる料理を何度もおかわりをしていた。


「「「「 ごちそうさまでした 」」」」


4人とも食べ終わり、片付けをしようと椅子から立ち上がる。


立ち上がった瞬間、見える景色がグニャリと歪む。

バランスを崩し椅子の背もたれに手をつき、床に頭を叩けつけずに済んだ。


ヒジリが驚き、駆け寄ってきた。


「どうしたの?大丈夫?

どこか痛めてない?」


心配そうに顔を覗き込む。

焦ってボクに痛覚が無いことを忘れてるのかな?


「あはは。大丈夫だって。

急に立ったから立ちくらみしちゃったのかな?

もしくは誰かさんの蹴りの後遺症...?」


ヒジリの顔が青くなる。

「昨日、もしかして起きてたの...?」


え?起きてた?

そりゃ起きてるよ。

戦ってる途中に寝るバカはいないだろう?

ボクの言葉にキレて蹴ってきたのはヒジリだろう?

そんな事を思いながら不思議な顔をしていると、


「だって気持ち良さそうに寝てたじゃん!

変な寝言を言うのが悪いのよ」


寝言?

食い違いがあるな。

もしかして夜もボクを蹴っていたのか?

よし、こうなったら起きていた事にしておこう。

そして変な寝言とか言ってるからこれ以上、

思い出させるのは止めておこう。


眩暈らしきものは治っていたので、

洗い物を片付けようとしたら、

キューブが洗ってくれると言うことだったので、

ヒジリ、リーネの3人で次の目的の話を始めた。


「一応、ボクの課題は無事終了だよね」


「そうね。次はあたしの継承ね」


「うむ。まずはヒジリの故郷に行き、私が白き竜ブランの居場所を探る。

その後、示された場所に赴きヒジリの継承を終わらせる。

こんな所が次の目指す所かな?」


次の目的は決まった。

先日、リーネが言っていた事が予定通りに進んでいる。

このままヒジリの侵食も進行せず、リザーヴを倒せば、

もしかしたら魔法も復活し、ヒジリも違う護る力を覚え、

リーネの消滅デリートで能力を消してもらう事を、

考え直してくれるかもしれない。

そんな期待をしてしまう。


ボクの命が危機に晒された時、自動で発動する能力。

ボクはもうみんなを護る力を手に入れたハズだ。

自分自身だって護れる。

だからヒジリにはもう辛い思いをして欲しくなかった。

だから早くリザーヴを倒し...



ドサッ!!!

ハツキが椅子からそのまま倒れた。

なにか考え事をしている時に倒れた。

朝から様子が変だった。

朝食を食べ終わって立ち上がった時も...


「ハツキ!!!ハツキ!!!どうしたの??」


あたしは意識の無い、ハツキに声を掛け続けた。

汗が凄い。

着ている服の色が変わるくらい汗をかいている。

洗面所から急いでタオルを持って来て、服を脱がせ、汗を拭く。

拭いても拭いても汗が出続けている。

顔を拭いて体を拭くとまた顔がビッショリになるくらいに。


ん??

ハツキの首の後ろで何かが動いた気がした。

あまり動かしたくなかったがうつ伏せにし首を確認した。


「なにこれ...?」


ハツキの首から腰まで黒い蛇みたいな模様がウネウネと動きながら伸び続けている。


「ウロボロス...」

リーネが声を漏らす。


ウロボロス...


移動する・苦痛ペイン・ムーヴの代償...


ハツキのお父さんの日記に書いてあった。

体を一周すると死に至る代償。

あたしは黒い蛇の頭を一生懸命押さえ込んでいた。

押さえても押さえても動きは止まらない。


「止まって!止まってよ~!!!」


このまま動き続けて首まで戻ったらハツキが死んでしまう。

イヤだ。ハツキが居なくなるなんてイヤだ!!!


イタイ。


心が痛いよ。


ハツキ、目を覚ましてよ。


黒い蛇は足を回り、頭が見えなくなっていた。


イヤだよ。


ハツキ...


あぁ...


わかったよ...


あたしがその代償を喰ベレバイインダ...


アァ、カラダガイタイ...


ダイスキ...ハツキ...



カツーン

近くで金属音が聞こえた。


「あれ?なんでボク裸なの・・・?」


隣でリーネがなぜか泣いている?

なにがあった。

今後の話が大体まとまった辺りから記憶が無い。

あれ?ヒジリは?

どこにも居ない。


「あれ?ヒジリは?」

「遠くへ行った」


リーネは何を言っている?

そしてなぜボクの体に黒い蛇がいる?


「リーネ、正直に答えて。ヒジリはどこ?」


泣き止まないリーネの肩を持ち、真っ直ぐリーネを見る。


嗚咽を漏らしながら、リーネがやっと聞こえる声で話しだす。


「ハツキ。

お前は移動する・苦痛ペイン・ムーヴの代償を支払い続けた。

結果...

わかるな...?」


「う、ウソだ!!!

ヒジリ!今なら笑って流せるから早く出てきて」


ビックリした?

ねえねえ?ビックリした?寂しかった♪???

ヒジリが笑顔で出てきてくれる。

そう思った。そう思いたかった。

しかし現実はそうではない。


「最後の狂神化バーサーカーでお前の代償を喰った。

私にはそう見えた。

そして喰い終えるとそこから...」


リーネが指差す方には、大きな穴が開いていた。


「バカだ。

ボクもヒジリも。

なにが護るだよ!!!

傍にいなくちゃ護れないだろ!!!

前にも言ったじゃんか!!

なんでボクの傍から離れていくんだよ!!」


ダメだ。

ヒジリ...


そうだ。


両思いの石フィーリング・ストーンを使えば...


「ヒジリどこにいる?すぐに行くから待ってて...」


近くから自分の声が聞こえる。


あぁ...


ヒジリにあげた指輪が小さく光り、蒼色の両思いの石フィーリング・ストーン

転がっていた。


蒼...色...


そうかもう気持ちも消えちゃったのか。


「ヒジリ...」


ヒジリがしていた指輪を握り締め、その場に座り込むと、

リーネが後ろから抱きつきながら優しく話しかけてくる。


「探そう。

どんな姿だろうとヒジリはヒジリだ。

そして私たちの仲間だ」


小さく頷く。


「そうだな。

早く見つけて怒ってやらないと気が済まない」


ヒジリの指輪を小指にはめ、立ち上がる。


どこに行こうが絶対に見つける。

離さないってもう一度、教えないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る