第25話 消滅~delete~

骸骨を踏付け遠吠えする狼...


『冒涜する魔狼』カース・ウォルフの証。


そしてぼろのローブを纏った男がヴォルズの名を言った。


力を奪った?


この男は何を言っている?


まさかこの男も...


クッタノカ???


「うはははは!

大体考えてる事はわかるぜえええ!

そうだあああ!

喰ってやったさあああ!

最初、俺に寄越した能力が使えなかったからなああ!

ヴォルズの能力が欲しくて喰ってやったああ!

あのヴォルズバカの”心臓”を!!

そこの女がキレイに半分にしてくれたから

喰いやすかったぜええええ!

それにしてもあのヴォルズバカなんでこんなガキ共に負けたんだあああ?

あ!そうかあああ!

あのヴォルズバカこの能力の使い方をまったくわかっちゃいなかったからなああ!

わかっていたらこんなガキ共に負けるハズがねえんだよなあああ!

なあ?ガキ共??」


狂っている。

完全にコイツは狂っている。


恐怖からなのか怒りからなのか、

わからないが体が震える。

多分、怒りだ。

このドス黒い、湧き上がる感情は怒りだ。

ボクは感情に身を任せ、叫ぶ。


「ふざけ...!!」

「ふっざけんな~~!!!」

ヒジリが先に叫んだ。


「喰った???

アンタ何人食べたの?

ヴォルズの前に何人食べた?

アンタももう人間じゃないよね?

死んで殺した人に謝らないとのね?」


冷静で冷酷で残酷な目で男を睨む。


「おおおおおお!

コワイコワイいいい!

怖いからそのまま動かないでねえええ。

そしてしゃべらないでねええええ!!


ハツキ・ヒジリ・ギルドの受付ぇぇ!!」


体が動かない。



声も出ない。


ヒジリもキューブも同じく動きも声も止められていた。


「ねえ?ねえ?

ビックリしたああ?

動けないし、声も出ないでしょおおおお?

能力の発動には動き、もしくは声が必要なんだよおおお!

ちゃんと止めなかったからあのヴォルズバカは死んだんだ!!

どう?

コワイ?

死にたくない??

助けて欲しい???

ダメええええ!!!

コロス!!!

この”カートス様”が殺してやるからよおおお!!!」


完全に油断した。

ヴォルズを喰ったと聞いてすぐに、

真実に成る嘘ライズアンドトゥルーを警戒するべきだった。


・・・ まったくウルサイ男だな ・・・


頭の中でリーネの声がした。


・・・ 人が気持ちよく寝てたのに ・・・


寝てた???

このピンチに???


・・・ すぐに助けるから少し待っててくれ ・・・

・・・ ただ断っておくぞ ・・・

・・・ 消滅デリートを使う ・・・


消滅デリート

能力を消す魔法か。

ヒジリの能力が...

消せなくなる???


・・・ すまんな。ヒジリ ・・・

・・・ 私はまずお前達を助けたい。安全にな ・・・

・・・ 使用不可時間クーリングタイムがどのくらいかわからんが ・・・

・・・ まぁそのうちまた使えるだろう♪ ・・・


意外と楽しそうだな...リーネ。


・・・ 私の強さをお前達に見せやろうかな ・・・

・・・ まずは... ・・・



・・・ おい!キューブ!お前はギルドの受付ではないだろう! ・・・

・・・ 動けるはずだ!!!早く私を出せ!!!


「あ!そうでした♪」

そう言うとキューブが手をポンと叩いた。


あ。動けるんだ。

確かに名前の指定はしてないし。


「なんで受付が動いてんだよおおおお」


叫ぶカートスの目の前でキューブが人型から匣に変化する。

カートスが次に言葉を発するより早くリーネが詠唱を始める。


我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者ソール・マスターなり。

永遠の刻を彷徨いし貪欲なる魂共よ。

カートスのチカラを喰らい尽くせ。



消滅デリート



辺り一帯が暗くなり、叫び声と共に、

カートスに灰色のナニカが纏わり付く。


「な、なんだこれええええ!

ヤメろおおお!

俺から奪うなああああ!!!」


その叫び声と共に体に自由が戻って来た。

動ける!!!


「ヒジリ殺すな!!!

そいつから聞きたいことがある」


リーネが力を使い切ってしまったのか、

よろめきながら、

口元を歪めてヒジリに伝えた。


「わかったぁ~♪

それならブン殴る~~~♪」


うんうん!

ボクの出番無いね...


ヒジリは天使の翼アンジェ・エールを発動させ、

高速で移動し、左手・・を振りかぶった。


ヒジリさん...

そっちで殴ったらマズいんじゃないの?

死んじゃうよ。


ヒジリはカートスの目の前に立ち、

いや、少し宙に浮いた状態から叩き付けた。


ズドン!!!と地響きが起き、

ヒジリが叩き付けた場所が抉れていた。


「あ!!!」

3人で同じ言葉を発した。


「違う!違うの!!!」

ヒジリがなぜか全力で否定する。


「だから違うの!!!」




「殴った感触が無いの。

地面を殴った感触しかないの...」


どういう事だ???

もしかして蒸発するくらいの力で殴ったのか?

殺すなって言われたのに・・・


「ハツキ!!!

移動する・苦痛ペイン・ムーヴをヒジリに使え!!」


リーネが急に叫んだ。

何が何だかわからずヒジリに手を向け発動させる。


・・・ 対象者 ヒジリ=ブラン=エール ・・・

・・・ 移動先 ハツキ=サンブライト ・・・

・・・ 死亡確率 5%未満 ・・・

・・・ 発動確認 YES・NO ・・・


攻撃されている...?

誰に???

敵は2人だったのか???

でもまずはヒジリを護らないと。


「YES」


次の瞬間、右腕にナイフが刺さっていた。


ポタポタと血が地面に滴る。


「ハツキ~~~!!!」


ヒジリが駆け寄って来る。


「大丈夫。

ボク、痛覚ないから。

ヒジリが怪我しないで済んで良かった!」

笑顔でヒジリに答える。


「ノロケるのは後。

まずはアイツを倒さないとだ!」


指をさした先にはカートスが笑いながら立っていた。


「なんで???あたしの左眼・・ですら追えなかった」


「うひゃひゃひゃ。

そこのチビガキの魔法か~~?

能力消えちまったああああ!

消えたせいで前の能力に戻っちまったじゃねえかあああ!

これ使えねえんだよおおお!

消すと触れねえし、攻撃もできねえええ!

出すと俺まで姿が出ちまう!!!

ほんと使えねえ能力だなあああ!!!

でもまあしょうがねえ、

暫く透明なる影インビジブル・シャドウと仲良くするかねええ」

と言うと共にカートスは再び姿を消した。


透明になる能力か。

めんどくさい能力だな。

さてどうするか。

透明状態なら攻撃も当たらない。

しかし攻撃も出来ない。

攻撃するには自分の姿を晒さなくてはならない。

なるほど。

これは久しぶりにボクの出番じゃないですか~?

そう思いながら皮袋に手を入れる。


「おおおっと!

ハツキくーーーん!!!

動くなよおおお!

コレ見てええええ!!!

真実に成る嘘ライズアンドトゥルーはもう使えないケド動けないでしょおお???」


ヒジリの首元に鋭く光るナイフが押し当てられている。


「そして手に持ってるのも下に落としてくれるううう?

おじさん怖くて手が震えてこの白くてキレイな肌に傷を付けちゃいそうだよおおお」


わざとらしく震えて見せた。

ナイフがヒジリの首に触れ、血がナイフを伝いカートスの手を赤く染める。


「わかったよ」

ボクを両手を挙げ、魔法陣が描かれた羊皮紙を回りに投げた。


~ ・・・ ~~


「よしよしイイコだああああ!

イイコにはご褒美をあげないとだねえええ!!!

なにがいいかなああああ??

ヒジリちゃんの動かない人形・・・・・・なんてどうかなああああ?」


「屑が。

お前...誰を傷付けた?

ボクの大事な人だぞ」


「は、ハツキ???」


ヒジリが泣きそうな顔でボクを見ている。

少し待っててねと伝わるように笑顔で答える。


「カートス?知ってる?

良く言うじゃん?

人を殺そうとする時って自分も殺される覚悟があるんだよな?ってさ。

なあ?

カートス!!!」


ボクは静かに呟く。

ヒジリのように。

冷静に。

冷酷に。

そして残酷に。


「ゴメンなリーネ。

コイツはもうなにも喋らせない」


「バ~~~カ!!!

何カッコつけてんだよおお!

この女の首なんて直ぐ落ちるだぜえええ!!!」


「もうお前は動けないよ。

だってもうお前はトラップに掛かってるから」

カートスに親指を下に向け笑いかける。


2重罠・強奪ダブルトラップ・スティール


茨の牢獄エピン・アトラペをX軸245・Y軸568。YES。

北に吹く風ノール・ヴァンもX軸245・Y軸568。YES。

最後にX軸194・Y軸501をX軸305・Y軸568。YES」


そう呟くと、カートスの足元に羊皮紙が移動した。

羊皮紙が光ると茨が絡みつきカートスの体の自由を奪う。

その隙を付いて、ヒジリがカーストの腕から逃れた。

それを待っていたかの様に風が吹き、カートスを黒い羊皮紙の上に追い込む。


「お前バカだな?

素直にヒジリに殴られていれば生きていられたかもなのにな?

地獄でヴォルズに謝れよ?

じゃあなカートス」


ヒジリと共に親指を下に向ける。


闇からの大口アバドン


悲鳴と共にカートスの姿は見えなくなった。


「疲れたぁぁぁ~」

一気に力が抜け、地面に座り込んだ。


「ハツキ~~~。

格好良かったよ。

ちゃんとあたしを護ってくれてありがとう。

嬉しいよ」


「そうやってまた泣く」

「泣いてないもん。これは雨だもん」


よしよしと頭を撫でる。

リーネがよろよろとしながら近寄ってくる。


消滅デリートの消耗がこんなに激しいと思わなかった。

やはり試し撃ちして良かった」


やっぱり撃ってみたかったんだね。

知ってたけどね。


再び訪れた『冒涜する魔狼』カース・ウォルフの悪意。

そして戦い方を考えさせられた。


父が言っていた、

「常に感覚を研ぎ澄ませ」

と言う言葉が身に染みた。


これからもっと厳しい戦いがあるのかと思うと、

不安になるので考えるのをヤメた。


みんなの無事を確認して、

顔を見合わせて3人で同時に頷く。


「「「 今日は帰ろうっ!!! 」」」


出鼻は挫かれたが3人で力を合わせた勝利だった。


ボク達は再び「お菓子な宿屋」に戻るため、入り口に戻る。


ドサっ!!!


「きゃ~~!ハツキハツキ!!!」

ヒジリの声が遠くに聞こえる。

どうやらボクは倒れたみたいだ。





貧血で・・・

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