第24話 受継がれた悪意

昨晩は色々有り過ぎた。

ヒジリとの仲が進展したり、

リーネがこっそり覗いていて説明したり。

寝不足もいい所だった。

しかも新たな旅立ちの日だと言うのに雨。

まったくツイテない。


ヒジリの作った朝食を取り、今後のやるべき事を相談する。

強くなる為、今後の行動。

そしてリザーヴの討伐。

やるべき事は分かっているが先は長い気がする。


「さて、今後やるべき事、行くべき所、

会うべき、いや会わなくてはならない存在の話をしようか」

食後のデザートと紅茶を目の前にし、目を輝かせながらリーネが口を開く。


「まず、やるべき事は...


わかるな...?


リザーヴの討伐...


これが今の私たちの最終目標だ...


その為にやらなくてはならない事はな...」


デザートのケーキを我慢しているのか、なかなか話が進まない。

リーネの気が散漫になっている事に気付いたヒジリは


「リーネ?

ケーキ食べてからにしましょ。

あたしもケーキが気になって仕方がないからさ」


どうぞ。と笑顔で手を出した。

リーネは

「そうか!それでは先に食べちゃおうか♪」


と嬉しそうにしながらケーキを頬張った。

やはり本当に子供なんではないかと疑ってしまう。


ケーキも食べ終わり満足そうにリーネは再び話始めた。


「おいしかった♪ヒジリが作るのはなんでも絶品だ!

これからもずっと食べれるのかと思うと楽しみで仕方がない!」

ヒジリは嬉しそうに少し照れながら、笑っていた。


「さて、本題に戻すぞ。

リザーヴを倒す前にまずは2人に証の継承をしてもらいたい。

ハツキは継承しておるがまだ足りん。

ヒジリに関しては全然だ」


証の継承?

この右腕の紋章か?


「詳しく言うと、ハツキは継承を終わらせてない。

今はまだ紋章があるって言うだけの状態。

なので、ハツキにはガーディアンの塔に登ってもらい正統継承を行ってもらう」


ガーディアン...

全てを護る者トゥー・シェリール

上る人によって試練の内容が変わるため、

塔に登ってみないとわからないらしい。


「次にヒジリなんだが...

これが少しメンドくさいと言うか...なんと言うか...」

リーネの歯切れが悪い。

もしかして今のヒジリの状態では継承出来ないのだろうか?

いや、出来ないのであれば仲間の話は出ないはずだ。


「リーネ。

あたしは大丈夫だから。

ハッキリ言ってもいいから」


ヒジリは何があっても自分はやる!

挫けない!そんな感じの顔でリーネに言った。


「すまん。ヒジリ。

ハッキリ言うぞ!継承に必要なモノがわからないのだ!」


「「 え!? 」」


ボクと、ヒジリは同じ事を言った。


「すまん。言葉が足りなかったな。

ヒジリの継承に必要な白銀竜の居場所がわからないのだ」


「「 んっ!!?? 」」


またしてもカブる。


「ほら!昨日、話したろう?

エールの話。あれの傍にはいつも白い竜がいたんだよ。

その白い竜が白銀竜。

その竜を手懐ける。

それで得た証が、


竜が付き従う者ドラゴンスレイヴ


ちなみにその竜の名前が『ブラン』だった。


エールとブランの名前をもらって、ヒジリの一族は


ブラン=エールを名乗るようになったんだ」



ウンウン、とヒジリは頷く。


「確かに小さい頃、聞いた事があった。

あたしたち一族は白い竜の恩恵を受けているって。

その恩恵があるから空挺団を作ったっても。

でもある日を境に消えてしまったって。

剣術や体術、風の読み方、風の操り方を教えたら居なくなったって。

最後に自分が此処に居なくても見ている。

助けが必要なら呼ぶが良い。

その方法はエールの子供達に教えてある。


あっ...」


ヒジリの顔が青ざめていく。


「聞いていない。お父様が20歳の誕生日に教えてあげるって。

毎年、毎年それを楽しみにしていたんだ。

あと4年だったのに...」


ヒジリと1歳しか違わなかったのか。

いやいや、今はそれ所じゃない。


「心配するなヒジリ。

竜の呼び方の話が出るというのであれば、

きちんと伝わっておるのだろう。

それならお前の故郷に戻れば私がなんとかしてみせよう」


ふぅ~。ヒジリが安堵の溜息をついた。


「そして継承さえ出来れば、それさえ出来れば...」


リーネが肩を震わせ拳を握る。

しかしすぐ笑顔、いや感情が篭らない笑顔で、


「その後はリザーヴを見つけ、ハツキが私たちを護り、私が動きを止め、

ヒジリがトドメを刺す。

単純じゃろ?」


今度は楽しそうに心の底からの笑顔でウィンクをする。


「なるほどね!単純でわかりやすいからヒジリにも...」

言い終える前に背後から殺気を感じる。

「昨日も、って言うか前から言ってるけど一言多い」

ヒジリが腕で首を押さえ、冷たい視線を送ってくる。


「ゴメンなさい」


そう言うとヒジリはすんなりと腕を外し、背中をトンと押す。


「まったくハツキは”勉強しない”んだから」


部屋に笑い声が広がり、みんなでヨシ!と言って

再び手を出し、手を重ね、いくぞ~!と声を合わせた。


「雨だけどどうする?」

そんな質問をしたら、ヒジリにもリーネにも冷たい視線をぶつけられた。


「「 善は急げよ!!! 」」


うん。

そうだね。

ボクの考えが間違っていました。


荷物は最低限必要な物だけ持ち、

他の荷物は”半永住権”のあるこの部屋に置いていく事にした。

まぁほとんど持って行くことになったのだけど。


リーネはキューブを人型にし、その中に入った。

なにかあればすぐに出るから心配するなと言いながら。

入ってすぐキューブが、


「リーネ様はお昼寝の時間なのです」


と小声で言った。

なぜかボクもヒジリも素直に納得してしまった。


「ボク達の新しい冒険の始まりだね!!」

「そうだね♪また一緒にガンバろうね!」

顔を見合わせ頷いた。


ボクは浮遊石に羊皮紙を置きロビーに向かう。


「まぁなにが来てもあたしの力を見せ付けてあげるわ」

「ボクだってヒジリに負けないくらい本気出すし」

なんて歩きながら話していた。


出口に立ち、外に出るとやはり雨。

思わず溜息が零れる。


「はぁ~憂鬱...」

「ハツキあれ...」


玄関を出てすぐ、目の前に黒い靄が見えた。

あの黒い靄は...


「待っていたぞ。ハツキ、ヒジリ。

あとはギルドの受付か?」


所々が破れているローブを目深に被り、

悪意に満ちた視線をこちらに向けていた。

そして舌を出し、


「ヴォルズから奪ったこの力でお前らの能力をもらう」


その舌には黒の骸骨を踏付け遠吠えする狼の紋章が刻まれていた。

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