魔法の街 リーネ

第18話 魔法の街 リーネ

移動する・苦痛ペイン・ムーヴ


「ヒジリはそこから動けない」

ヴォルズが禍々しい靄を纏い、背後から斬りかかるヒジリの動きを止めた。


「惜しかったなガキ共。本当の恐怖ってーのを見せてやる」

ヒジリに向きを変え、骸骨を踏み付け遠吠えする狼の刺青が入っている、

筋肉質の腕で、白く細いヒジリの首を締め付けていく。


「ハ...ツ...キ...」




ゴンっ!


イッタ~!!ヒジリの叫び声が洞窟内に響く。


「何するのよハツキ!起きてる時は勝てないからって、

寝てる間に攻撃するのは卑怯じゃない?」


頭を摩りながらヒジリは口を尖らせ文句を言う。


夢...?


妙にリアリティがある夢だった。

昨日、もしもヴォルズがヒジリに気付いていたらどうなっていたのかと言う、

話をしていたから変な夢でも見たのかな?


「ハツキ、汗かいてる?怖い夢でも見たの?」

ヒジリは心配そうに顔を覗き込む。


「ヴォルズとの戦いがトラウマになっちゃったのかな?」

ハツキは敢えて明るく振舞った。

ヒジリが死ぬ夢を見た、なんて口に出すと現実で同じ事が起こりそうな気がして、

本当の事を言えなかった。


あの平地から早く離れたい。

もっと安全な場所に行きたい。

ハツキもヒジリも同じ気持ちだった。


「それじゃ、そろそろ行きますか!」

「うん♪早く街に行ってお風呂入りたい...水、冷たいし」


洞窟を出て地図を広げる。

位置・確認水コンパス・ウォーターの効果はまだ残っている。


「もう少しじゃない♪」

ヒジリが嬉しそうにはしゃいでいる。

そんなヒジリを見て、本当に夢で良かったと安心する。


リーネまでの道のりはそんなに遠くなかった。

朝に出てお昼過ぎには着く予定だった。

しかし、リーネに着いた時にはもう陽が沈み始めていたのだ。


「ヒジリさん?なんでこんなに遅くなったかわかりますか?」


「う、うん...ゴメンなさい...」

下を向き道に落ちている小石を蹴飛ばしながら恥ずかしそうにしている。


「だって、妖精とか初めて見たんだよ!あんなに小さいのがフワフワしてるんだよ!

おいでおいでって手招きするんだよ!追いかけたくなるじゃん...」


「それを追いかけて落とし穴に落ちて...はぁ~。ヒジリ?」


「う...」


「まだ1回だったらボクも許すよ!ヒジリは何回同じ事繰り返した?」


「な、6回!!!」


「なんでサバ読んだ?7回だよ7回!!!」


「ほ、ほら、街に着いたんだしギルドに早く行かなくちゃだよ」


もういいでしょ、と言わんばかりにハツキの腕を掴みギルドを目指す。


リーネは魔法が盛んな街で、そこら中に魔法陣が敷かれている。


宙に浮き、街並みを照らす灯り。

どこからともなく聴こえて来る心地よい音楽。

家や店を守る使い魔。

街中を掃除している魂が込められた人形。


「わ~すごい♪」

ヒジリが手を離し、小走りで駆けていく。


「迷子になるよ~」

大丈夫!これがあるからと皮袋を指差す。

確かに迷子になっても大丈夫だった。


「ちょっと探索してくる♪」

目をキラキラさせ雑踏の中に消えていってしまった。


「早い・・・さすがヒジリ。さてボクはお父さんに言われたギルドに行こう」

街の中心にある大きな建物。きっとあれがギルドだろう。

少し歩き大きな建物に着く。

白の外観。煌びやかさは無いが存在感は他の建物を圧倒している。

大きく重量感のある木の扉を押し、中に入るとテーブル、椅子、掲示板。

顔に傷のある屈強そうな戦士、フードを目深に被り杖を持った魔法使い、

白のローブに身を包み十字架のネックレスをしているヒーラー。


「いつ来てもギルドは慣れないな。視線が痛い...」

小声でハツキが呟く。


聞えて来る周りの声。

いつもと同じ事を言われている。


ガキが何しに来やがった。

此処に来てもミルクはねえぞ。

依頼人じゃねえのか?

早く帰らないと怖いおじさんに怒られちゃうよ。


馬鹿にする言葉と共に浴びせられる嘲笑。


ヒジリが居なくて良かったかも。

絶対ケンカ売ってメンドくさくなる...


はぁ~さっさと終わらせて宿に行きたい。

カウンターの前に立ち、受付の女性に声をかける。


「リーネギルドへようこそ。本日のご用件は?」

さすが受付嬢。外見で判断せず笑顔で対応してくれる。

青髪、碧眼、眉目秀麗なヒューマンの女性。

ヒジリに見慣れてなかったら見惚れ、緊張して喋れないな。


「すみません。ハル=サンブライトの名前を此処で言えばわかると言われたのですが?」


ガヤガヤとしていたギルド内がシンと静まり返る。


静まり返ったのも気にせず受付は話を続けた。


「ご依頼ですね。かしこまりました。こちらにご記入お願いします」


なんだ依頼か。

聞き違いだったか?

再びギルド内はガヤガヤし始めた。


ギルド内の雰囲気を確認し受付は、カウンターの下から何も書かれていない真っ黒の紙を出す。


「えっ?これ何も?…」

と言いかけると金色の文字が浮かび上がって来た。


〜 証拠を示せ。その後、違いますと答えろ 〜


受付はハツキの動きをずっと見ている。

なるほどね。と呟き、服を捲り、右腕を見せる。


黄金色の宝箱を守る竜の紋章。


「違います」


「失礼致しました。少々お待ち下さい」

受付は束になっている書類とは別の所から羊皮紙を取り出し、


「この依頼書の完了報告ですね。お疲れ様でした。サインお願い致します。」

笑顔で空欄の部分に手を出し場所を指す。


この羊皮紙も何も書かれて無かった。

今回も仕掛けがあると思い、言われた通りにサインをする。


~~ 確かに手紙は受取った。東エリアにある「おかしなやどや」で待て ~~


すっげ~!魔法ってすげ~!

関心しつつペンを置く。


「よし!まず一つは完了!東エリアのおかしなやどや?すっごい名前だな~」

独り言を呟いていたら受付が突然手を握り小声で

「私、ハル様の大ファンなんですよ。今晩お部屋にお伺いして、お話を聞きたいのですが、

宜しいですか?ハツキ様?」

と、ハツキの顔を見つめてお願いしてきた。

「べ、別に構いませんけど」

ニヤけた顔を隠せずそのまま答える。

「本当ですかハツキ様♪ありがとうございます。夜、楽しみにしていますね♪」

握った手を離し小指を出し、約束ですよ。と笑顔で受付は言う。

コホンと受付は咳払いをし、

「報告確かに承りました。

次の依頼、報告をお待ちしております。

リーネのご加護がありますように!カヅキ・・・様」


え!?名前間違いました?さっきまでちゃんと呼んでましたよね?

まあいいや、とりあえず買い物して帰ろう。


さっきまで嘲笑して居た、戦士も魔法使いもハツキを誰かのお使いだろうと、

気にも留めていなかった。

帰りは気分が楽だな~と思いつつ外に出る。


外はだいぶ暗くなってきていた。

急いで買い物をしないとヒジリに怒られそうだ。


~ ハツキ?どこにいるの?ギルドに着いた? ~

噂をすればなんとやらだな。


~~ ギルドは終わったよ。今日は東エリアに在るおかしなやどやって所に泊まる。 ~~


~ なにその名前?変なの~♪あたしはもう少しで行けそうだけどハツキは? ~


~~ ボクは少し買い物したら向かう。遅くならないように行くよ ~~


~ りょ~かい。へんなやどや集合ね! ~


~~ おかしなやどや!間違えないでね ~~


ふふふ♪とヒジリの笑い声で両思いの石フィーリング・ストーンは切れた。

これ本当に便利だな。


ボクは必要な物を買い揃え宿に向かった。


ヒジリは暇そうに街路樹の下で待っていた。


「遅い~~!なにしてたのヒジリ!!!」

「ゴメン!どうしても欲しいのがあって探してた~」

ふ~んと言いつつ、なぜかボクを睨み付けてるが気にしない。


「ねえねえ?これがおかしなやどやな?」

「そうだろうね...これだろうね」


目の前には美味しいそうな匂いが漂う、大きなお菓子を形取った宿屋。

看板には


・・・ 甘いあま~い一夜を 2人のひとときを ・・・


と書いてある。


「「 ホントにお菓子な宿屋だったね... 」」


予想はしていた。

しかし予想以上だった。


ハツキは呆れながら宿屋を見上げる。

ヒジリは浮かれながら宿屋を見上げる。


夜になっても魔法で光が溢れる街・リーネ。


「たくさん食べるぞ~~♪」

なぜか天使の翼アンジェ・エールを発動させ宿屋に入って行くヒジリが見えた・・・

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