第17話 戦いの後で

ヴォルズの能力が解け、立ってる事も出来ずその場に倒れ込むハツキ。


「ハツキ!ハツキ!」

薄っすらと見える視界に泣きじゃくるヒジリが見えた。

「死なないで!お願い!!ハ...ツ...」


ハハハ。もうムリだ。

意識が遠退く。

護れた。

自分の”大事”に想える人を護れた。

もう満足だ。




夢を見た。


とてもとても綺麗な場所。


大好きな、父と母の姿。


「お父さん...お母さん...会いたかった」



・・・ 良くやったなハツキ ・・・

頭をガシガシと父が撫でる。

懐かしい。大好きな感触。



・・・ 頑張ったわねハツキ ・・・

優しく抱きしめてくれる母の温もり。

懐かしい。大好きな温もり。


あ~。ボクは頑張れたんだ。褒めてもらえた。




・・・ 「「ハツキ、それで満足か?まだやる事あるんじゃないのか?」」 ・・・




そうだね。

分かってるよ。

お父さん。

お母さん。


もう少し頑張るよ。

ありがとう。



「おはよう。ヒジリ。また泣いてるの?」


目を覚ますと見覚えない場所にいた。


「ハ、ハツキ~~!ハツキ!ハツキ!!!」

良かった~。ホント良かった。

ポロポロと大粒の涙を流しながらハツキを見る。

足が真っ赤になっている。

どうやら今までずっと膝枕をしていてくれたのだろう。


死んでなかった。

これからもヒジリを護ってあげられる。

顔に零れる涙がなぜか暖かく感じた。


「ここはどこ?」

一夜限りの宿ディスポ・コテージも使い切っちゃったし、

あんな場所に居たくないから、少し歩いて見つけた洞窟の中よ。

リーネの街まで行きたかったけど、ハツキをこれ以上、危険に晒したくなかったから。

ハツキの熱も下がらないし、あたしどうしていいのか・・・」


両手で顔を覆い泣き始める。

両手、両足、肋骨4~6本の骨折、全身打撲&内臓損傷付きってところか。


ボクは痛みを感じないけど、ヒジリはこの痛みを感じていたんだ。


奥歯を噛み締める。


ヴォルズ...


~~ 戦いの平地 ~~


首の痛みと熱さを感じた時に聞こえた、

父と母の声。


「男なら女を護ってやるんだよなハツキ」

「ハツキなら出来るわ。大事な人を護ってあげて。」



「「 ハツキ=サンブライトに継承する

       移動する・苦痛ペイン・ムーヴ 」」



・・・ 習得者 ハツキ=サンブライト ・・・

・・・ 代償 ウロボロスの呪紋 ・・・

・・・ 継承確認 終了しました ・・・


「「頑張れハツキ」」・・・


~「移動する・苦痛ペイン・ムーヴ」 ~

・・・ 対象者 ヒジリ=ブラン=エール ・・・

・・・ 移動先 ハツキ=サンブライト ・・・

・・・ 死亡確率 85%以上 ・・・

・・・ 発動確認 YES・NO ・・・


「YES」

「ヒジリあとは任せた・・・」


~~ とある洞窟内 ~~


「でもあたし完全に気絶してたわよ。結構賭けだったわよね」

「そうでもないんだな♪ペイン・ムーヴは怪我で意識を失ってる場合は、

意識回復も可能。だからヒジリに声を掛けた。そのままにしたら、

あれ?あたし治ってる~♪とか言ってバレそうじゃん」

「あたしそんなにおバカさんじゃありません!!」


ぷうっと頬を膨らます。


「でも運も良かったんだと思う」

「そうよね、2人とも生きてるし」

「それはもちろんだけど...ヴォルズがボクに動けないって言ったでしょ?」

「言ってたわね」

「あれがその場に止まるだったらどうなったと思う?」

「結果は変わらないんじゃないの?」

「はぁ~~~」

「なにその深い溜息わっ!」

「確かに変わらないかもしれないよ...でもねヒジリ。

ボクは動けなかったんだ。両足が骨折してても倒れる事が出来なかった」

「あ!!なるほど!!骨バッキバキだもんね。そこで急に倒れたりしたら、

あたしに気付いて当たらない!とか言われちゃうかもだし...」

「それにヒジリが背中にまだ天使の翼アンジェ・エールだっけ?

付いてるのも見えたし。あれも速度倍増でしょ?」

「そうそう!よくわかったわね!微風の外套エアー・オーバーコートより少し、

効果は落ちちゃうけどあたしが使えば結構、速いよ♪」

「ホント運が良かった...」

「そうね...」


「ね?そろそろ実感してもいい?」

ヒジリが問いかける。

「ボクも同じ事思った」

せーので言おうか?


「「 せ~の!生きてて良かったよ~!!! 」」


アハハと笑い声が洞窟内に反響した。



あぁ、こうやってまたヒジリの笑い声が聞けた。

嬉しい、こうやってまたハツキの笑顔が見れた。



死闘の後の休息。

お互いの無事を確認した。


「それよりさ?」

「何?ハツキ?」

「ボクどの位、寝てたの?」

「ん~とね...多分5日くらい?」

ん?位???

「ヒジリさん?なんでそこ曖昧なの?」

「だってここ暗いし、よくわからないんだもん」

「ご飯は?」

「ハツキが心配で食べたくなかった」

か、カワイイぞ!!!体は動かないけど幸せだ!


「でもね、ヒジリちゃん?」

「ど、どうしたのハツキ?」

「旅に出る前、言いましたよね!ボクの皮袋に最上回復薬エリクシル

2つ入れておくから、ボクに何かあったら使ってねってさ~!!!」

「あ~~~!!!!忘れてた~~!!!」

アホだ!この子アホだ...


「すぐに使ってくれると思って移動する・苦痛ペイン・ムーヴ使ったんだよ!

死亡確率85%以上だったんだよ!...」

「もう、ウルサイな~。ゴメンって言ってるでしょ」


ヒジリは皮袋に手を入れ紫色の小瓶を取り出す。

指でパキンと先端部分を折り、そのまま口に含む。


「あれ!?ヒジリさん???」


ヒジリは口元に指を当て、ウィンクをし顔を近付ける。


んっ!と頬を染め顔を背けながら

「どうせ、一人で飲めないでしょ。今回だけだからね」

初めてだからねと小声で呟きながら。


体は動くはずなのに固まって動けない。

暫く、ヒジリの唇の柔らかさの余韻に浸っていた。


「あ、あれ?治らない?まだ動けない?」

ヒジリが不安そうに顔を覗き込む。


「あ、ありがとうございました。治りました。ごちそうさまです」

とワケのわからない事を言いながら、勢い良く体を起こす。


ゴンっ!!


「いった~~!!!」

ヒジリが蹲る。しまった!顔が上にあったの忘れてた...


いつ見ても綺麗で切れのある蹴りだな~と思いつつ壁に叩き付けられる。

これじゃエリクシルの効果も台無しだ...


「さて意識も戻りましたしそろそろ行きますか?」

「まだ夜だけど???」

額を摩りながらヒジリが冷たい目でこっちを見ている。

「今日は寝よう!明日の朝、出発~!!!」

「は~い♪」


~~ 戦いの平地  ~~


ヴォルズとの死闘があった平地。

ヴォルズとレイズの死体を見て、ヒジリに倒された45人の仲間は、

みんな逃げていった。


その中、ヴォルズの死体の傍で空間が歪む。


頭カシラー!なんで死んじまったんだよー。

まだ死ぬなよー!


なにも無い空間から男が現れヴォルズに縋る様に泣いている。


頭カシラにもらったこの透明なる影インビジブル・シャドウでずっと

見てたのによー!

気配を消してずっと見てたのによー。


死ぬのは早いだろうー!

もっと良い能力にしてから死ねよー”ヴォルズ”


男の口元が歪む。


「なんてな。ずっと狙ってたんだよ。お前の能力。

俺ならもっと上手く使える。お前の様な莫迦には使えこなせないさ。

安心して死んでろよ。ヴォルズ。お前の能力継いでやるからよ」


ヴォルズの半分になった心臓を取り出し喰う。

血で口を真っ赤にしながら嗤う。


「透明になったら物にも触れねえんだ!こんな糞みてえな能力渡しやがって!」


動かなくなったヴォルズを蹴り上げ、男は歩き出す。


「リーネに行けばまた会えるかな?ヒジリ・・・ちゃん」



冷たく固い地面の上で2人は眠った。


なにも感じないけどヒジリが傍に居ると暖かい。

こうやってハツキにくっついて居ると暖かい。


2人は久しぶりに熟睡した。

死闘の疲れを癒すように。

半分になった月が2人を優しく包み込んだ。

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