第16話 能力の成長!?
暗闇の中、銀色の光だけが煌いていた。
美しくも冷酷で見る者全てが魅入ってしまう。
ただ1人を除いては。
~男の両隣、一気に倒すわ~
皮袋からヒジリの声が聞こえた。
嫌な予感がする。止めないと!
「ヒジリ!止まって~~!!!」
ハツキの声がヒジリの耳に届き、銀色の光は男達の目で止まった。
「どうした。臆病風にでも吹かれたか?」
頭カシラと呼ばれている男が不気味な顔で笑う。
「ヴォルズ様、こいつらどうします?」
「変更無しで宜しいですかい?男は殺す。女は嬲る」
頭カシラと呼ばれていた男の名は”ヴォルズ”
腕には骸骨を踏みつけ遠吠えするかの様な狼の刺青。
村に居た時に聞いた事があった。
『
獲物の為なら、死すら厭わない盗賊集団。
聞いた時には、今の時代そんなのどこにでも居る賊だと思って聞き流していた。
実際、仲間が倒れてるのになにもしない。
動揺すらしていない。
ヴォルズは足元に転がって来た、仲間の首を踏み付け力を入れる。
ボキッ!
「俺の役に立てぬのなら、せめて邪魔をするな」
そのまま、蹴飛ばす。
殺した。
足元に居るのが邪魔だと仲間を殺した。
ただそんな理由で殺した。
「ライズ。レイズ。お前たちは俺の役に立てるよな?」
表情を変えずヴォルズは両隣に立つ、男たちに告げる。
「もちろんです。お任せください」
ニヤニヤとヒジリを頭の先から爪先まで見て舌なめずりする。
「うわ!キモっ!!!」
ヒジリが後ずさりするのが見えた。
「キモいからさっさと倒す!もうこの空間がイヤ!」
ヒジリが足に力を入れ、地を蹴ろうとした時だった。
ヴォルズが口を開く。
「男はトラップ系の能力。女は人・じゃねえな。
お前ら、男の方は狙うなよ。女が凶暴になるぞ。まあ残りあと2回位か?
先に女をやっておけ」
ライズとレイズに指示を出し、その場に座り込む。
なんで能力の事を知っている?
完全にバレている。
マズい。冷静にならなくては。しかし動揺は隠せない。
~大丈夫よ。ハツキ。あたし強いから。秘密兵器もあるしね~
皮袋から優しい声が聞こえる。
そうだよね。ボクとヒジリならなんとかなるよね。
ヒジリはヴォルズに向かって殴りかかっていた。
「お前は人をなんとも思ってない。許さない!!!」
しかしヴォルズの目の前で動けなくなった。
「え...??」
ヒジリの足元で魔法陣が眩い光を放って展開する。
「
レイズが呟く。
ヒジリに黒い蔦らしきものが絡みつく。
「きゃ~!なにこれ?」
手と足に蔦が絡み付き身動きが取れない。
「
ハツキは素早く腕をヒジリに向け、呟く。
モノクロになる世界。
やっぱりトラップか。良かったヒジリを助けられる。
・・・ 対象:
・・・ 移動しますか?消滅させますか? ・・・
移動しても使用者が解除すれば消えてしまう。
それなら消滅。
「消滅」
・・・ 発動確認 YES・NO ・・・
「YES」
黒い蔦が消え、ヒジリは地面にドサリと落ち尻餅を着いている。
なにか言っているがそれどころではない。
「いい!すごくいいね!楽しめそうだな!!」
ライズとレイズが同時に口にする。
「ふぅ~!やっぱり冷静さを失ったらダメね。
ゴメンねハツキ。ちょっとダケ足引っ張っちゃった。」
後ろを振り返りペロっと可愛く舌を出す。
「よ~し!本気出す。全力で行くよ!」
「
ヒジリの
レイズが吹き飛んだ。
ドンっ。音が遅れて聞こえる。
ヒジリはヴォルズの方を向き、天使の笑顔でスカートの裾を持ちカーテシーをする。
「次はあなた達よ」
地面を蹴り、フワリと宙に浮く。
「よくもレイズを!」
顔を真っ赤にし怒りを露わにする。
ライズはヒジリに手を向け呟く。
「
ヒジリに無数の矢が降り注ぐ。
音速を超えるスピードのヒジリには当たるはずがない。
すでに離れた場所にヒジリは立っていた。
イタッ!と声を上げた。腕や脚から血が流れている。
完全に避けていた。
しかし何本かは当たっている。
傷を受けたヒジリを見てニヤニヤしているライズ。
ハツキはその隙を見逃さなかった。
皮袋に呟き手を入れ、数秒待ち、そのまま皮袋から手を出す。
指を噛み、羊皮紙に血を滲ませる。
「
ライズの足元に漆黒の闇が拡がり、大きな穴が開く。
しまった。と言うより早く大きな穴にライズが落ち、穴が閉じる。
「初めて使ったけど、なんかヤバめなアイテムだな」
ハツキは安堵と共に誓った。場所を考えて使おうと。
「ハツキもなかなかやるわね!惚れ直したよ」
「ヒジリ油断するな!まだめんどくせ~のが残ってる!」
ヴォルズはこうなる事が判ってたかのように口を開く。
「折角、喰わせてやったのにこんなもんか」
食わせてやった?なにを?
ヒジリはヴォルズの気配に押され、無意識に後退りをしていた。
喉に苦く、すっぱい物が込み上げる。
「なあ、知ってるかガキ共。
この世界に莫迦臭い能力あんだろ?代償もあんだろ?
自分の願いが叶う。しかし代償を支払って何かを失う。
俺はな、そんなの莫迦臭くて嫌なんだよ。
貰うのは好きだが、払うのが嫌いなんだよ。
俺は考えた。タダで貰う方法をな。」
聞きたくない。今すぐにでも耳を塞ぎたい。
・・・ コワイ ・・・
「聞いてるのかガキ共。さっきまでの威勢はどうした?」
不快な笑い声が暗闇に響く。
「それで俺は見付けた!タダで貰える方法をな!
それはな!・・・
適当に人を攫って願わせるんだよ。
俺が欲しい能力を願わせるんだよ。
そうするとどうなると思う?
大概、発狂する。
あったはずのモノが無くなるんだから、
そうなるわな。
次に、殺してやるんだよ。
俺にお願いするんだよ。殺して下さいってな。
だから今度は俺が願いを叶えてやる。
そうしてやると満足そうな顔して死ぬんだよ。
その後・・・
喰うんだよ!!!
能力者の肉を喰うんだ。
そうする事に依って能力の譲渡が出来る。
ただな、一つしか能力が持てないのが今の悩みだ」
禍々しい靄がヴォルズを覆う。
「コイツもう人間じゃないよね・・・」
ヒジリがポツリと呟く。
「あたし武器って嫌いなんだよ。
だってあたしの意思に関係なく殺しちゃう・・・・・じゃん」
確かにヒジリが武器を手にしている所をまだ見たことが無かった。
「でもコイツはもう人間じゃない。あたしは認めない!!!」
肩の力を抜き、冷静に、冷酷にそして、残酷にヴォルズを見つめるヒジリ。
「我が名はヒジリ=ブラン=エール。
悪しきモノを切り裂く力をこの手に。
顕現せよ、白き翼の刃」
なにも無い空間から羽が一枚、ヒジリの手に舞い落ちる。
その羽をヒジリが掴むと白い光と共に綺麗な直刃の剣に変わった。
「もう、なにも喋らないで。穢れるから」
ヒジリが剣を握った手に力を込める。
「お前も喰ったんだな」
ニヤリと笑いながらヴォルズがヒジリに問いかける。
「その力はブラン=エールの秘術だろ?
代々受け継がれてるモノなんだろ?
喰うしかねえよな?そうなんだろ?ヒジリ=ブラン=エール」
ヒジリは血の気が引いていくのが判った。
「ち、違う!そんな事していない。この力は先代の命が失われた時に、
その血縁者に受け継がれる力。そんなワケ・・・」
あれ?いつ受け継いだ。記憶が無い。
あの日、お父様も、お母様も失った日、受け継いだ?
記憶が曖昧だ。もしかして滅ぼしたのは”あたし”?
自分の家に戻る前に能力に目覚め、怒りに身を任せ自分の故郷を壊した?
そんなワケ・・・
ハツキに助けを求める様に振り向く。
あたしを見て震えているの?
あ~~。あたしやっぱり身も心もバケモノ・・・・なんだ。
涙が零れ、手に力が入らない。
剣を地面に落とし、カランと音だけが悲しく響く。
「
息も絶え絶えなレイズが呟く。
赤黒い蔦がヒジリの手足を拘束する。
「少しはお役に立てましたか?ヴォルズ様」
「少しはな。抵抗する気力も無いようだが念には念を押しておきたいからな」
ヴォルズがヒジリに顔を近付ける。
「お前の能力、ウマそうだな。
俺にくれねえか?代償はお前が払うんだがな」
「この能力はハツキだけのモノなの。
誰があんたなんかにあげるものですか」
絶望に顔を歪めながらヒジリは答える。
「そうか、無理強いしたのでは能力は譲渡できねえんだ。
俺は研究したからな。
どうか、お願いしますって言ってもらわねえとならねえんだ」
言うと同時にヒジリの右腕を持ち、パキンと乾いた音が響く。
「あ~~~~~!!!」
痛みで身悶える。涙で視界が歪む。
「何本まで我慢できるかな?
ヒジリ=ブラン=エールちゃん。
まあ、無理すんなよ」
ヒジリの悲鳴でハっとする。
ボクはなんて顔をしてしまったんだ。
もし喰って能力の譲渡をするなら父もそうだったのではないか?
それしか受け継ぐ方法が無いなら仕方が無いこと。
大事な人から受け継がれる、大事な儀式なのかも知れないじゃないか。
ヴォルズの自分勝手な譲渡とは違う。
「ごめんヒジリ今助けるから。
ヒジリに手を向け呟く。
・・・ 対象:
・・・ マジック・トラップにつき移動・消去不可 ・・・
・・・
「嘘だろ・・・」
なんで・・・なんで・・・
ボクは無力なの。また目の前で人が死んじゃうの?
ボクを好きだと言ってくれてる人をまた失うの?
イヤだ・・・イヤだ・・・
ヒジリが痛みを堪えて、ハツキに笑顔を向ける。
~ ハツキ、今までありがとう。 ~
~ こんなバケモノあたしを最後まで助けてくれようとしてありがとう。 ~
~ 最後にお願い・・・ ~
~ 逃げて・・・ ~
泣いている。
自分はどうなってもいい。
だから逃げてと。
逃げれるわけないだろ!
護られるダケの男なんてまっぴらだ!
ヒジリ知ってるか?
ボクはトレジャーハンターマスターだぞ?
世界に名を馳せたハル=サンブライトの息子だぞ?
そしてボクはヒジリを護りたいと思っているんだぞ!!!
視界が変わる。
モノクロの世界。
・・・
ハツキの周りに光が集まる。
「なんだあれ?ガキを止めろ」
ヴォルズがヒジリの腕に力を込める。
「ハツキ!!気にせずそのままいっけ~」
パキン!!
悲鳴が響く。
早くしなくちゃ。
ヒジリを助けないと。
早く早く。
・・・
・・・ 対象:
・・・ マジック・トラップは消滅のみです ・・・
・・・ 発動確認 YES・NO ・・・
今、助けるからねヒジリ・・・
「YES」
ヒジリに絡みつく、蔦が消滅した。
消滅したのを確認し、皮袋に手を入れ、呟く。
「
数秒待ち、ヴォルズとレイズを指差す。
鈍い銀色のナイフがレイズの額に突き刺さる。
「ヴォルズさ...ま...」
「俺には当たらない」
ヴォルズがそう言うともう一本のナイフが目の前にカランと落ちた。
「惜しかったなガキ!俺にはあたらねえんだよ!」
腕の痛みに悶えるヒジリの太ももに足を踏み付ける。
パキっ!
「・・・!!!」
痛みでもう声も出ない。
この距離ならボクのスピードと
よし!と足に力を入れようとした時、ヴォルズが話しかける。
「お前は動けない」
体が動かない。
なんであいつの言う事がそのままになる!?
「不思議か?そうだよな?
能力だよ。の・う・りょ・く!
便利だろ?
嘘吐きが嘘を隠すために作った能力。
死ねとか命に関わること無理だが動きを止める事くらいは簡単だ」
ヒジリの首を掴み、持ち上げ、話を続ける。
「お前の力があればもうちっと楽しめそうなんだがな。
だからソレくれよ」
ヒジリの侵食され、変わってしまった眼球を舐める。
涙と汗と涎でグシャグシャになった顔でヴォルズを見下ろし、
唾を吐く。
「死ね。誰がお前なんかにやるもんですか。
さっきも言ったけどこの力はハツキの為だけのモノなの。
誰があげるもんですか」
ヴォルズはそのままヒジリを地面に叩きつけ、残っている足を折った。
ヒジリはそのままピクリともしない。
ヒジリ...
なんで?ヒジリ...
涙が溢れる。視界がぼやける。
ヒジリ。昨日まであんなに楽しそうに笑っていたのに。
一緒に笑っていたのに。
助けられなかった。
憎い。ヴォルズが憎い。
コロシテヤル...
首の後ろが痛い。熱い。
イタイ・・・?アツイ・・・?
おかしい。なんで感覚がある?
なるほど。
わかったよ。
お父さん。
お母さん。
ありがとう。
「~~ ・・・・・・・・・・・・ ~~」
「ヴォルズ!ボクはお前を許さない!!」
苦痛の表情を浮かべ、震えながら立っているハツキ。
「動けもせず、震えるだけのお前が何を出来るんだ?」
「確かにボクは...動けない...ボクはね...」
「莫迦が、小娘同様お前もすぐに追わせて...や....」
ヴォルズの体半分に線が入り、そのまま
「な、なぜ・・・?」
そこには黒の
直刃の剣を携え立っていた。
「地獄に行くのはあんたよ」
ヒジリが冷静で冷酷で残酷な表情で死に行くヴォルズを見下ろしていた
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