第15話 賊の襲撃

ハルの村を出発してから6日目の朝を迎えた。


この6日間、何事も無く、

リーネへ着実に近付いていた。

せいぜい危険が有るのは朝だけで其れさえ回避出来れば平和だった。


6日目の朝もハツキに悲劇が襲う。


「ん~~...ハツキ...後ろ...」


見切った!ココだ!!と言わんばかりにヒジリの腕を退ける!

あれ!?外れない!!!ヤバい。

ヒジリが腕をしっかり掴んで離さない。あ...ダメだ...


ハツキが目を覚ましたのはヒジリが起きて大分経ってからだった。


「ハツキ、ご飯出来たわよ。いつまで寝てるの??」



感覚が有ったらもっと酷かっただろうなと考えながら朝食を食べ、

準備を整え、一夜限りの宿ディスポ・コテージの契約を終了し、外に出た。


「リーネまであと少しかな?」

今日も遠足気分でヒジリが問いかけてくる。


地図を広げ、皮袋から小瓶を取り出し地図にかける。


~~ 位置・確認水コンパス・ウォーター ~~


地図上に自分たちが居る場所が表示されている。


「なんかこう言うアイテムってホント便利よね」

「そうだね~。昔は無かったみたいだけど。今も無かったら旅するの大変だよね。

あ!あと少しみたいだよ。早ければ明日のお昼には着きそうだ」


ほぼ予定通りの日程。

何事も無ければこんなもんだろう。


「ハツキ、後ろ!!!」

ヒジリと一緒に居るようになって毎朝、同じ様な言葉を聞いているせいも有り、

咄嗟に体を逸らし、移動した。


自分がさっきまで居た場所に数本の矢が突き刺さっている。


「うわ!あぶね~~」

見渡しの良い場所だったのもあり油断していた。

ヒジリは遠くを見つめ「めんどくさいわね」と呟く。


「ねえ?ハツキ?リーネって魔法研究が盛んなんだよね?」

昨日、色々調べて判った事だ。


「そうだね。魔・盗賊シーフ・ソーサラーに注意っても書いてあったね」

ヒジリが何も言わず頷く。


すでにもう狙われている。

賊からしたら貴重なアイテムを使い、レアアイテムを所持しているエモノ。

逃すはずが無い。


「ハツキ、今の内に言っておくわ。前に作戦立てたけど敵の力量がまったくわからない。

魔・盗賊シーフ・ソーサラーなんて聞いたこと無いもの。

だから遭遇したら逃げて。そして隠れて。

ハツキが何処に居たてもすぐに行けるから」

少し紅みを帯びた黄金色の両思いの石フィリーング・ストーンを取り出し静かに微笑む。


「ダメだ!ボクはヒジリを置いてなんて逃げないよ。

ちゃんと秘策も有るしね」

ハツキも優しく微笑み返す。


わかった。でも危険を感じたら逃げてね。と周囲に気を払いながら歩き始めた。


気を張り続けて歩くのはさすがのヒジリでも疲れるようで、

額の汗を拭いながら旅路を進める。

疲労の色が顔に現れ始めた。

急襲されてどの位、経ったのだろう。陽もだいぶ落ちてきた。


賊が襲ってくる気配はまだ無かった。

ある程度、見晴らしの良い場所を見つけとりあえず休む事にした。


皮袋から一枚の羊皮紙を取り出した時に事態は急変する。


今までなんの気配も無かった。

突然、ハツキとヒジリの周りにたくさんの気配が現れた。


ヤバい。見渡しの良い場所が仇になった。逃げ場が無い。

「はぁ~。ちょっと厄介ね。ざっと40~50人。

その内、半分以上はザコだけど、残りはわからない。

とりあえず様子を見ましょう」

小声でヒジリが耳打ちする。


「みんな厳ついんですけど。半分以上はザコなんですね?」

ザコと言い切った、ヒジリに思わず敬語を使ってしまった。


カシラ、あいつらですぜい!レア皮袋とコテージ使ってた奴等は。

如何にも盗賊らしい台詞であった。


どうやらリーネに着くまでに休める場所は此処が最後らしい。

おかげで待ち伏せされていた。


カシラと呼ばれた盗賊の隣に立っている男が口を開く。

「男の方はバラしちまえ。女は...まだガキだな。

そういや団にガキ好きいたよな?欲しい奴が好きにしていいぞ」


下品な笑い声が山に反響しこだまする。


在り来たりな言葉だった。

何処にでも居る盗賊だな。

ただ油断は出来ない。

隣に居るヒジリを見やると、微かに震えていた。

あれ?ヒジリさん?こう言うの慣れて無いんですか?

ボクが護ってあげないと。皮袋に手を伸ばしたとした。


「誰!ガキって言ったの!!!」

眼帯を外し、賊の群れに進んでいく。

冷静さを失っていると思い駆け寄ろうとした時、皮袋から声が聞こえた。


~大丈夫。冷静だから。ワザとバカを演じるね。

とりあえず戦力は把握した。人数は48人。

ザコは45人。殆どザコだわ。でも残り3人は解らない。~


色んな意味ですげ~っス!ヒジリさん。


~ハツキはそこに居て。そして3人の動きを見てて。~


~~りょ~かい。~~


邪魔しないのが一番だと思い、言われた通りヤバそうな3人に目星を付ける。

カシラとその両隣のヤツらだ。


賊はヒジリが歩み寄って来て大喜びをしている。


近くで見ると可愛いな。

こりゃガキでも構わねえか。

なかなかお目にかかれねえ上玉だな。

控えめな胸も堪んねえな。


その人強いですよ!そしてそれ禁句ですよ。と忠告してあげたいくらだった。

なにも口に出してないのにギロっとこっちを一瞥し、姿を消した。


~あとで覚えていなさい!!!~


次の瞬間、太陽も落ち薄暗くなって来た平地に銀色の光が、

あちらこちらに煌いた。


~10...20...30...40...45...!終わり!!~


同じリズムでドサドサと男達が倒れる音がする。


「はぁはぁ、さすがにこの人数は疲れるわね」

肩で息をし、汗を拭うヒジリが隣に居た。

今回は何も見えなかった。前はかなり抑えてたのだろうか?

賊に見えないようにコッソリと回復薬を渡す。


「やっぱ才能・・がねえ奴ら使えねなあ」

頭の隣に居る男が周りを見渡す。


「あんた達も同じ様なもんでしょ?」

呼吸も整い、冷酷な瞳でヒジリが男を睨み付ける。


「...ありがとう...」

空になった回復薬を手渡される。


「そうか、銀髪のバーサーカーか?」

カシラと呼ばれている男がようやく口を開いた。


「コイツらでは無理があったな」

そう言ってこちらを向いた瞬間何かが横切る。


え!?

ボクもヒジリも気付かなかった。いや、気付けなかった。


ヒジリの頬から血が流れ落ちる。


「ハツキ?頬から血が出てる。今の見えた?」


どうやらボクにも当たっていたらしい。


完全に辺りは暗くなり、恐怖が襲ってくる。

残り3人...


「戦力を見極める時間は無い。暗闇での戦いは土地勘の無いあたし達には不利。

速攻で片付けるわよ」


ヒジリが闇の中に消えていった。


ハツキは皮袋に手を入れ小さく呟いていた。

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