第14話 旅立ち

お祭りの後、ハツキは村を暫く空ける事を皆に告げ、

代理を立てた。

代理になった、青年はキナ。

村1番の俊足。

そして隠密行動と策敵能力に長けている青年。

昨日、ハツキとヒジリを木から見ていたのも彼だ。

家から出てくるのを確認し、みんなに報告していたのだった。

その彼が昨日、ハツキとヒジリが買った大量の荷物を家まで運んでいた。


「ちょっとこれ買い過ぎなんじゃないですかね」

彼はボヤキながら少し離れた家に風を纏いながら向かう。


「マスター!荷物置いておきますからね!ちゃんと届けましたよ。

あと村から出る時はちゃんと、声掛けて下さいね」

そう言って、姿を消した。


外からの声でハツキは目を覚ます。

良い朝だ。

旅立ちには最高の日だった。

ヒジリの拘束。

抱き枕になっていなければ。


幸せと恐怖が混在する。

いや、恐怖が勝る。

「あぶないよ...ハツキ...」


来た!!!

ヒジリの手を退け、ソファから素早く飛び降りる。

「いい朝だ。ヒジリそろそろ起きて」

そう言ってヒジリを揺らす。

「おはよう。ハツキ」

何事も無かったようにヒジリも体を起こした。


朝食は簡単に済ませ、買った荷物を纏める。


「ねえヒジリ?ちょっと買いすぎなんじゃない?」

「備えあれば憂い無しよ」

大量の服を綺麗にたたみ、皮袋に詰め込む。

ヒジリの皮袋もマジック・アイテムなのだろう。

皮袋の大きさ以上の衣類が吸い込まれるように収納されていく。


忘れてた!はい、これお願いね。

ヒジリから数枚の紙を渡される。


紙は全て [ハツキ様] と書かれ金額が記入されている。

合計金貨22枚


ちょ、ちょっと待って。

昨日の飲食代、自分の装備・アイテムで金貨20枚。

金貨1枚で一週間の旅、1人分の道具は揃う。


「アイテムとか食料はボクが揃えたよね?

なにをそんなに買ったの?」


「え!?お洋服だけど?これとか?」

ヒジリはクルリとその場で回り、スカートがヒラリと舞った。


闘いの正装バトル・ドレスですか?」

「うん。この村にある装備ってカワイイのがたくさんあって迷っちゃった。

さすがトレジャーハンターの村よね。品物が豊富♪」


ヒジリが着ている、黒色の闘いの正装バトル・ドレス

肩から手首までは肌が露出していて、

胸元には赤い宝石が付いている。

腰には同じ色の短いスカートを履いており、

その下には女性のトレジャーハンターが好んで履くような太腿までの短いズボン。

足には膝の少し上辺りまでのブーツ。


透き通る様な白い肌に黒の装備。

手入れの行き届いた銀髪、綺麗な蒼紫の瞳...

思わず見惚れてしまう美しさだった。


「ハツキ?どう?かわいい?」

「は、はい。カワイイです」

思わず敬語になってしまうほどのヒジリの笑顔。

あと錬金術師にちょっと仕込んでもらったから楽しみにしててね♪と、

ヒジリは満足そうに言い荷物を詰め終えた。

ボクも準備を終え、家にある全ての金貨を皮袋に詰めた。


金貨を払いながら村のみんなに挨拶をして回った。

錬金術師が明らかに寝不足そうだったのは気にしないでおこう。


正面の門の前に立ち、高台を見つめる。

父と母にも挨拶済みだ。

村人全員が2人を見送る。


「「 行ってきます!! 」」

ハツキとヒジリは深々と頭を下げた。


村人に見送られ村を出た2人は北にあると言うリーネを目指す。

地図で確認した所、なにも無ければ7~8日で着きそうだ


太陽が少し落ちてきた。

夜になる前に寝る所を確保したいところだ。


ヒジリは眼帯を外し、軽快に歩く。

「ずっと独りだったからなんか楽しいね。遠足気分♪」

「しばらくは安全な場所には泊まれそうにないけど大丈夫?」

「ハツキと一緒ならどこでもいい~♪」

サラっと照れる事を言ってくれる。


ハツキは見通しが良い場所を探し、魔方陣が描いてある羊皮紙を広げ、

指を少し噛み血を一滴垂らす。


「お~~!一夜限りの宿ディスポ・コテージ!ハツキ君なかなかやりますな」

細い顎に指をあて、コクコクと頷く。

「一応、10日分は持ってきたから」

「これなかなか売ってないのよね~。そんなに持ってるとはさすがマスタ~」

「お父さんがたくさん持っていたからね。仕入先はわかりませ~ん」


何も無かった場所にログハウスが建った。

中に入ってみるとダイニングキッチン、食器棚には綺麗な食器。

リビングには毛足が長いラグマット、大き目のソファ。

部屋の奥には浴室と寝室がある。


「ほえ~!こんなに綺麗で家具が揃っている

一夜限りの宿ディスポ・コテージ初めて♪」

テンションが上がりっぱなしヒジリ。

「お父さんは依頼を受けるとなかなか帰って来れないから、

その辺は拘り持っていたんだと思うよ」


ハツキの話も上の空でソファに飛び込むヒジリ。

「ソファもフカフカだよハツキ。寝やすそうだね♪」

満足そうにソファに顔を埋め、足をバタつかせる。

ソファに寝る前提なんだな。とハツキは思いながら

「夕御飯とお風呂どっちがいい?」

「あ~~!それあたしが言いたかった!ハツキのバカ~!!!」

クッションをハツキに投げつけ不貞腐れるヒジリ。

なんでボクが怒られてるんだ?と理不尽さを感じ夕食の準備をする。


ハツキは皮袋から材料を取り出し、鍋に入れ煮込み始める。

「何作ってるの?」

いつの間にか隣にヒジリが立っている。

音も無く移動するヒジリに慣れ初めて来た今日この頃。


「お父さん直伝”ハル特製・肉と野菜の旨煮”ハツキバージョンだよ」

「お~~!おいしそう♪でもその名前どうにかならない?」


鍋には豚肉、芋、人参、玉葱、牛乳、香辛料が入っていて、

部屋中に良い匂いが漂う。


初めてハツキがヒジリに振舞う料理。

料理を皿に移し、テーブルに運ぶ。

予め作っておいたパンとサラダも並べ夕食の完成だ。


「さあ出来た。食べよう」

「ありがと。ハツキ」


「「 いただきますっ 」」

「ん~~~!おいひい♪やるわねハツキ」

頬に手をあて、美味しそうに食べるヒジリを見つめ満足気なハツキ。

おかわり~~♪と声が何回も響いた。


明日はどの辺りまで進むか、

盗賊や山賊、モンスターに襲われた時どうするか。

もし何かあったときは両思いの石フィーリング・ストーンを使うとか、

話し合いをしながら夕食は終わった。


「「 ごちそうさまでした  」」


ヒジリが洗い物をしてくれると言うので、

その間にハツキが浴室に向かう。


湯船に浸かりながら考える。

「1人旅だったらさびしかったよな~。

と言うかヒジリが居なかったら秘密の日記シークレット・ダイアリーもわからなかったんだよな。

ヒジリに感謝だな」

「でもあたしのせいでハツキを独りにしちゃったんだよ...」

なんでまた勝手に入ってくるのかなとハツキはお湯に顔を沈める。


「ゴメン...なさい...」


少しイラっとしながら顔を出す。


「ヒジリ!聞け~~!!前も言ったけどあれは、

ボクが油断してボクが勝手に罠に掛かっただけだから!

ヒジリは何も悪くない!感謝はするけど恨みなんて一つもない!

だからボクはヒジリに感謝してる。

だから今後、一切その事に触れるな。もうヒジリは十分償ったんだ!

ヒジリだってその小さい体でたくさん悲しみを受け止めてきたんだ。

たくさん傷付けられてるんだ。

だからもう謝るな!

ボクはヒジリの笑顔がスキだ!

だから笑っていてくれよ」


ボクは最後に何を言ってるんだ。

恥ずかしくなりブクブクとまた湯船に顔を沈める。


息が持たず顔を出すと浴槽に手を掛け、

ヒジリが顔を覗き込んでいた。


「エヘヘ、ありがとうねハツキ。

約束するよ。もう言わない。ありがとう」

ハツキの頭を撫で、満足そうな、天使を思わせる笑顔で、

「ハツキもあたしの事スキなの?スキになっちゃったの?」

違う、天使の笑顔じゃない。悪魔の笑顔だ!

「それと....」


「ハツキの見ちゃった。。。」

両手で顔を覆い、浴槽から勢い良く出て行った。

しまった。一糸纏わぬ姿だった。


そんなやりとりをしてリーネを目指す旅の一日目が終わろうとしていた。







ハツキは久しぶりの2人旅。




ヒジリは初めての2人旅。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る