第13話 初デ~ト!?
一睡もしてないのもあり夕食もお風呂も早めに済ませ、
ベッドはヒジリに譲り、ハツキはソファで眠る。
何事も無い平和な夜を過ごし、何事もなく朝を迎える。
ハズだった。
朝日が差し込みハツキは自然に目を覚ます。
しかし疲れが溜まっているせいか、思うように体が動かない。
「感覚は無くてもやっぱり疲れは溜まるのかな」
まだ眠い目を擦り、周りを見る。
自分の横に人影があるのに気付く。
折角、ベッドを譲ったのになんでこっちに居るんだよ。
ヒジリがハツキに抱きついたまま寝ている。
「まったく。ボクが紳士じゃなかったら大変な事になってるっての」
肌けた服を直し、布団を掛け直す。
「やっぱりこうやって黙ってれば凄くカワイイのにな」
乾いた涙の跡を指でそっと拭き取り、頭を撫でる。
「...おとうさま...おかあさま...あいたいよ...ひとりにしないで...」
ハツキは胸を締め付けられる。
ヒジリも同じ境遇なのだ。
ボクに罪悪感を感じ、謂わば人間で或る事を
「護られてばかりじゃ、男が廃るよね。
ボクもヒジリを護れる様にガンバるから」
...ハツキ...気を付けて...敵が来るよ...
えっ!?ヒジリの腕を退かし、ハツキがソファから体を起こし周囲を見渡す。
同時にハツキは奥の部屋の扉まで殴り飛ばされる。
「こ...の...バ~サ~カ~め!!!」
そう呟き、ハツキの意識が途切る。
「...キ?...ハツキ?いつまで寝てるの?生きてる?」
心配そうに顔を覗き込むヒジリ。
「なんでこんな所で寝てるの?寝相悪いの?」
大丈夫?と目の前で手をちらつかせる。
ヒジリは着替えを済ませ、朝御飯の準備もしてくれていた。
まあ、今回は許そう。朝御飯に免じて。
2人は朝食を済ませ、買い物へ行く準備をする。
言うまでも無いがヒジリの料理は絶品だった。
「何を買うか決めた?」
ヒジリは嬉しそうに笑顔でハツキの隣に座って足をブラブラさせている。
「そうだね。食料と回復アイテム、それと折角だから新しい武器でも新調しようかな」
ハツキは皮袋を整理しながら言う。
「ヒジリは?」
「あたしは多めに服を買う。絶対に服。
食料とアイテムはハツキに任せる。服さえ買えればそれでいい」
なぜか顔を赤くしている。
そうか。
ハツキは1人頷き、準備を終えた。
ヒジリはいつでも行けると言わんばかりに親指を立ててウィンクする。
「「よし!しゅっぱ~~つ♪」」
家を出ると村中は静かだった。
村人が住む場所から少し離れて建っているハツキの家。
本来であれば店が開き活気溢れる時間であるのにも関わらず。
「なんか静かじゃない?これが普通?」
ヒジリがハツキの方に顔を向け問いかける。
同時に小声で「誰か居る」と耳打ちする。
ヒジリは眼帯をしていた。
村人に恐怖を与えない為に。
能力に侵食され、変わってしまった片眼。
隠されてない綺麗な碧い紫がかった瞳でハツキを見る。
カサカサと木が揺れ、葉が落ちた。
「「だれだ!!」」
音がした方に2人は顔を向ける。
すでに気配は無い。
「何かがおかしい?静か過ぎる。少し急ごう」
ヒジリの手を取り、村の広場に向かう。
広場に近付くと、けたたましい音と光がハツキとヒジリを襲う。
パーン!パーン!ドーン!
ピュー!ピュー!!
おめでとうハツキ。
やっと13代目になれたか。
おめでとう新マスター。
昨日なにやってたんだよ!
お兄ちゃんおめでとう。
ハツキ様おめでとうございます。
地響きがするくらいの拍手と歓声。
広場いっぱいの飾りや垂れ幕。
「13代目 トレジャーハンターマスター ハツキ様 誕生」
「あ、あはは」
鼻の頭を掻きながら、言葉が出ずその場に立ち竦むハツキ。
村人に祝福されるハツキを見て嬉しそうにヒジリは、
昨日作ったであろう、手作りのステージにハツキを押す。
バランスを崩しながらステージまでハツキが進む。
ハツキ様~。ハツキ~。マスター!!!
いつまでも止まる事が無い歓声。
ありがとうみんな。と村人を見渡す。
一言お願いしま~す!!!と澄んだ天使の様な声が歓声の中から聞こえた。
ヒジリめ!煽るなし!!
よし!ビシっとかましますか!!!
「あ~あ!マイクテスっ!マイクテスっ!!!
本日は晴天なり。本日は晴天なり!!」
ゴホンと咳払いをし、ハツキは表情を引き締めた。
「みんな、今日はありがとう。
こんなサプライズ。みんなでボクを泣かせたいのかな」
クスクスと笑いが起こる。
「でも、ボクはもう泣かない!泣き言も言わない。
お父さ...父の、偉大なる父の背中に少しでも近付きたい。
そして必ず父を追い抜く!!
父が作ったこの村をボクは守っていく!
みんな見ていてくれ!ボクの名前を世界中に響かせる!
先代を越えるマスターになるから!!!
お前たちはボクの家族だ!
宣言する!
ハルの村の発展を!そして平穏を!!!
此処に誓う。
第13代 トレジャーハンターマスター
ハツキ=サンブニャ...サンブライト」
噛んだぞ。
いい所で噛んだぞ。
やっぱりハツキはハツキだな。
笑いと共に拍手と歓声が沸き起こる。
ヘヘヘと照れくさそうにステージから降りてきたハツキを
ヒジリが抱き締める。
「締まらなかったけど格好良かったよ。ハツキ」
それを見ていた村人は先程より大きな歓声を上げる。
「今日はお祭りだ!!全部ボクの奢りだ!
掛かったお金は全部ボクの所に持って来い!
好きなだけ食べて飲んでくれ~~!!!」
祭りは夜、遅くまで続いた。
今日は掟も関係無く村人全員で食事。
みんな家族だ。
暗くなった夜道を歩く。
雲に隠れ、少し欠けて来た月。
道が判り難いのでハツキが先に歩く。
「みんな良い人だね」
「でっしょ~~?自慢の家族だよ」
先を歩くハツキが足元を気にしながら答える。
ハツキの少し後ろを歩きながら
「いいな。あたしも家族になりたいな...家族...欲しいな」
小さく、か細い声でヒジリが呟く。
ハツキに聞こえないよう、小さな声で。
ハツキは立ち止まり。ヒジリに振り向く。
雲が無くなり、少し欠けた月の光がハツキを照らす。
月の光に照らされたハツキの笑顔。
「ヒジリはもうボクの家族でしょ?
ボクの為に、そんな体になっちゃったワケだし。
ボクを想ってくれてるヒジリはもう家族だよ♪」
ヒジリはその言葉を、聞きたかった。
3年間ずっと独りだった。
唐突に独りになった。
幼かった少女には辛い現実だった。
ただガムシャラに生きてきた
たった3年かもしれない。
しかしヒジリにはとても永い3年。
「ハツキ・・・ありがとう」
その場に泣き崩れ、ハツキは優しく抱きしめる。
ヒジリはハツキの温もりを感じる。
ハツキはなにも感じない体になってしまったが、ヒジリの温もりは
感じられる気がした。
「ホント、ヒジリは泣き虫だよね♪」
「うっさい!少し黙ってて」
「明日からまたヨロシクね。
《”ボクの”バ~サ~カ~》」
ヒジリは黙って頷き、顔を染めた。
この日、村に新たな記念日が生まれた。
「13代マスター誕生祭」
これから先、ずっと受け継がれるお祭り。
村一番のお祭り。
永遠に・・・
~~~ 世界に名を刻まれた日 ~~~
第13代 トレジャーハンターマスター ハツキ=サンブライト
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