第12話 両思いの石

すっかく辺りが暗くなり

昨日と同じ綺麗な満月が夜空を照らしていた。


ハツキとヒジリが秘密の日記シークレット・ダイアリーを読み終え、

静かに閉じる。


「お父さん、お母さんありがとう」

ハツキは目を閉じ、そう呟いた。

「良かったね、ハツキ」

と、隣でヒジリは涙声で呟く。


「ま~た、泣く。ボクはちゃんと我慢出来てたよ」

「ウルサイ!あたしは我慢出来ないの」

ヒジリはまた肘を打ち付けてやろうと、ハツキの右腕を見た。


「ハツキ!ハツキ!ハ~ツ~キ~!!!!」

「何?一回呼べばわかるよ」

煩わしそうにハツキが答える。

「腕!右腕!!!」


ハツキの右腕が煌き、黄金色の紋章が刻み込まれていた。

《宝箱と竜の紋章》


トレジャーハンターマスターの証がハツキの腕に印された。


「これがマスターの証かあ」


ハツキは証を愛おしそうに指で撫でる。

父にも印されてていた紋章。これでお父さんと同じだ。

だが紋章が同じだけで、力も技術もまだまだ未熟だ。

感覚が無くなったボクがマスターで良いのだろうか?

良いハズが無い。たくさん努力してみんなに認められるようにしないと。

ハツキは強く誓った。


「あたし達の次の目的は見つかったわね。リーネの街か」

「少し遠いけどなんとかなるでしょ」

ハツキとヒジリは顔を向き合いお互い頷く。


「あ、そうそう。新マスターさんにヒジリちゃんからお祝いをあげましょう」

「キ、キスですか?」

「ん~ん。違うよ」

と、ヒジリは自分の皮袋を取りに向かう。

ハツキは少し期待してしまったのと、ヒジリの素っ気無い態度に、

大きな勘違いをした自分が恥ずかしくなり、

床に突っ伏し身悶えていた。


「何やってんの?ハツキ?」

ヒジリが床でモゾモゾしているハツキに気が付く。


「だって、今の素っ気無さ過ぎじゃありませんか?

恥ずかし過ぎて穴が有ったら入りたい位なんですけど!」

「何か言ってるのは聞こえてたけど。

知識不足のハツキは絶対にわからないだろうと思って、

気にしてなかったけど何だった?」

「何でもない。ボク泣いてもいい?知識不足のボク泣いてもいい?」

「ゴメンゴメン!知識なんて勉強と経験でどうにかなるから」

うな垂れるハツキを慰めながら、皮袋から2つの石を取り出した。


「じゃ~ん!!!ハツキにこれを1つあげます♪」

「なにこの灰色の2つの石は?」

「これはね。。。」

ヒジリはなにやら顔を紅潮させモジモジし始めた。

ふぅ~。と深呼吸を一回し、

「恥ずかしいから、一回しか言わないわよ」


「この石は両思いの石フィーリング・ストーン

基本効果は、持っている者同士、いつでも側に行ける。

双方の想いが強ければ強いほど効果は上がっていくの。

基本色の薄い蒼色はね、家族同士で持つ事が多いわ。親が子供に持たせたりね。

但し、室内とか天井がある所では使えない。


次の段階が黄金色。この色になると話が出来るのよ。所謂、《念話》ってやつね。


最終段階で紅くなる。この色になった時はどんな場所でも移動出来るし、相手が居る場所も見える。」

こんな所よ。と顔を紅く染めてヒジリは一息で説明した。


「そんなわけで今から契約します。

ハツキ、目を瞑ってあたしの前に座って」

「は、はい。今すぐ」


ハツキは淡い下心を抱きながらヒジリの前に座った。しかも正座で。


2人の間に光が降り注ぐ。

「我が名は、ヒジリ=ブラン=エール。

ハツキ=サンブライトに愛情を注ぐ者である。

いつ如何なる場合も傍に居たい。

両思いの石フィーリング・ストーンの悲しき想いを繰り返さぬ様、

その力を此処に与えたまえ。」

ハツキの唇に冷たいモノが触れる。


「もう良いわよ」


ハツキは迅速に目を開けた。キスしてもらった~♪と浮かれながら。


しかし口元にあるのは少し紅かかった黄金色の石だった。

ヒジリの口元にも同じ色に変わった石。


「はい!終わ...り...?」


ヒジリは石を見つめ、目をパチクりとする。


「もう、この色なの?」

顔を赤くしながら両手で顔を覆う。

ヒジリがそんなに照れたらボクまで恥ずかしくなるじゃないか。

ハツキは思わず顔を背ける。


「とりあえず契約は終わったから、こっちがハツキのね」

とヒジリの口元にあった石を渡す。


「これは願いに入らないの?代償は?」

ハツキは当然の質問をヒジリにぶつける。


「この石自体がもう代償なのよ。

代償は支払われいて、願いはもう叶っている。

この石にも色々あったらしいわよ。

ちなみにランクは幻A。作り方はわからない。」

凄い物をもらった気がする。


「ありがとう。大事にするね」

そしてとても照れくさいぞ。なんだこれ。


「出発はいつにする?」

ヒジリは契約の終わった石を眺めながらハツキに聞いた。

「そうだね~。旅の準備もしなくちゃだから明後日。

明日は、必要な物を村で買い揃えてこようよ」

「オッケ~!それじゃ、明日は一緒にお買い物しましょうね♪」


ハツキとヒジリは顔を見合わせ、同時に背を向け思った。


「「それってデートじゃね!!!」」


月明かりが2人を照らす。


「「月が綺麗だね」」

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