第11話 日記

ヒジリは自分が言った事に動揺していた。

いつも先走って後悔する。


「あ、あの...」


顔を真っ赤にし、ヒジリがやっとの思いで声を出す。

ハツキの顔をまともに見れない。


ハツキもハツキで顔が真っ赤である。

生まれてから今まで、異性に面と向かって、好きだなんて言われた事が無い。

ましてヒジリのような誰もが振り向く可愛いコに。


「は、はい...」


ハツキもやっとの思いで声を出す。


お互い顔を見つめあう。

そして2人とも顔が真っ赤になっている事に気が付き噴出してしまった。


「ヒジリありがとう。

そこまで想ってくれているヒジリの気持ちを、

ボクは無下には出来ない。

男なのにヒジリを護ってあげられないかもしれない。

弱いボクだけど一緒にあいつを探そう。これからヨロシクね♪」


優しく暖かい手がヒジリの緊張しきって

冷たくなった手を温める。


「ありがとうハツキ。

ハツキが弱くてもあたしが強くなるから。

あたしが護るから心配しないで。

これからもヨロシクね」


暖かい涙がヒジリの頬に流れる。


「なんかヒジリってすぐ泣くよね。」

「うるさい!嬉しくて涙が出るは、しょうがないでしょ」


幸せな時間が戻ってくる。

まだ暖かい日差しが2人を包み込む。


「そう言えばさ、なんでボクの代償わかったの?」

ハツキはずっと気になっていた事を質問する。


「そんなの意外とすぐに気付くものよ。

まず昨日、あんなに暑いのにキミは暑いと一言も言わなかった」

「我慢してるだけかもしれないじゃないか?」

「それだけじゃないの。汗はかいていた。汗が目に入っても何の反応もない。

普通、条件反射でなにかしらの反応はするはず。しかしハツキはそのままだった」


それとね・・・

とヒジリは続ける。



「あたしがいくら殴っても痛がってない。

これが一番の理由かな♪」


「でもダメージはあるのよね?」


「たぶん、ダメージはあるぞ。だってヒジリに殴られると体がダルくなるもん」

「今度からもっと手加減して殴ろう。とヒジリは心に誓った。」


「おい!口に出てるぞ!誓ったとか。まずボクを殴らないで!!!」

「殴らせるような事、言わなければいいのよ」

出た!反論を許さない目だ。

気を付けま~す。とヒラヒラ手を振る。


「あたしからも質問していい?」

どうぞ。とハツキは手を前に出す。


「さっきからハツキがメモ代わりにしてるそれもマジックアイテムだからね」

な...ん...だと...

はぁぁぁ。やっぱり知らないのか。とヒジリは深い溜息を付く。


秘密の日記シークレット・ダイアリー

ランクはBで、結構売ってる物だけど

持ち主の契約に依って隠したい効果は変わるらしいわよ」


なるほど。ハツキは頷く。

父からもらった皮袋の特殊保管場所から出てきた本だった。

使用者が自分に変更されて、取り出せるようになった。

初めて見たとき、何も書いてなかったのでメモ代わりにでもしようと思って、

今日までそのままにしていた。


ハツキはそっと本を床に置き。

手を本の前にかざした。


「ヒジリ、見ていて。これがボクの能力」


罠・強奪トラップ・スティール


ハツキの視界がモノクロになる。

周りにたくさんある鍵付きの宝箱、罠が対象になっている。

床に置かれた本も確かに対象物になっている。


「本当だ。トラップが付いてる。サクっと解除しますか」

「X軸3・Y軸5・中心」


・・・ 対象を移動しますか?消滅させますか? ・・・

・・・ 尚、マジック・トラップは現在、移動・消滅出来ません ・・・


なるほど。移動も消滅も出来るのか。前は移動だけだったような。

それと、マジック・トラップは移動出来ないのか。覚えておかないと。


・・・ 発動確認 YES・NO ・・・


「消滅・YES」


ハツキがそう呟くと、本が宙に浮かび鈍く光ってドサリと落ちた。


「すごい。なにこれ」

ヒジリが思わずそう呟く。


「終わったよ。これでトラップは解除した。何が書かれているんだろうね?」


本を手に取り、座り込む。

いつの間にヒジリが隣に座っていた。


急に怖くなった。

親の秘密を知ってしまうのか?変な事書いてあったらどうしよう?

でもここまで来たのだ見るしかない!!!


恐る恐る本を開く。


「「 えっ!! 」」

2人同時に同じ言葉を発した。


そこには・・・

ハツキが先ほど書いてたメモの文字しかない。


「もしかして上書きされちゃった?」

ハツキが恐る恐るヒジリに問いかける。

「いいえ、それはないわ。なにか書いてあったらちゃんと文字が出るはず。

上書きはされないわ。でも見てハツキ」

ヒジリは本の丁度、真ん中を指差す。

「ここから色が変わっている。多分、持ち主が変わって契約変更されたのよ」

「あ~確かに、マジック・トラップも掛かっていたな。そっちは外せなかった」

ペラペラと色が変わる部分まで本を捲る。


今まで白紙と思われていた部分に文字が浮かんでいた。


~~~~~愛する我が子 ハツキ~~~~~


懐かしい字。父の字だ。

「お父さん・・・」


涙が零れる。

早く続きを読みたいのに視界がぼやける。

お父さんが残してくれた本を涙で濡らしたくないのに涙が止まらない。

それに気付いたヒジリは本をそっと閉じ、床に置く。

ハツキを抱き寄せ頭を撫でる。

「本は逃げないわ。ゆっくり読みましょう。落ち着くまで」

うわ~ん。お父さん。お父さんと声を出してハツキは泣いた。

優しい笑顔でヒジリは抱き締める。


赤い夕陽が窓から見える。

暖かい。

感覚はもう無いけど確かに暖かかった。

ハツキの涙はもう止まっていた。


クチュン。

ヒジリが小さく、くしゃみをする。


ハツキはそろそろ夜か、寒くなってきたのかな。

そう感じヒジリに言った。




「ありがとう。ヒジリ落ち着いた。

ボクにはわからないけどそろそろ寒くなってきたのかな。



”ヒジリはずっと裸だもんね”」


ヒジリは布団に包まってはいたが確かに服を着ていなかった。


「あんたね~!!!そう思うならさっさと服持ってきなさいよ~」

といつ見ても綺麗で華麗な切れのある、回し蹴りでハツキを部屋から蹴り飛ばす。


ヒジリはハツキが持って来た服に着替え、気を取り直して本を手に取る。


「どうする。今日読む?明日にする?それとも気が向いたらにする?」

「いや、今日、読むよ」


もう、泣かない。

父が託してくれた本。


そっと本を捲る。

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