第10話 告白

散らかった部屋。

傷だらけの壁。

床には解錠道具、鍵付きの宝箱、擬似トラップ。


...たくさんの写真。写真の中で楽しそうに笑っている3人の家族...

どれもクシャクシャになっている。




どのくらい時間が経ったのだろう。

窓の外は明るい。

人の声。

鳥の囀りも聞こえる。


部屋の隅で座り込む少年。

布団を掛けられ横たわる、目を覚まさない少女。


「ん...ん~~~。体が...痛い」

倦怠感。体中の痛みでヒジリは目を覚ました。


「あいつは!!??」

痛みを堪え昨日見たモノ・・を探す。


「あの男の人なら逃げたよ。いや逃げたという表現は間違いか。

何かを確認して帰った」


なにも出来なかった。

記憶は無いが本能がそう伝える。

また逃げられた。


時間と共にヒジリの意識がハッキリとしてきた。

今、居る異様な部屋。


トレジャーハンターになりたくて、たくさん練習してきたのだろう。

散らかった道具や擬似トラップ。


それ以上に目に付いたのが写真と壁。

何度も写真を見て、涙を溢して、クシャクシャになってしまったのだろう。

悔しさと寂しさで何度も殴って殴って、拳の皮膚が破れても殴って、

たくさんの穴と血が変色し黒くなっている壁。


あたしのせいだ。

ヒジリは胸が張り裂けそうな気持ちになる。

洞窟で出会ったあと、一緒に行動をするべきでは無かった。

隠れて見守っていれば良かったのだ。

すべてがもう遅い。

いつもこうだ。

人を傷付けてから気付いてしまう。

全てを打ち明けて、これから隠れて護っていこう。


「ハツキ...?あのね?」

ヒジリは座ったまま問いかけた。


「なに?」


と答えるハツキが牢獄の塔のやりとりをヒジリの脳裏にフラッシュバックさせる。

怖い。でも言わなきゃ。


「あのね・・あたしね・・・3年ま」

ハツキは急に立ち上がり、ヒジリに向かって歩いてくる。

「ヒッ・・・」

ヒジリは思わず声を上げた。足が竦んで動けなかった。

あーハツキになら殺されてもいいや。と納得する。



「ヒジリ...」



ヒジリは首に温もりを感じた。

ハツキはヒジリを抱きしめ優しく呟く。


「ヒジリ。知ってるよ。気付いてたよ、初めから。

キミみたいな綺麗な子、忘れるはずがない。真っ白の鬼がヒジリだったのは

わからなかったけど」

ハツキは優しく微笑む。


「うん...うん...ゴメンなさい。ゴメンなさい。

言い出せなくてゴメンなさい。あたしハツキを護りたかった。

だから願った。ハツキを護りたいって」

ヒジリはハツキの胸に顔を埋めて泣いた。


ハツキはもう人の温もりも鼓動も感じられない。

ヒジリはハツキの温もり、鼓動を感じ落ち着きを取り戻す。

少しこのままでいさせて下さい、と呟いた。

ハツキは何も言わずそのまま抱きしめていた。


外はもう太陽が真上まで昇っていた。


ハツキはヒジリを離し、隣に座りる。

「まったく、ヒジリの人生なのにボクの為に棒に振るなんてやっぱノウキンなの?」

「だってあたしがハツキの人生壊したんだよ。護りたくなるじゃない」

と言うと同時にハツキの腕に肘を打ちつける。


落ち着きを取り戻したヒジリを確認しハツキは質問をする。

「さてそろそろ本題に入ります!」

「そうね。もう大丈夫。キチンと話せる」

「まず、あの男は何者なんだ?」

「あの男は人間じゃない。何者でもない。何者にもなれない。ただのモノ・・

そしてあたしを攫って、ブラン=エールを壊滅させた」

「なるほど全ての原因はあの男って事か」

ハツキはメモを取りながら頷く。


「次にヒジリの能力と代償は?」

ヒジリが俯く。なにやらモジモジし始めて小さな声で答えた。


「・・・・・・・化」

「は!?聞こえない!!!」

「・・・神・・・化」

「ゴメンちゃんと、ハッキリ聞こえるように言って!」

「だ~か~ら~! 狂神化バーサーカー

思わずハツキが噴出す!同時に壁に吹き飛んだ。


さすがバーサーカー。凶暴だ。とハツキは口に出そうとして我慢した。

ヒジリの隣に戻り質問を続ける。


「代償は?」

とヒジリの顔を覗き込む。


なにかがおかしい。

ハツキはヒジリの顔を見て固まった。

「あ、あ・・・」

「な、なに!?どうしたの???」

「ヒジリ、眼が。眼が・・・」

ハツキは無意識に後退してしまった。


ヒジリの綺麗な瞳が...

碧い紫がかった左眼であったはずが。

本来、白であるはずの所が黒くなり、碧い紫がかった瞳が紅くなっている。


ヒジリはハツキが自分の左眼を見ているのに気付いた。

「あ~もう始まっちゃてたか~」


「そう代償は侵食」

あの時の声を思い出す。


・・・《スキル習得》   『狂神化バーサーカー』 ・・・


・・・ 習得者:ヒジリ ・・・


・・・ 護衛対象者:ハツキのみ ・・・


・・・ 尚、習得者・対象者が死亡した場合、このスキルは永遠に失われます ・・・


・・・ 《代償    使用者本人への侵食》     ・・・

            

・・・代償は支払われました ・・・


「使用回数制限あるみたいなのよ」

「な、なんでそこまでして・・・」

「だから言ったでしょ?ハツキの人生を壊しちゃったんだからそれを償う為に

お願いしたって」

笑顔でヒジリは答える。


「ヒジリだって被害者じゃないか!ヒジリは悪くない。悪いのは全部あいつじゃないか」

ハツキは声を荒げた。


「いいの。もう決めた事だから。それにね。能力使わなくてもハツキを護れるように、

修行して強くなったのよ!わかるでしょ?生身のあたしが強いって」

嘘一つ無いヒジリの澄んだ返事だった。


わかった。ありがとうとハツキは俯く。

「それじゃ次はあたしからの質問ね」

ハツキは顔を上げヒジリの方を向き直す。


「ハツキは なんの能力・・・・・なの?」

「代償は痛覚がなくなってるのかな?」


ハツキはハっとする。ヒジリの前で能力を使ってはいない。

能力者は全人口の2割にも満たないはず。

みんながみんな能力を使えるわけではない。

能力に対して代償が大きすぎるからだ。


「え!?」

「あたしも全部言ったんだからハツキも教えるのが当然だと思わない?」

そりゃそうだと思う。

包み隠さず教えてくれたヒジリの質問にちゃんと応えよう。


「ボクの能力はトラップ・スティール。

罠の移動および鍵の解錠。代償はヒジリも言った通り、痛覚がない、というか

感覚全てを失った」

とハツキは手を開いたり、握ったりして感覚が無い事を確かめる。


その姿を見てヒジリは一瞬考え、

顔が青ざめる。

ヒジリの頬に涙が伝う。


「な、にそれ...もう能力を使わないと鍵もトラップも解除出来ないじゃない。

こんなに練習したのにもう自分では...」

「なんでヒジリが泣くんだよ!まぁしょうがないさ。

次から感覚無しで解錠出来る様にすればいいだけだし」

腕を頭の後ろに組み希望に満ちた瞳で答える。

そうか。ハツキは諦めてないんだ。

それだけでヒジリはなぜか嬉しくなった。

嬉しさの余り、唐突に聞いてしまった。


「最後の質問です」


「あたしは諦めない、どんな事があっても諦めない。

次の道を見つけるハツキが好きになってます。どんどん好きになってます。





《バ~サ~カ~なあたし》




ですけどこれからも側にいてもいいですか?

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