第46話 その後
九月一日。
「……で、これは一体どういうことかな?」
始業式が終わった後の放課後。久しぶりに訪れた教室は油引きがされていることもあり、どことなく視覚と嗅覚に新しさを覚える。しかし、そんなことを気にする余裕がないくらいに喩と零は追い詰められていた。問い詰められていた。
縄神喩と、その隣にこれから次の席替えまで暫定的に座ることになった転入生、桃洞零。
弌と笑、それに皐までもが突然の、零の転入には驚いていた。喩と零の感情のぶつけ合いの後、解決した訳でもなく、どちらかと言えば妥協に部類されるそれの後、喩は音信不通となっていた。
それに今日も始業式を終えた後に登校し、それまでの間、弌、笑、皐の三人を不安にさせ続けていた。
もしかして何か悪いことが起こったのではと、三人は脳裏に嫌な予感が過ぎり続けたというのにその結果は、零が第二高校に転入してくるという想像しがたいものとなっていた。
一体何があったのか。これまで何をしていたのか。そして今日、何故遅れたのか。三人は問い詰めなければ気が済まなかった。無駄に心配させた喩に友達として或いは親友として怒っていた。
「なーにーがーあーったーのーかーなー?」
こめかみをピクつかせながら、弌は再びそう問う。逃げ出そうと思えば幾らでも逃げ出せるはずだが、喩も零も既にくたくたで思考すらも少し面倒臭い。
故に喩と零は素直にことの顛末を語ることにいた。
喩と零が話したのは五つ。
零の正体。
零が何をし、何をしようとしていたのか。
今の喩と零の関係。
これから二人は何をするのか。
そして何故、零は転入して来たのか。
それぞれ――。
零は神の祟りによって【全能】を押し付けられた異能の力を持つ全ての人間の親であり異能の力の悲劇の元凶。
零は【不老不死】を持つ喩を利用して、死ぬことで異能の力を消し過去現在未来に起こる悲劇の責任を取ろうとしていた。
零を殺せる唯一の人間となった喩は零を支え続け、零が死にたいと願った時に零を殺すという役目を担う一生であり生涯のパートナー。
これからは自力或いはその周囲で解決できないであろう悲劇に見舞われる異能の力を持つ人間を救い続ける。
零の転入理由は、そんな永遠に続く救済の日々は喩が高校を卒業してから本格的に始めることにしており、喩が学校に行っている間零が暇になる為、零も転入することでそれを解決したというものだ。
喩が在学中に起こる悲劇は『組織』を通じて救うことになっており、高校を卒業した後には喩と零は『組織』側の人間となってオールラウンダーな役割を担うことになっていた。
「……って感じかな」
喩が噛み砕いてそれらを説明するが、あまりにもややこしい為、弌も笑も皐も理解に苦しんでしまう。
「理解はしなくてもいいよ。とりあえず、僕と零の間にあった問題は解決したってこと、それだけ分かってくれたらいいんだ」
「……そう。なら、よかった。うん、何よりだよ。でも、まだ私達の質問には答えていないよね」
「そうですね、あの日から今日までの二十三日間、一体何をしていたのか、説明してもらっていません」
「ああ、それに今日遅れてきた理由もな」
どうやら弌と笑、それに皐は、その二十三日間で多く交流をしていたらしく、息ぴったりに喩と零に問う。問い詰める。全てが解決したのは分かった。ならばそう決まった後の空白の時間を二人は何をしていたのか、それを教えてくれと三人は言う。
喩と零はお互いに顔を見合わせて頷き合う。やはり、最低でもこの三人には教えるべきなのだろうと無言で意見を統一させる。それは喩と零からの信頼と信用の証でもあり、恩返しでもあった。
「それは今からゆっくり説明しようと思っていたんだ。ね、零」
「うん。さて、それじゃあレッツゴー」
そう言って零は皐の手を、喩は弌と笑の手を掴んで【転移】する。【転移】したのは、弌と笑が初めて訪れる場所であり、そして喩と零が朝に訪れていた場所であり、皐は逆に毎日ここから別の場所へと訪れる場所。
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