第36話 邂逅
【転移】したと同時に何となく喩は、弌と笑が茶番をしているような気がして少し笑ってしまう。また、そんな笑みを自然と出せるようになった自分をとてつもない幸福だと思う。
そして、その幸福が零の裏切りであり零の期待を裏切ったものなのか、それとも零の思い通りなのか、という疑問浮かべる。
矢継ぎ早に、考えることは増えていく。しかし、それでも喩はこれ以上、何も迷わず、何も恐れない。
「来たのね、喩。もう治療はいらないようね。その吹っ切れた顔を見れば【精神感応】なんて使わなくても分かるわ」
「はい。……もう、大丈夫です。今まで、ありがとうございました、汀さん」
「うん、それは何より。それで、ここに来たってことは、……あの子に会うのね」
「はい。親友に、そう言われましたので」
誰かに向かって、弌と笑のことを自らの親友と呼べる。それが喩は少しこそばゆく、しかし誇りにも思えた。彼らとはこれからずっと、腐れ縁となるのだろう。腐れ縁が腐りきったとしても喩は弌と笑の関係は続いていくような、そんな気がしていた。
汀も、そんな喩の様子を自分のことのように喜び、はにかみ、満足そうに頷く。何とも言えなくなって、喩を抱き締める。
「うわっ、えっ、ちょ! な、汀さん!?」
「しばらく、こうさせて。それくらい、いいでしょ?」
「……分かりました」
突然の抱きつきに慌てふためく喩だったが、汀の言葉で抵抗を止める。黙って力を抜き、汀が満足するまで抱きつかれ続けた。
数分で汀は満足したらしく、喩は開放される。
「ありがと、喩。これからもたまにはここにも来てね。どうせいつも暇だから」
「はい。そのうち、弌と笑も紹介します」
「うん、楽しみにしておくわね。……涙は奥の部屋に寝かせているわ」
汀は息をついて間を空け、本題を告げる。喩はそれに頷き奥の部屋へと繋がる扉を見つめる。
「行ってらっしゃい」
「……はい」
一度、唾を飲み込んでから扉を開く。
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