第33話 受

「ははは……、何、それ。そんなのって、そんなことって、あり得る?」

 全て真逆だった。

 誰かに裏切られないように人と関わらないようにして、決して異能の力をバレないようにしていたというのに。

それも確かに一つの方法である。しかし、最も遠回しで最も正解に遠く最もくだらない、そんな馬鹿げた方法だが。

「その失礼は承知なんですけれど、どうして気付かなかったんですか? 喩の頭ならそんなことくらい……」

 皐が抱える事情を数少ない情報だけで言い当ててしまった喩が、何故ここまで単純なことに気付かなかったのか。

 そんな皐の純粋な問いに、喩は少し考える。

 誰も言ってくれなかったというものが大きいのだろう。例えば汀ならば、こんな単純な事実は知っているはず。

 どうして汀は教えてくれなかったのか、と汀を責めそうになって気付く。

 汀はこれまでに何回か、何かを言おうとして言いとどまっていたではないかと。

 恐らくそれが、今回のこの事実なのだろう。汀はこの事実を告げるタイミングを見計らっていた。

 冷静に考える。

 今のこの状況なら、つまり異能の力を持たない人間が異能の力を受け入れているというこの状況ならば、異能の力を持たない人間が異能の力を受け入れることができるということも受け入れられる。

 しかし、汀が言い淀んでいたのはそれらの状況がない時だった。その状況で汀に言われたとして、自分はそれを信じることができるか。

 そう考えると汀が言わなかった理由を喩はすんなりと理解することができた。

 弌と笑が受け入れてくれなければ喩は絶対にそんなことを信じなかったと断言できるからだ。そんなものは世迷い事で、そんなものは綺麗事だと言っていただろう。そして、そんな風な言葉を自分に押し付ける汀を警戒し、異能の力を持つ人間を警戒し、より一層頑固に人間を信用しなくなっただろう。

 結局のところ、喩はずっと勘違いを、思い違いを、そして大きな間違いをしていたのだ。何故かと答えれば、簡単だ。

「怖かったんだ。裏切られるのが。だから僕は異能の力の性質を言い訳に使ったんだと思う。異能の力のせいで、僕は裏切られないように誰かを信頼せず信頼されない状態にならないといけないって、僕は自分自身を守ろうとしていたんだと思う」

 結局、自分も人間なのだ。状況を都合よく利用して自己肯定をする。自己の正当化をする。

「ねぇ、喩。私達からお願いがあるの」

「ああ、聞かせて貰いたい話がある」

それは広報部としてではなく、喩のクラスメイトとしてであり、友人としてであり、親友としてのお願いだった。

 内容は実に簡単。

「これまで喩が何をして来たのか、全部を聞かせて」

「俺達に喩が抱えているものを、共有させてくれ」

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