第29話 記者達の混乱

 公園に【転移】し終えると、喩はそのまま崩れ落ちた。声も上げられず、繰り返し殴られているかのような鈍痛に悶絶する。あらゆる思考が頭痛によって打ち消されていく。

 そんな喩の近くで、弌も笑も戸惑いの声を漏らしていた。

 瞬間移動。それを目の前で見せつけられ、尚且つ体験した。理解不能で理不尽。何が起きたのか分からず、立ち尽くすのみだった。

「何が、起こって……?」

「皐……、それに圭。これって、一体何が」

 笑が、しばらく経って皐と圭を認識し、その声によって弌も二人を認識した。

「はぁ……、さて、どうするかねぇ。零が言っていたことと、多少の食い違いが起きちまってるし、零はどっかに【転移】しやがったし」

 と、圭は面倒臭そうに嘆き、ポリポリと頭を掻く。零が全ての主犯で、圭はそれに協力したのだと白状しながら。

「圭、答えろ。今、何が起こっているんだ?」

 圭が何かを知っていることは、何も分からない笑や弌にも分かった。笑が尋ね、弌は同意するように頷く。

「そうだな、俺達のある意味の悲願であり、零の悲願であり、喩の心的外傷――トラウマのリプレイってところか。具体的なことは神のみぞ知るけどな。……ああ、でも、神もこうなることは知らなかったか」

 そう言って圭は喩へと視線を移す。

 目的を達成したからなのか、それとも現状から逃げようとしたのか、喩は既に意識を失っていた。悪夢を見ているのだろうか、表情は歪んでいる。

「ったく、この馬鹿のせいで軽く予定が狂いやがった。本当に迷惑な奴だよ」

 教師あるまじき発言をしながら、圭は喩と微動だにしない涙を担ぎあげ、その場を去ろうとする。

「おい、待てよ、圭!」

 そんな圭を笑はそう言って呼び止めるが、その次の言葉が浮かばない。何を言えばいいのか分からなかった。今、この場においての正しい答えが導きだせなかった。

「お前らが喩を拒絶しないなら、喩が話してくれるだろうよ。だが、これ以上、少しでもお前らが喩を拒絶したなら、喩は何も話さないぜ。お前らだけじゃなく、誰にも心を開かなくなる。明日、学校に来い。大まかな事情くらいは説明してやる。だけど、詳しい事情はお前らが喩から直接聞き出せ」

 そう言って、圭はその場を去った。

 笑は何も言い返せず、弌も何も言えなかった。ただそこにいるだけだった。

「弌さんに笑さん。これはただのお節介です。無視しても構いませんが、それでも聞いてください。喩はとてもいい人です。名前も知らない子供達のことを真剣に考えてあげられるくらいに。それによって私達は救われました。ですから、怯えないであげてください。……それでは」

 一礼して皐は圭とは違う方向へと去る。

 皐のそれはある種の恩返しだった。言葉による暴力的な方法だったが、感情任せのとても気に食わないやり方だったが、喩の説得は三人の子供達ことを真剣に考えてのことだった。だから皐は、喩に小さな悪感情と共に恩も感じていた。その恩を今、皐なりの方法で返したのだ。

 異能の力の性質である、異能の力を持たない人間が異能の力を知ってしまえば、異能の力を嫌悪するという呪いの、意外な攻略法を弌と笑に施したのだった。

 異能の力の呪を回避する方法。それが皐の持つ、異能の力の情報だった。

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