第27話 裏切り

 廃ビルの場所まで零は念の為にと【遠話】――どれだけ遠く離れていても会話が成り立つ異能の力で、言葉となる空気の振動を相手の鼓膜に直接送り込み合うというものだ性懲りもなくその理屈は分かっていない――で案内し、サポートの有能性のアピールを果たす。

 廃ビルとはいえ、荒れ果てているといった風ではなく、単に人気の少ないビルといった感じだった。むしろ、キチンと整備されており、人がいたという形跡も所狭しとあった。

「……そういう、ことか」

 ここで何かが行われている。

 人目を避けて、誰にも知られないように、密かに。

 それだけでもう、喩には一体ここで誰が何をしているのか、推測が付いた。

『そう。ここは最近噂されている、怪しい宗教の聖地とも言うべき場所かな。もう、分かったんじゃないかな、異能の力を持つ人間が今どうなっているのか』

「……奉られている、かな。聖地っていうのは、神が降臨したか、神が奇跡を起こした場所だからね。ならば、神がそこにいるっていう奇跡が起きている場所も、聖地に成りうる。そういうことでしょ?」

 異能の力を持つ者をそして異能の力を現人神と神の力として、奉る。もともとあった宗教にそんな力を持つ人間が現れれば、現人神であると認識してしまってもおかしくはない。

 しかし救出というからには異能の力を持つ者は救われない状況に陥っているということになる。だから、奉られている。敬語ではなく受け身の形。望まぬ形で、異能の力を持つ者は利用されている。

『正解。流石だね』

 喩の言葉を肯定すると同時に情報を付け足す。ビルの中を逐一、まるで喩に思考の隙を与えないかのように案内しながら。

『三階まで上がって、階段から出て左』

「了解」

『異能の力を持つ者は、精神が壊れたまま異能の力だけを発動させ続けている。それを現人神が起こす奇跡だって、信じ込んだ人間が宗教を作った』

 それが巷を微かに匂わせた噂の宗教の正体。そして――そこまで考えた所でまた零が思考を阻むように語りかける。

『ああ、そこ右ね』

「……言われなくても分かってる。声が聞こえるから」

『その扉の先に、救出対象がいる。分かりやすいと思うから、それをさっさとここまで連れだして』

「分かった」

 扉に手を掛けた音を聞いてか、零は一つ情報を付け加える。

 そうそう、とまるで今思い出したかのように、しかし、思い出す訳が、つまりは忘れる訳のないその情報を。

 タイミングよく、目の前に救出対象が喩の視界に入ったその瞬間に、その言葉が喩の耳に入った。

『救出対象の名前はね。――天命涙って言うの』

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