第11話 逃走劇 転結

「喩、捕まろう。捕まって、取材を受けよう。上手いこと私がフォローしてあげるから。だから捕まって、みんなに私と喩が付き合っていることを認知されよう」

「……は?」

「二人は夏休み中も広報部の活動をしているんでしょ? ってことは、何らかの方法で広報部は夏休み中でも記事を発表しているってことじゃないの?」

「うん。掲示板みたいなのを作って、そこで記事を発表したりしているよ」

 会員制の少し特殊な掲示板。それを使って広報部は夏休みなどの間でも記事を発表したり、タレコミや相談ができるようになっていたりしている。アカウントは第二高校の生徒にしかログインできない仕掛けになっていて、個人情報などの扱いもちゃんとしている、らしい。

「じゃあ、一つ目の対価、それで一発で終わるじゃない。こんなに情報網があるんだから、二人が広報部として私達が付き合っているっていう記事を出してくれたら、それで終わりってことでしょ?」

「無茶苦茶だ!」

「はい、決まった。決まったからには行くよ」

 急に立ち上がり、そんなことを言いながら零はカーテンを開ける。

「え、嘘、ちょっと待って……、ああ、もう、僕に拒否権はないの!?」

「ないっ!」

 ハッキリと言い切り、零は両手を上げた降参ポーズで試着室を出る。それを見つけた一人がスマートフォンを操作するのを見て、喩にしか聞こえない程度の声で零は、引っかかった、と呟く。

 零は目をスマートフォンに向けた一瞬の隙を突いて、見事な走行フォームで近付き、スマートフォンを手に取る。

「なるほどね、グループトークか。確かに、これなら都合がいいもんね」

 合点がいったように呟きながら、零は画面を操作していく。表示されていたのは百五十人以上の人間が入っているグループトーク。どうやらこのグループトークで今回の情報網を管理していたらしい。

 適当にこれまでのトーク履歴を遡った後で、零は三つ程メッセージを入力して送信する。すると弌と笑から返事が返り、それでグループは解散となっていく。

 零が送ったメッセージはそれぞれ、取材を受けるという旨、喩と零と弌と笑の四人だけで話したいという旨、そして取材を受ける場所の指定、だった。

「はい、ありがと」

 スマートフォンを返すと零は、喩の方を向いて手招きをしてから上を指差す。

「喩、行くよ」

「どこに? 状況が掴めないんだけど」

「五階。ゲームセンターの下の階。さっき逃げる時にちらっと見たけど、あそこにフードコートあったでしょ。そこで取材を受けるの。運動もしたし、お腹も空いたでしょ? ついでにお昼ご飯にしようよ」

「ゲームセンターでお金がすっからかんだって、さっき言ったよね?」

「喩の銀行口座にお金が結構あるのを、私は知っているよ」

「だろうね」

「まぁ、私も結構持ってるし、奢ってなんて言わないよ」

「それは別にどっちでもいいけどさ」

「あ、じゃあ、奢って」

「……言わなかった方がよかったかな」

 はぁ、と溜息を吐いて、設置されているATMでお金を引き下ろす。念の為にお金は多めに下ろして、先にフードコートへ向かった零の後を追った。

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