分かれ道の先で 4/6

「おい蜂須賀! テメエなにサボってんだよ!」


 それは、私を回収するはずの蜂須賀と、『暗殺銃』の小菅こすがの女2人だった。


「おお? この声は帆花ちゃん! いやいや! 時間つぶししてただけだから!」

「嘘つくな!」


 蜂須賀の登場に動揺したのか銃撃が止まって、私はその隙にまたさっきの要領で3人を仕留めた。


 前方の扉が開いていたので、どうやらそこで小菅とよろしくやって待っていたらしい。


 それを確認したところで、また追加の兵隊が3人出てきて弾幕を張ってきた。


「ちょっと芙蓉ふよう! どういう状況なのよこれ!」

「蜂須賀! 説明してやれ!」

「はいよ!」


 多分蜂須賀が説明している間が開いて、


「ちょっとー! 何に巻き込んでくれてんのよ!」


 とんでもない面倒事に巻き込まれた事を知った、小菅がキーキーとやかましくブチ切れてきた。


「知らねえよ! 恨むなら腰振られに来たお前の運を恨め!」

「まあまあ! 2人とも!」

「元はと言えばあんたが誘ったんでしょ!」

「乗ったのはオメーだろ! というか、この前のうんざり、みてーな態度は嘘か!」

「あっ、明日1日オフだから良いのよ!」

「どっぷりはまってんじゃねーか!」

「仕方ないじゃない! 下手にキメてやるより気持ちいいんだもの!」

「まあ良い! とりあえず乗りかかった船だ、てめーら手伝え!」


 銃声がこっちに近づいてきたので、そんなクソみてえな不毛なやりとりをぶった切って、色ボケコンビに半分命令する様にそう頼んだ。


「ひゃっほう! 帆花ちゃんの頼みなら全力出しちゃうぜ!」

「弾代出しなさいよね!」

「『情報屋』に請求してくれ!」

「全力出しちゃうぜ!」

「了解!」

「無視しないでぴょん!」


 蜂須賀のアニメみたいな裏声は無視して、小菅にだけそう答えた。


「……」


 アホが飽きて黙ったところで、また弾幕が薄くなったので、私は銃と顔を出して援護で撃ってるやつ2人の眉間を撃ち抜いた。


 それに一瞬遅れて、リボルバーの派手な発砲音と、22口径の地味めなそれが続いて、弾倉を交換して出てきたあと2人をそれぞれ仕留めた。


 弾の心配が無くなって、3人がかりで12人程仕留めた頃には、相手も流石に学習して撃つときに顔を出さなくなった。


 当然、そんな小細工をすると射撃の精度が落ちるので、私は余裕で身体を半分ほど乗り出した。


「舐めてんじゃねえぞ! このオキアミ共が!」


 ゴーグル型の眼鏡を取って、左目の超視力で3つの銃口の位置を見ると、それぞれに銃弾を正確に撃ち込んだ。


「ぎゃあ!」

「ぐがあ!」

「ぐばッ!」


 狙い通り小銃が暴発したようで、相手の血しぶきが角の壁に飛んだ。


「ひッ!」


 後ろに控えているであろうヤツが、それにビビった様でなんとも情けない怯え声を出した。


「そこか!」


 私はその声の位置に向かって高めと低めに2発撃ち、角の影に向かって行く様、2回壁を跳弾させた。


「あがっ!?」


 声の主らしき短い断末魔だんまつまと、どしゃ、という鈍い音がした。


「こんなもん、一発ヤる引き換えに――」


 うるせえくたばれ、このタマから生まれたクソ野郎が。


「なるぎゃああああ」


 ふざけた事を抜かしたヤツに、同じ方法で鉛玉を喰らわせた。


「ば、化け物……っ!」

「うわああああ!」


 他の後続が、それを見て完全にじ気づいたらしく、若い男のつぶやきと同時に逃げていく足音がした。


「ケッ、この腰抜け共が」

「芙蓉あんた、チャカ撃ちの変態具合に磨きかかってない?」


 んだと、小菅テメエこのヤロー。


 変態呼ばわりされたのは置いといて、中途半端に穿いた作業着ズボンからケツがでている蜂須賀を連れて、侵入口の様子を見に行った私は、警戒しながら角から頭を出す。


 天井やら壁に血が飛び散っているのと、床に引きずった血の跡があるぐらいで、後は薬莢やっきょうが散らかってるだけだった。


「どうだった?」

「もう誰もいねえが。……テメエ、なんつう格好してんだ?」


 蜂須賀がいた部屋まで引き返すと、小菅は下着の体をなしてない、どこもかしこもスッケスケな赤いランジェリーを着ていた。


「いいじゃないの、なに着てても。文句ある?」

「いや、思った以上にノリノリで引いてんだよ」

「あんたもあの銃職人とどっぷりヤるときなんか着ないの?」

「着ねえよ! ふみは地味なヤツの方が喜ぶんだよ」

「じゃあ、仮に派手好きなら着るでしょ?」

「だとしても、そんな成金がはべらせてるヤツみてえなの着ねえよ」


 そんな非常にしょうも無い下の話をしていると、


「えーっと蜂須賀さんや、書類の方をだね……」


 オッサンが非常にいたたまれない様子で、隣室のドアの影からバインダーとペンを出して、ニコニコして話を聞いていた蜂須賀を呼んだ。


「あーごめん、忘れて――ッ! 2人ともこっちに!」


 駆け寄っていった蜂須賀が、警告すると同時に、覆面を被った兵隊が突入してきた。


「――ッ」


 ナイフをもったそいつの足が、もう私の目の前まで来ていて、迂闊うかつにも多少気が緩んでいた私は、蹴りを腕で防ぐしか出来ず吹っ飛ばされた。

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