暗黒の楼閣にて 2/3
「えっと……、え……?」
状況が飲み込めてないガキは、目を白黒させてキョロキョロしている。
私はひとまず、ギターケースの中から銃が二丁入った、腰用のホルスターを出してそのベルトを締めた。その
そのタイミングで、何があったか把握しているだろう、私の雇い主サマの宗司から電話がかかってきた。
「今どういう状況だ?」
『おっ、やっぱり巻き添え喰ってたか』
「おかげさまでな。で、状況は?」
私がそう訊くと同時に、店の中の方から銃声が聞こえた。
『お前もなんかこう、ついてね――』
「質問に答えろ! このクソボケ!」
宗司はこういうとき、急かさないと関係ない話を延々続けるので、私は遮るように怒鳴る。
『まあそうキレるなって』
今教えてやるから、と悪びれる様子も無く言った後、宗司は現状を簡単に説明しだす。
宗司が言うには、私の足元で震えてるガキを誘拐するために、武装集団が強盗のフリをして店に立てこもって、賑やかしてる内にガキを攫うって寸法らしい。
私の予想だと、そいつらは多分、あそこでガキの脚でも撃って、楽にとっ捕まえる算段だったんだろう。
……回りくどい連中だな。おい。
人数は30人ぐらいで、陽動に10、実働に20に分けてあるらしい。
毎回思うが、宗司はどうやってここまで調べられるんだ……?
「んで、私は時間稼ぎでもすればいいのか?」
その疑問は一旦忘れて、私は銃をチェックしながらそう訊ねる。
「おう。1時間弱でなんとかしてやるから、それまでやってくれ」
私は宗司に、了解、と返事をした後、
「残業代よこせよ」
と言い、通話を切ってサイレントマナーモードにした。
暗視ゴーグルを出してケースの蓋を閉めた私は、立ち上がってそれを肩に担ぐ。
さーて、ガキをどっかに隠さねえとな……。
ガキ引き連れて歩いてたら何かと邪魔だし、そもそもコイツが敵のターゲットだ。
前に1回、友達の
「あっ、あの……。僕はどうすれば……?」
急にしおらしくなったガキが、オドオドした様子で私にそう訊いてきた。
「とりあえず黙って私に付いてこい」
そう言った私は、ガキの手をつかんで立ち上がらせると、暗視ゴーグルを付けて暗くなった店の中を慎重に進む。
「えっと、さっきは……」
「気にすんな」
それより黙ってろ。敵にバレる、と言うと、ガキは小声で、はい、と返事した。
「……っと」
前の方でライトがちらつくのが見えて、ガキと一緒に展示物の影に隠れる。
「この階に居るはずなんだよな?」
「おう。良いケツをした女と一緒らしい」
私についての教育に悪い話をしながら、武装した男二人が通路を通り過ぎていった。
あいつら、後でタマの1つでも潰してやろうか……。
少し待ってから、誰も居ないかを確認して階段へと向かった。
最大限警戒しながら3階に降りて、階段出てすぐの所にあった家具屋のエリアに入る。
そこには、タンスとかソファーがズラリと並べられていて、奥の仕切り壁沿いに家具の配置例の展示スペースがある。
エリアの真ん中辺りにある、観音開きの戸が付いた、大人が1人入れる大きさタンスを見つけた私は、その中にガキとギターケースを隠した。
「ここで待ってろ。何があっても、絶対に動くんじゃねえぞ」
「はい。……でも、あなたは?」
素直に頷いたガキは、心の余裕が無いくせに、生意気にも私の心配をしてきた。
「心配すんな。とにかく静かに待ってろよ。いいな?」
「はっ、はい……」
ガキが返事したのを訊いた私は、背中のチタン製の入れ物から、昔から使ってる銃をガキに渡した。
「別に撃てなんて言ってねえ。お守り代わりだ、持っとけ」
受け取ったガキは困惑していたが、私はそう一方的に言って戸を閉めた。
「さて、ちょっくら暴れてくるか」
と、かっこいい独り言を言ってキメたまでは良かったが、
「あがッ!」
「こちら12番。女を確保した」
「うっ……、ぐ……。クソ……ッ」
それから3分もしないうちに、敵の男に不意打ちを喰らってあっさり捕まった。
*
てなわけでいつも通り、あっさりと敵の手に落ちてしまった私は、拷問でサンドバッグにされてるわけだ。
「う、ん……ッ。あっ、あ……」
「へへへ、そろそろ良い具合だな」
……もうすぐ『サンドバッグ』から、違うモノになりそうだが。
すぐヤられるかと思ったが、敵連中が誰が1番先に私へ突っ込むかでもめ始めた。
下半身主導野郎共は、年長者が優先だろ、とか、若い方が早いから先に、とかグダグダやって、最終的に全員でじゃんけんを始めた。
「よっしゃ! 俺いっちばーん」
「出したら早く代われよお前」
「へいへーい」
人数が多かったおかげもあって、多分、宗司が言った時間は稼げたはずだろう。
1周目ぐらいで救援が来れば良いんだがな、と考えながら、ふと出入り口の方を見ると、
――って、何やってんだあのガキは!?
そこには大きめの消火器を片手に、中の様子を覗うあのガキと目が合った。
黄色のピンは抜けていて、ハンドルを握れば中身をまき散らせる状態になっている。
ガキの考えを察した私は、目を閉じてから、やれ、と首の動きで合図して口を閉めた。
「さあて、楽しま――。うわっぷ!?」
「な、何だぁ!」
「ウワァー!!」
「く、口が渇く……ッ!」
直後、ガキが消火剤を発射して、クソ野郎共は大パニックに陥った。
「お姉さんこっち!」
その隙に、私は特技の縄抜けで拘束を解き、ガキの声を頼りに、出入り口へと全力で走る。また前の雇い主のプレイが役に立ってしまった……。
倉庫の外に出た私は目を開けて、出入り口の横に立て掛けてあった、連中の小銃を拾って構える。
「くたばれ! この発情期の猿共がああああ!」
「ぎゃああああ!」
「ぐがごッ!」
「アババババ……」
狂ったような笑い声を上げながら、私はクソ共に銃弾をこれでもかと浴びせた。
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