暗黒の楼閣にて 1/3
「ちっ。強情なヤツだ」
「うぐ……っ」
私はショッピングセンターの在庫を入れる倉庫で、いつも通り監禁されて拷問を受けていた。
全身を馬の尻をひっぱたくヤツで打たれ、全身がヒリヒリと痛む。
そこには私の他に、目の前のヤツを含めて15人くらいの男がいて、そいつらは鼻息を荒くして私を眺めている。
天井を
ドラッグをうたれたせいで、視界がぐらついて気持ちが悪い。
「ガキはどこだ、吐け」
「さあ……、知らねえ――、がはッ!」
とぼけた様にそう言ったら、目の前にいる、特殊部隊風の服装の男に腹をぶん殴られた。そのあと、
「うッ……。あッ! がッ!」
打たれる度に呻き声を漏らして
「は……、う……」
「どうだ、答える気になったか?」
しばらく叩き続けた男は、ぐったりする私の前髪をつかんで、顔を強引に上げてもう1度そう訊いてくる。
「……」
「ほおー、まだそんな気力があるのか!」
私が無言で男を睨み付けると、そいつは逆の方の手で私の
それで口の中が切れたらしく、鉄の味がし始めて、口の端から多分血の混じった唾が漏れ出た。
まだ睨み付ける私に、男がもう1発張ろうと振りかぶったタイミングで、
「おい、水持ってきたぞ」
連中の仲間の1人がそう言って入ってきた。
そいつは、食料品売り場から持ってきたらしい、2リットルの水の箱を私の足元近くに置いた。大方、これで水責めでもする気だろう。
「ご苦労。よし、お前らコイツの頭持ってろ」
他のヤツらに髪を持つのを引き継がせて、男は箱の中身を取り出して開封する。
あー、やっぱりか……。
「テメエもバカだな。さっき吐いとけば良かったんだぜ」
私は口を真上で固定されて鼻をつままれ、無理やり口をこじ開けられたと思ったら、ボトルを逆さまにして水を一気に流し込まれた。
「あぶっ! こは……ッ!」
口からあふれ出した水が流れ落ち、胸元から薄いウエットスーツのような戦闘服に入ってくる。
上下両方の下着をビショビショにして、床に水たまりを作る。
「ヒャッハー! 漏らしてるみてえだなぁ!」
「実は、マジで漏らしてたりしてな! ヒヒヒッ」
畜生……。好き勝手言いやがって……。
今すぐにでも、そいつらのアホ面に鉛弾を喰らわせてやりたいが、何も抵抗するすべのない今の状況ではどうにもならない。
最初のボトルが空になって、責めが中断された隙に息をするが、むせかえって半端にしか呼吸が出来ない。
「おらもう1回!」
「う……ッ お……ッ」
そうしている内に再開されてしまい、また溺れた状態になる。
「いい加減、吐く気になったか?」
それを6セット繰り返した男は、もう1度何分間か鞭打ちをした後、私の顎を持って顔を上げさせて訊いてくる。
「だ……、れが……」
「このアマ……っ!」
私が酸欠気味でもまだ反抗するからか、男はもう1箱持ってくるように言ったが、
「まあまて。そうするより、女相手にはもっと『良い手』があるだろ?」
「んっ、ん……」
連中のリーダー格らしき男が、そう言いながら近づいてきて、私の尻を後ろから揉んだ。
……やっぱり、そう来るか。
俯いている私の視界に、正面の男の膨らんだ股間部分が見える。下品な忍び笑いが周りから聞こえるので、たぶん、男共はそういう目で私を見ているのだろう。
これはそろそろ……、覚悟した方が良さそうだな。
前のファスナーを下げられながら、私は奥歯をかみしめる。
それを1番下の位置まで下ろされると、連中の1人が縄をつかんで私の身体を引き上げる。手首への縄の食い込みが強くなって、私は顔をしかめる。
「う……っ」
「うひょう、これは上物だ」
「へへっ、たまんねえな」
案の定、野郎共は揃って鼻の下を伸ばしていた。
どいつもこいつも息子を元気にしやがって……。後で覚えてろよ……。
さて、あのガキがまだ見つかってないと良いが。
自分に向けられる劣情を意識の隅に追いやって、私はこういう目に遭う原因になった、クソ生意気なガキの事を思い浮かべた。
そいつがいなけりゃ、今頃は事務所に帰って、自分の部屋でシャワーでも浴びている頃だったろうな……。
*
とあるデパートの屋上から、いつも通りターゲットを狙撃し終えた私は、夕闇に紛れて帰ろうとしていた。
夕方って言っても、夏真っ盛りなせいでやたらと蒸し暑い。
「夏用つっても、結構蒸れるじゃねえか……」
そうぼやいた私は、ライダースーツっぽい戦闘服のファスナーを、胸元の位置まで下げる。
やっぱり、上と下に別れてるヤツにすれば良かったか……。
いつものが暑いと、今の雇い主の『情報屋』・天谷宗司へ毎日ごねて、夏用の戦闘服のを発注してくれた
だが用意されていたのは、チャリレース用っぽいのと今着てるヤツの二つ以外、ネタに走った物ばっかりだった。
それにブチ切れた私は、危うく宗司に鉛弾ぶち込みそうになった。
500の水を四分の1ほど一気飲みしつつ、そんなしょうも無いことを思い出していた私は、
さーて、とっとと帰るか。
銃が入ったギターケースを担いで、裏の非常階段を足早に降り始める。
すると、屋上の二つ下の四階へと入るドアから、そこそこ金持ちっぽい格好をした、十代前半ぐらいの男のガキが出てきた。
「どうしたお前、迷子か?」
スルーするのもなんだと思って、私はそいつに一応話しかけてみた。
「僕未成年なんで、手出したらお姉さん捕まりますよ?」
「誰が出すかこのクソガキゴラァ!」
そうするとそいつは、下品な物を見る目で私を見て、そう言ってきやがった。
クソ、話しかけるんじゃ無かった……。
「その見てくれでそう言われても、説得力無いですよ?」
ガキは私がキレても全く動じず、私の胸元を指さしてくる。
「人を見かけで判断するな、って親に習わなかったのかテメエ……」
私はファスナーを首元まで上げてガキを睨み付ける。
「身なりはその人の性格を表す、ってのが僕の家の家訓なんで」
「ああそう……」
これだから、小生意気なガキは嫌なんだよ……。
ガキのどや顔にむかついたが、コイツに構うと面倒くさそうなので、そこで会話を止めた。
「こんな所に居ねえで、早く家帰ってママの乳でも吸ってろ」
私は親指を下に立てガキにそう言った後、階段を降りようとした、
「……ん?」
そのとき、後ろから銃で狙われてる気配がして、私は右目を閉じてから眼鏡を上げて振り返った。
すると、デパートの向かいにあるビルの窓から、狙撃銃の銃口がいくつか覗いていた。
「――ッ!? おいガキ! こっち来い!」
私はとっさにガキの手を引っ張って、店の中へと飛び込むと、ドアを閉めて鍵をかけた。
ドアの中はバックヤード倉庫で、コンクリートむき出しの壁が、黄色がかった蛍光灯で薄く照らされている。
その直後、鉄製のドアを銃弾が何回かノックすると同時に、店の照明が一斉に消えて非常灯が灯った。
……どうやら、また厄介なことに巻き込まれたらしい。
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