素材の苦味はそのままに

◇◆◇◆◇◆◇◆


「いいじゃん。彼氏くらい作っとこうぜ。思い出作り大切じゃん」


「そーそー」


「や、やだ! ……だから恋愛とか嫌なのよ! 」


無理矢理腕を掴まれ、バシッと叩いた。

あらら……。


「……! いい気になりやがって……! 」


腕を振り上げ、ビクッと身構える。

……と、その腕に待ったが掛かった! いいタイミングじゃないか!


「……いい気になってるのは、てめぇらだろが! 」


息切れをしながらも睨み付ける姿。いいねぇ、ヒーローじゃないか。


「な、なんだよ! そこまでいきり立つことじゃねぇだろ……」


「ほんっと、ムキになんなよ。興醒め~行こうぜ」


ま、日常は友だちだから、喧嘩には発展しないか。拳で語るなんてノンフィクションに期待しちゃならない。友情は友情で大切にせねば、な。


「奈緒子、大丈夫か? 何かされなかったか? 」


おや? 心配顔の少年と違ってお嬢さん、睨んでいるね。


「……助けてなんて言ってない。なんで拓斗来たのよ? マリーとデートはどうしたのよ? 」


様子がおかしいな。嫉妬、のようにも取れるが……。


「助けるのは頼まれてするもんじゃないだろ? マリーには悪いけど、奈緒子が心配だったから……」


「私を助けて拓斗の何の得になるっていうのよ! 」


「損得の問題じゃねぇだろ?! 」


おやおや、こちらの喧嘩が始まってしまったね。中々円満には進まないようだ……。

これは想定外。だが、これ以上の"干渉" は……痕跡が残ってしまう。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「……さて、マリー」


一度本から目を離し、マリーに振り返る。


「なぁにぃ? ヴァーバラ」


一緒に見ていたはずのマリー。いつもと変わらずにヴァーバラを見つめる。


「フィクションは流れが読みやすい。しかし、ノンフィクションはわからないからこその醍醐味がある」


「……今の状況に混乱してるぅ? 」


遠回しな主の言葉に直球で返す使い魔。


「……うむ」


「大丈夫だよ、ヴァーバラ☆ 二人は"幼馴染み"じゃない~♪ 奈緒子チャンの怒りは自信のなさから来るもの。宮藤くんがぁいくらストレートで言ってもぉ、数を当て続けなきゃ響かないかなぁ。だけどぉ、宮藤くんはぁもう後に引けないのぉ。でも、奈緒子チャンは頭がいいからぁ、ね? 」


可愛く片目を瞑ってみせる。


「……少年の頑張りによる、時間の問題ということかい? 」


「うん☆ 数十分から数時間てとこかなぁ♪ 暫くはぁ、堂々巡りぃ☆ 喧嘩しないカップルよりぃ、喧嘩するカップルの方がぁ、お互いを~理解できると思うなぁ☆ 」


いつもの怪しい笑みが復活する。


「……ふふ、人間とは実に面白い存在だ。テンプレートを期待したが、逆も然り。我々には時間がある。"痴話喧嘩"とやらを堪能しようではないか」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あんたっていっつもそう! 迷惑なの! わかる?! 私なんか構わなくたっていつも可愛い女の子がいるじゃない! 何? 憐れみのつもり?! 」


「何で心配しちゃいけねぇんだよ?! 俺何かしたかよ?! 」


はいはぁい♪ ヴァーバラじゃわかりにくいのでぇ、マリーが解説しちゃうよ~。

自分に自信がない女の子ってぇ、意外と付け焼き刃で達観しやすいんだよねぇ。奈緒子チャンは尚更かなぁ? 元々奥手な女の子ってぇ、身近な人を好きになりやすいだけどぉ、モテ男じゃ無理もないよねぇ。……でもねぇ? きっと奈緒子チャンはぁ、うふふ。


「知らないわよ! もう止めて! 」


頭を抱えてうずくまる。


「……他の女がどうと関係ねぇ! 俺は! おまえが好きなんだよ! 」


きゃー! 今からマリーの大好きターンだよ! がんばれぇ! 宮藤くーん!


「な……。そ、それは幼馴染みだから、でしょ! 高校生にもなって子どもっぽいことやめてよね! 恥ずかしい! 」


勢いで立ち上がる。


「女より男がガキっぽいのはわかる! だけど、俺は本気でおまえが好きなんだよ! ずっとおまえだけが好きなんだよ! 」


「な……に言ってるの? バカじゃないの。私なんか地味だし、愛想ないし……」


気弱になり、顔を反らしながら壁に下がる奈緒子の肩を優しく、しかししっかり掴む。


「……んなこと知ってる。ちびんときからずっと一緒にいるんだから」

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