この秋からこの秋へ

鏡は見ていた。幾度の朝と夜を。世界を満たす日の光を、夜空に輝く星々と、満ちては欠けていく浮かぶ月を。なんの感慨もなく鏡は映るものを映すだけ。


くすんだ鏡が見てきたのはいくつもの始まりと終わり。そこに映り込んでいた姿はいつか消える。実体が失われても鏡にはその姿が積み重なって記憶のように記録されていった。宿っていた存在が人に移されて、鏡が与えられた役目を終えてからもそれは続いた。


鏡には自分などない。それでも「神」となった人は幾度も鏡に語りかけてきた。わたしらしさとはなにか。そんな問いの答えとして人が「神」として切り捨てようとするものを拾い上げて覚えていった。理由はなかった。映り込んだからただそうしただけ。鏡は何もしない。その問いに答えることも、何かを伝えることも。


ふたつの終わりを見た。鏡にとっては良いも悪いもない出来事。ただ映るものを映す。何を掬って何を掬わないのかの峻別はない。映ったものを掬い取るだけ。


未来を語った者たちが未来に辿り着けずに消えていく。それでも人々は望むことをやめようとはしない。答えられることもなくて伝えられることもない。鏡には語りかけた者たちに代わって望みを叶えるだけの力と役割がないのだ。


拾い上げたものはどこにも行き場所がない。ただ鏡の中に重なって積み上げられていく。どうしてそんなものを拾い上げてきたのか。掬い取っただけの想いに「救い」の意味はあったのか。


語りかけるものがいなくなって、鏡はその存在を忘れられた。遙か千五百秋ちいおあきの時が過ぎ、その姿形を失って世界に解けて消えてなくなるとき、鏡の中に残った想いはどこへいくのだろう。


見つめるものがいた。積み重なった想いに触れられるものが現れた。鏡には掬いあげてきた想いの全てをその内に留めておくだけの力を失っていた。悠久の時を越えて抱え続けてきた想いが溢れ出した。


そのとき、鏡は何かをなしたのだろうか。だとすれば、それは鏡なのか。


――わたしは、誰だったのか。

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