第9話 視能訓練士って何なの?

「でも、お前、視能訓練士の国家試験に合格してないんじゃないの?」

「今年は合格するわ!」

「3年目、4年目?」

「まだ、合格してなきゃ、卵にもなっていないじゃないのか」

「余計な、お世話よ!」

「1年コースは難しかったのよ!」

「普通は高校出てから3年間も勉強するのよ」

「範囲が広いんだからね」

「物理でしょ! 生物でしょ! それに、病理でしょ!新しいことばかりで、いきなり試験でしょ! 堪らないわよね」

「所詮、無理があるね!」

「看護士などの有経験者が多いのよ! 1年コースは……。そこで、いきなり試験なんだから、合格するのは至難の技だわよね」

「技術も伴わないしね」

「頭では解っていてもね。技術が伴わないから、無理があるのね」

「視能訓練士って、目の検査をする人のことでしょ?」

「そうなのよ! 眼科医と同等の医学的な専門を求めるのだから、大変なのよね」

「そうか、眼科の専門医と同等のテストなんだからね」

「そりゃ、難しそうだね」

「そんな大変な試験なの?」

「そうよ! パパだったら、即刻、不合格ね!」

「そりゃ! 無理だよな。73歳だから、ボケ老人だからね」

「耳も遠いし、目も悪くちゃあね! 無理よね」

「俺も挑戦するか!」

「辞めた方がいいと思うわよ」

「バカにするのか。俺だって、九州への単身赴任と時に、2回、日本で一番難しい司法官試験を受けたんだかrね」

「ただ、受ければいいというもんじゃないのよね。合格しなければね」

「勿論、落ちたけどな。専門の塾や学校へ行ってないと合格は難しいよな」

「国語の読解力が難しいからね。5問の内の同じような答えから1問選ぶんだけど、みんなが同じようで、言葉のアヤがあるんだから、何が何だかさっぱり分からないんだな」

「試験によっぽど強くないと合格は難しいね」

「視能訓練士の試験にはコンタクトレンズまで出るんだから、試験の範囲が多すぎるのね」

「そうだな、理科系の学問、特に、物理と計算が入ってくるからね」

「文科系と理科系の両方の力が為される試験でしょ。それにマークシート方式なのよね」

「そうかTOEIC TESTもやだったけど、しっかり覚えていなければ、点数が上がっていかないからね」

「そうなんだね。アテズッポウでも出来てしまうしけんだからね」

<そうようね。マグレもあるからね」

「TOEICが満点でも会話ができないからね」

「発音がダメなのね」

「俺もケンブリッジ大学の実際の授業研修に出たけれど、アの発音だけで、5種類あるし、明確に唇や舌を使って発音しなければ通じないんだからね」

「TOEICのテストは発音は出来ないからね」

「英会話力のテストにならないんだな」

「マークシート方式は鬼門だよな」

「そうなのね。あんなテストで本当の力は解らないわよね」

「メガネのこともあるしね。レンズは物理だしな」

「1年間で学ぶにしては無理があるのよね」

「お前も良く頑張ってるから今年は合格だよな」

「そうだといいんだけどね」

「俺も協力してるから、今年は合格だよな」

「分かってるわよ。感謝してるわよ!」

「73歳ではじめての世界に飛び込んで苦労してるんだからね」

「去年に合格するところ、急に難しくなってね。今年はやさしくすると思うよ。きっと!」

「そうだと、いいんだけどね」

「本気で遣らなければ駄目だよな」

「何時も、本気で遣ってるんだからね」

「66歳という年齢かな」

「100歳でも脳は発達すると脳学者が言っていたよな」

「年齢は関係ないよな」

「テクニシャンにはなってるからね。人生の……」

「連想ゲームのように数字は何かに例えて覚えていると忘れにくいんだって、脳学者が言ってたよな」

「そのコツはあるわよね」

「鳴くよ鶯平安遷都」

「794年だろ!」

「絶対忘れないわよね」

「古い話だな!」

「冷たい数字の羅列もこれで覚える場いいんだよな」

「そうでしょうね」

「今年は行けるぞ!」

「去年の落ちた翌日からもう、アセスメントを遣っているからね」

「夜中の12時に俺がトイレに起きたら、ママが勉強してるから、吃驚したよな」

「明かりがついていたからね」

「寝たのは2時よ!」

「あまり無理はするなよな!」

「身体を壊すから、気をつけろよ!」

「ところで、モノモライは正式には医学用語で何というの?」

 豚平は門子にテストのつもりで訊いてみた。

「麦粒腫(hordeolum,stye)というのよ。霰粒腫(chalazion)もあるけどね」

「良く覚えているなあ! 合格だよな」

「麦粒腫は腫瘍脂腺、汗腺などの細菌感染症なのよ」

「昔は眼帯をしていたけど、今は遣らないな」

「交通事故などで危ないからね。距離感が片目だけでは解り難いからね」

「それに、8歳以下の子供には眼帯をしてはダメなの。失明することもあるのよ」

「エッ! そうだったの」

「だから、今は眼帯をしないのね」

「そうだったの」

「霰粒腫はMeibom腺の開口部の封鎖による無菌性の肉腫性炎症で高齢者は悪性腫瘍との識別が大切よね」

「イラスト眼科の本を見てるけど、にているけど、完璧だねえ!」

「頭、冴えているじゃないの。今年は合格だよな」

「エッヘヘ! そうだと、いいんだけどね」

「お前の良く細かい部分まで、覚えているな」

「見事だよな! 努力の賜物だよな」

「そういえば、昔、受験勉強の時に、夜更かししてて、さの翌朝にモノモライができたなぁ。 覚えてる!」

「目が疲れているからね」

「あまり、いじらない眼医者に行った方が治りがはやいよね」

「そうよ! 自分でいじらないことね」

「こすっゆたり、しちゃぁだめよね」

「目を休めて寝るのが一番よね」

「切開もあるけど、今はいい薬があるからね」

「清潔さがたいせつよね」

「モノモライの人の後の手拭いは絶対に使わないことね」

「そうだね。今はモノが豊富だからいいけど、子供のころは、手拭もろくになかったな」

「終戦後は貧乏したからね」

「誰の責任?」

「軍部に、満州の官僚共めがね、悪いんだな」

「今はモノが溢れ返っているじゃないの」

「石鹸なんか、俺なんか、疎開先の小川で流してしまって母親からしかられたのを忘れないなぁ」

「みんな貧乏でモノがなかったからねぇ」

「懐かしいな! 当時を想い出すとね」

「懐かしく思えることばねえ! モノモライなんてね」

「変な病名ね!」

「しかし、覚え易いからな」

「忘れないわね」

「麦粒腫なんていわれてもピンとこないけど、モノモライというと直ぐに連想がスムーズなんだな」

「そうね。病名と病気が直ぐに一致するからね」

「流行り目とかさ!」

「日本独特の病名ね」

「そういえば、昔からあるからね」

「子供の時から覚えているからね。絶対に忘れないよな」

「そうそう! 一般的ですものね」


 1月も過ぎて大分馴れてきた豚平は2月に入った朝に、雪が降り、ラジュアル・タイアに替えてはいるが、帰りが心配された。

 診療所に着くとエンヤの映像が流れていて、癒し系の曲も同時に聴こえてきていた。外の雪はシンシンと降り注いていた。マリとエリの姉妹は最寄の駅まで自家用車でお父さんに送って貰ったが、かなり遅れて診療所に着いたのだった。

「こんにちわ! 大丈夫かな! 帰りが困ったな」

「バスなので、自家用車で駅まで、父に送って貰ったんだけど、混んでましてね渋滞でなかなか進まないんですよね。電車も動かないので、別の路線の電車で来たんだス」

「そりゃ大変だったよな」

「俺の車もスリップしたし、他の車は一回転していたな。事故だったよな」

「ギリギリ、間に合ったけどね」

「それにしてもこの振り方は異常だね。今日は積よ。帰りが困ったな」

「あまり、雪が多いので、先が見えませんよね。

「そうなんだね。スピードも抑えながらじゃないと追突事故になってしまうからね」

「運単していても前が見えにくいからノロノロ走ったよね」

「1月は雪が少なかったのにね」

「そうですね」

「こういう雪は積んだよな」

「これじゃ、患者も来れないよな」

「歩道が滑り易くなっているからね」

「私も長靴でしたよね」

「誰が入って来たかと想ったら、エリちゃんだった。スキー帽にキルティングだし。長いマフラーだろう。あまり普段とイメージが違ってしまって、エエッ! 一瞬誰かなと想ってしまったよな」

「寒いから、完璧な寒防ファッションですね」

「そうだろ! もう吃驚したよな」

「駅前ですけど、電車がかなり遅れていますものね」

「間引き運転だし、スピードも落としているね」

「ここへ、着いたら、エンヤの曲で癒されましたけどね」

「そう! いいタイミングだったな。この曲は……」

「アイルランドの唄だからね」

「冬は寒そうですね」

「そうなんだよな」

「英国のケンブリッジへ行ったけど、夏でも皮ジャンでざ!」

「そうなんでうか?

「北海道より北だぜ!」

「エッ! そうなんでうか」

「寒すぎるよな」

「運転の途中で焦ったな。ハンドルが取られるんだものね」

「まるで、スキー場付近の雪道だったよな」

「患者さんもバラバラだな」

「これじゃ、来れないなぁ」

「お年寄りの方は滑って危ないですね」

「階段の多い診療所だしね」

「遅れてすみませんでした!」

「自然現象じゃ、しょうがないよな」

「この俺の車だって診療所へ着くか心配だったよな」

「そんなでしたか」

「都心よりも田舎だから、雪が深いんだな」

「大雪になる予報だったけどね。当たったな」

「予想どおりでしたね」

「あくまでも予想だからね。降ってはじめて大雪だものね」

「雪には都会は弱いですからね」

「街は雪に弱いな! 確かにね」

「ここまで、どの位かかるの?

「普段は2時間ですけど、倍はかかりましたね」

「良く来れたよな」

「遠くから大変だったね」

「埼玉の田舎ですから」

「来れないかとおもったよね」

「良くこれたよね」

「電車も回り道しましたからね」

「スキーに行くのかなと想ったよな」

「冗談だけどね」

「スキー帽に厚目のキルティングでポンポンだからね」

「違う人が入って来たかと想ったぐらいだよな」

「耳まで隠していましたからね」

 診療所の窓から見える雪景色は風情があった。しかしながら、帰りのことを想うと、いい加減に止んで欲しかった。

「今日の雪は凄いな。今までは殆ど、降らなかったのにね。溜まりに溜まっていたんだよな。きっと……」

「帰れるかしらねぇ」

「今日は院長先生は3時に帰すと言ってたよな」

「患者さんも8人だけですものね」

「こんな日に来てくれるなんて有難いことだよね」

「普通は避けるけどね」

 チェーンを捲いたバスがロータリーを回る姿を見て豚平は普段とは違った光景の中で恐怖感が浮かんで来るのだった。異様な雪の降り方に危険を含んでいるような予感がしてならなかった。

「空はどんよりして暗いなぁ」

「雪も相変わらず降り続いているしなぁ」

「こんな雪って何年ぶりかな」

「積のも早いけど、人通りが異様に少ないよな」

「滑るから、危ないよな」

「ラジュアルタイアじゃ、難しいな。チェーンを捲かないとな危険だよな」

 そう言えば、チェーンを捲いたタクシーが多などが多く。自家用車の数も少ないように感じられた。

「診療所のドアを開けるとチェーンを捲いた車の音が鳴り響いて画一的な厭な音の繰り返しに恐怖感が湧いてきた。

「外は寒いなぁ」

「冷え込んでいますね」

 吐く息も白くなって寒冷さが伝わってきた。

「今日は早目にお開きだ!」

「帰れなくなるからな」

「バスはキツイですよね」

「また、迎に来て貰おう!」

「雪や雨では定時に来れないバスは不便だからね」

「俺んところもバスだけは避けたもんな。単線だけどね」

「今時<単線ですか?」

「ラッシュ以外は30分に一本かな」

「都心のメトロが羨ましいな」

「バスもいいじゃ、ありませんか」

「雪、雨、風に弱いですからね」

「今日は、車じゃ、帰れないから、電車になると思うよ」

「駐車場が雪に埋まっているものな」

「俺は終了の5時まで、いないといけないよな」

「医療機関は決められた時間まで誰かがいなかればならないからね。急患もあるかもしれないからね」

 5時近くなっても、診療所へ来る患者はいなかった。スタッフは3時に帰して院長と豚平だけが残っていた。帰りの駐車場へ向かったが、車は雪に埋まってしまって、出られなくなっていた。豚平は仕方なく電車で帰ることにした。吹雪いているので、前が見え難いじょうたいであった。ロータリーも人気がなく豚平も気持は焦っていた。診療所を締めると外に出たが、視界が悪く雪は収まるどころか燦々と降り注いでいて、近代稀な雪の多さに異常さを感じている彼であった。

 駅に着いてが、電車は既に、間引き運転であり、正常ではない電車の数に厭な予感を感じていた豚平の心に焦りの色が滲み出ていた。

「帰るかな。終点駅に着いたが、、それから先の電車は竹藪が線路に倒れて動けないというアナウスが流れていた。止まった電車に暫くの間、乗っていたが、暖房の効いていない車内は異常に寒く。このままでは風邪を引くといけないからと駅の真下の食堂に駆け込んだ。暖かなラーメンとハンバークランチを頼んだがごった返していて、なかなか食事にありつけなかった。あいにく、携帯電話の電池が切れてしまっていたので、家に連絡しようもなかった。「こんな時に限って電池が切れるなんて畜生め!」怒りに震える豚平だった。一旦、改札口へ行って、駅員にバスでも出すように交渉したが、無言の駅員だったのであった。成田国際空港へ向かう外国人の姿もあり「こんなアクセスで、オリンピックなど出来やしないな」と感じた豚平は外人のためにも、バスぐらい出すように猛然と交渉したが埒が明かなかった。「日本ってこの程度なんだな」豚平の腸が煮えくり返る思いが込み上げてきて許せなかった。気のない返事が続く中での交渉は進まず「天下のJRの泣き所が露出された状態であり、利益主義の弊害が出てしまっていることに腹は煮えくり返るぐらい怒りで炎上していた。「良くオリンピックなんか開けるな日本の恥だ!」

 そうはいっても、タクシーは乗客が並んでいるのに、まったく、現われないし、一台も見かけない状態に不安は増大した。「臨時のバス便ぐらい出せよ!」駅員にしつこいぐらいに交渉のプロがしたところで暖簾に腕押しだった。

「このままだっtら、凍え死んでしまうぞ!」豚平の頭に恐怖の死のイメージが湧いてきて、不安感で溢れていた。

 仕方なしに車両へ戻ったが、一向に動く気配すらなかった。今度は車外に出ては危険です。高圧電流が流れているから、絶対に外へ出ないでくださいとのアナウスと同時に閃光の直後の爆発音にテロにでも合った気分になって、生きた心地もしなかった。何回も繰り返される外に出ないで下さい! 高圧電流が流れていますからのアナウスに、寒気と怒りが込み上げてきて、どうしようもない怒りが込み上げてくるのだったが、一向にオモテすら出ることのできない籠の鳥の状態にストレスの極限に達していた。時間が経つにつれ心細さと孤独感が表れてきて、夢遊病者のように動きまわったのは、車内に閉じ込められてから30分後にやっと、車内の前方から車外へ出られた。

「家には帰れないから、息子の診療所へ戻るしか道はないなと考えが浮かび。地下鉄にのったら、動かないで止まっているではないか。戻ることさえ出来にくい状態に気でも狂わんじょうたいで、車内に待っていたが、少し経つと動きだした。「こんな家の近くで凍え死ぬなんて御免だ!」

「雪は暗闇で見えにくいが、吹雪いて、降る量が多いために電柱の光に微かに見える光の影に心は暗くなってしまった。息子の診療所の上にマンション住まいをしているために、やっとの思いで辿りついたが、寒さのために身体は冷え切っていてガタガタしていた。「こんな雪で止まる交通でオリンピックなんかほんとうに開けるのか豚平は格差のある交通網のアクセスに怒りの炎を上げていた。

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