第7話 受付の忙しい時期
新年なので、階段の多い診療所は、そんなに混んでいなかった。
1年で忙しい時は、アレルギーのはじまる3月からだ。見習いの受付コンビに取っては
丁度良い混み具合であった。作業の流れは無理なく流れて。新年から目を煩う患者もそんなには多くなかった。会話が弾んでも、そんなに影響はなかった。
この診療所は白内障の手術はしなかったが、網膜剥離などの場合には、レーザーで止める手術を行うことは出来た。この手術の時には院内に掲示を出して手術中とし、スタッフや患者に静かにするように指示していた。
「今日はレーザーの手術で大変ですね」
「静かに、静かに、あまり大声で話さすのは止めようね」
「そうですね。こちらもドキドキしますね」
「静かに、し・ず・か・に・ね」
「細かい手術だから、集中しないとね」
緊急のレーザーの手術には何人もの失明を救った。
「目は脳との関係が深いからね。くも膜出家s津や脳梗塞なども、目に兆候が表れる場合があるから、その専門の病院を紹介して、何回も命を救ったよな」
「目に現れるですか?」
「だいたい家の息子が眼科を選んだのは、脳との関係が深いからと言ってたんだな」
「親としては、内科や外科へ、何故、進まないんだろうかと疑問に思っていたんだね」
「脳との関係で眼科を専攻したということが、最近分かって来たんだな」
「脳に関係する病気が目に現れているのを何回かみつけたんだよな」
「ほんとうですか。凄いですね」
「目は大切なんですね」
「そうだよ! 脳の病気が目に現れることも多いんだな」
「そうでしたか、それは知りませんでしたわ」
「今日もレーザーの手術だから、静かにしようね」
「分かりました」
「待たないで、直ぐに、レーザーのできる病院も少ないんだよな」
「一刻も早くレーザーで手術しなければ、失明もあるんだよな」
「プールなんかの飛び込みでも打ちどころが悪いとね」
「そうなんですか」
「昔から、目は口程にモノを言うっていうだろう」
「それは諺で意味が違いますね」
「ごめん! ごめん! 冗談だからね」
「よしてくださいよ! 手術中に……」
「声が大きいよ」
「アッ! ご免なさい」
口を手で塞ぐエリだった。
緊張の時間が過ぎて解放されると院内は普段の状態に戻り、明るく澄んだ声で患者を呼ぶ声が響いた。
団栗眼のエリの瞳も輝いていたのだった。
「受付は青眼でなければ診療所の繁栄はあり得ない」
「やっぱり、人間ですからね」
「ところで初夢見た!」
「見ませんでした」
「俺も見たことないんだよな」
そうこうしているうちに忙しくなってきた。
流行り目の患者が、この診療所に来たということであり、院長の指図でアルコールでの消毒がはじまった。
「流行り目の患者さんが一番困るのよね」
スタッフの嘆き節がはじまった。ドアの取っ手や筆記用品などを消毒した。
豚平はゴム手袋であったので、アルコールを吹き付けて難なく終わった。
「この診療所は自動扉でないから困るのよね」
「階段が多いのに、エレベーターはないし、眼科に眼科に向いていない環境が揃っているのに、沢山の患者が来てくれるので、感謝しないとね」
「駅前で、ロータリー内にあるし、便利だけど、駐車場も少ないしね」
「階段の多いところへわざわざ、来てくれるなんて感謝しないとね」
「贅沢を言えば、自動扉だと消毒しないでいいのに……」
「子供さんが怪我して返って危ないわよね」
「そうは言っても手でいちいちあけるのは不衛生だしね」
「移るから気を付けなければならないのにね」
「患者さんが会計を終わるといきなり、消毒だものね」
「流行り目の後は忙しくなるのよね」
「そういえば、目が赤かったじゃないの」
「厭ね! こういう細かいところに注意するのも受付の仕事よ」
「恐くていやね」
「そうなんだ。勉強になっちょな」
「冬なのに、珍しいな」
「まだ、馴れないけど、今度から注意しないとね」
「院長に指示をするぐらいでないとベテランの受付とはいかないわね」
「そんなんだな」
「冬なので、まさか、流行り目なんかないと思ってたけどね」
「以外だよな」
「気をつけないと移るからね。直ぐに、治る薬もないしね」
「恐~い。大丈夫かしらね」
「はじめての体験ですね」
「初めてずくしだよな」
「気が重いですね」
「アンケートの時に気がつかなければね」
「反省しないとね。これからは気を付けよう」
「段々と新しいことを学びますね」
「いろんなこtがあるんだな」
「目の病気もいろいろありますね」
「見えないから蚤取り眼で探さなければならないから、厭になるねえ、バイ菌は見えないから猶更だよな」
流行り目の患者の去った診療所はもとの静けさに戻った。
受付にも、落ち着きを取り戻した。豚平とエリは通常の作業の繰り返しに追われていた。視能訓練士が時たま、受付を通さずに、勝手に自分とところに持っていってしまって、患者がこの診療所に来たという証拠がなくなってしまうために
司令塔として注意した。「受付を通さないと患者が来たかどうか証拠が残らないために、必ず、受付を通してね」と年甲斐もなく、大声を張り上げてしまった。
エリの姉の白木マリは顔を赤らめて「すみませんでした」と謝ったので、彼は冷静さを取り戻していた。あまり、怒ったことのない彼の怒りに吃驚して効果は覿面だった。普段は大人しそうな豚平の怒りはスパイスの効いたカレーのように
辛かったが効き目はあった。
「流行り目の中でもウイルス感染症が特に多いわね」
「そうなんですか」
「アデノウィルスは感染力が強くて⑦には、角膜にも変化が出現するのだ」
「恐いですね」
「治療としては、2次感染防止で、よく抗生物質点滴、新生児は特に、注意が必要なんだ」
「良く手洗いして、2週間は共同生活を避けることだね」
「そんなに伝染力が強いんですか」
「念には念を入れて注意することだね」
「白目が赤い人を受付でチェックするのが大切なんだ」
「会計でお金だけ注意しますけども、患者さんの目の色まで気が付きませんでしたね」
「そうだよね。受付はお金の計算が重要だからね」
「最初の内は患者さんの目まで、見る余裕がないよね」
「かれからは気を付けます」
「先生が見てくれているので安心しちゃいましたね」
「受付のプロとしては気をつけるべきだね」
「やっぱり、受付は司令塔ですね」
「そうなんだよな」
「遣るまでは分からなかったけど、遣ってみると重要さが分かるね」
「刮目しないとね。患者の目を……」
「特に、新患は注意しないとね」
「リピーターは目薬が多いけれど、新患は急病が多いからね」
「そうなんですね」
「これからは注意しましょう」
「忙しくなりますね」
「四方八方、気を配らないとね。
「こりゃ!大変だ」
「仕事が増えましたね」
「お金の計算大丈夫?」
「そう言われてみると不安ですね」
「一番、大事だからね」
「気配りが、必要ですね。受付は……」
1日の疲れを背負って帰ってきた豚平に門子は言った。
「今日は流行り目の患者がいたよ!」
門子はいきなり叫んだ。
「直ぐに、手を洗ってきなさいよ!」
激しい口調に彼はビビって手を洗ったが、さすが、視能訓練士の国家試験を受けている彼女の指摘は適格だった。
「そんな危険なの?」
「直ぐに効く薬がないのよね」
「そうだったの?」
「抗生物質の点滴を行うけど、直接、効く薬がないから2週間ぐらい安静にして、免疫力を高めて徐々に直して行くのよね」
「恐いんだね。特効薬がないんだ」
「そうなの。それに流行り目には3種類あるのよね」
「そんなにあるの知らなかったよな。さすが視能訓練士の国家試験を受けているだけのことはあるね」
「3種類は、流行性角結膜炎、咽頭結膜炎、急性出血性結膜炎なのよね」
「さすが、視能訓練士の卵だね」
「良く細かく覚えているね。
「病名を覚えるのは当然よ!」
「流行性角結膜炎はアディノウイルス8型と4型と19型があるのよね」
「それで、どうゆう症状なの?」
「感染して1週間から2週間で発病するのよね。この結膜炎は症状が大層強くて目蓋の裏のブツブツや充血。目蓋が腫れる。涙がボロボロ出るの」
「そりゃ、大変だ!」
「全体で3週間、治るまでかかるけど、最初の1週間は症状が大層強く。次の1週間は落着き、最後の1週間で治ってゆくのよね」
「良く覚えているな。今年は国家試験合格だな」
「エッヘヘ!」満更でもなさそうな表情を浮かべる門子だった。
「咽頭結膜熱はアデノウイルス3型、4型、7型でプール熱ね」
「この病名は一般的だね」
「そうよね」
「急性出血性結膜炎エンテロウイルス70型で、感染して1、2週間で発病すののね。1週間から10日で治るんだけど、流行性角結膜炎と良く似ているので、注意しなくちゃね」
「手洗った! 洗ってなかったら、直ぐに、洗いなさいよね」
「ゴム手袋してるから大丈夫だよな」
「消毒の石鹸で丁寧にね」
「もう、洗ったよ」
「それにしても怖いよね」
「移るからね。だから流行り目というんだよな」
「気を付けなさいよね」
「ウガイもしてね!」
「分かったよ! 煩せえな! 幼稚園児でもあるまいし」
「外から帰って来たら、ウガイと手洗いぐらいしなさいよ」
「もう、終わったよね」
「爪は切ってあるの?」
「お前みたいな深爪ではないけどね。切ってあるよ」
「そんならいいけどー」
「衛生には注意してよね」
「これじゃ、子供與会だな」
「だって、あんた! 新婚当時は、外から帰ってきて、手も洗わないでいきなりご飯食べたでしょ!」
「そんなこと忘れたよな」
「あんたの親の躾が悪いんじゃないの」
「そんなことないよ」
「その時には忘れただけじゃんか」
「たまたま、だよな」
「何時も洗わなかったじゃないの」
「そうだったかな。もう、忘れてしまったよな」
「まあ、6人兄弟だったから、そうだったかもしれないな」
「そうでしょ!」
「外から帰ってきたら、必ず、ウガイと手洗いね」
「そういえば、俺も風邪を引かなくなったじゃないの」
「そうでしょ。続けることが大切よ」
「今じゃ、手を洗わないと気持が悪いもんな」
「いい習慣じゃないの」
「確かに、丈夫になったよな」
「前には、直ぐに、下痢して、腹が痛くなったんだよな」
「殆ど、会社も休まなかったしね」
「お前のお陰かな」
「結婚してから10キロ太ったものな」
「そうね。結婚前はガリガリだったわね」
「50キロ弱だったよな」
「痩せすぎだったわよね」
「幸せ太りかな」
「子供を医者にさせたのはママの力かな」
「そうよね。あんななんか仕事で家にいなく。何時も、母子家庭とだったじゃないの」
「そうだったよな。世界1になることは、オリンピックで金メタルを取ることと同じだよな」
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