第4話 医療は生命に関わるから
家に着くと妻の門子は「今日は遅かったじゃないの?」と訊いた。
「そうなんだよ。帰り際に急患で散瞳があってな」
「そうだったの。じゃ、時間がかかるからね」
「散瞳後に患者は眩しいでしょ! 普通に見えるようになるのには30分はかかるしね。仕方ないわね」
「スタッフの視能訓練士が伝えたたよ」
「バカね! 受付の言わなければいけないのよね。会計の時にね!」
「そうだったな。言い忘れたよな」
「当然のことよね」
「……でも、はじめてで何も分からなかったしね。これからはそうするよ」
「そんなこと現場にいないと分からないからね」
「何でも、積み重ねだよな」
「最初だから面食らってしまって、どうすればいいのか、さっぱり分からなかったよな」
「2度目からは冷静に馴れるよな」
「まあ、最初だから仕方ないわよね」
「俺は医療関係の仕事の大変さをはじめて知ったよな」
「そうな。事故などの時に、医療関係の仕事は命に関わる¥ことだから、処置の方法を考えるのが院長先生はじめ現場の人間がどうするのか。他の職業とは違った大変さが浮彫りになるわよね」
「こんな大変なこととは知らなったよな」
「ショックだったよな」
「何度もいうけど、命に関わることだからね」
「体験した人でなければわからないな」
「異常に緊張するな」
「凄いプレッシャーだよな」
「特に、院長は責任があって、変なことしたら今は患者から訴えられるからな」
「終了時間が過ぎていても、遣らなければならないのが、医療関係の世界でしょ」
「外からじゃ、解んないけど、中に入ると大変な世界だね」
「そうなのよね>急患の場合。閉店真際でも断ってはいけないと指導されているのよね」
「そうなんだ」
「スタッフは帰りたいけど、院長は返せない辛い立場なんだ」
「決められた時間内に最高の処置をしないといけないわよね」
「終了真際の急患って一番、困るわよね」
「いきなり2日目に来たからね」
「ストレスがあるでしょ!」
「もう2日なのに、疲れがドット出たな」
「パパ! 目が窪んでるじゃないの?」
「最初からストレートで殴られた感じだよな」
「だから大変な世界なのよ。伊達に白衣を着ているんじゃないのよね」
「白衣の意味の重要さが今日ほど理解出来たことはなかったな」
「これからのいい勉強よね」
「でも、何回も今日みたいなことがあると自分の身体がもたないよな」
「受付は外から視るのとは違って、とても重要なのね」
「そう、 司令塔なんだよな!」
「普通の会社の営業であり、進行であり、チェックマンであり、雑用係であり、苦情係であり、急患の場合には適切な判断が必要であってキーマンなのであるから、とても厄介な仕事なんだね」
「だから……。シンマイじゃだめなのよね!」
「生活保護の確認に市役所や保健所に連絡して確認しなければならないし」
「ひとつ1つチェックしして抜けてる書類などの確認は重要だし、本当はベテランの仕事ね」
「パパって、ぴったりよね!」
「……だけど、人生に於いてはベテランだけど、医療に関してははシンマイなんだよな」
「だから、いちいち訊かなければならないし、頼まなければならないもんね」
「冗談でベテランだと言ったのよね」
「そうだろうな。シンマイなんだからな」
「やる気を起こさせるために言っただけよね」
「はじめから挫けちゃいけないからね」
「俺の商売だって、士農工商代理店と昔から言われていたからね」
「広告の企画制作だから、文字の校正はお手の物じゃないの」
「間違ったら、請求もあやふやになってしまうからね。レセプトではこの保険証のチェックは大切なんだよね」
「そうよ! 院長も厳しくチェックしてるからね。2重チェックで遣ってるでしょ!」
「そうだよね。間違えると受付に跳んできて指摘するんだよね。直されるんんだよね」
「だから、度々、間違ったらいけないのよね」
「あんた間違いが多いんでしょ!」
「失礼な! 校正のプロに向かって何ていうんだいな」
「それに、日頃から文章書いているから、完璧にチェックしているね」
「そうね。今までの仕事に似てるから得だわね」
「昔取った杵柄かもしれないね」
「何の仕事がためになるかも分からないからね」
「チェックのプロだよね」
「それじゃ、大丈夫!」
「徐々に馴れていくよな」
「……でも、最初から凄い体験じゃないの」
「最初は吃驚仰天したけど、直ぐに、冷静になったよな」
「そうよ! 司令塔なんだから慌てるのが一番いけないのよね」
「そうだな。冷静な判断で適格に処理しなければね」
「まったく、そうだな!」
「冷静で、しかも、スピーディーに行動しなくちゃあね」
「……でも、最初は慌てたな!」
「受付の重要さが分かる出来事だったよな」
「そうでっしょ!」
「散瞳だって2つの散瞳があるよな」
「エッ! ほんとうに、知らなかったよ」
「1つは先天散瞳といって、光彩異常で無光採症っていう病気であってね」
「それは大変だな。眩しいだろうに……」
「もう1つは後天散瞳といって、外傷などを検診するために光彩を薬で開けるのね」
「さっき、遣ったやつだね」
「そうよ! 交感神経刺激剤ネオシネジンなど、8種類あるのよね」
「副交感神経麻痺薬アトロピンなどね」
「薬の名前覚えるだけで大変だね」
「視能訓練士の国家試験にはでるでしょ」
「名前を書き入れるというよりも、文章の中に出て来るから大変なのよね」
「そうか!」
「マークシート方式のテストだからね」
「名前や内容を正確に把握していないと出来ないのよね」
「難しい試験なんだねー」
「そうよ! 覚えることも多いしね」
「だから普通は3年かかるのに、ママみたいに1年で講義を終えてからの受験はとっても、難しい試験になってしまうのよね」
「3年を1年で遣るの?」
「そりゃ、1度で合格するのは難しいな」
「そうなのね」
「良くママも遣るよな」
「息子に頼まれたからね」
「例えば、8種類の散瞳薬を覚えてないと、できない問題なんか出ても、この俺だって出きっこないよな」
「そうでしょ!」
「専門で遣ってみるとなんでも難しいんだね」
「受付も視能訓練士ほども知識は必要なのよね」
「俺には無理だよな」
「最初はね」
「司令塔であって判断しなければならないし、特に、眼医者だったら、専門的なことは目にかんしては必要なのよね」
「そうだよな。プロだからね」
「でもね。全ての受付が視能訓練士じゃないよな。俺みたいにな」
「でもね。家の視能訓練士は受けs付けもできるようにしているよのね」
「それはいいことだね」
「俺もな、この歳で受付なんか遣って見てはじめて難しさが分かったよな」
「ちょっと、遅かったけどね」
「他じゃ、この歳じゃ、雇ってくれねえしな」
「そうよ! 息子に感謝しねければね!」
「そうだな……」
「明日があるから、早く手を洗ってご飯を食べたら、司令塔なんだからね」
「パパ遅刻よ!」
昨日の疲れで寝坊してしまい。診療所の開始時間に近い時刻が迫っていた。慌てて跳び起きた豚平は喰うものも、喰わず携帯に院長に連絡して少し遅れるからというメッセージを入れた。車に跳び乗ったが、気分の所為か景色がピンク色に染まって見えた。「何時もと違うなあ!」
「大丈夫かな! 開始時刻に間に合うかな」
独り言を言いながら運転するのだが、心に焦りを感じていた。
「景色も可笑しいな……」
ギリギリで間に合った。スタッフは朝礼も終わって、所定の位置に着いていた。「おはよう!」白衣の襟が曲がっていて、ボタンの掛け違い。普段とは違った豚平の哀れな姿での受付に司令塔の自負は消えていた。
エリはニコニコ顔で「おはようございます」と挨拶をした。
豚平を視る目は笑顔であってが、普段の笑顔とは違っていた。
トイレの鏡で自分の姿を見てガックリした。
「これじゃ、笑われても仕方ないなあ」
彼はボタンをかけ直してから、ネクタイも締め直して、受付に戻った。
エリのニヤけた顔も静かになり、普通に戻った。
理由は簡単「服装の乱れだったのさ」
気を取り直すと何時もの司令塔の厳しい顔になって、昨日のことも忘れて集中していた。ミスは受け入れない医療現場での雰囲気は徐々に回復していった。患者も増えだしてきて、雑談する時間もなかった。
会計時の釣り銭の間違いを2重チェックの作業によって、危うくミスを防げた。「10玉が1つ多いんじゃないの?」
「アッ! 間違えた」
「これで、丁度ですね」
ミスだけはしなくない豚平とエリのコンビは漫才師のようなチームワークで勝負に挑んだ。決して、落語のような独演ではなく。チームワークでの作業は豚平は43年間のサラリーマンでの特技が生きていた。
グルーピングの中での受付チームのコンビネーションは良く。ミスさえも防ぐ2重チェック方式でのシステムの構築はお互いの欠点を補いながらの確実性を増した危なげない方向へと進んでいった。
「今日は時間が経つのが速いな」
「もう、昼の休憩時間だな」
「そうですね。今日はペースが良く。患者さんが順送りに来たので作業の流れがスムーズでしたね」
「のうだね。今日は昨日とは違って、いいペースだったね。気持の焦りもなかったしね」
お腹のガスも忘れて働き捲った。
不思議なもので、他のことに集中してると、ガスのことを忘れて、その内に出たくなくなってしまった。緊張すると、ガスのことも考えなくなって、初日に困ったガス問題も解決した。
気分も前向きになって仕事に取り組んでいたために、気分的には晴れやかな気分になっていた。仕事は1週間経つと、殆ど覚えてしまって、後は、その繰り返しだった。「エリとのコンビも馴れてしまって、より自然になっていxちうた。
朝、機嫌がいいと大きな声で「おはようございます」とエリの方から、積極的にかけてくれたが、期限の悪い時には「…………」無言だった。
「おはようございます」豚平も返事を返して1日のスタートを切った。
「院長先生のお父様ですか」と言われて照れていたが、気分は爽快であめい気にならなくなった。「目と鼻の感じが似てますね」と患者は同じことをいうので、豚平は影で笑ってしまった。豚平は、満更でもなかった。
妻、門子は一度も似てますねと言われたことはなかった。
「どうしてか知らねえ」
「誰が見ても似てないもんな」
「パパの遺伝子の方が強いのか知らねえ」
「それと、血液型も同じでしょ」
「それだから仕方ないでしょ」
鼻筋の通った美人系の門子は確かに似ていなかった。
「いちいち言われるのもいやだけど、全然いわれないのも寂しいね」
「いいじゃないの。名誉なことだから」
「それはありがたいことだよな」
「その度に喋らなければならないからな」
「話が和むわよね」
「人手がなくて手伝っているみたいで厭だよな」
「そんなことないじゃないの。わざわざ、責任ある先生のお父様が受付を遣って感激するでしょ。患者様は……」
「そうかな。そうだといいけどね」
「気にしなければ忘れるからね」
「今日は危ない遅刻しそうだったから、明日は6時に目覚ましかけてね」
「段々、馴れてきたじゃないの」
「お陰様でガスの方も気にならなくなってきたからね」
「良かったじゃなおの」
「もう忘れたよな」
「徐々にプロに近ずいてきたわね」
「もう、プロだよな。稼いでいるんだからな」
「それもそうね」
「繰り返しだから楽だよな」
「後は隣の襟ちゃんと世間話だよな」
「お天気の話が多いんだな」
黒い雲見て「今日は雨が降るよな」とか、
「医学に関係のない世間話だからね」
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