おかずの三男

 おかずの使徒を倒し、コノハの家で数日トレーニングをしながら待機していた。


「じゃじゃーん! できました! パワーアップした王家の杖です!」


 ようやく神器が完成。さらに豪華に強そうになった杖が、なんとなく勝てそうな気持ちにさせてくれる。


「やった! ありがとうございます!」


『それが新しい力か』


「誰だ!」


 突然通信がつながった。画面の向こうには、ひょっとこの面をつけた、黒装束の忍者みたいなやつがいる。


『おかずブラザーズ三男、夜叉大根。貴様らの修練場にて待つ』


 背景は邪眼と戦った場所だ。あそこなら被害も出ない。


「行くぞ」


「うん!」


 転移した場所は、前と変わらないように見えた。罠も見当たらない。


「罠など無い。正面から屠る」


「そりゃどうも」


「問答は無用。拙者の望みは貴殿らの抹殺のみ。精々足掻け」


 いやに余裕だな。こいつの手の内がわからん。やはり慎重に行くべきだろう。


「なら試してあげる。極光冷砕波、十連!!」


 必殺技を同時に十発撃つ。それだけでほぼ詰みだ。邪眼毛布ですら耐えられないだろう。平然とやってのけるとは、レベルアップ早いな。


「無駄なことを。返すぞ」


 棒立ちでくらっているのに、なぜか余裕を感じる。

 そしてひょっとこの面が少し水色に変わったと思えば、まったく同じ技を飛ばしてきた。


「なんだと!?」


「ならさらに返すわ!」


 冷気のビームを受け止めて、さらに十本に増やしてお返しする。

 その瞬間には、もう夜叉の背後まで移動するサファイアが見えた。


「フリージングバスター!!」


 前後から冷気を浴びせられ続ければ、多少のリアクションはあるだろう。


「いい力だ」


 夜叉の袖から白い紙のようなものが伸びる。サファイアの首を狙っているようだ。


「避けろサファイア!!」


 叫んだ時には、俺の元へと移動し始めていた。

 夜叉の攻撃ごと。白くてペラペラの物体は、よくわからないが追尾性らしい。


「必殺異世界チート! ガマの油!!」


 大ガマを呼び出し、油の入った壺を貰う。


「どうぞ」


「すまんな」


「そう貰うの!?」


 俺の横に油壺を配置。あとは斬撃を受けるだけだ。


「くほう!」


「マサキ様!!」


「いやにあっけないのものだな」


「どうかな?」


 傷口にガマ油を塗れば、たちどころに消えていく。

 大ガマは傷の手当だってしてくれる。


「これで切られても安心!」


「切られない方法を探そうよ! 攻撃が何なのかわかってないのに!」


「大根の桂剥きだ。違うかい?」


「ほう、やはり英雄と呼ばれるだけはあるか」


 どうやらあたりらしい。般若こんにゃくがこんにゃく人間だった。

 つまり夜叉大根は大根人間だ。紙っぽいのは大根を薄く切る桂剥きという技法である。


「称賛に値するぞ。褒美に教えてやろう。私は大根。どんなエネルギーでも吸収し、極上の旨味へと変える」


「それで私の攻撃も……厄介ね」


 確かに大根は煮物に多く使われる。おでんに入れておけば、つゆの旨味を凝縮できる素材だ。これは理にかなっているぞ。


「なら物理攻撃で倒せばいい。頭と仲間の使いどころだぜ! ガマよ!」


「任せるケロ!!」


 ガマの長い舌が俺を捕らえ、頭に硬化した棘をはやした状態で、大根に叩きつけられた。


「チート&ガマ奥義! 俺という名の鉄球!!」


「その使われ方でいいの!?」


「邪魔」


 ぺしっとはたき落とされた。


「弱い!? 合体奥義でこれ!?」


「カエルごときが、大根の最上位である拙者に勝てるものか」


「なんの、チート&ガマ合体奥義その2!」


 二人でF1カーに乗り、そのまま突撃をかける。


「爆走カーレース!」


「ガマ関係ないじゃない!!」


「くだらん。大根アーツ、採れたて大根!!」


 地中から新鮮な大根が顔を出し、俺とガマの車は上空へと舞い上がる。


「くっ、ならば合体!」


 二個の車両が合体し、背中から翼の生えたF1カーで突撃した。


「エンジェルカーレース!」


「やってること同じだー!!」


「二毛作!!」


「おわあああぁぁ!!」


 さらに大きな大根が生えてきて、車は跡形もなく消えていった。


「くそ、ならばデビルカーレースだ!」


「そのシリーズ諦めようよ! 効かないって!」


「もう一回だけやってみたいケロ」


「無駄なチャレンジ精神!!」


「カエルは邪魔!」


 巨大な大根により、ケロ吉は星になった。


「ケロオオオォォ!!」


「ケロ吉いいいいいい!!」


「これ以上の茶番に付き合っていられるか。灰となれ!!」


 急激に地面の温度が上がり、赤く焼けていく。


「どういうことだ!?」


「これぞ畑の力。焼畑農業よ!!」


「サファイア!」


「フリージングフィールド!」


 急速冷凍で炎を消そうとするも、火の勢いが強すぎる。氷はすべて蒸発した。


「無駄だ! 冬の寒さにだって、畑は負けんのだ! 真冬の収穫祭!」


 そこらじゅうから大根の気配がする。まさかこんなに早く成長するなんて、これは農家に革命が起こるぞ。


「飛び出す前に引っこ抜いてあげるわ! 氷の農家収穫祭!!」


 巨大な氷像が……いや氷の農家のおっさんが現れ、全大根を丸ごと掴んで引っ張り上げた。


「ありえん! 姫にこれほどの力が!!」


「マサキ様、調理お願い!」


「任せな! 必殺異世界チート! 大根奉納の儀!」


 祭壇を作り、余った大根と円陣を組んで火の周りで踊るのだ。


「変な儀式始まったー!!」


「しまった! 拙者の焼畑農業を火力として使われた!!」


「ちょうどいい火力だぜえ……」


「調理してって言ったでしょ!」


 問題ない。しっかりとどう調理するかまで考えてある。

 大きな壺を取り出し火の上へ。


「さあて祈りを捧げるぜ。生贄と一緒になあ!!」


 一緒に踊っていた大根を壺に蹴り込んでいく。


「ぬおおおおお! 拙者の大根たちがああぁぁ!!」


 そして光り輝く大根たちはひとつになる。新たなる輝きを宿し、星のように煌めくのだ。


「合成完了。SSR……星5だな」


「ガチャの壺だったの!?」


「おのれ拙者の大根を強くしおって!」


「強くなったんだから喜んで欲しいもんだな」


「ぬかせ! 桂剥き二刀流!!」


 夜叉の両腕から、細く切られた大根が飛んでくる。

 だがもう遅い。壺に入れられた大根たちは、俺を守るために壁となった。


「なにいいいいい!?」


 星5ほどのレアとなれば、夜叉大根とも戦える。そしてサファイアがぶっこ抜いた大根はまだまだある。合成を続ければ、それだけで大量のSSR軍団が生み出されるのだ。


「こんな……大根としての格で負けるだと!!」


 整列した大根たちに平伏され、白い羽衣を着る。それはまるで薄く切られた大根のようだった。


「マサキ陛下、万歳万歳、万々歳」


「崇められてるー!?」


「ここに初代大根王朝誕生を宣言する!!」


「しょうもないもん作ったあああぁぁ!?」


 今この瞬間、夜叉大根は我が王朝よりも下となった。


「大根として、負けるわけにはいかんのだ!!」


「愚かなり夜叉大根。大根の王である朕に逆らうと申すか」


「何その偉そうなキャラ!?」


 大根兵士に号令をかけ、天下統一に王手をかけた。


「必殺異世界チート! 大根の歴史、それは戦国の歴史!!」


 名のある大根武将たちとともに、夜叉に決定的な一撃を叩き込んだ。


「お前など、広大な大根大陸の歴史からすれば、一行で済む存在なのさ」


「ありえん! ありえんぞおおおおおおぉぉぉ!!」


 お約束の大爆発により、戦国の世は終わった。これからは平和な時代が続くのだ。


「手間かかる連中だ……」


「まるでお料理のように、時間と手間をかけさせてくるわね」


「次はもうちょい楽だといいが……無理だろうなあ」


 大根兵士をおでん鍋にぶち込み、晩飯の用意をしながら、次の戦いへ思いを馳せるのであった。

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