おかずの使徒
邪眼毛布を倒し、コノハの待つ家へと戻ってきた。
「おかえりなさい。まさかまさか初日で突破するとは思いませんでしたよ」
「一日で終わんねえのかあれ」
「ですですー。数日チャレンジが前提です。アストラエアの血族は凄いですね」
「いえいえ、マサキ様あっての勝利です」
「もう試練はないのか?」
「次の試練は杖をどどーんと強化です。ユカリさんの神殿でもやったでしょう」
神器をさらに女神の力で強化するらしい。
女神によって特性とかあるだろうし、それはそれで伝説の武器っぽくていいな。
「では杖をお預かりします。数日泊まることになりますから、先にゆったり温泉でもいかがですか?」
「ほう、そんなのまであるのか」
「いいわね!」
疲れを取るために必要らしいよ。おそらくコノハの趣味だけど。
「じゃあ先に入ってこい。一緒に入るわけにもいかないしな」
「背中流してあげようか?」
「いらん。とっとと行け」
「はーい」
サファイアが風呂に入っている時間暇だな。
「ふふっ、とっても仲良しさんですね」
「そう見えるか?」
「はい。実際どうなんです?」
「頼りにしているよ。あいつは強くて頭もいい」
「いえいえ、そうではなくて。パートナーとしてどうなんです?」
「だから優秀だよ。ツッコミ役もしてくれる」
あいつは天才というか、誰より才能があって努力しているタイプだ。
だから生半可な努力で追いつくやつはいないし、戦闘面でも頼れる。
優秀な仲間だな。
「ううーん……これはどっちなんでしょう。じゃあユカリさんはどうでした?」
せんべいとお茶が出てきたので、こたつに入り直して話し込む。
コノハとゆっくり喋ったことない気がするな。
「世話になったよ。こっちに来てから自由すぎじゃないかと思うけど」
「あははは、肩の力が抜けたんだと思います」
「真面目にやろうとしていたと」
「そうですそうですー。マサキ様のおかげでリラックスできたんでしょう」
無駄に気張っていても、いいことはない。楽しくやれているならいいか。
今の気さくな感じも悪くない。
「そういやお前らいつまでこの世界にいるんだ? 休暇なんだろ?」
「ふんふむー。サファイアさんとマサキ様の寿命が尽きるまで?」
「なっげえなおい」
「女神に寿命はありません。人間のようにどばばばーっと数日単位で動かなくていいんですよ」
「なるほど。そりゃいい」
時間の流れが違うってのは、こういう時に得だな。
「寿命長いと楽しそうだな」
「不老不死くらいなれるんでしょう?」
「なれると思うけど……まだ普通に年取ってもいいかなと。中年あたりで若返るさ」
正直ボケればどうとでもなる。数少ないプラス面だな。
「ならゆっくりと今を噛み締めていけばいいんですよ。それで……この反応は!」
「どうした?」
コノハの顔が引き締まっていく。予想外の事態らしい。
「何者かが神殿の入り口に来ています」
「敵か?」
「モニターに出します!」
入り口に男が立っていた。
南米の部族が使うような、派手で奇妙なデザインの仮面をつけている。
「何者です!」
『おかずの使徒、モーニングデイ』
「何だそりゃ?」
『ほっくほくおかずブラザーズに世界の未来を託し、手足となって動くものだ』
「めんどくせえのがいたもんだ」
あんな変な連中に信徒がいるとは、世の中わからんものだな。
『ここに般若こんにゃく様を倒せし者がいると聞いた。尋常に勝負せい!!』
「風呂に入る前でよかったぜ。汗かいちまうからな。コノハ、転送頼む」
「わかりました。どうかお気をつけて」
「任せな」
入り口まで転送してもらい、改めて敵を見る。派手だなこいつ。サンバでも踊るやつだろ。
「俺がマサキだ」
「ほう、貴様が英雄マサキか。般若様の仇、調理してくれる! 獄殺みじん切り!!」
巨大な包丁が超高速で振り下ろされる。
「いいだろう。リクエストに答えてやるぜ」
そのまま豪快に切り刻まれてやる。それがお前の敗因となるのだ。
「あっけない。こんなやつに負けるはずが……うっ、目が!?」
「包丁の数と勢いが原因だ。何を斬っているかわからなかったようだな」
やつは巨大な玉ねぎとなった俺を斬っていたのだ。
そのせいで目に深刻なダメージが入り、涙で視界がぼやけてしまう。
「くうっ!? 何も見えん!!」
「カリカリオニオンスラッシュ!」
揚げたてのスライス玉ねぎ二刀流で斬りつける。
「ぐわあああぁぁ!!」
防御もできず、深手を負ったか。般若に比べればザコだな。
「どうした? 玉ねぎすらまともに調理できんのか」
「おのれ……我々はおかずを調理するための地獄のコック! この程度で引き下がるか!!」
「ならどうする?」
「灼熱スーパーIH!!」
床が白く硬い材質へと変わる。そうか、IHで俺を温めるつもりか。
「なるほど、おかずブラザーズの強さ、女神が関わってるな?」
「何の話だ?」
「下っ端じゃ話にならんか。お前はIHを便利なものとしか認識できん。だから裏の存在へたどり着けんのだ」
「ごちゃごちゃと……要は貴様を焼き尽くせばいいだけのこと!!」
「無駄さ。このメタリックなボディから何も感じないか?」
既にIH対応アルミホイルボディへと変わっている。
「半端な知識じゃ、無いほうがマシだぜ」
高温で熱されたボディで突撃し、そのまま右ストレートを叩きつけた。
「ヒートナックル!!」
「ぼがあぁぁ!?」
「一気に決めるぜ……おおっと!」
猛烈な殺気を感じ、とっさにバックステップで避けた。
直後にまな板が降り注ぐ。
「何をやっているんだか。腕が落ちたな。モーニングデイ」
新手か。モーニングデイと同じ服装だが、あれ正装なの?
「ミッドナイトタイム!」
「コードネームが絶妙にダサいな」
包丁とまな板以外にも、おたまや鍋などの調理器具が巨大化して乱舞する。
「合体調理奥義、朝と夜のフルコース!!」
だがその奥義は不発に終わる。すべてが氷の中へと封じ込められているからだ。
「ゆっくり温泉に浸かる暇もないわね」
「サファイア!」
杖はまだ完成していないはず。いま出てきたら危ない。
「下がっていろサファイア!」
「大丈夫よ。私にできることがわかってきたの」
「アストラエアの姫か。ここで始末してやろう! 地獄のテーブルマナー……」
「そこよ!」
奥義発動前に腕ごと凍結させてしまった。
「なにい!?」
「どんな技も発動前なら怖くない。ボケの前に空気を凍らせて……なかったことにして、滑らせる!!」
発動前の器具を砕き、そのままミッドナイトタイムを氷に封じ込めた。
「アイスクラッシュ!!」
氷山を氷のレールに乗せ、巨大な棘だらけの氷の壁と激突させる。
「がばああぁぁぁ!?」
「私だって、このくらいはできるのよ!}
「ナイスだサファイア!」
「畳み掛けるわ! 氷の騎士団!!」
冷気が場に満ちていき、氷の騎士団が生み出されていく。
「いいだろう俺も参加するぜ」
マゲと和服で身を飾り、馬に乗って氷の足軽集団を率いていく。
「おいそいつら騎士じゃなくなったぞ!」
「よきにはからえ」
「意味わからん! とにかく姫さえ殺せばこちらの勝ちだ!」
「大名行列を横切ってんじゃねー!」
無礼者を首まで地面に埋め、横にピンを並べていく。
「ぬごおぉぉ!? 何しやがるてめえ!」
「姫!」
ボウリングシューズを履いて、棘付きボールを持ったら準備完了。
サファイア姫の判決を神妙に待つ。
「首をはねるのじゃ」
「打ち首獄門!」
「ぎゃああぁぁ!!」
ミッドナイトとピンをすべてふっ飛ばし、夜空の塵へと変えてやった。
「ミッドナイトをこうもあっさりと……ありえん!!」
「信じる者を間違えたな」
「なめるなよ! 地獄の……」
「王家の冷凍保存スペシャル!!」
サファイアの方が速い。氷のブロックに保存されたモーニングデイを、俺が電子レンジになって温める。
「解凍開始だ」
「最大火力でいってみよう!!」
「チート&氷結奥義! 地獄のフルコースあたためますか!!」
レンジ内で高温高速回転されつつ、大量のドリルで削られていく敵。
「ぎゃああぁぁ!! 何でドリルついてんだあああああぁぁ!!」
「思わぬ副収入があってな」
「王族の財力を甘く見ないことね!」
「原因てめえかあああぁああ!!」
「爆散!!」
レンジとともに大爆発を起こし、おかずの使徒はこの世から消えた。
「強くなったな、サファイア」
「ふふーん、私もやればできるのよ!」
一番の成果は神器ではなく、進むべき道を見つけたことかもしれない。
今の俺たちなら、どんな敵でも怖くないと、そう思えた。
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