邪眼毛布とサファイアの魔法
コノハの作った修練場で、邪眼毛布と戦うサファイア。
だがその練度には大きな開きがあった。
「これが魔の毛布形態だ」
「魔力がはっきり見える……まるで半透明のマネキンだな」
「ゆくぞ! 毛布マタドール!」
極光冷砕波すらもひっくり返してぶつけてきた。
「きゃあぁ!!」
とっさに貼ったバリアで防ぐも、状況はサファイア不利だ。
「発想を変えろサファイア!」
「魔法の撃ち合いで勝てないなら……距離を詰める!」
杖の先に魔力の刃を作り、そのまま毛布へ突撃をかける。
剣のスキルも高いので、大抵の敵は押し切れるが。
「やはり無駄が多いな」
毛布らしく軽やかで浮遊しているかのような身のこなしだ。
サファイアの剣も決して遅くはない。常人に見切れるものではないだろうが、やりおる。
「体術でも一枚上手か」
「上手ではない厚手なのだ。毛布だからな」
「なるほど」
「納得しちゃうの!?」
こいつ、どこまでも毛布だぜ。
サファイアの猛攻をかわしながら、的確に打撃でカウンターを決めている。
「開眼! 虹色の毛布!」
邪眼が開き、毛布に覆われていた闘気が虹色に光り輝く。
「オーロラレインボー!」
魔力の拳が巨大化し、サファイアにぶつかって大爆発を起こす。
「うあああぁぁ!?」
「サファイア!」
まともにくらって吹っ飛ぶサファイア。いかん、これは実力差があるか。
「毛布の中で温められていた熱気が、一気に放出されて爆発を起こしたんだ」
「その通りさ」
「あの爆発は無理があるでしょ」
まだ立ち上がる力はある。回復魔法もかけているようだが、こうも差があると手のうちようがない。
「魔法だサファイア! お前の魔法をレベルアップさせるしかない!」
「でも通じなかったよ!」
「やつの言う通り、雑に使っている魔力を、あますところなく活用するんだ。そうすりゃお前は勝てる!」
「できなければ死ぬだけだ。オーロラレインボー!!」
今のサファイアでは避けきれない。そろそろ俺も動くか。
「とうっ!」
攻撃の前に立ちはだかり、みかんを出しながら座る。
「危ないマサキ様!」
「心配はいらない。毛布だけが冬を乗り切る術だと思うなよ」
攻撃はすべて吸い込まれ、足元から暖かさを提供してくれる。
「まさかそれは!?」
「そう……こたつだ!!」
瞬時にこたつくらい召喚できずに、この冬が乗り切れるか。
これで俺と毛布は千日手へと突入する。
「こたつ?」
「お前も入れ。暖まるぞ」
「戦闘中だよ!?」
「いいから。今のお前に足りないものがあるぞ」
「えぇ…………あったかい」
渋々入ったサファイアも、こたつを気に入ったようだ。
「血行を良くする効果を追加した。リラックスしろ。お前は力が入りすぎている」
みかんを剥いてやり、食わせて栄養も補給させる。
体にいいお茶もセットだ。体質改善は強化の第一歩さ。
「あぁー……お城とは違う安らぎ……」
「戦闘中に安らげると思っているのか? レインボーラッシュ!」
虹色の拳が無数に飛んでくる。面倒な、今サファイアが覚醒しかけてるのに。
「冬の名物鏡餅!!」
巨大な鏡餅を召喚し、毛布に向かって蹴り飛ばす。
「ぬおお!! だがこの程度で……」
「甘いな。お前の熱で餅が溶け始めたぜ」
モチと一緒に飛ぶ毛布野郎は、やがて背後にある円形の壁に叩きつけられた。
「くっ、動けん!!」
「今のうちにみかんを剥くぞ!」
「やってる場合じゃないでしょ!」
みかんを丁寧に剥き、白い筋を取ると、綺麗なダツになった。
「ほら見ろ、みかんからお魚が」
「出ないって!? 明らかに大きさ違うじゃん!!」
2メートルあるダツの鮮度が落ちないように構える。
続々とみかんから生まれるダツならば、毛布を貼り付けにするには十分だ。
「必殺異世界チート! 元旦ダツでダーツ大会!!」
「久々にダジャレだー!!」
ダツの大群が毛布に突き刺さり、モチの拘束も含めて完全に動きを止めた。
「ぬぐおおおおあぁぁぁ!? こんなバカな!? オレが動けないだと!?」
「熱でモチが溶け、ダツの鮮度が落ちる。詰みだな」
「そうなの!?」
こたつに入り直し、俺なりにサファイアの進化形態を考える。
「いいかサファイア。今までは大量のビームでなんとかなってきた。だがそれが通じないなら、俺が進化版を考えてみた」
いくつかの案をモニターに表示する。
「まずこれ。サファイアっぽいアリア」
「さっそく私じゃない!? アリアでしょこれ!?」
「別名身代わりの術」
「ダメだよ! 私の修行なんだよ!」
「じゃあこれ。アーマードサファイア」
全身にレーザー銃やガトリングガンを装備し、背中にミサイルを背負ったパターンだ。ジェット噴射で飛べる。
「ごっついよ!? 女の子らしさ皆無だし!」
「魔法が効かないなら近代兵器でいこうかと」
「発想は悪くないけど……これ機動力とか無くなるよね? 重いし」
「えー……じゃあもう魔力の鎧でいいじゃん」
最後の案だ。魔力と闘気を変換して鎧に変え、強化魔法としても使う。
無駄なく魔力を貼り付けるから、余分な魔力が拡散せず内側を循環する。
「急に投げやりだね」
「だって面白くないし。毛布野郎みたく魔力を鎧にするんだよ。気を纏う。魔法の姫騎士サファイア」
「姫騎士って何?」
「なんか姫が騎士をやる」
「お姫様なのに?」
「俺もよくわからん」
ちゃんと説明できるやつっているのか?
発祥がわからんから、具体的な説明もできない。
「お姫様専属の騎士なんじゃない?」
「可能性はあるな。でも姫も所属している感じ?」
「私も戦ってるから否定はできないけど」
「なんか女限定っぽい組織じゃねえかな」
「おい貴様ら! わけのわからんことくっちゃべってるんじゃない! 勝負はどうした!!」
貼り付けにしたままの毛布野郎からクレームが入る。
そういや決着ついてなかったな。
「いけね忘れてた」
「うわあ魚の生臭さが凄いよ……」
「誰のせいだ! 絶対に許さんぞ!」
「もうさっさと倒してこい」
「わかった!」
やる気と魔力は回復したはず。急速と栄養補給で戦闘前より調子も良くなっている。これなら全力が出せるだろう。
「はあああぁぁぁ!!」
「なんだこの魔力は!」
「私だって、マサキ様と一緒に戦える! 私の世界なんだ……私が守らなきゃいけない国なんだ! だから、好きなようにはさせない!!」
蒼い魔力が渦巻き、やがてドレスを補うように、美しい装甲が追加される。
「そんな薄い装備で、オレを超えられるものか! オーロラレインボー!!」
毛布渾身の技が直撃するが、爆煙の中から無傷のサファイアが現れた。
「ありえん! 毛布より薄い装甲でオレの技を!」
「違う! 薄いんじゃない! 極限まで研ぎ澄まされて無駄がないんだ!!」
「これから先、どんな強敵がやってくるかわからない。私の力がどこまで届くかもわからない。けれど今の私なら」
光速で毛布の背後に回り込み、暴力的なまでの冷気が迸る。
「あなたに勝てる」
「このオレが、速さについていけないだと!?」
「必殺お姫様奥義! フリージングフラワー!!」
氷の花が咲き乱れ、圧倒的な力で毛布を切り刻んでいく。
「ありえん……毛布が……毛布が温めきれないほどの冷気などおおおおぉぉぉ!!」
防御の姿勢のまま氷漬けになり、やがてバラバラに砕け散った。
「やったな」
「うん、私やったよ!」
笑顔のサファイアからは、自信と希望が溢れている。
これならきっとアストラエアは大丈夫だ。
「よし、コノハのとこへ戻ろう」
今度の敵は厄介だが、俺とサファイアなら超えていける。きっとな。
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