対決ちくわプリンス

 大根を倒して数日。コノハの家でだらだらしていた。


『コノハちゃん、聞こえますか?』


「ユカリさん?」


 ユカリから通信が入った。どうやら緊急事態らしい。


『おかずブラザーズの長男が、アストラエアで見つかりました!』


「ついに動いたか」


「私たちの出番ね!」


 調整はばっちりだ。どんな敵でも怖くないぜ。

 映像とその場までの地図が出る。


『現在草原で待機しているようです』


「あそこは確か、戦争前までグルメフェスティバルが開催されていた場所ね」


「なるほど。おかずとして、食事にこだわったか」


「意味わかりませんよ?」


 使徒とやらもいない。少数精鋭だったのだろうか。

 仮面をかぶり、やたら目立つ王子様のような服装だ。


『周囲に生物反応なし。決着をつけるには最適かと』


「あるいは俺たちを待っているか、だな」


「行こう! 今ならやれるよ!」


 サファイアの言う通りだ。パワーアップした俺たちが暴れるなら、何もない場所がいい。


「では現地へ転送を開始します」


『頑張ってください、マサキ様、サファイアさん』


「行ってくる」


「ばっちり勝ってきますね!」


 転送された草原では、敵が微動だにせず立っていた。


「待っていたぞ。英雄マサキとサファイアよ」


 顔の上半分に赤い仮面をつけた、きらびやかで輝く王子様ルックという意味のわからんやつだ。それでも確かに強者の覇気がある。


「ほっくほくおかずブラザーズ長兄にして、最強のおかず。ちくわプリンス」


「まさか一人で来るとはな」


「群れるのは好かぬ。おかずとは、詰め込めばいいというものではない」


「栄養バランスにも気を配らないとな」


 おかず談義を遮るように、サファイアが一歩前に出る。


「あなたにアストラエアを好きにはさせないわ。ここで倒す!」


「無駄だ。オレに、ちくわに勝てる者はいない。神であろうとも」


 両腕を組み、笑みを浮かべるだけで、構える気配すらない。


「どうした、オレを倒すのだろう? さっさと攻撃したらどうだ」


「出し惜しみはしないぜ! 必殺異世界チート! 戦闘ヘリの群れ!!」


「露骨に殺意高い!?」


 戦闘ヘリからミサイルと銃弾の雨が降り注ぐ。


「愚かなやつだ。伸びろちくわ!!」


 手に持ったちくわが伸び、戦闘ヘリを貫いて破壊していく。


「やるな。だが銃弾とミサイルは……」


「当たっているとでも思っていたのか?」


 無傷だ。どうやったか知らんが、こいつも強いな。


「冷凍ちくわにしてあげる。50連、極光冷砕波!!」


 おびただしい冷気が溢れ出し、一斉にちくわプリンスを狙う。

 全方位から飛来する極大魔法に、かわす術などないはずだ。


「ちくわ奥義! ちくワープゲート!!」


 ちくわの穴が広がっていき、全攻撃が吸い込まれていく。

 嫌な予感がする。とっさにサファイアを庇い、身代わりと入れ替えた。


「返すぞ」


 身代わりを囲むように出現したちくわの穴は、確かに極光冷砕波を返してきた。


「やれやれ、危ないとこだったぜ」


「ありがとうマサキ様。でもあれは……?」


「身代わりのロボだ」


「ロボ!? あの女神様と倒しに行ったやつ!?」


 簡素な戦闘ロボだ。ちなみに自爆機能付き。


「スイッチオン!!」


 豪快に爆発させたが、やはりプリンスは無傷だ。広範囲への攻撃も無効化してくるのか。


「そちらがロボで来るなら合わせてやろう。ちくわの力は無限大。一瞬だ、まばたきすら許さぬ間に、宇宙戦艦ちくわん号召喚!!」


 空に開いたちくわの穴から、一瞬で超巨大戦艦が現れた。

 砲門がすべてちくわになっている。


「すごいのきちゃったー!?」


「一斉砲撃!!」


 こちらに砲弾やビームなど様々な攻撃が飛んでくる。


「必殺お姫様奥義! フリージングフラワー!!」


 氷の花々が咲き誇り、砲弾を空中で凍結させた。

 物理法則などガン無視で、ビームすら凍結させていく。


「ほう、面白い。短期間でここまで強くなっているとはな。弟が負けるわけだ」


「ふっ、サファイアなら無傷で迎撃くらい余裕さ」


「マサキ様首だけになってるううぅぅ!?」


 俺は直撃を浴びて首だけになっていた。

 だがこのまま生首として浮いていては心配をかけるな。

 顎を地面までぐいーんと伸ばし、口の中から元気な俺の姿を見せてやる。


「これで元通りだな」


「でっかい顔から出てきたー!? じゃあその首だけのマサキ様何なの!?」


「知らん」


「どうして!?」


「俺に似てて気色悪いんじゃああぁぁ!!」


 でかい俺の生首を、ちくわ戦艦に向けて蹴り飛ばす。

 到達直後に大爆発を起こし、戦艦は跡形もなく消えた。


「今のでお前たちの戦闘能力は見切った」


「この程度で俺たちを測りきれるものかよ」


「計算終了。最早オレの勝率は100%さ」


「ならやってみなさい!」


 姫騎士モードになったサファイアが、ちくわの後ろを取った。


「背後からの回し蹴り。確率95%」


「えっ!?」


 予測通りに回し蹴りを繰り出し、ちくわに防がれた。


「怯むな! そのまま攻撃を続けるんだ!」


「ええええぇぇい!!」


「右ストレート、左のジャブ五回、ローキック、冷気のビーム、氷塊を落下させ、上に気を引いてから、床に氷の棘か」


「そんな! どうして当たらないのよ!」


 すべてが計算通りだというのか、サファイアの攻撃がまったく当たらない。

 全行程が光速を突破しているにも関わらずだ。


「データこそがすべてさ。もうお前たちの行動に予測できない点は無い」


「いかにもな負けフラグ立ててくれるじゃねえか」


「計算に狂いはない。オレはIQ7兆の男だぜ?」


「IQゼロの発言きたー!?」


「なら俺の攻撃も予測してみせろ! 必殺異世界チート! 駅の中にあるそば屋!!」


 草原にそば屋を作り、店内へとちくわを迎え入れる。

 早くて安くてうまい。これこそ戦闘にも応用できる技術だ。


「へいおまち!!」


「くだらんな」


 俺の作ったそばを平然と平らげていく。自信作だというのに、発された声は意外なものだった。


「こんなものでよければ、オレがもっとうまいものを作れるぞ」


「なら同じ材料で作ってみやがれ!」


「計算済みだと言ったはずだが? すでにちくわそばが完成しているぞ」


「どうしてできてるの!?」


「こっ、これは……」


 うまい。つゆの深みが、そばのコシが、何よりちくわが……そばに合う。


「うますぎて……うますぎて……うわああぁぁぁ!」


「マサキ様!!」


 光りに包まれ、うまさの中で変異していく俺。たどり着いた境地は。


「俺が……ミートボールに!!」


「なんで!? 意味分かんないよ!」


「ミートボールでいいのか? 周囲を見てみろ」


「……はっ!!」


 いつの間にか、俺のすぐ近くに似た物体が複数あった。


「周囲は全員つくねだぜ?」


「もっとわからーん!?」


 俺がミートボールだと発覚し、周囲のつくねたちがざわつき始めた。


「おいおい、こいつミートボールだぜ~」


「ああ、オレたちつくねの庭を荒らしやがって」


「やっちまえオラア!」


「うおおおおおおお!!」


 つくね軍団の猛攻を凌ぐのでやっとだ。これもやつの計算の内だというのか。


「ふはははは!! 浅い浅い!! お前がミートボールになる前に、オレはつくねたちを呼び終わっていたぞ!!」


「IQ7兆は伊達じゃねえってことか」


「バカとバカの共演だよ」


 サファイアにつくねを冷凍してもらい、窮地を脱した。

 こいつ、今までのやつとは段違いに強い。


「どうだ、オレの計算は狂ったか?」


「確かに凄い……マサキ様の行動を完璧に予想するなんて……」


「ならば予想できても関係ないほど、パワーで押すぞ!」


「わかったわ!」


「雑魚どもめ。格の違いを教えてやろう。メビウスのちくわ!」


 ちくわがいくつも繋がり、天空で無限を表すメビウスの輪となった。


「パワーアップ用のちくわということか」


「ちくわにそんな効果ないよ!?」


「あのちくわが天に輝く限り、オレの力は無限。測定できんほどの圧倒的パワーが手に入る。どれ、証明してやろう」


 ちくわプリンスが軽く右手を振る。

 次の瞬間、その方向にあった山が、雲が、景色が丸ごと消えた。


「そんな……どうなって……」


「ありえん……これほどのパワーを持った敵がいるとは」


「無限とは比喩表現ではない。なんならこの星を消してみせようか?」


「そうはさせないわ! たとえどれだけ強くても、必ず倒してみせる!」


「ちくわプリンスよ、その力、女神に貰ったか?」


 あまりにも強すぎる。どう考えても異常だ。これほどの強者は、敵対した女神クロユリをも超えているだろう。ありえん。


「残念だが外れだ。神殺しを達成したのが、貴様だけだと思ったのか? 英雄様」


「どういう意味だ!」


「その英雄譚は聞いているよ。邪神の血肉を浴びたんだろう?」


「お前……どうしてそれを……」


「オレが殺した神が言っていたよ。女神とともに邪神を屠った男がいると」


「そういえば……マサキ様そんなこと言ってたような」


 こいつも神殺しということか。いかんぞ、最低でも並の神は殺せないと勝負にならない。サファイアがついてこれるレベルなのか?


「封印中に、ある神がやってきた。そいつはオレを手駒として使おうとしやがった。それが死を招くとも知らずにな」


「複数の邪神を殺し、その力を我が物にして封印を破ったか」


「そういうことさ。さあ全力を出せ。神をも殺してみせた、その圧倒的なパワーをオレに見せろ」


 不意に夜が訪れる。いや、夜じゃない。星が見えない。闇に包まれ、そして星空が見えてきた。


「何をした!!」


「星をちくわの穴に通しただけだが?」


「なんですって!?」


「今はちくワープゲートの残り香によって、星が維持できているに過ぎん。あれを見ろ!」


 そこには巨大なブラックホールが口を開けていた。徐々に星ごと近づいているように感じる。


「後一時間だ。一時間でこの星はブラックホールに激突する。助かりたくばオレを殺せ。自動的に元の場所へ戻れる」


「この外道が!!」


「さあ全力で殺しに来い! でなければ星が滅ぶぞ!!」


 余計なことをしやがって。こうなりゃ意地でも止めてやるぜ。

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