綺麗に第二部が完結できたと思います

 邪神白薔薇を倒した翌日。

 俺たちは温泉で一泊し、疲れを癒やしてから城へと戻った。


「あぁー……結局疲れちまったな」


 今はサファイアの部屋でのんびりしている。

 帰ってきたことで、ムラクモさんは騎士団の仕事に戻った。

 今回の功績を認められ、特別な兜が進呈されるらしい。


「せっかく温泉でゆっくりしようと思ったのにね」


「仕方がないですよ。まさか邪神が封じられているんなんて、予想できませんからね」


 なぜかユカリがいる。優雅に紅茶飲んでいるけれど、お前は呼んでいないぞ。


「ユカリはどうしてここにいる?」


「報告に来ました。あのあとアストラエアちゃんと相談しまして、白薔薇のことを女神界に報告して、やることがいっぱいだったんですよ」


「そら大変だな」


「大変なんてもんじゃありませんよ。コノハちゃんも、他の女神も総出です。第二の白薔薇が出ないよう、データチェックだけでもう……」


 とりあえず大変な作業であることは察した。

 くつろぐくらい許してやろう。


「じゃあ報告頼む。クッキーやるから」


「マサキ様が作ったわけじゃないでしょう。まず白薔薇と次元の狭間は消えました。完全に消滅です」


「まあ弱点のある邪神で助かったよ」


「それでも偉業ですよ」


「そうよ、合体戦士は無敵ね」


 光が苦手という明確な弱点と、俺の相性が良かった。

 弱点なしの神なら、もう少し苦戦しただろう。


「あと御神体は全部帰ってきました。ケンファーと皇帝が届けたらしいです」


「捕まえたのか?」


「いいえ、メッセージカードがあったとか。サファイア姫の美しさと、戦友へのお礼にプレゼントします、と」


「最後まで気取りおって」


 とりあえず悪事を働く気はないらしい。

 おとなしく隠居でもしやがれ。俺が戦うことになりそうだぞ。


「怪盗結社の残党リストもあったので、騎士団が逮捕に動いています」


「任せるぞ」


「マサキ様も出動かかるかもしれませんよ?」


「俺はこいつの護衛係なの」


 騎士団のお仕事は奪わない。俺は俺である。あと一ヶ月くらい休暇くれ。


「なら私が行けばいいのね」


「行くな。反省しろ。そうやって厄介事に首突っ込みやがって」


 サファイアのこういうところは直さないと、護衛するのも一苦労だ。


「でも行かなかったら、白薔薇が復活してたかもよ?」


「…………守る方の身にもなれ」


「私がもっと強くなればいいだけよ」


 こいつはもう仲間だ。だからだろう、無茶するんじゃないかと心配になる。

 できる限り破天荒な行いは止めたいんだよ。


「マサキ様は変なところで心配症ですねえ」


「あれだ、今まで仲間がユカリくらいだったからな。人間の仲間ってのに過保護なんだろ」


 かなり新鮮な状況である。女神と違って死ぬし過保護でもしょうがないだろう。


「ユカリ様と旅していたのよね?」


「ああ、こいつ女神だし、滅多なことじゃ負けないし死なないから」


「だからって乱暴に扱ってはいけませんよ。死ぬ時は死ぬんですから」


「はいはい」


 ユカリというか、神の頑丈さと強さは頼りになる。

 俺のボケにも耐えられるし、融合して強くもなれる。万能だな。


「永住する気でもないだろ? いつまでいるんだ?」


「しばらくこの世界担当になりましたから、お城にいますね」


「神様ってそんな気軽にいていいの?」


「女神だということは、王族と騎士団長くらいしか知りませんよ。私は王族のお友達ということになっています」


「都合のいい連中だ……」


 どうせ家事とか面倒になったんだろう。

 ここなら飯も出てくるし、設備もいい。


「毎日ご飯が美味しいですからねえ」


「マサキ様と同じ発想ね」


「こいつと同類か……」


 ちょっと考えよう。これはいけませんよ。俺にできることはなんだろうな。


「だから世直し旅を」


「しない。それは今回やった」


「じゃあ私が強くなるための修行!」


「勝手にや……らせたら危険だな」


「過保護ですねえ」


 そのにやついた笑みは何だユカリよ。

 仕方ないだろ、ほっときゃ危険なことしそうだし。


「戦闘力じゃなくて、女子力上げましょうよ」


「俺が?」


「なんでマサキ様よ。私がやるんじゃないの?」


 ユカリから女子力とかいうよくわからん単語が出るとは思わなかった。

 こいつの発想もよくわからんな。


「そうそう、お料理とか、今日の晩御飯とか」


「腹減ってるだけだろお前」


「クッキーもうちょっとあります?」


 なるほど、これと同じ扱いは避けねば。


「サファイアは料理もピアノもダンスもできるだろ。むしろ女子力足りないのはユカリだ」


「クッキーも足りませんよ」


「食い過ぎなんだよ! お前ちったあ自分でなんとかしろや!」


「女神ゲート! オープン!」


 よくわからん裂け目に手を突っ込んでいるユカリ。

 何か引っ張り出しているようだ。


「おやつに取っておいたカップ麺とかありますよ」


「異世界ファンタジーを尊重しろアホ!!」


「かっぷめんってなに?」


「これはですね、マサキ様、ちょっとお湯持ってきてください」


「熱湯風呂にぶち込むぞお前!」


 現代の商品を出すんじゃない。それオーパーツだからね。

 異世界ファンタジーにねえんだよそういうの。

 なんできっちり三人分あるんだよ。


「あとは三分待ちましょう」


「どうなるの?」


 サファイアが楽しそうだ。未知の食べ物に興味でもあるんだろう。


「西洋のお城にカップ麺は似合わねえだろ」


「いいんですよ。女神からのプレゼントです」


「どんなしけた女神だ」


 西洋のお城でカップ麺待機する俺たちは、かなり間抜けな絵面だと思うよ。


「これは待つだけなんですか?」


「そうね、暇だし……アストラエアちゃんのホラー映画レビューでも見ます?」


 女神ゲートからPCとモニター引っ張り出そうとしてやがる。


「やめろやめろ世界観とか尊重しろや」


「だって暇じゃないですか。いいんです、女神が与えるあの、神器です神器」


「現代科学と女神は真逆の存在なんだよ!」


「安心してください。現代じゃなくて、女神界の製品です」


「余計ダメだろ!?」


 どんなとこだ女神界。絶対行きたくねえ。へたすりゃユカリみたいなやつが大量にいるぞ。


「なんだか楽しそうね」


「いや地獄だろ」


「しまった……コンセントがありません」


「あるわけねえだろ!」


 お湯は魔法で沸かした。

 ユカリにかまっていると疲れる。

 カップ麺食いながら雑談に入ろう。


「懐かしい味だ」


「でしょう。昔ながらの醤油味です」


「ちょっと味が濃い気がするけど、おいしい! 女神ってすごい!」


「いや女神要素ゼロだぞ」


 サファイアの中で、女神とカップ麺がイコールになりつつある。

 神聖なイメージぶち壊しだな。


「しょっぱさが癖になります!」


「お姫様に食わすもんじゃないだろこれ」


 いいのかこれで。本人は満足しているようだが、俺はひたすら困惑するわ。


「ふっふっふ、味噌味もあるんですよ」


「そのドヤ顔はどういう気持ちの現われなんだよ」


「みそ?」


「気にするな。あとラーメンは女神と関係ない」


 ユカリの奇行を止めねば、善良な女神の権威があれになる。


「ラーメンを司る女神もいますよ」


「完全に罰ゲームだな!?」


 なんでもラーメン大好きで、加護もそれ関係の女神が存在するらしい。


「女神界で行列ができる店の店長です」


「バカばっかりか女神界」


「そうだ、次はおいしいものめぐりよ!」


 完全な思いつきで提案するサファイアに、なぜかユカリが乗ってくる。


「いいですね!」


「ユカリはどうして一緒に行けると思った」


「行きたいです!」


 人間に干渉しすぎるなよ。お前見守る立場だろうが。


「行きましょうよマサキ様。ご飯が待っていますよ」


「そうよ、修行にもなるわ」


「……最低限サファイアに護衛をつけるぞ。俺だけじゃ難しい」


「だから女神である私です」


 ちくしょうこいつ強いんだよなあ。同性の護衛も必要だろうし。


「行くのは今からじゃないぞ。最低限一週間は城にいる。姫が不在続きはダメだ」


「わかった、政務とかやっておくわね」


「お手伝いします。この世界の情報を集めておきますね」


 めっちゃやる気だ。それで国が良くなるのなら。もう俺も否定はしない。


「がんばれよ。俺は休憩して、次に備えるから」


「そう、そしたらまた旅に行こうね!」


「わかったよ。でもしばらくはゆっくりした時間を楽しむんだ」


 ネタが思いつくその日には、きっとまた戦うことになるだろう。

 それがいつになるかは知らないが、しばらくゆっくりしたいもんだ。


「そう、きっと未来の俺は……戦えるだけのギャグを思いついているはずだから」


 第二部 完。

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