必殺イケメンチート!

 広々とした夜の公園で、邪神白薔薇と戦闘になった。

 苦労はしたが、無事怪盗皇帝を救出したことだし、決着をつけよう。


「ワタシノカラダアアアアァァァ!!」


 上半身が黒い霧となり、徐々に消え始めている。


「師匠を動力源にしていた罰だ」


「ユルサナイ!!」


 床一面が暗闇に飲まれ、巨大な影の手が無数に押し寄せる。


「まずい! サファイア!!」


 サファイアを抱えて全力でバックステップ。

 隣にはケンファーとムラクモさんもいる。流石の判断力だ。


「消えろ化け物! 美顔流星群!!」


 隕石が白薔薇をすり抜け、地面に落ちては埃とクレーターを作っていく。


「すり抜けた!?」


『いけない! 皇帝が消えたことで、純粋な女神としての性質が出た!!』


「どういうことだ!」


『クロユリと同じです。女神は実態がなくても存在できる。概念だから、半端な攻撃じゃ届かないんです!』


「むしろ強化されちまったってことか」


 最悪だ。ああなっちまったら対処が難しい。


「ケンファー殿! 危ない!!」


「うがあぁ!?」


 巨大な影の拳が、ケンファーを軽々と吹き飛ばす。

 地面を転がり、起き上がることすらできないダメージを負わされたようだ。


「オワリダ!!」


 飛んでくる髪を処理しきれず、捕まったムラクモさんが地面に何度も叩きつけられる。


「ガハアァァ!?」


「ムラクモさん!」


「ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 巨大な顔から、髪と影が溢れ続けている。これはまずいな。


「ムラクモさんを離しなさい! ウインドスラッシャー!」


 風の刃が髪を切り裂く。だが落ちたムラクモさんはしばらく動けないだろう。


「ジャマヲスルナアアァァ!!」


 口から暗黒の魔力を吐き出してくる。

 このままじゃまずい。


「お前の技なら、ダメージも通るだろ!!」


 両手足と胴体を伸ばし、自分の体をゴムのようにして受け止める。


「必殺異世界チート! 人間ゴム飛ばし!」


 完全に直撃させた。させたはずなのに傷がない。


「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


『ダメです。闇の力では太刀打ちできません! 私が行くまで耐えてください!』


「いいや、俺たちでやる」


「同意しよう。オレはまだ、師匠を奪った落とし前をつけさせていない」


 この程度の相手、ユカリが来るまでもない。

 相手が不死身の化け物であろうとも、邪神であろうとも同じだ。


「あいつを倒す手段がある」


「乗ってやる。ただし、きっちりとどめを刺すぞ」


 ケンファーもやる気だ。こいつの協力で少しは楽になるだろう。


「サファイア、時間稼げるか?」


「やってみる」


「ならば自分が行きましょう」


 ムラクモさんはもうボロボロだ。兜以外の鎧は砕け、所々から血も出ている。


「無茶よ! その体じゃ……」


「痩せても枯れても自分は騎士であります。己の騎士道には背けません。最後まで姫の盾となりましょう」


「できるんだな?」


「無論であります!」


「わかりました。死なないでくださいよ」


 そしてあいつを倒すための作戦が始まる。


「クロユリに太刀打ちできなかった時、私がもっと強ければって、何度も考えた。今度は足手まといにならないようにって」


 サファイアの魔力が純度を増し、強大なエネルギーとなって集まっている。


「だから、今度は私がマサキ様を助ける!! 凍花冷演舞!!」


 舞のように優雅で華麗な動きから繰り出される、圧倒的な冷気。

 それは邪神である白薔薇すらも凍結させ、伸びてくる髪を固めては砕いていく。


「姫に続きますぞ! うおおおおぉぉぉぉ!!」


 猛然と走り出し、飛び上がったムラクモさんが、その兜を脱ぐ。


「ムラクモ……フラアアァァッシュ!!」


 その頭部から圧倒的な輝きが放たれる。

 眩く雄々しく、その光で白薔薇の動きが止まる。


「ギャアアアァァ!! ヒカリガアアアァァ!!」


「見ないでええぇぇ!! こんな、こんな自分を見ないでえええぇぇぇ!!」


「何も見えないさ」


「ああ、眩しくて、漢の背中しか見えないぜ」


 こちらも準備完了。俺が左右に真っ二つに割れ、ケンファーを挟み込む。


「いくぜ! 必殺異世界チート!!」


 そのままケンファーを閉じ込め、左右の俺がくっついた時、究極の戦士が誕生する。


「イケメンシャイニング!!」


「ギャアアアァアァァ!!」


 かっこいいポーズから放たれる、聖なる浄化の光。

 それは邪神の存在を許さない。正義のチートとイケメンパワーである。


「これは……これはもしかして!」


「マサキ殿が……変わった!!」


 紺色の短髪と、人類を魅了する筋肉美。そして女性を虜にする究極のイケメンフェイス。


「俺はマサキでもケンファーでもない。新世代型イケメンチート、マサファーだ!!」


 さあ、すべてを終わりにしようじゃないか。


「融合!? クロユリの時と一緒だ!」


「なんと! こんな隠し玉が!!」


「キエロオオオオォォォ!!」


 白薔薇の髪が俺を取り囲む。だが無駄だ。


「無駄なんだよ。俺を隠すことはできない。なぜなら俺はイケメン。その輝きは隠せない!!」


 溢れ出る美しさが、極上の煌めきをお届けする。

 それは邪神には劇毒だ。あらゆる闇を消していく。


「ウギャアアァァ!!」


 やはりか。この姿なら、ただ輝きを止めないだけで邪神と戦える。


「集えカメラ! イケメンがここにいるぞ!!」


 白薔薇の頭に乗り、イケメンポーズで待機すれば、無数のカメラが俺を取り囲む。


「必殺イケメンチート! カリスマモデルの撮影会!!」


 猛烈なフラッシュとともに、断続的な光が白薔薇を襲う。


「ゴガアアァァァ!?」


「えええぇぇ!? こんなので倒せちゃうの!?」


「舞台の幕が上がるぜ!」


 数え切れないスポットライトが収束し、俺を舞台中央へと導く。


「今日は俺のディナーショウへ来てくれてありがとう」


「急になんか始まった!?」


 豪華な部隊とテーブルが用意され、紳士淑女のみなさまのテーブルへ、キャンドルサービスで火を灯していく。


「ありがとうみんな! ファンのおかげで俺は今日もトップスタアだよ!」


「なんなのこれ? っていうか座ってる人たち誰なの!?」


 サファイアのテーブルにもキャンドルをサービスしていく。


「ありがとう白薔薇。君も楽しんでいってくれ」


 専用のでかい椅子に座り、俺の真心あふれるサービスを受ける。


「キャンドルファイアアァァ!!」


 蝋燭の炎が暴れ狂い、白薔薇を的確に容赦なく焼いていく。


「ンギャアアアアアァァ!!」


「なんで白薔薇が座ってんの!?」


「アツイイイイィィィ!! オマエエエェェェ!!」


 炎がつきっぱなしの髪の毛が、俺を殺そうと迫る。


「ミラーボールカモン!!」


 天井から巨大なミラーボールを召喚。

 十人に分身し、キラキラの服でステップを踏みながら、アフロで防御する。


「こいつが本場のパーリィーさ!!」


「なんで全員アフロなの!?」


「侵食しろ! アフロよ!」


 十人のアフロが巨大化し、白薔薇を黒いアフロの塊へと変えていく。


「イケメンのアフロは優しさでできてるんだぜ」


「なにこれ!? 純粋にキモい!!」


「シイイイィィネエエエェェ!!」


 白薔薇の口から、暗黒ビームが飛び出す。

 だがそれはもう何度も見た。いまさら同じ技は通用しないぜ。


「イケメン最大の武器は顔。誰もが見惚れる完璧フェイス」


 光が収束していき、俺の顔の形へと変わっていく。


「何この不快な光!?」


「必殺イケメンチート! 美顔極光波あああぁぁ!!」


 光と闇のエネルギーがぶつかり合い、巨大な光で浄化していく。


「アリエン……ワタシハジユウニ……ウワアアアアアァァァ!!」


 ぶつかりあった結果生まれた光の柱は、白薔薇を飲み込んでいった。


「終わりだ。どんな邪神だろうと、顔のいい俺には敵わないのさ」


「ギャアアアァァァ!!」


 白薔薇は消えた。光の粒子となって、完全に浄化されたのだ。


「やれやれだな」


 そこで俺とケンファーに戻る。


「まったく、無茶な戦いをしてくれるね」


「これが一番勝率が高かったんだよ」


「マサキ様ー!」


「やりましたなマサキ殿ー!!」


 駆け寄ってくる二人に振り向いた時、背後から気配が消える。


「世話になったな! イケメンでなくとも強く、かっこいいやつがいることは認めてやる!」


 遠くで皇帝を抱え、逃げる準備を整えたケンファーがいた。


「元気なやつだな」


「オレは必ず師匠を回復させてみせる。それまで決着はお預けだマサキ!」


「逃さないわよ!」


「安心しろアストラエアの姫よ。オレも恩知らずではない。この国では静かに、慎ましくイケメンに生きていくと約束しよう。さらばだ! ありがとう!」


 そして最後の最後までポーズ決めてから消えていった。


「まったく……まあいいや。今日はもう疲れた。帰って温泉入り直そうぜ」


「賛成ですな。もう追う体力もありませんぞ」


「……そうね。帰りましょうか」


 とりあえず最悪の邪神には勝てた。

 今はそれを喜びながら、温泉で疲れを癒やすとしよう。

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