現れた邪神白薔薇

 次元の狭間から、両手と顔だけが出ている化け物。

 顔だけで5メートルはある。

 こいつが女神だとは思えない。ただの醜い化け物だ。


「アアアアアアアァァァァ!!」


「ユカリ、どういうことだ? こいつ敵だよな?」


 どこから見ているのかもわからないユカリに声をかける。まず情報が足りない。


『邪道女神白薔薇。かつてこの世界を支配するため、怪盗結社を乗っ取り、その力を利用しようとした。けれど皇帝に気付かれ、怪盗と騎士団の戦いにおいて封印されたんです』


「師匠が封印したというのか? それに乗っ取られていたなどという話も知らん!」


『皇帝は白薔薇を騎士団に襲わせ、弱体化した瞬間に、自分ごと次元の狭間へと落ちた。これはこの世界での記録にありました』


「バカな……皇帝が、オレの師匠がなぜ……」


 動揺が隠せないケンファーだが、邪神は待っちゃくれない。

 なら答えはひとつ。


「直接聞けばいい。あの中にいるんだろ?」


「そうね。それが一番早いわ」


「シンプルでいいですな」


 サファイアとムラクモさんが横に並んでいた。


「確かめるんだよ。あの邪魔な化け物ぶっ飛ばしてな。あれは単独で倒すには面倒だ」


『気をつけてください。長い間封印されていたとはいえ、あれは神。危険な存在です』


「なあに、神を倒すのは初めてじゃないさ」


「いいだろう。この声を信じるのなら、あいつは師匠の敵だ」


 それぞれに構えを取り、今にも出てきそうな邪神と対峙する。

 挟まっているのか、図体がでかすぎるのか、まだ両手と顔のみだ。

 倒すなら今しかない。


「アアアアアァァァァ!!」


「いくぞ!!」


「手加減はしないわ! 極光冷砕波!!」


 氷のビームで両手を止める。

 その隙にケンファーとムラクモさんが肉薄した。


「騎士団伝統のおおおぉぉ! 豪快スラアアアァァァッシュ!!」


 光で満ちた剣が、大きく十字を切った。

 その豪快で野太い太刀筋は、まさに豪快スラッシュの名にふさわしい。


「ギャアアァァ!!」


「イケメン奥義!」


 怯んだスキを見逃さず、ケンファーが白薔薇の頭上でタップダンスを始める。


「美顔乱心脚!!」


 そのイケメンぶりを発揮した連続蹴りは、最早雨を超えて嵐だ。


「邪魔ダアアァァァ!!」


 白薔薇の両手が二人に伸びる。ここはサポートに入ろう。


「必殺異世界チート! 他人すごろく!!」


 その場でサイコロを転がし、白薔薇に似た駒を動かす。


「1,2,3,4,5と」


「何やってんの!?」


 出たマスは一回休みだ。


「白薔薇、強制一回休み!!」


 ぴたりと白薔薇の動きが止まる。

 そこを見逃す二人ではない。


「イケメン!」


「豪傑!」


「協力奥義!!」


 ケンファーのオーラをまとったカカト落としと、ムラクモさんの横薙ぎスラッシュが炸裂した。


「イケ渋男の十字斬!!」


「ウギイイィィィィイ!!」


 白薔薇からドス黒い濁った血が吹き出す。

 ダメージは通るようだな。なら勝てる。


「キイイヤアアァァァ!!」


 白薔薇の髪が伸び、俺たちを捉えようと迫る。


「ええいなんと羨ましい! 自分にもあれだけの……いやなんでもありませんな!」


「言ってる場合か?」


 暴れまわる髪から逃れるようにバックステップ。


「フレイムドライバー!!」


 サファイアの炎の渦ですら、完全には焼き切れない。


「消エロオオオォォォ!!」


 口から黒いビームが飛ぶ。まずい、サファイアを狙ってやがる。


「逃げろサファイア!!」


「結界!!」


 お得意の結界も、邪神の前では無意味だった。

 ガラスが割れるような音がして、そのままビームが飛んでいく。


「必殺異世界チート! 即席畳返し!!」


「イケメンガード!!」


 俺が地面を畳に変え、壁とした瞬間、隣でサファイアの盾となるケンファーがいた。


「お前なんで!!」


「言ったはずだ。イケメンであることに本気だと。傷つきそうなお姫様を庇う、今のオレはかっこいい!!」


「……嫌いじゃないぜ」


「姫様に手出しはさせませんぞ! 剛烈斬!!」


 豪快に白薔薇を切り裂き、一瞬だけビームがずれた。

 チャンスを逃さず、俺たちは離脱。そのまま反撃開始だ。


「消えろ化け物!」


 そこから始まる怒涛の連続攻撃も、どこか手応えがない。

 攻撃はあたっている。だがじわじわと回復されている気がした。


「アアアアアア!!」


「まずい、全身が出てくるぞ!!」


 巨大な両手と髪の毛を使い、次元の狭間から這い出た白薔薇。

 腕と髪で立ち上がったその姿は、下半身が存在していなかった。


「なにあれ……気味が悪いわ……」


 上半身は闇が覆っている。服は黒いようだが、正直ほぼ見えない。

 それほど闇が濃いのだ。


「ユカリ、そろそろ調べ終わったか?」


『なんとか見つけました。大戦時に下半身は失われ、次元の狭間で回復もできずにいたらしいです』


「それはおかしいぞ女神よ。あいつは回復しているようだが」


 ケンファーの言う通りだ。もっとあれだけ攻撃したんだから、もっとボロボロになっていていいはず。


『動力源か、回復のコアとなるものがあるはずです。本来は頭と腕しか無いはずですから』


「そう言われてもな……」


『胸か脳あたりにあるはずです』


「あっ、あそこに何かあるよ!」


 サファイアの言う場所には、ぼんやり人影が見えそうで……よくわからん。


「師匠!!」


「なんだと!?」


 白薔薇の首と胸の中間に、丸くて黒いダイヤのような結晶がある。

 その中に眠る人影。あれが怪盗皇帝なのか。

 白髪のひげダンディだな。黒とのコントラストで少し見えた。


『おそらくそれがエネルギーの源でしょう。殺さず取り込み、生命エネルギーで復活を狙ったのかと』


「オレを呼んだ女神ってのは……白薔薇だな?」


『だと思います。皇帝とつながりのあるもので、自分の誘いに乗ってくれる人間を探していたのでしょう』


「気に入らないね。オレと師匠をコケにしやがって」


 ケンファーの気持ちもわかるが、まずは敵をどうするかだ。


「とりあえず回復に使われるってんなら、ひっぺがすしかないな」


「だが剥ぎ取れるものですかな?」


「ユカリ、弱点とかないか?」


『今資料を漁っていますが、強い光に怯むとしか』


「光って……もう夜ですよ!」


 確かに夜だ。しかも月のない夜。

 街灯もあるが、正直心もとない。


「キヒャヒャヒャヒャ!!」


 白い髪が波のように襲ってくる。


「相談している余裕はなさそうだね」


 なんとか動き回って逃げつつ切断していくが、おそらく毛は無限に出せるのだろう。


「師匠を返してもらうぞ! イケメンフラッシュ!」


 全身から輝きを放ち、イケメンとして綺羅星の如く光っておられる。

 眩しいわボケ。


「ヤメロオオオォォォ!!」


 髪が一気にケンファーへと伸びる。


「サファイア!」


「任せて! 極光冷砕波!!」


 発想の転換だ。髪を凍らせて、皇帝までの道にしてやる。


「ムラクモさん!」


「行きますぞ!!」


 二人で髪を登り、胸の皇帝まで猛ダッシュ。

 白薔薇がでかすぎるせいで少し手間だが、なんとか届きそうだ。


「ウガアアアァァァ!!」


 黒い瘴気と白い髪の乱舞が襲う。


「ぬおおぉぉ!! 離せ!!」


 ムラクモさんが瘴気に捕まり、髪でひっぱたかれて落ちていく。


「なんという屈辱! あてつけか貴様あああぁぁぁ!!」


「ムラクモさん! しまっ!?」


 落ちるムラクモさんに気を取られてしまったからか、白薔薇の右腕でぶん殴られ、九個に弾けてしまう俺。


「やってくれるじゃないか」


「いやいやどうなってるのそれ!? 生きてるんだよね!?」


「当然だろう」


「当然死んでなきゃおかしいんだよ!!」


「だがこの姿になったのは計算だ」


 痛みもないし、死にもしない。そしてノリと勢いでいくのだ。

 さらに丸みを帯び、完全な球体へと変わっていく。


「合体奥義といこうぜ」


「……喋ってるボールは口なの?」


「左足の薬指だ」


「それでどうやって喋ってるの!?」


 言っている間にまた髪の量が増えている。


「やつは髪を自動で動かしているわけじゃない。不規則な動きには対応できないんだ! いくぜ必殺異世界チート!」


 九個のボールとなった俺が、白薔薇の周囲を飛び回る。

 そしてケンファーがビリヤードのキューで打ち出した。


「いいだろう。必殺イケメン奥義! グッドルッキングハスラー!!」


 ビリヤードの要領でぶつかりあい、不規則に飛び回る九個の俺は、髪が追えるスピードを遥かに超えた。


「そらそらそらそら、ナインボールじゃああぁぁい!!」


 白薔薇にガンガンぶつかってはまた跳ねる。

 そこをケンファーが再度キューで打ってくれるのだ。


「ギャアァァァ!!」


「ナインボールってこういう遊びなの?」


「さあ? 自分はさっぱりですな」


 ついに黒ダイヤにたどり着き、弾き飛ばしてスポッと俺が入る。


「ナイスショト!」


「マサキ様が挟まったー!?」


 飛ばされた皇帝をケンファーがキャッチ。


「自爆!!」


 ダイヤの中に俺を全員集合させて大爆発。

 爆破の衝撃を利用してサファイアのもとへ戻った。


「ギイイイィィィィ!? アアアアァアァ!!」


「師匠! 師匠!!」


「今回復するわ!」


 人質は救出した。これであとは邪神を倒すだけだな。

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