ここから第三部が始まるぜ!

 邪神白薔薇を倒し、平和になった国で生きることニヶ月くらい。

 俺はサファイアの護衛として、それなりに充実した日々を得ていた。


「いやもう俺の出番ねえだろ」


「急にどうしたの?」


 自室でだらだらしている俺に、サファイアが本を読みながら聞いてくる。

 結構広いのに聞こえるんだな。


「このまま毎日平和だといいなって」


「そうね。あの戦いの日々が嘘みたい」


「嘘であって欲しいよマジで」


 平和というのは実に素晴らしい。俺のチートを使わなくていいからだ。


「一ヶ月以上もなーんもないからな」


「世直しの旅に行こうよ」


「絶対にやだ。観光には何回か行っただろ。そもそもお前は稽古で忙しいし」


 サファイアは国内のいろいろとか、お勉強やお稽古ごとで忙しかった。

 具体的にどうっていうのは説明できん。

 そこはもう曖昧でいいじゃん。デリケートっていうか考えるのめんどくせえんだよ。


「姫様ー!!」


 アリアが扉をばーんと開けて入ってきた。息切れしているし、緊急の用事かな。


「やはりここに……火急の用事にて失礼いたします! 一大事です!!」


 いつになく真剣な声だ。これはただ事じゃないな。姿勢を正し、真面目に聞く態勢に入る。その間にサファイアが差し出した水を飲み干し、アリアの両手には、何か白い煙のあがる物体が握られていた。


「現れたのです……やつらが!」


「そんな……それはまさか!!」


「そうです……ついに封印が解けたのです。やつらが……」


 ちくわとこんにゃくに見えるなあれ。なんだろう、似ているマジックアイテムとかなのかな。不思議だ。

 ちくわをひとかじりし、キリッとした顔でこう告げた。


「ほっくほくおかずブラザーズが」


「ぶっ飛ばすぞお前」


 意味がわからん。説明をくれ。わかりやすくくれ。


「そう、ついにそんな季節なのね」


「季節関係あんの?」


「最近は随分と冷えてきただろう?」


「そうだな。この部屋の空気くらい凍ってるな」


「食べるか? 暖まるぞ」


 なぜ笑顔でちくわを差し出せるんだ。しかも食いかけ。せめて新品渡せよ。


「ここまでで聞きたいことはあるか?」


「全部だよ。わかる点が一個もねえわ」


「やれやれ、ここまで世情に疎いやつだったとはな。勉強不足だぞマサキ殿」


「お前を何発殴っていいかだけ教えろ」


 どうして『やれやれ……この世間知らずは困るわ』みたいな雰囲気醸し出してんだよこいつ。すげえうざいんだけど。もうこいつ倒して終わりでよくね。


「ほっくほくおかずブラザーズが出たのよ」


「話が進展してないよな」


「寒くなる頃に現れ、温かいおかずを食べ尽くし、ちくわとこんにゃくを置いていく、冬の危険人物よ」


「取り締まれそんな連中」


「封印していたんだが、どうやらまた結界が弱くなっていたようだな」


 封印じゃなくて首をはねてしまえ。そんな強いと思えないぞ。


「ほーっくっくっく」


「この笑い声は!?」


「笑い声でいいのかこれ?」


 外から声が聞こえる。間違いなく関わりたくない。


「城の警備も大したことないなあ」


 窓がゆっくりと開いていく。そこに腰掛けているのは、般若の面をつけた男だった。緑色の鎖帷子を着た忍者のような風貌だ。


「般若こんにゃく!!」


「そうさ。ほっくほくおかずブラザーズ次兄、般若こんにゃく様だ!!」


 そっと退出しよう。こいつに関わるのめんどい。


「さあ始めようか。救国の英雄マサキ!!」


「俺かよ!?」


「貴様の力が本物か試してやる!」


「結構です」


 何故俺なんだ。変態の相手などしていられるか。


「俺はサファイアと別室に行くから」


「よろしくねアリア」


「わかりました。賊程度、私が始末してくれましょう!!」


「くだらん。雑魚に用は無い!!」


 大抵の敵はアリアで倒せるし、般若の戦闘スタイルも知りたい。

 これはいい機会だろう。頑張れ。


「うなれ聖剣エクスカリバー!!」


 光る豪華な剣を振り下ろすが、敵は避ける素振りがない。


「こんにゃくは無限のエネルギー」


 剣がつるりと滑り、般若の横に突き刺さった。


「なんだと!?」


「おかずの心は母心。くらえい! 唐揚げ爆裂拳!!」


 バスケットボールくらいの唐揚げが飛び、アリアへと突撃を開始した。


「エクスカリバーを持ってしても切れない!!」


「子供の期待を裏切ることはできん。その思いが、唐揚げを唐揚げのまま維持している」


「私意味わかんない」


「俺もだ」


 やがて唐揚げから油が飛び出し、高速回転し続ける唐揚げは日を吹いて盛大に爆裂した。


「うわああぁぁ!?」


「笑止。この程度でどう我を止める気だったのだ?」


「無駄に強い」


「諦めるものか。唐揚げなど串刺しにしてくれる! 飛べ! ゲイボルグ!!」


 豪華すぎる綺麗な槍をぶん投げ、飛んでくる唐揚げを突き刺しながら般若へ飛ぶ。

 っていうか国宝レベルの武器だと思うんだけど、雑に扱うなよ。


「間抜けが。唐揚げだけでおかずブラザーズが名乗れるか」


「名乗るほどのもんじゃなくね?」


 飛んできた槍を素手で受け止め、刺さった唐揚げを食っている。

 戦闘中に食事とは余裕のあるやつ。


「ウインナーミサイル!!」


 タコさんウインナーがミサイルのように飛来する。


「こんなもの!」


 剣で真っ二つにできると踏んだのだろう。アリアの剣は事実タコに切れ目を入れた。


「馬鹿め! 開けタコさん!!」


 タコの足が大きく開き、回転するカッターのように襲いかかった。


「ぬわああああぁぁ!!」


 鎧をズタボロにされ、ウインナーの突撃で壁に吹き飛ばされるアリア。


「これほどとは……私が傷すらつけられないだと……」


「ふっふっふ、さあてチーズハンバーグでとどめを刺してやろう」


「くっ、なんて子供が喜ぶおかずなんだ……」


「ごめんマジで帰っていい?」


 一緒にいると俺までアホだと思われるだろ。キメ顔で馬鹿みたいなこと言うな。空気考えて動け。


「助けてあげようよマサキ様」


「えぇ……あれの仲間だと思われるじゃん」


「負けるわけにはいかないんだ! もう一度輝け! エクスカリバー!!」


「面白味のないメニューだ。砕け、エビフライ」


 エクスカリバーとエビフライの衝突は、部屋を衝撃波で荒らし、窓ガラスを全部割り、絨毯も天井も破壊していく。


「室内でやるなや」


「ぐはあああぁぁ!!」


 結論から言えば負けたのはアリアで、エクスカリバーは折れなかった。

 だが地面を何回かバウンドし、もうアリアに立ち上がる余力はないように見える。


「ナポリタンホールド!!」


 アリアの全身をナポリタンのロープが拘束する。これはちょっとやばいかも。戦闘手段はアホそのものだが、最悪死に至るだろう。


「地味に美味しいもので拘束するとは……私も修行が足りんな」


「前座にもならぬ。チーズハンバーグを使うまでもなかったか。さあ来いマサキ! この女が死ぬぞ!」


「どうしても俺がやんの?」


「だって私多分勝てないよ?」


「お前を傷つける気はない。これでも護衛役だしな」


 サファイアだけは守る。こいつには、俺を受け入れる土壌を作ってもらった恩があるからな。


「しょうがない……二度と戦いたくなかったが……」


「戦う気にさせてやるさ。エビフライをどう防ぐ!!」


 振り下ろされた巨大なエビフライは、ビーチチェアでくつろぐ俺の手前に落ち、見事スイカを割った。


「なっなにい!?」


「気づかなかったのかい? もう海開きの季節だってな」


 反撃開始といこうじゃないか。


「今冬だよ」

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