イケメン奥義をぶち破れ

 巨大な公園へとやって来た俺たちだったが、遠くから何本もの光の柱が出現していた。


「間に合わなかったか!」


『いいえまだです! 完全に扉が開くまで、まだ時間があります!』


 ユカリの声にも焦りの色が濃くなっていく。


「急ぎましょう!」


 中央の台座から、七本の光の柱が天へと昇る。

 そこにケンファーはいた。


「そこまでよ!」


「やるな。まさかこんなに早く突破してくるとは思わなかった」


 隠れるでもなく、堂々とそこに佇むケンファー。

 どうにも余裕の表情だな。


「女性を捨て駒にするとは、なんたること! 騎士として許すわけにはいかぬ!」


「捨て駒か……オレは一度として、彼女たちを粗末に扱ったことはない。常に喜ぶようエスコートした」


「女将もですかな?」


「当然。もとからオレの恋人の一人さ。愛してもいた。倒したのは君たちだろう」


 こいつの心情なんてどうでもいい。敵は倒す。悪が滅びるのなら、プラスにはなる。というかさっさと帰ってゆっくりしたい。


「敵は敵だ。御神体を返してもらう。お前を倒してでもな」


「イケメンとは何だと思う?」


「急にどうした?」


「イケメンとは、あらゆるものの上位に君臨できるんだよ。綺羅星のごとくな」


 そう言って指差す夜空には、無数に輝き、落ちてくる小型隕石があった。


「イケメン奥義! 美顔流星群!!」


「マジかお前!?」


「ふははははは!! これがイケメンの輝きだよ!!」


「よっこいしょ」


 慌てず騒がず地面にトランポリンを設置。

 吸い込まれるように隕石は降り注ぎ、ぽよんと宇宙へ帰っていく。


「どう考えてもおかしいよね!?」


「こんなバカな!?」


 驚愕に染まったケンファーを見ると、少しだけ気分が晴れるな。どんどんいこう。


「トランポリンの衝撃吸収力を甘く見たな!」


「防ぎきれないって!!」


「いいだろう、ここから夢のイケメンパラダイスだ!」


 サーファーが着るような、ぴっちりした水着になり、同時に地面が波打ち始める。


「なんだ……?」


「イケメンはサーフィンくらいできるのさ。どこでだってね!!」


 地面が盛り上がり、まるで大波のように俺たちへと襲いかかる。


「イケメン奥義! フリーダムサーフィン!!」


「サファイア、固めろ!」


「よーし! ホールドフリーズ!!」


 凍気の渦が地面をスケートリングのように固めていく。


「やるものだ。オレのイケメンっぷりを見ても、惚れない女性がいるとは思わなかったぜ」


「見た目だけ良くても、心まで綺麗じゃなきゃ、お姫様は落とせないのよ!」


 感心しているケンファーの背後に、俺とムラクモさんが飛びかかる。


「そしてお前は」


「地面に落ちる。というわけでありますな」


「ちっ、気が緩んだか!!」


 ダブルキックで波から蹴り落とし、地面へと叩きつけた。

 それなりに手応えもあったが、まだまだ元気だろう。


「畳み掛けるぜ。サファイア! 波を! いくぞムラクモさん!」


「わかったわ!!」


「承知にございます!」


 サファイアが地面ではなく、本物の大波を呼び寄せる。

 俺とムラクモさんは、はちまきとふんどしを締め、漁船に乗って敵へと突っ込む。


「イケメンとは違う、男の渋さをお届けだぜ!!」


「これが漢の美学! 全速前進ですぞ!!」


「マサキ様、もうふんどし二回目だよ? 三回目は無しだからね」


 確かに三回はくどいな。ならば今回にすべてをかけよう。

 船は速度を上げ、大漁旗がはためいている。


「そんな暑苦しいもので、オレの美形が破れるか!! イケメン場面! 豪華客船の夜!!」


 突然巨大な豪華客船が現れた。

 あいつはゆったりワインを飲みながら、こちらを見下している。


「この巨大な船に、矮小な漁船でどう戦う? このままぶつけてくれるわ!」


「まずいよ! このままじゃマサキ様が!!」


 問題ない。あんな見せかけだけの豪華さに、俺たちは惑わされないのだ。


「ムラクモさん、いや船長」


「船長だったの!?」


「ソナーの様子はどうだい?」


「どうやら、今年一番の大漁になりそうですなあ!!」


 大量の点が、ソナーにはっきりと計測されている。

 やれやれ、こりゃ船には積みきれないぜ。


「船のソナーが伝えている。ここがマグロの群生地だと!!」


「ここ公園だからね!?」


「マグロ? それがどうした!!」


 そしてやつの客船が揺れる。始まったな。


「何が起きた!?」


「マグロの凶暴さを知らんからそうなる」


 おびただしい量のマグロがミサイルと化して、敵の船へと突っ込んでいく。


「必殺異世界チート! マグロ魚雷一斉発射!!」


「魚雷が魚そのものだー!?」


 船にぶつかっては、爆炎をあげて散っていくマグロたち。

 お前たちの勇姿は決して忘れないぞ。


「いいぞ。もっと爆破してやれ」


「なんでマグロ爆発してるの!?」


「うまさ爆発ですな」


「説明になってないよ!!」


 そして操縦室へと侵入したマグロから通信があった。


『こちらマグロウ。コントロールは完全に掌握した』


「よくやったであります!」


「オレの船がマグロごときに!!」


「じゃあ俺、ちょっと氷山になるから」


「今回自由すぎない?」


 巨大な氷山となった俺に、豪華客船が全速力で突っ込んでくる。


「必殺異世界チート! 異世界タイタニック上映会!!」


 俺という名の氷山にぶつかり、中央から真っ二つに割れて沈んでいく豪華客船。


「ありえん!! こんな意味のわからない連中に、イケメンであるこのオレが!!」


「この船とともに、お前の野望も沈めてやるぜ!」


「イケメン变化! 剣の王子様!!」


 ケンファーが豪華な鎧を着た騎士へと変わる。


「美顔流麗剣!!」


 舞のような華麗な剣舞により、崩壊する船を切り裂いて脱出しやがった。

 こいつ無駄に戦闘なれしてやがる。


「少々厄介だな。まずはお仲間から消してあげよう」


 俺から離れ、ムラクモさんへと猛ダッシュをかける。

 まずい、このままでは助けられない。


「騎士団長として、軟弱な怪盗には負けませんぞ!!」


「いいのか偽物さん。兜が取れるぞ」


「はうわっ!! おのれ卑怯…………いや本物ですな。本物の騎士なんで。偽物とかこう、そういうのじゃないですなあ」


「美形連牙剣!!」


 獰猛な獣の牙のように、必殺の剣技がムラクモさんを襲う。


「くっ、兜を守るので精一杯とは!!」


「うっかり引っ掛けて取ってしまいそうだよ」


「やめろ! 取る必要はない! 通気性抜群だ!!」


 どういうわけか戦いづらそうだ。騎士団長であるムラクモさんが負け始めている。


「離れてムラクモさん! ファイアウォール!!」


 ケンファーとムラクモさんの間に炎の壁ができる。


「小賢しい真似を」


「ありがとうございます姫様!」


 ひとまず助かったムラクモさんだが、ケンファーは追撃の手を緩めない。


「イケメンマジック!」


 ケンファーにピンクのハートが集まっていく。

 純粋に気持ち悪いが、魔力が激増しているのも事実だ。


「全世界の恋人のみんな! オレに愛を!!」


 さらに増していくハート。こいつはまずいな。


「愛ある限り無敵だ! 無敵の怪盗! それがこのオレだ!」


「おのれ成敗!」


 ムラクモさんが剣を向けた瞬間、やつの姿が消えた。


「愛が足りないぜ」


「がはあああぁぁぁ!!」


 ムラクモさんの鎧が弾け飛んだ。なんとか両手で兜だけは守ったようだが、これでは戦えない。完全に戦闘不能だ。


「すごいぜ。とっさに頭部だけ守ったのか」


「マサキ殿……姫を……頼みましたぞ」


「任された!!」


 とはいえ、相手は光速移動くらいはできるようだ。

 アストラエア騎士団の鎧を粉砕できるパワーも秘めている。これは面倒だぞ。


「姫を頼む、か。イケメンが言えば名シーンになるだろうね」


「イケメンじゃなくたって、名シーンは作れるさ」


「気をつけてマサキ様!」


「サファイア、ひとまず安全な所まで逃げてくれ! こいつは俺がやる!」


 まずは倒れたムラクモさんを、安全な場所に寝かせる。

 サファイアに回復魔法をかけてもらえば、命に別条はないだろう。

 それまで守るくらいはできる。


「安心したまえ、戦闘に参加しないなら、女性は傷つけない。やがてオレに惚れる」


「私だって戦えるわ!」


「下がっていろ。この男、中途半端じゃ倒せない」


「マサキ様……」


 納得はしても、戦闘で力になろうという気持ちが強いか。

 根がいい子だからな。だがユカリのような女神じゃない。

 女神は頑丈だから、ボケに巻き込んでも死なないという利点と安心感がある。


「離れていてくれ。俺はかならず勝つ」


「…………わかった。負けないでねマサキ様!」


「当然さ」


 さて、ここからが正念場というやつだ。

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