怪盗トラブルシスターズ

 怪盗トラブルシスターズとやらを倒すため、動力室へとやってきた。


「こいつらもしかして……」


「ファウとロザリーです」


 客の女二人だと思う。レオタード着ているのは何故だろう。


「お前ら仲間だったのか」


「ラスアンは知らなかったでしょうけどね」


「あいつがしくじった場合に備えて、あたしらがいたってわけさ」


 なるほど、保険をかけていたのか。まあいい。どうあがいても敵は敵。倒せばいいだけだ。


「ユカリ、こいつらお前が倒せないほどか?」


 正直女神なら楽勝だろう。苦戦するはずがない。


「女将さんが眠らされてしまって……それにここを破壊されると大事故になるので」


「なるほど、結界張りっぱなしってことか」


 部屋全体にくまなく結界が張り巡らされており、相当に頑丈だ。

 なるほど。こりゃ面倒だ。


「その女、確かに強いわ。あたしらと戦って傷すら負わない。けど動きには限界があるのよ!」


「まとめて死になさい。いきますわよファウ」


 突然床に寝転び、片足を上げたり下げたりし始める姉妹。


「はいワンツー、ワンツー」


「なんでエアロビ!?」


 確かにエアロビの動きだ。いやいや意味わからんよ。

 呆れていたら姉妹が消えた。


「消えた!?」


 なんとエアロビをしたまま俺の左右に瞬間移動し、動きそのままに体を挟み込んできた。


「必殺! トラブルカニバサミ!!」


「ぬおおおぉぉ!?」


「マサキ様!!」


 並の鉄骨なら両断されていただろう。とてつもない脚力だ。

 だが今の俺なら抜けられる。


「大したカニっぷりだ。そこまでカニへの情熱をたぎらせるとは……」


「いやいやカニ関係ないですって!!」


「だがその熱。そのカニっぷりが地獄への入り口だ」


「強がりもそこまでよ。胴体ごと真っ二つになりな!」


「必殺異世界チート! カニ鍋フェスティバル!!」


 俺と姉妹を鍋の中へ。中はネギとしらたきと白菜が待ち受けている熱湯地獄だ。


「ぎゃああぁぁ!?」


「あ、熱い!? こいつ何をしてんのさ!!」


「ふっふっふ、この湯加減に負けて離れるか? そんなんじゃあ江戸っ子とは呼べねえな」


「江戸ないですよこの世界!」


 温度は上がり続けている。このまま鍋の具として煮えるがいい。


「悪いシャンプー取って」


「お風呂じゃないです!」


「カニといえば泡だろう」


 シャンプーとカニエキスで猛烈に泡立つ俺の頭。

 その強固なシャボンは、またたく間に姉妹を包み込んだ。


「くっ、なんですのこれは!」


「このあたしが出られない……」


「そのシャボンはとても柔らかくて頑丈なのさ。硬けりゃ切断も破壊もできるだろうが、そいつは刃すらも通さぬ柔軟さよ」


「すごい! さすがはマサキ様!」


 これで動力室が破壊されることはない。チャンスは今だ。


「ユカリ、今のうちに俺たち全員を屋上へ転移しろ!」


「屋上?」


「屋上の特設リングへ行くぞ!」


「ないですよそんなもの!」


「いいから早く!」


「ええいどうなっても知りませんからね!」


 一瞬で屋上へと転移した。

 これでいい。あとはこいつらを倒すだけだ。


「うっ、うう……ここは……」


「女将さん! 気がついたんですね!」


 女将は眠らされていただけだし、命に別条はない。っていうか連れてきたのか。


「しっかり!」


「ここは……屋上の特設デスマッチリング……?」


「実在してたー!?」


 超近代的なリングへと降り立ち、シャボンを割った姉妹と対峙する。


「ほう、そいつを破れるか」


「ラスアンを倒した男、どうやら甘く見ていたようですわね」


「今度は全力で、確実に殺す!」


 トラブルシスターズの殺気が上がった。ここからが本当の戦いだな。


「面白い。いくぜユカリ! タッグマッチだ!」


「私もですか!?」


 ここはきっちり決着をつける。女神が相棒なら勝率も上がるだろう。


「いいですわね。正々堂々二対二で決着をつけましょう」


「敵が乗り気だ……しょうがないですねえ」


 俺と一緒にリングにあがるユカリ。やる気に満ち溢れている。

 なんだかんだやり返したかったのだろう。


「久しぶりだな、この感じ」


「ええ、二度と無いと思っていましたよ」


「いくわよファウ! 妖艶エアロビ奥義!」


「ワンツー! ワンツー!」


 両手足を大の字に開き、そのまま上半身を倒す運動だ。

 妖艶でもないし、こいつら何がしたいんだよ。


「ウイングモード!」


 上半身を倒したまま、まるで羽を広げた戦闘機のような状態で止まり、そのままホバー移動で突っ込んでくる。


「天使のマッハウィング!!」


 手から光の粒子が溢れていてうざい。

 しかも音速超えてやがるな。避けるだけでもしんどいぞ。


「マサキ様、見た目より強いですよ」


「みたいだな。ラスアンといい、妙な技を使いやがる」


「怪盗とは美しく、大衆の目を引く存在。ただ奪い尽くす強盗や、粗野な武人とは違う。独自の進化を遂げた存在よ!」


「マサキ様みたいですね」


「一緒にすんな。だがまあいい。見せてやろう、必殺異世界チート!」


 俺とユカリをレオタードへと変える。


「これで条件は対等だ」


「違いますよ!? っていうかなんで私まで!!」


「まさかこいつらもエアロビ奥義を!?」


「いいや、こいつはもう一つのレオタードの使い方さ」


 俺の手には、新体操で使うリボンが握られていた。


「ハイパーリボンカッター!!」


「げぎゃああぁぁ!!」


 やつらの光の羽を切り裂ける。いけるぜ。

 このままのペースで行こう。ユカリにフープを渡す。


「ユカリ、こいつを使え!」


「ええいなるようになれー! 殺人女神光輪!!」


 神々しい光を放つフープは、巨大な円月輪となって怪盗姉妹を襲う。


「うばああぁぁ!?」


「べばごおおおお!!」


 姉妹に直撃してさらにダメージが加速していく。


「ナイスだ!」


「ああもう……私はどうしてこんなことに……」


「エアロビで健康になったあたしらに、こうもダメージを与えるとは」


 まだまだ元気そうだ。こいつら本当に健康なんだな。


「ワンツー! ワンツー!」


 姉妹の傷が、みるみる傷がふさがっていく。


「エアロビは健康になる。つまり傷も治るということですわ!!」


「非の打ち所のない理論だぜ」


「どこが!?」


「ならばそれを超えてダメージを与えるのみ! いくぞユカリ!」


 レオタードから新体操用のボールを取り出し、空中へと放り投げる。


「新体操奥義!」


「ダブルフレイムシュート!!」


 俺とユカリのキックが重なり、ボールは炎を撒き散らして突っ込んでいく。


「ワンワンツー! ワンワンツー!」


「ワン! ツー! スリー!」


 両手を大きく広げ、左右に振っている。

 それも背中合わせでだ。その勢いは、まるで扇風機のようだが。


「合体エアロビ奥義! ビューティフルハリケーン!!」


 突風がボールの炎を消し、花びらを巻き込んで俺たちを襲う。


「結界!!」


 ユカリの結界で事なきを得る。

 だがその風はリング全体を揺らし、威力を見せつけてくれた。


「いいぞユカリ。だがこいつら、どんどん健康になってやがる」


「戦闘力が上がっていますね。厄介な相手です」


「クフフ……無駄よ無駄よ。私たちのエアロビクスは最強。そうですわねファウ」


「ああ、このままエアロビの渦に沈めちまおう、ロザリー」


 姉妹が何かこそこそ作戦を練っているようだ。

 まだ隠し玉があるというのか。


「エアエアロロオビビビロエア」


「何か言ってますよ……」


「ほう、エアロビ語か」


「エアロビ語!? ないですよそんなの!?」


 ならばこちらも返すのが礼儀だな。


「ロロビビビービロエアアアエアロロビ」


「なんで話せるんですか!?」


「貴様もエアロビ語がわかるのか!」


「通じた!? あるの? 本当にあるの!?」


 ユカリが困惑しているが、敵の作戦は読めた。一気に決めるぜ。


「聞いた通りだ。術が完成する前に叩くぞ!」


「わかりませんって!!」


 やつらは健康になるにつれて、レオタードの素材が高価になり続けている。

 おそらく奥義発動に必要なのだろう。その前に仕留めるぜ。


「俺はまだまだレオタードが似合う男にはなれないようだ」


「男性には似合わないと思います」


「受けてみよ! 最終奥義エアロビーム!!」


 エアロビが生み出す健康空間は、眩いビームとなって俺たちに飛んでくる。


「いいだろう。このカッパの皿で受けよう」


 横にいたカッパを掴み、頭でビームを受けてもらう。


「どっから連れてきたんですか!?」


「安心しろ。カッパは妖怪。頑丈さ」


「一番もろい場所が狙われてますって!!」


「カパアアアアァァァァ!?」


 どうしたことか、皿にヒビが入り始めている。


「ちっ、想定外だぜ」


「最初からわかってたでしょ!?」


「だがこいつがビームを受け止めている今がチャンスだ!」


 カッパを放置し、俺とユカリのダブルキックが炸裂した。


「きゃああぁぁぁ!!」


「カパアアァァ!!」


 姉妹が衝撃に耐えきれず、リングから放り出されると同時に、カッパもビームにより爆発してしまった。


「おのれ……おのれよくもカッパを! 許さん!!」


「100%マサキ様のせいですよ!!」


 ファウを捕獲。そのまま場外の床に向け、フィニッシュホールドへ移行した。


「カッパの無念が……俺に集まってくる。これが本家本元、カッパバスターだ!!」


 カッパの念とともに、ダイナミックに旅館を揺らし、俺たちのカッパバスターが決まった。


「ぎゃああああぁぁぁぁ!!」


「ファウ!? まさか……カッパとやらがこんなにも強いとは!」


 アホみたいなことを言い出すロザリーに、怒りの必殺キックを叩き込んだ。


「カッパなんて…………実在するわきゃねえだろうがああぁぁぁ!!」


「ぱぎゃああぁぁ!?」


「えええぇぇぇ!? そこ否定しちゃうの!?」


 姉妹仲良く大爆発し、俺たちの戦いは幕を閉じた。


「いい勝負だったぜ」


「終始アホみたいでしたよ」


「やれやれ、これで解決だな。御神体はどうした?」


「あれ? そういえば……女将さんがいない?」


 助けた女将もいない。そして結界も消えている。


「どうなってんだ?」


「マサキ殿ー!!」


「マサキ様……なんでレオタードなのよ!!」


 サファイアとムラクモさんが屋上にやってきた。

 なにやら相当焦っているようだ。


「落ち着け、俺のレオタードを見て落ち着くんだ」


「落ち着きと対極の存在ですよ!!」


「そんなことより女将さんが……」


「どうした?」


「女将さんが……ケンファーさんと逃げちゃったの!!」


 なるほど。ケンファーさんとね。ああはいはい、わかるよ。

 あれでしょ、あの……なんか最近聞いた気がする名前だわ。


「誰だっけ?」


「お客さんだよ! 最後の一人!」


「……いたなそんなやつ!!」


 完全に思い出した。青い髪の男だ。でもなんであいつだ。


「なんか……駆け落ちっぽく逃げたって」


「えぇ……」


 なに面倒なことしてんだよ。こりゃ急いで追わないとな。

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