第一部完を目指すぞオラア!!

 商人が温泉街に逃げたという報告があったので、俺たちは精鋭で固めてやってきた。


「あぁー……疲れが取れるぜ」


 今は露天風呂のひとつを貸し切って、サファイアとゆったり風呂に入っている。

 無論お互いに水着だ。外も警備の女性兵がきっちりガードしている。


「こうしてゆっくりするのって、久しぶりな気がするわ」


「たまにはリフレッシュも必要なんだよ。王族なんてストレスの塊だろ? 戦争やってたんだしよ」


 山の上にある温泉は、山も海も見下ろせる絶景である。

 綺麗な景色を眺めながら、こっちに来て一番のくつろぎタイムを謳歌していた。


「今こうしてゆっくりできるのも、みんなマサキ様のおかげよ」


 難しいことは考えず、いい湯加減の風呂に浸かりながら、今までのことを思い出す。


「思えば妙な縁だな。テンプレ全開の出会いから、わけわからんバトルして、今じゃ姫の護衛だもんなあ……」


「そうね……なんだか何年も一緒にいたみたい」


「よく俺みたいな怪しいやつを仲間に入れたもんだよ。俺なら逃げるね」


「ふふっ、そうかも。なんだかマサキ様が楽しそうだったから、かな」


「やってる俺はしんどいけどな」


 毎回ボケる身にもなってくれ。そうしないと倒せない敵が多すぎる。


「あの時の私はこう、疲れていたっていうか、お母様もいなくなって、国を守らなきゃいけなくてね。ちょっと余裕がなかったの」


 ここは無言で聞いてやる。きっと溜め込んでいるものがあったのだろう。

 話して文字通り水に流しちまえばいい。


「マサキ様が戦っているのを見て、あんなに強くて不思議で面白い人がいれば、辛い毎日でも楽しくなるかなーって」


「発想が斬新だな。大抵のやつは関わるのを避けるのに」


「助けてくれたのは嬉しかったわ。それ以外はまあ……気持ちの整理が難しかったけど」


「よく処理できたな」


「説明も大変だったわ。けどマサキ様は見返りも求めずに助けてくれた。お姫様相手に、何もお礼を要求せずにいなくなっちゃって」


 正直不審人物だからな。

 間違いなく問い詰められるので逃げたというのが、半分くらいあったりする。


「たとえめんどくさくて逃げちゃったとしても、感謝してるわ」


「バレてんのかい」


「ずっと一緒に戦ってればわかるわよ」


「そうか……ボケてサファイアが楽しんでくれる。国も救われる。俺の衣食住も確保できる。そう考えりゃあ、悪くはないか」


 サファイアを守るために力を使う。

 それは他人のために力を使うことより、国を救うよりも、やる気が出る気がした。


「ならもっと期待に応えるだけさ……これからもよろしくな、サファイア」


「ええ、よろしくねマサキ様!」


 なんとなくしんみりしたが、お互い心のわだかまりが解けた気がする。

 これでよかったんだろう。やはり休日は必要だな。


「日頃のストレスが癒やされたぜ」


「また来ようね」


 風呂から上がり、着替えて二人で廊下を歩く。

 部屋へと戻る途中、大きな中庭が目に入った。


「随分立派な庭だな」


「ここ高級旅館だから、貴族が使ってもおかしくないように作られているのよ」


 大きな池があり、主張しすぎないが整った木々。

 途中に長椅子もあるから、きっと中庭でまったりもできるんだろう。


「お土産買いましょう、お土産」


「はいはい、エメラルドさんに名産品でも買っていってやるとするか」


「フハハハハハハ!!」


 池から突然誰かが飛び出してきた。


「うおぉぉ!? 何だよ急に!!」


「誰!?」


「貴様らが探している商人さ!」


 あらやだ手配書とまったく同じ。帽子とマフラーを取ると、白髪で屈強な男だった。

 戦士に近いな。商人ってなりじゃないぞ。


「なぜ正体を表した!」


「長くなりそうだったから区切ろうと思ってな!」


「区切り? 首輪を使って悪さをしているのね! そんなことは許さないわ!」


「違う! もっと根本的なことだ!!」


 俺には理解できた。なぜだか知らないけれど理解できた。

 そうか、そういうことか敵のボスよ。


「なるほど、確かに思いつかない以上、ここで一区切りするのもいいか」


「思いつかないって何が?」


「ん? まああれだよ……ギャグが」


「英雄マサキよ。どうやら理解したようだな」


「第一部完とし、新たな展開に期待するんだな?」


「どういうこと!? 言ってること全然わかんないよ!!」


 正直、ここで冒険を終わりにするのは惜しい。

 だが俺もギャグを毎回毎回繰り出すのはしんどいのだ。

 これはクオリティの向上という大義名分もある。


「気づけアストラエアの姫よ。ここで一回しめて、新しい方式やテンポ、新時代のボケに対する準備が必要ではないか?」


「だからこの会話何なの!?」


「俺の活躍は第二章に入るってことさ」


 不思議とそんな気分だ。不思議だけど、そうしなければいけない気がする。


「だからわざわざ出てきてやったのさ!」


「へえ、律儀な野郎だぜ」


 ここまでの敵との会話を考えてみよう。

 たとえばだ、たとえばだが、もう全然ギャグが思いつかない。だから続きを書き溜める。

 これは有効な手段なんじゃないか? そんな会話だった気がしてならない。


「お前はさっさと我と戦え」


「いやいやあなたの目的はなんだったの!?」


「我の目的は、永久に争いの耐えない世界を作ること。皇帝ダークライトの技術を盗んで作った首輪を作り、我は死の商人として、この世界を裏からかき乱し、商売をより円滑に、それでいて大儲けできる予定だったのだ!!」


「なんか全部喋ってくれたー!?」


 なんて親切なんだ。まるで俺たちに協力でもしてくれているかのようじゃないか。


「さあ戦え! 本当はアストラエアとギャンゾックを逃げ回り、観光名所を見て回るはずだったが、ここで決着をつけてくれる!!」


「そうだな。お前を倒して、ゆっくり観光だけしてやるぜ!! 全力でボケてやる!!」


「よかろう。どうせ最後だ。我もめっちゃ強い異能で迎え撃とう!!」


 夕日をバックに、俺とボスが対峙する。ここが異世界大一番だ。


「いっくぜえええええぇぇぇ!!」


「いい加減にせんかあああぁぁぁ!!」


 天からの魔法攻撃により、豪快にふっとばされる俺と商人。


「ぬおわぁぁ!?」


「おばあぁぁぁ!?」


「敵もろとも吹っ飛んだー!?」


「何やってんですかマサキ様!!」


「ユカリ?」


 なんかユカリが降りてきた。こいつも温泉旅行だろうか。


「よくない波動を感じて来てみれば、こんなことしてギャグで済むと思っているんですか!!」


「だって仕方ないし!」


「子供ですか! 駄々こねないでください!」


「甘いぞ女神! もうここにボスが居るのだ! 戦わんという選択肢などない!!」


「なんで協力的なんですか!?」


 覚悟を決めよう。そして、この戦いが終わったら、第一部完になるのだ。


「我はバクオムス!」


「俺の名はマサキ! いざ尋常に……」


「尋常にじゃないです! ちょっとストップ!!」


 ユカリに邪魔される。俺たちの間に立って、タイム要求してきた。


「なんだよもう……戦闘始まるぞ」


「こんな雑に終わっていいわけないでしょう! 最悪ですよ! 最速で最悪の終わり方しようとしてますよ!!」


「なんかよくない感じがするよマサキ様」


「仕方ない、もっと自然な形で戦闘して、第一部完! ってやるぞ。会議するから来い」


「異論はない」


「ないの!? あなた敵でしょ!?」


 そんなこんなで、バクオムスも参加して会議が始まった。

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